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7つの証言に聴く、西川悟平氏というキセキの調べ

西川悟平.jpg

証言#1 中学校のブラスバンド部の顧問

はい、チューバ吹きだった西川悟平君に初めてピアノを教えたのは私です。
「チューバで音大を受けたいけど入試科目にはピアノ演奏もある。自分はピアノを弾けないので教えてほしい」とお願いされて。
筋はよかったです。何より楽しそうでした。
でもある時、「ピアノって面白い!僕はピアノで受験する!」と言い出して。
私は言いました。「そんなの絶対無理。ピアノ科の受験生なんて、みんな3歳から英才教育。15歳からやって受かるわけがない」。
何度言っても彼の決意は変わらなかった。そして最後には受かったんですよ。すごい努力をしたんでしょうね。
でも、そんな彼に、私は最初から最後まで否定の言葉しか投げなかった。ほんとうに申し訳ないことをした。いつか謝りたいと思っていましたが、先日、演奏会後のロビーで、三十年ぶりに彼に謝ることができました。
「先生のおかげで、僕は今ここにいる」。彼の笑顔に救われました。

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田中康平先生に聴く、「恐竜の残した手がかりに私たちは何を見出すか」

tanaka.jpg世界が変わって見える瞬間、というのがある。
周囲の物理的な構成は同じなのに、自己という鏡面に結ばれるその投影が、唐突に違った像を結びはじめる瞬間。
誰かの教えに導かれて、その新たな世界が見えてくるだけでもじゅうぶん心地よい。今は砂漠にしか見えないその場所に、数千万年前には確かに存在していた巨大生物の営みが、ありありと浮かび上がってくる、それだけでも。
ましてや、その世界像を理論的に創り上げたのが自分自身だとしたら、その喜びの深さは如何ほどか。
今から1億年ほど前、恐竜が跋扈していた時代を舞台に、研究者としてのそのような特権的な愉しみを享受してきたのが、筑波大学生命環境系助教の田中康平先生だ。

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本間希樹所長に聴く、事象の果てに見えたもの

本間希樹プロジェクトの名はEHT/Event Horizon Telescope。直訳すれば「"事象の地平線"望遠鏡」。
欧州、北米、南米、南極、そしてハワイに散らばる各国の電波望遠鏡を連携させて地球と同じ大きさの仮想的な巨大電波望遠鏡を構成する。人間でいえば視力300万、というその途轍もない「目」=超長基線電波干渉計(VLBI)が見据えるのは、太陽系から5500万光年の彼方にあるM87銀河、その中心にある見えない陥穽、ブラックホール。

200名を超える世界の研究者たちが参加したこの国際プロジェクトの成果発表は、2019年4月10日、協定世界時13時ちょうどに世界6か所で一斉に始まった。歴史的瞬間はそのきっかり7分後に指定されていた。

「日本時間午後10時07分、この時刻は一生忘れられない」

日本チームのリーダーを務めた本間希樹・国立天文台水沢VLBI観測所所長は、各チームを代表する6人のうちの一人として、人類が初めて撮影したブラックホールの姿を世界に向けて見せたその瞬間を振り返って、言った。

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中竹竜二氏に聴く、「もしも高校ラグビーの女子マネージャーが中竹コーチの講演『誰よりも学ぶことができるリーダーが組織を育てる』を聴いたら」

中竹竜二

「今日、皆さんは、何を期待してここに集まったのでしょうか?」

講師の声が会場に響き渡る。

私の期待は、はっきりしている。それは、ラグビー部のマネージャーとして必要な心構えを、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さんから直接教わることだ。
コーチングディレクターとは、コーチたちを束ねる存在、コーチのコーチ。その初代の日本代表。すごい。

一言一句も聞き漏らすまいとメモを取る手に力を入れた時、意外な言葉が聞こえてきた。

「今日の期待を、隣の人と話し合って共有してください」

ん?話し合う?共有?って、どういうこと?
思いがけない言葉に、一瞬、アタマが真っ白になる。
周りの人たちもしばし戸惑っていたが、じきにざわざわとした話し声が起こり始めた。
横を向くと、隣の席の人がこちらを見ていた。見知らぬ人だ。挨拶もそこそこに、お互い、ぎこちなく、それぞれの「期待」を話し出す。

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楠木建教授に聴く、「すべては『好き嫌い』から始まる」

楠木建ショウタくん、マイさん、この度はご結婚おめでとうございます。ご両家ご親族の皆様にも心よりお慶び申し上げます。ご紹介にもありました通り、私、新郎新婦が出会った当時の上司でございます。お二人はよくご存知のはずですが、なにしろ私、口下手なほうでして、このような晴れの場にふさわしいお話しが上手にできるかどうか甚だ心許ないですが、ご指名でございますので、僭越ながら一言、お祝いの言葉を述べさせていただきます。

話し上手といえば、先日、この近くの丸ビルホールで楠木建さんという経営学の先生の講演を聴いたのですが、いや見事なお話しっぷりでした。競争戦略論、なんていう難しそうな分野の話なのに、三百人からの聴衆を飽きさせず、笑わせ、考えさせ、あっという間の2時間でした。そもそもタイトルからして経営学っぽくなかったですね。「すべては『好き嫌い』から始まる」。いや、今日のお二人の門出は、「好き」だけから始まっているわけですが。

