[ ファカルティズ・コラム ] 2005年05月10日
組織と社会に「コラボレーション文化」を(その2)
こんにちは。2カ月ぶりの桑畑@慶應MCCです。前回のコラムでは、私が前職において「ITによるコラボレーション支援」の事業企画をプロジェクトとしてスタートさせるまでをお話ししました。今回はそのプロジェクトのプロセスをお話しさせていただきます。なにぶん10年前のプロジェクトですので、少し今さらな部分もありますが、今しばらく昔話におつきあいください。
さて、私たちプロジェクトのメンバーは、さまざまなITを使いながらコラボレーションしようと試みました。つまり自分たちの体験の中から、事業のヒントを探ろうとしたわけです。
手始めに、メンバーのひとりが大阪勤務だったこともあり、私たちはTV会議システムを使って議論を始めました。もちろん当初はTV会議本来の目的である「出張の時間とコストの節約」が利用目的でした。しかし使っていくうちに、TV会議が単なる「距離と時間の制約を無くす」だけのメディアではないこと、いや、むしろTV会議にはFace to Faceの会議よりも優れている点があることが見えてきました。
「殴られないから、言いたいことが言える」という気づきは少し極端かもしれませんが、最も大きな発見は「客観的に会議に参加することができる(接続先の会議室の議論を文字通り離れたところから一歩引いた形で眺めることができる)」という点でした。今になって思えば、この『議論の客観視』という概念は、会議の生産性を上げるファシリテーションの基本でもあったわけです。
また私たちは、「どうしても早くみんなにこれを伝えたい」とか「自分のこの意見について早くみんなの反応が知りたい」時には、速達機能を活用した電子メールで議論しました。この「速達機能」とは、電子メールの発信の際に「速達」指定をすることによって、受信者側のパソコン画面に「優先メールが到着しました」というメッセージが他のアプリケーションを使っていたとしても表示される、というものですが、この機能を使うことによる効果は私たちの予想を超えていたのです。
ある日、一人のメンバーは前回の議論でどうしても納得のいかなかった部分について考えていました。その後何か閃いた彼は、メンバー全員に速達機能を使って自分の意見を発信、そしてその電子メールの内容に触発された他のメンバーがまた全員に速達メールを発信、そしてまたまたそれに触発された他のメンバーが……という連鎖によって、1日何十通のメールが行き来する結果となったのです。
今でこそメーリングリストを使った議論は一般的ですが、その時参加していたメンバーにとって、電子メールでこれだけの議論ができるということは新鮮な驚きでした。さらに私たちにとって驚きだったのは、たまたまその時電子メールでの議論に外出中で参加できなかったメンバーが、後からメールを読み返しただけで、議論のノリやリズムが伝わってきたという点でした。まさに目の前で口角泡をとばした議論がリアルタイムで行われているような臨場感がそこには存在していたのです。
では、この「準リアルタイム」ともいえる議論が、なぜ成立し得たのでしょうか?
ひとつには、「優先メール表示」のような適度のプレッシャー(つまり相手に急かされていると感じること)が、議論にノリやリズムを生み出していたと考えられます。つまり、Face to Faceの議論と似た「場の空気」が参加者に伝わっていたのです。また、引用機能によって誰が何に対して何を言っているかが可視化されており、Face to Face以上に論点や論脈、論旨が明確である点も見逃せません。
「急いでいるのなら、電話を使う方が効果的」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちはこの時誰ひとり電話のことなど考えもしませんでした。
なぜならば、この時の私たちは電子メールを、「単なる蓄積型の伝達手段」あるいは「電話の代用品」としてではなく、ある意味「思考を支援する」ツールとして無意識に使っていたのです。
TV会議、そして電子メール。これらのITを使って効果的に議論することは可能であり、コラボレーションはITによって支援できる、と私たちは確信するようになりました。しかし私たちは、こうした気づきは事業企画の第一ステップに過ぎず、重要なのは企画の中身であることもわかっていました。
では、なぜ私たちはわざわざ自らさまざまなITを体験することを、言い換えれば「アクションリサーチ型」の事業企画を選択したのでしょうか。
それは、自分たちの体験の中でそのITの不便な点や制約事項が見つかれば、それを克服するところにビジネスチャンスがある、と考えていたからに他なりません。
これは最近の「プロトタイプ型製品開発」でも多くの活用事例があります。
特にインターネット上でのボランティア・ネットワークを活用したソフト開発等は、ユーザーをも巻き込んだ、「コラボレイティブなアクションリサーチ」とも言えるでしょう。その意味でも、今やコラボレーションは価値創造システムとしても重要な意味を持つのです。
さて、次回はついに完結編です。私たち「コラボレーション支援事業」の企画プロジェクトが、アクションリサーチの末に出した『目に見える議論』というコンセプトと、それにたどり着くために不可欠だった『コラジェクタ®』というツールについてお話ししたいと思います。




