「契約」

法を扱う仕事に就いている私には、耳慣れたことばだ。

「契約」ということば自体は、
誰しも耳にしたことがあるだろうし、
知らぬうちに何かしら関与しているはず。

実は法律上は「契約」の形式について、
何らの定めも設けられてはおらず、
当事者の「合意」があれば成立する。

単なる「約束」
のレベルから1段階上げて、
それに法律的な縛りを付加したもの、が
「契約」だ。

今回の聴講にあたり、選ぶ基準となったのは

「心理的契約」


というキーワードが気になったからだった。

初めて聞くことば。

組織(企業)と個人との関わりについても
もちろん関心はあったのだが、

「心理的契約」ってどういうものだろう?

それを聴くのが楽しみで出かけた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

講師の服部氏は、30代若手の経営学者で、
講演全体を通して、
聴き手側を意識した展開をして下さり、
また、自身がこの分野にとても意欲をもって
研究をされてきているのだな、
ということが伝わってくる講演だった。

企業と個人の関わりの変化について。

まず、前提として、
日本の雇用制度の変化については、
予想されたアメリカ型「短期契約・業績主義」
への追随ではなく、
日本独自の型に移っていった、とのこと。

もともとの日本は、
「長期雇用・年功主義」。


そこから、「長期雇用・業績主義」へと推移してきている。

なぜ、アメリカ型、つまり短期契約に移行しなかったか
という理由として
日本の場合は、「雇用の維持」への強い期待があった。
それは例えば、
組織内でいろいろな分野を渡り経験している人が
重宝される、
といったようなこと。

そして、そのような雇用制度の変化があった中で、

「組織(企業)」と「個人(従業員)」との関わり合い
どのように変化してきているかは
実際、あまり検討がなされて来なかったそうだ。

パソコンに例えていうと

ハードにあたるのが「人事制度・組織」

アプリケーションソフトにあたるのが「社員の行動・意識」

そして、それらをつなぐ重要な役割としての
OSにあたるのが「組織と個人の関わり方」
であると、服部氏はいう。

当然ながら、この3つが噛み合っていないと、
うまく稼働しない。

このOS部分が手つかずでいるところを
服部氏は研究されているようだ。

旧来のこのOS部分は、
「コミットメント型経営」
つまり、

「組織から離れられない状態を作り出し」
  ↓
「組織に対する強い愛着をもった社員を作り出し」
  ↓
「それを、"一度入ったらそこにいるべし"という
 社会通念がバックアップする」

という論理で成り立っていた。

その論理にはもう限界が来ているようである。

そこで、ひとつの検討材料として見ていくための概念が

組織と個人との間で交わされる「心理的契約」だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「心理的契約」とは、
文書がなくても、心理的に相手方に期待している行為

とのことだ。

企業と個人間で結ばれる雇用契約には、
例えば、終身雇用などの内容は書かれていない。
明記されているのは、
たくさんの約束事の中のほんの一部に過ぎない。
もともと、すべてを書き尽くすことは困難であるし、
契約時点で将来起こりうることの予測を
すべて網羅することも不可能である。

つまり、これまで企業側は契約書に明記されていない
終身雇用などの内容を、
書かれていない部分の約束もしっかりと守ってきていた。
それは、「約束を破って得る短期的なメリット」より
「約束を守るメリット」の方が大きいと判断してきたから。

そういった意味で、企業・個人間の契約は、
本質的には、心理的なものである、と服部氏は定義した。

私が面白いなと思ったのは、
この「心理的契約」が、

企業・個人間のみならず、
あらゆる各場面、家族間、友人間、などでも
発生(成立)しているな、と思ったところだった。

もともと、「察する文化」のわが国であるからこそ、
その側面は大きいと思う。
はっきりと口に出して言わない、
仮に言ったとしても、言いたいことのほんの一部だったりすることが多い。

そんなとき、その隙間を埋めるように、
「心理的契約」が発生している。

各々、それぞれの期待が、目に見えない契約(約束)と
して、知らず知らず成立しているなぁ、、
と思いを巡らせてみた。。。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

服部氏いわく、
「心理的契約」とは、
ある種の「当事者の思い込み」であり、
それが「思い込み」であるからこそ、
それが破られたときの衝撃が大きく、

しかも、企業と個人との間では
それは単なる「思い込み」ではなく、
「情報、エビデンス、を基にした思い込み」であるため
通常より強化されてしまう、とのこと。

例えば、
心理的契約として成立していた終身雇用が崩れ始め、
リストラが一般化してきたころの世間の騒ぎ方は、
これまで当たり前のように成立していた心理的契約が
一方的に破棄された!という強い衝撃によるもの。

言語化、文書化、していないだけに、
双方の解釈が各々の都合のいいように偏ってしまい、
ズレが生じるであろうことは当然だとわかる。

これを、日常の人間関係、コミュニケーションに準えて
考えてみても、
容易に想像がつく。。。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

では、企業の心理的契約違反がどういった影響を及ぼすか、、服部氏の研究によると、、

実際の離職に直結するような影響はむしろ弱く、
企業への信頼・愛着が徐々に薄れていく、
そういった見えざる形で問題が進行していくそうだ。

これの、何が問題かというと、

社員の離職のような明確な「不満の表明」
一見企業にとって厄介に思えるが、
実は、有益なフィードバック情報となり、
企業の過失からの回復を助ける重要な意味を
持つことになるのだが、

一方、
心理的契約違反による「信頼の低下」現象は
水面下で、見えざる形として進行していくため、
顕在化しない問題について、
明確なフィードバック情報を持つことができず、
すなわち、
問題の発見が遅れていってしまう
のだ。

この「信頼の低下」という現象は、
少しずつ、
確実に、
進行していく。。。

この現象を防ぐひとつの有益な手段としては
最初の段階、例えば入社段階で、
メッセージをクリアーにしておくこと、だそうだ。
明確にすることはリスクを伴う部分もあるので
避けたい気持ちが生じるのが普通だが

あえてクリアーにしておくことで、
お互いの厄介な、強い、「思い込み」が排除される、
というメリットがあり、

結局のところ、
企業への信頼・愛着を損なうことなく、
得ていくことのできる可能性が高くなる。

「できる、できない」をはっきり言うことで
信頼が生まれる。
正直さは、決して企業のソンにはならない。
本音ベースで話をしておくことで、
もし違ったときにそのショック、衝撃を和らげられる

という。。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上、
興味深い内容だったので
講演内容のレポートに偏ってしまったが、

前述したように、私が、面白いな、と思ったのは

「心理的契約」という概念を
日常にあてはめて見てみる、ということ。


日常での多くは、企業と個人との関係性よりは
ライトで、その思い込みの度合、期待の度合も
少なくなるだろうけれど、

「心理的契約
まではいかずとも、

「心理的約束
ぐらいの拘束力はもっていそうだと感じる。

対人コミュニケーションを考える上で、
ひとつ、これから意識してみたいと思う。

その場面、場面で、
見えない形で、どういうやり取り、、、
期待の投げ合い?
が行われているのか。

その解釈のズレが、どのようなトラブルにつながるのか。

水面下で、見えざる形として進行していく
「信頼の低下」
を防ぐことはできるのか。

また、それを防ぐために、

恐れずものごとをクリアーにしていく。
できる、できない、をはっきりいうことで信頼を築く。
正直さはソンにはならないから、本音ベースで話をする。

我々日本人の苦手としてきた部分であると思うが、

しかし、
「見えない形」を推測するのは得意であるはずなので、
それらを融合させて、

新しいコミュニケーションの形を
つくっていけないものだろうか?


などと、考えた。