無印がどこでも無印である理由/ウエスギエリコ

「いつも無印良品がお世話になっております。
 高いところからではありますがお礼を申し上げます」

株式会社良品計画 代表取締役会長の松井忠三氏の講演は、こんな挨拶から始まりました。参加者ひとりひとりに配られた資料はどっしり、パワーポイントのスライド111枚分。経営上のデータ、社内システムのフロー、帳票例の数々、31に渡る経営姿勢・・・90分ではお話しきれないほどの情報が詰まっていました。

西友のプライベートブランドとして、無印良品というブランドが立ち上がったのは1980年。偶然にも無印良品と私は同じ年に生まれました。思い返せば、高校に上がった頃から文房具を中心に無印良品にはとてもお世話になっています。日本全国、主要な駅ビルには店舗があるので、旅行や出張先で忘れ物に気づいても無印良品に行けば手頃な値段で、使い捨てにならない品質のものを手に入れることができる。無印良品のダブルリングモバイルノートを愛用する友人(30代男性)は、表紙が固くてどこでも書ける、ゴムバンドがついているので鞄の中で開かない、他社の同様のノートよりも300円程安い、そして、必要となったときにすぐに買いに行けると、ヘビーリピートをしています。

(株)良品生活は会社設立直後の1990年の売上が240億円でした。それが四半世紀もたたずに1桁近く増えて現在は年間連結売上2,200億円、連結経常利益は230億円。店舗数は国内に396店舗(ファミリーマートやキオスク除いて!)、海外24の国と地域に261店舗。従業員数はパートタイマー・アルバイトを入れると世界で1万人になるとのこと。

順調に成長してきた会社かと思いきや、無印良品は2000年頃に大きな挫折を経験していました。

1999年をピークに経常利益が下落。1999年に17,000円を超えていた株価が、2001年には2,565円まで落ち込みました。新聞謹告に掲載した回収商品が2002年には1年で6件も発生(これは企業体質として致命的、とのこと)。クレーム件数も2000年が最も多く7500件。1991年から始まった海外展開も、2001年までずっと赤字だったそうです。

松井会長が社長に就任されたのは、この業績悪化のまっただ中、「無印良品は終わった」と株主やマスコミから激しいバッシングを受けていた2001年1月でした。

挫折の要因は、ひとつは無印良品の競合である、ユニクロ、100円ショップ、ニトリ、ヤマダ電機などが台頭してきたこと。しかしながら、直接の原因は、急速に成長するとともに、社内の「大企業病」もまたあっという間に蔓延したことでした。

松井会長が社長就任後、数々の経営改革を行う中で、特に注力したのは「業務の仕組化・見える化」でした。「100人スタッフがいて、100人とも違う結果になる状況が、我が社の競争力に一番影響が大きい」という判断でした。具体的には13冊2000頁にわたるMUJI GRAMという販売オペレーションマニュアルの制作とその徹底した運用です。

店頭のマネキンに何をどう着せるかもマニュアル化されており、個々人のセンスに関わらず誰でも一定レベルのディスプレイができる。新規店舗の出店基準もマニュアル化され、点数による重み付けをすることで誰でも出店の判断ができる。マニュアルとはスタッフの一挙一動を縛るものではない。仕事の型を身につけて、自ら行動できるようになるためのもの。これまでの経験則やコツを最短で学ぶためのもの。そして、無印良品という企業文化まで吸収していくためのもの。

マニュアルは一度つくっても、更新されず、次第に使われなくなる・・・という会社は多い中、常に進化し続けながら運用されています。MUJI GRAMは各店舗から改訂提案を吸い上げ、全店共通事項化し共有されるフローが決まっています。随時システム上で更新連絡を行い、更に年に4回印刷して全店舗に配布しているそうです。「ある取り組みをしたら機能するところまで、PDCAをまわしきること。徹底して行うことで、会社の力になります。」という メッセージに重みを感じました。

老若男女誰でも使えるデザインで
ちょっと嬉しい機能がついていて
手頃でリピートしやすい値段で
必要なときに手に入る。

これが無印良品だと当たり前のように消費者として享受していたこと、当たり前ではなく無印良品の企業努力の結果であることに松井会長のご講演をお聴きして思い知りました。

「社長の人格以上に、会社は大きくなるもので」と語る松井会長。無印良品という会社の成長に一番驚いている方は、松井会長ご自身なのかもしれません。


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このサイトは、慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)が主催する定例講演会『夕学五十講』を受講した方々による講演レポートを掲載しています。

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