[ ファカルティズ・コラム ] 2005年07月12日
「メラビアンの法則」をロジカルに考える
こんにちは。2ヶ月ぶりの桑畑@慶應MCCです。
さて、前回のコラムの続きとして、『コラジェクタ®』の話を書こうと思っていましたが、これまでのことを長々と書くよりも、そろそろ具体的なテーマに入っていきたいと思い、予定を変更してこのコラムをお届けします。『コラジェクタ®』については、追々触れていきたいと思います。
さっそくですが、皆さんは「メラビアンの法則」をご存じでしょうか。
これは米国の心理学者アルバート・メラビアンが1971年に提唱した、話し手が聞き手に与えるインパクトの3要素と、それぞれの影響力を測定した結果を具体的な数値に表した法則のことです。
そして、その3要素とインパクトの度合いは以下の通りです。
◆55%=[Visual]視覚情報:見た目・表情・しぐさ・視線
◆38%=[Vocal ]聴覚情報:声の質・速さ・大きさ・口調
◆ 7%=[Verbal]言語情報:言葉そのものの意味
以上の数値から、「3Vの法則」や「7-38-55ルール」とも呼ばれているこの法則ですが、皆さんはどう感じられますか?
「やっばり人間は、言葉が通じなくてもわかりあえる!」との意を強くしましたか?
「しょせん中身より見かけってことか・・・」と落胆しましたか?
それとも、「なんか胡散臭い」と疑問に感じられましたか?
さてこのメラビアンの法則、いくつもの領域で活用されています。
特にコミュニケーション分野の研修やセミナー、具体的には対人スキルや交渉力、プレゼンテーションといったテーマにおいて、しばしば紹介されているようです。
たとえば、「この法則からも明らかなように、表情や身振り手振りがプレゼンの正否を左右するのです!」という具合に。
最近では、学生の就職活動支援セミナーでも、身なりや喋り方の重要性を説く際に、その根拠として使われているようです。
まさにメラビアンの法則を、『コミュニケーションの不変の真理』として活用しているわけですが・・・
本当にこの法則、『コミュニケーションの不変の真理』なのでしょうか??
38%などという具体的な数値から推察される通り、この法則はある実験から統計的に導き出されたものです。しかしながらその実験とは、実は「“感情”を伝える際の受け手が感じるインパクト」を測定したものなのです。
ですから、そもそもビジネスにおける交渉やプレゼンテーションなどは想定されておらず、よってこれを“コミュニケーション”などという大きな概念に、乱暴に適用すべきではないのです。また、その実験において“Visual”のインパクト測定に使われたのも、写真という静止画であり、しぐさや視線といった要素は後から他人が付け足したものなのです。
もちろん私も、視覚・聴覚情報の重要性は理解していますし、ないがしろにしていいとは思っていません。また、別にメラビアン博士に文句を言いたいわけでもありません。
さて、ここで少し考えてみましょう。なぜ多くの研修やセミナーで、この法則が紹介されているのでしょうか?
私自身も研修やセミナーの講師を務める身ですから、自戒を込めて思い返すと、やはり講師自身が「メラビアンの法則」の中の、“米国の心理学者という権威”や“具体的数値データによる信憑性”を、「自分の講義の説得力を増すために」利用しているとしか思えないのです。
権威や数値データに“依存”していると言ってもいいでしょう。
しかし、責められるべきは講師だけでしょうか?
研修やセミナーの受講者も、「メラビアンの法則というのがありまして・・・」と聞いて、簡単に納得しているのではないでしょうか。
「アメリカの心理学者が見つけた、データに裏付けられた法則なのだから正しいはず」と思っていないでしょうか?
つまり、ここでも権威や数値データへの“依存”が見えてきます。そしてこうした例は、メラビアンの法則に限った話ではありません。
我々は、権威のある発言者の主張に対しては、その主張の論理性を検証することなく、単純に信じてしまいがちです。また事実、特に数値データを根拠として見せられると、反論する気すら起きなくなる人がほとんどでしょう。
しかしこれこそが“非論理的思考の落とし穴”なのです。
考えてみてください。権威は「正しさ」を保証しているわけでもなく、数値データにしても、いくらでも都合の良い使い方ができるのです。
権威や数値データに依存し、単純に納得したり反論を諦めたりすれば、そこで思考は停止してしまいます。
“論理的に考える”というと、何か小難しいことのように考えがちですが、まず大切なのは、「簡単に納得したり諦めたりせずに、自分の頭で考えぬく」ことであり、私は「それができれば論理思考は身に付いたも同然」であるとさえ考えています。
思考は習慣です。ぜひ、この『自分の頭で考えぬく』ことを習慣化して、簡単に納得したり諦めたりしない『強いアタマ』を鍛えてください。
そして鍛える時には、「権威と数値データに依存していないか?」を、自分に問うことを忘れないでいただきたいと思うのです。




