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020夕学だより夕学だより ] 2015年05月12日
安藤 俊介「怒りをコントロールする技術」

安藤 俊介 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 >>講師紹介
講演日時:2014年12月11日(木) PM6:30-PM8:30

怒りをコントロールする技術として、「アンガーマネジメント」への関心が近年急速に高まっています。一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会が設立された2011年に、アンガーマネジメントについての講座を受講した方は年間累計8千人ほどだったそうです。ところが、今年2014年には既に約5万人の方が受講している規模となっています。

 

アンガーマネジメントが目的とするのは、怒らないようにするということではありません。むしろ、怒る必要のあることは上手に怒り、一方、怒る必要のないことは怒らないようになることが目的です。すなわち、「怒るべきこと」と「怒らないほうがよいこと」の線引きができるようになるのがアンガーマネジメントの要諦なのだそうです。

 

安藤氏は、アンガーマネジメントの判断は「後悔しないこと」というわかりやすい説明をされました。怒った後で後悔するようであれば、それは怒らないほうが良かったことです。逆に、怒らなかったことで後悔するようであれば、それは怒る必要があった状況だったということになります。

 

喜怒哀楽と言われるように、怒りも他の感情と同じく、人間に生まれながらに備わった自然な感情であり、世の中に怒らない人はいません。実は、怒りには「身を守る」という機能・役割があり、「防衛感情」とも呼ばれています。もし、まったく怒らない人がいるとしたら、その人は詐欺師の恰好の餌食になってしまうでしょう。自分にとって好ましくない状況においては、ちゃんと「怒り」を伝えることで身に降りかかる災難や被害を最小限に食い止めることができるのです。しかし、怒ってしまったことで、自分の真意が伝わりにくくなる場合もあります。だからこそ、「怒るべきこと」と「怒らないほうがよいこと」の線引きが必要なのです。

 

安藤氏はまた、怒りは行動を引き出す「モチベーション(動機づけ)」となることもあると指摘します。例えば、青色LEDを開発した功績で今年のノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏は、青色LEDの開発に成功した行動の原動力は「怒り」であったと自ら述べています。DeNAの創設者、南場智子氏も、社会が抱える様々な問題に対して「健全な怒り」を持ち、それを解決しようとするリーダーが求められていると主張しているそうです。 このように、「怒り」とは人にとって必要な感情であり、ポジティブな効果があるのですが、その表現方法が問題となる怒り方というものがあります。それは以下の4つのタイプです。

 
  1. 強度が強い(一度怒ると止まらない、強く怒りすぎる)
  2. 持続性がある(根に持つ、思い出し怒りをする)
  3. 頻度が高い(しょっちゅうイライラする、カチンとくることが多い)
  4. 攻撃性がある(他人を傷つける。自分を傷つける、モノを壊す)
 

日本アンガーマネジメント協会では、自分が上記の4つのタイプにどの程度該当するかを診断する心理テストを提供しているそうですが、いずれにせよ、自分の怒りと向き合うことが大事です。時間が解決することもありますが、解決しないものもあります。怒りは体の「凝り」に似ていると安藤氏は言います。凝りをこまめにほぐしていれば大丈夫ですが、放っておくと凝りが固定化し慢性的な痛みになります。同様に、怒りもそのまま放置しておくと成長し、いつか憎しみや恨みへと変わってしまうこともあるのです。

 

怒りを理解するうえで大事なことのひとつに「怒りは第二次感情である」という点があります。人はいきなり怒りを覚えるわけではないのです。まず、一次感情としての不安やつらい、苦しい、痛い、嫌だ、疲れた、寂しいといった感情があるのです。そして、こうした一次感情が人の心の中のコップに少しずつたまっていき、ついにコップから溢れ出す感情が怒りなのです。

 

