[ ファカルティズ・コラム ] 2006年03月14日
「想定内」と言える強さ
こんにちは。桑畑@慶應MCCです。
「想定内(外)」で昨年の流行語大賞を取った某氏は、まさに今「想定外」の状況にあるわけですが、今回は今さらながらこの言葉について考えてみたいと思います。
この「想定内」発言、当時の報道(とても報道とは言えないようなゴシップ的な扱いも含めて)のトーンとしては、『強がり/負け惜しみ』的なニュアンスで伝えられていたように思います。(流行語大賞の主催者サイトまでが「その負けず嫌いな性格から連発した」と書いているのは少し驚きですが)
しかしこの発言、本当に単なる強がりや負け惜しみから出たものだったのでしょうか。私は、なんらかの論理的根拠を持った発言のように思えますし、そこには『「想定内」と言える強さ』さえ感じるのです。
では、これ以降は「想定内」という言葉について、流行語となった騒動とは切り離して考えてみましょう。
「想定」を辞書で引くと、「状況・条件などを仮にきめること」と定義されています。つまり「想定内」とは、“こういう状況になるかも、と立てた複数の仮説のどれかに該当した”状態のことだと考えられます。
そしてここでキーワードとなるのが、「複数」です。
我々は、しばしば行き当たりばったりの対応や、出たとこ勝負をやりがちであり、その結果として対応が後手に回ってしまいます。
もちろん、全くその後の状況を想定していないわけではありません。問題なのは、想定するパターンが少なすぎることなのです。考えてもみてください。相手のリアクションを、自分に都合の良い1つ2つのパターンに限定していては、常に「想定外」の事態に直面して慌ててしまうのはあたりまえです。
常に「想定内」と応え、様々な状況に慌てず騒がず対応していくためには、まず「自分がこう動いたら相手はこう動くだろう」というお気楽な発想を捨てる必要があります。言い方を換えれば、「自分がこう動いたら相手はこう動くかもしれない」という仮説を、常に複数パターン考える必要があるのです。
そうして複数のリアクションがシミュレートできていれば、こちらもそれぞれに対する複数のオプション(選択肢)を用意できるはずです。
自動車の運転において、『「だろう運転」ではなく「かもしれない運転」を心がけよう』と言われるのも、やはりそれがリスク回避の基本だからです。
そして将棋や囲碁、ポーカーや花札は言うに及ばず、野球やサッカー、カーリング、そして恋愛に至るまで、こうした複数パターンをシミュレートした“読み”が重要なのは、誰もが認識しているはずなのです。
にもかかわらず、ビジネスの現場でそれができていない人が多いのは・・・なぜなのでしょう?
最も大きな理由としては、前述の各種ゲーム(恋愛も含め(笑))と比べると、自分の行動で影響を受ける関係者の「数」が圧倒に多いことが挙げられます。
件の「想定内」発言のきっかけとなった騒動にしても、相手は放送局だけでなく、機関投資家・既存株主・株式市場・従業員・タレント・マスコミ・視聴者・・・と、今後なんらかのリアクションをとる「かもしれない」関係者は多岐に渡ります。
我々はそれこそ小学生の頃から、「相手の立場に立ちなさい」と言われてきました。だから少なくとも直接の相手の立場に立つことくらいはできます(もちろんそれすらできていない人もしばしば見受けられますが)。
ですが、直接の相手以外の立場にまで立って考えるところまでは、意識できていないことが多いのです。多様な立場に立つトレーニングを受けていないと言っても良いでしょう。
つまりポイントはここです。
複数パターンの仮説を立て、様々な事態に「想定内」と言うためには、この“多様な立場に立つ”ことができれば良いわけです。
とはいえ、関わる人全ての立場に立つことなど、そして全ての事態を想定することなどは現実には不可能ですし、むしろ非効率的と言えます。重要なのは、必要最小限の立場に立って考えることなのです。
当然この「必要最小限」はケースバイケースですが、私は“ダイレクト + 1 ”を基本に考えています。
つまり、自分の行動に直接関わる相手とその相手を媒体として玉突き的に関わる1人までを視野に納めて、その中の登場人物の立場に立つのです。
たとえばあなたが営業マンだとして、客先の担当者A氏と仕様や価格、納期の交渉をするという場面で考えてみましょう。当然あなたはA氏の立場に立って「この価格だとこういうリアクションがくるかもしれない」などと想定するでしょう。そのパターンの他に、A氏を通して今回の商談に関わる人を“立場リスト”に加えてみてください。
「A氏の上司」「あなたの売る商品のエンドユーザー」などがすぐ思いつくはずです。では、これらの登場人物はあなたが(A氏に)提示する仕様や価格、納期にどのようなリアクションを返す可能性があるでしょうか。
もうお気づきかもしれませんが、A氏はこれらの人のリアクションを想定してあなたに返すリアクションを考え、商談に臨んでいるのです。我々ができていると思っている「相手の立場に立つ」とは、実はここまで考えて初めて実現するものなのです。
件の「想定内」発言に欠けていたのは実はこれではなかったのでしょうか。
確かに彼は相手(放送局)の取るリアクションを、複数パターン想定していた。しかし、相手を媒体として玉突き的に関わる登場人物のリアクションまでは、たとえばタレント達のボイコット宣言などは全くの「想定外」だったはずです。
あらゆる事態を想定することは不可能です。
「複数パターンを想定するなんて時間の無駄であり、想定外の事態で慌てない精神的タフさの方が重要」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
精神的タフさの重要性については私も認めますが、複数の立場に立って複数パターンの事態を想定することは、決して時間の無駄ではないはずです。それどころか、この「準備期間」によって、結果的に仕事が効率的になるケースの方が多いとすら思います。
『臨機応変』とはまさにこの「複数パターンの想定」によって実現するのではないでしょうか。