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高橋祥子さんに聴く、「パーソナルゲノムが拓く未来」

高橋祥子...自分の運命を知りたい。
というのは古今東西を問わず人類共通の願望だろうか。水晶玉を覗いたり、神の啓示に耳を澄ませたり、占い師のご宣託に一喜一憂したり。自分の運命が書かれた葉っぱを読める場所がインドのどこかにある、という話も聞いたことがある。
しかし、メーテルリンクの「青い鳥」がそうであったように、世界中を探し回っても得られなかったものが思いがけず身近なところに存在していたりする。高橋祥子さんが教えてくれる「あなたの運命」の場合、その元となるデータは、あなたのパーソナルゲノムを解析して得られる遺伝子の情報だ。そう、運命はすでにあなた自身の中に書かれているのだ。それを読み取れていないだけで。

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明石ガクト氏に聴く、実践:VISUAL STORYTELLING

明石ガクトいやこれ無理っしょ、この講演レビューするとか。だって相手は明石ガクトさんよ?ワンメディアの代表取締役で、日本の動画制作の第一人者よ?去年バカ売れした著書のタイトルだってズバリ『動画2.0』なんだから。動画1.0どころか静止画すらない文字だけ2500字かそこらでどうやってこの日の講演内容をまとめて紹介しろっちゅうねん。どこまで竹槍精神なんや。

なんなら今回、文章じゃなく動画でレビューしましょか?こう見えても学生時代には若手映像作家の登竜門と言われたぴあフィルムフェスティバルで予選を突破したこともあるんですよ。本選で落ちたけど。え?映像と動画は違う?そこをわかっていない時点でアウトですか。そうですかわかりましたじゃあ潔くテキストだけで玉砕しますよ。メディアとしてのテキストのダメっぷりを全力で証明することで時代は動画だよ!というのを伝えるのが今回の私の役割ってことで。斬られ役か。

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安宅和人氏に聴く、平成日本の彷徨とシン・二ホンの咆哮

安宅和人試しにWEBで「シン・二ホン」と検索してみてほしい。安宅和人氏の講演の資料や動画がいくつも出てくるはずだ。枚数の多寡や時間の長短はあるものの、リンク先の資料の多くは今回使われたものと共通だった(ので、満席だった今回の夕学を聴講できなかった方は、まずそちらで資料を確認してほしい)。

情報満載のスライドの中身に加えて目を引くのは、それら資料類の出所、つまりリンク元だ。映像がTEDなのはともかく、資料PDFの掲載場所は経済産業省・産業構造審議会の「新産業構造部会」であったり、財務省・財務総合政策研究所の「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」であったり、首相官邸・教育再生実行会議の「技術革新ワーキンググループ」のページであったりする。

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馬場渉氏に聴く、大企業イノベーションの起こし方

馬場渉2017年の春、日本の典型的かつ伝統的な大企業であるパナソニックで、驚きの人事があった。一つはOBであり日本マイクロソフト社長だった樋口泰行氏の請われての復帰と役員登用。そしてもう一つが、内部昇格でも出戻りでもない全くの外部人材が、こちらも請われて本社ビジネスイノベーション本部長・兼・北米子会社の副社長というポストに抜擢されることだった。
世間の耳目は前者に集中したが、パナソニックの未来に大きく影響するのはむしろ後者の方だったかもしれない。少し前まで同社製品を買ったこともなければ松下幸之助氏の著作を読んだこともなかったという馬場渉氏は、このとき、39歳にして同社の一員となった。

馬場氏は、ERPの世界的企業として有名な独SAPグループでキャリアを積んだ。直近では本社カスタマーエクスペリエンス担当バイスプレジデントとしてシリコンバレーに籍を置き、大手顧客のデジタル・トランスフォーメーションをハンズオンで支援してきた。

だが、ディズニーの放送部門がいくら頑張っても、NETFLIXのスピードには追い付けない。小売業の世界最大手ウォルマートも、amazonのようなデジタルネイティブ企業の動きには追随できない。過去に成功体験を持つ大企業が、それ故に、デジタルに最適化された新興企業に追い抜かれる事態。「イノベーターのジレンマ」そのものだ。

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本間浩輔氏に聴く、「ヤフーの働き方改革」

本間photo_instructor_960.jpg「ヤフーの働き方改革」。演題は至ってシンプルだ。しかし、だからこそ、聴き手の心構えが問題となる。つまり「ヤフーだからできる」とみるのか、「ヤフーでもできる」と捉えるのか。あるいは「何をしているか」を書き取るのか、「なぜするのか」を考え抜くのか。

常務執行役員コーポレートグループ長である本間浩輔氏は、終始ニコニコしながら「ヤフーの考え方を押し付けるつもりはありません」と言う。言いながら、「ヤフーだから、IT業界だから、と言っているうちは、学びは深くなりませんよ」と釘を刺す。

ヤフーに学び、その裏側にある価値観や哲学を読み解きながら、いかに自社のこと、自分のこととして考えられるかで、この2時間の価値が決まりそうだ。本間氏が時折口の端に上らせた研究者らの言葉とも紐づけながら、概要を記してみよう。

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