怒りが二次感情であるということを理解していれば、怒っている人に上手に対応できます。その人の怒りをもたらしている一次感情が何なのかを考え、例えば「怒ってらっしゃるのは、'不安'を感じていたからなんですね」と伝えることができれば、相手は「この人は私の気持ちに寄り添ってくれている」と思い、怒りが収まるかもしれません。

 

アンガーマネジメントは、教育現場での採用も増えているそうです。「体罰」や「いじめ」の防止に一定の効果があると認めらているからです。安藤氏は、最近の若者がすぐに怒りを爆発させやすいのは、語彙(ボキャブラリー)が貧困だからではないかと考えています。若者が使う怒りの言葉といえば「うざい」「キレる」くらいしかありません。本来、怒りの感情には多様なもの(ふくれる、むくれる、ツノを出す、気を悪くするなど)があるにも関わらず、「キレル」という言葉しか知らないと、ちょっとしたことでも、いきなりキレてしまうというわけです。私たちの行動は多分に言葉によって影響を受けているからです。

 

では、そもそも、私を怒らせるものとはなんなのでしょうか。怒りの対象は人であったり、物であったりしますが、その正体は「こうある"べき"」という考え方です。私たちはそれぞれ「ものごとはこうあるべきである」という、いわば「理想」を持っていますが、現実は理想通りにはいかず、しばしば理想と現実の間にギャップが生まれます。ここに怒りの元があるというわけです。

 

この"べき"は大変扱いにくいと安藤氏は指摘します。なぜなら、個人の価値観に由来するものであるため、絶対的な正解はなく、本人にとっては常に「正解」であること。また多くの"べき"は程度問題であること、また時代や立場、環境によって変わるからです。例えば、昔、子供は「知らない人にも挨拶はすべきである」と教えられましたが、近年は「知らない人には注意すべき(挨拶はしないでよい)」という教えに変わってきています。

 

そこで、"べき"を扱う上で大事なことは、

  1. 自分と同じ価値観
  2. 少し違うが許容できる価値観
  3. 自分と違う、許容できない価値観

という3つの境界線を明確にしておくことです。

 

「約束の時間は守るべき」という考え方は多くの人が同意すると思われますが、では仮に10時の約束だったとして、10時ぴったりでいいのか、あるいは10分前には約束の場所に到着しておくべきなのか、また5分くらいの遅刻は許せるけど、10分以上の遅れは許せないのか、といった怒りの境界線には個人差があります。

 

"べき"に由来する怒りを不必要に起こさないためには、(1)自分と同じ、(2)少し違うが許容範囲の2つの境界線を拡げる努力をすることが大事とのこと。つまり、他の人の持つ"べき"をできるだけ許容するようにすることです。同時に、「これ以上になると私は怒りますよ」という(3)自分と違う、許容できないという境界線を他者に示しておくことも大事です。そうすれば、周囲の人があなたを無為に怒らせるようなことをする可能性を低くすることができます。

 

加えて、この境界線を安定させることも重要で、相手や状況に応じて変えることは好ましくありません。例えば、同じことについて、Aさんには怒るけれど、Bさんには怒らないという態度を取ると、周囲から信頼されなくなってしまうからです。

 

安藤氏は、アンガーマネジメントの普及を通じて、怒りの連鎖を断ち切ることを目指しています。家庭で夫や妻に怒られ、怒られた夫や妻は、会社で部下や同僚を怒る。会社で怒られた人は、家庭でその怒りを子どもにぶつけてしまう、といったように、怒りは連鎖的に続いてしまうものです。怒る必要のあることは上手に怒る、怒る必要のないことは怒らなくなる、怒ったからといって、決して他人や自分を傷つけない、モノを壊したりしないで上手に表現できるようになれば、怒りの頻度は低下し、「人が人に当たらない社会」になると、安藤氏は信じています。

 

安藤氏のお話を通じて、アンガーマネジメントは家庭や職場で即実践できる有益なコミュニケーションスキルであることが理解できました。

 

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