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平井 一夫「「ソニー再生」のリーダーシップ」

やり抜く

平井 一夫

「SONY」への私の思いは郷土愛に近い。だからソニーが様々なビジネスに進出してその姿を変えると、地元が再開発してしまったのと同類の感慨を、良きにつけ悪しきにつけ持つ。「ええっ、こんなに変わったの?」「へえー」この二つはその時々で様々なイントネーションを帯びる。

ソニーは現在、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融の3分野のビジネスを行っている。「世代、国、ビジネスによって関わりが違う」と平井一夫氏がいわれるように、中年の私にとっては何よりもまずウォークマンなどの音響関係エレクトロニクスが「SONYの姿」である。そんな多業態のソニーはグループ全体で11万人の社員が働いているそうだ。社員の見る方向がバラバラになることも多いのでは?との心配もよぎる。その辺りはどうなのでしょう?

Purpose(存在意義)を明確にすること、それが多業態のソニーを繋ぐものとなり、平井氏はそれを「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」と定義している。社長時代から社内で議論したそうだ。どんなビジネスをしていても「感動で満たす」、そこに存在意義を見ている。私はかつて「ヒットの神様」との異名を持つ伝説のマーケッターと最晩年お話をする機会を得たことがある。2007年頃だろうか。話が企業の多業態化になった時にソニーの話題が出ると、「何をしても企業のアイデンティティ、そこからブレない限りソニーはソニー。」神様はそういう意味のことをいわれるのだった。ここでいう存在意義とアイデンティティはほぼ同義だろう。

では、どのようにして業績を回復させたのだろう。復活のリーダーシップの講演本題だ。まずは箇条書きでコスト削減など数々の施策がプロジェクターに映写される。しかし平井氏は、このような戦術をドライブするにはどうするのかを話すという。それが「リーダーがすべき6か条」だった。

  1. 正しい人間になる
  2. 高いIQを持ったマネジメントチームを組成する
  3. Mission, Vision, Valueを定義する
  4. 戦略立案
  5. 現場に行く
  6. 後進に道を譲る

この中で「1. 正しい人間になる」に時間を割き、経営のベーシックにこれがあるそうだ。通常リーダーに抜擢されるような人は営業成績の良い、あるいは提案力がある等の「仕事ができる人」、つまり「IQが高い人」である。しかし「リーダー」に期待されるのは「部下の意見や考えに耳を傾けてくれる」「公正・公平に評価してくれる」等のEQが高い人だった。このシフトが上手くできないとリーダーとしての資質が問われることになる。人はリスペクトしていないリーダーに対しては120%の力を発揮できない。なればこそ「リーダーは肩書でなく、人格で仕事をする。」まず「人間としてどうですか」ということなのだろう。部下経験が長いほどわかる話だ。

平井氏がいっている「正しさ」は信頼される人間になる等、普遍的な意味での正しさなのだろう。ではもう一段下って、戦略や戦術面での「正しさ」はどのように定義していくのだろう。社員が11万人もいたら、部署ごと文化ごとで皆それぞれの正しさを持っているし、ボトムアップで意見が出てきても目線や考えの在り方はワーカーとリーダーでは異なることも多々あるはずで、平井氏がどのように取捨選択と決断をしているのかについて知りたいと思った。「3.Mission, Vision, Valueを定義する」「4.戦略立案」での話が該当箇所なのだろうが、講演では「1.2.で意見を出し合って会社の方針などを議論していく」とされていたのでボトムアップ型なのだろうか。

2006年にプレイステーションが大赤字となり、ハードのコスト削減のための議論を重ねた時の話が紹介される。若い設計者が「『プレステとは何なのか』という定義をして下さい。」と発言した。それにより、ゲーム機能に関係ない部分のコストを徹底的に下げることが決まり、一挙にどこに進むべきかがわかって赤字問題が解決したという。注目すべきは「定義をして下さい」といわれたことだ。ということは、平井氏が定義をしたのか。あるいは皆で議論をした結果をリーダーたる平井氏が「選択した」のかとても気になる。

この3番目について話した時、初めに「意見を出し合って、会社の方針などを議論していく。作ったら(リーダーが)毎日のように語る。生きたものにするのが大事」と語っていたことから、恐らくボトムアップ型と推測する。すると平井氏の考えるリーダーとは「Mission 、Vision、 Valueについて皆で議論し、その結果の中から『選択』して、社員に『浸透させる』役割を担う人」ということになるのか。戦略、戦術面での「正しさ」もそのようにして決定されるのだろうか。

多様性の時代、グローバル企業のリーダーによる様々な部署や立場、文化の社員を繋ぐ「正しさ」の定義の仕方は大変興味がある。リーダーが示すのか、ボトムアップなのか、まだつかみきれない点もあった。これはリーダーの目線やリーダーとは何かを平井氏がどうとらえているかとの問題に関連するため、講演でもっと詳しく聞きたかった点だ。
とはいえ、「正しい人間+正しい戦略が成功への唯一の組み合わせ」「現場に行ってリーダー自ら説明をする」との指摘には大いに頷ける。

何より講演で嬉しかったのは、「日本人の男性には海外に早い段階で行ってマイノリティになることを経験して欲しい」との意見だった。日本にいる限りマジョリティであるこの層は、機会を設けないとマイノリティ体験ができない。マジョリティであり続ければ判断にも限界がある。平井氏は60年代の幼少期にニューヨーク、カナダで過ごした経験から「Agree to disagree」(「『同意しない』ということに同意しよう。」)が好きなフレーズだそうだ。この概念はわかっていても実現は難しい。自分がマイノリティとなり、悔しさやもどかしさといった感情を含む体験をしなければいとも簡単に忘れてしまうだろう。

そして問題の先送りをしないことの例として挙げられたプレイステーションの話は印象的だった。かつてゲームのネットワーク化がされると皆わかっていたのに「リテイラーに説明できない」と消極的だった。しかしネガティブ・インパクトを承知の上で議論をしていかないと、お客様やステイクホルダーに責任を果たしていないことになるからとロードマップ化して進んでいく、つまり「組織の不条理」に陥らないことである。講演の全体を通して、ある種当然のこと、でも忘れがちで実現が難しいことを徹底して最後までやり抜く、その重要性を繰り返し説いているように私には聞こえた。

多業態で多様な社員を多数抱えて変化の激しい世の中で、ソニーはこれからどのような姿を見せていくのか。その時SONYの存在意義はどのようなものになっているのか。

神様との会話の続きが思い出される。
「ソニーは、原点に触れられるソニー・ミュージアムを創業の地である御殿山に作るべきです。」
単なる発展の歴史を展示する場所でなく、SONYの感動体験の原点と存在意義を感じられて、社員だけでなく世の人とSONYを繋ぐ場所になるだろう。そんな場所ができるのなら行ってみたい。もしできるとしたら、建設前にはきっと平井氏が行ってきたように数多くのタウンミーティングがなされるのだろう、リーダーによって。

(太田美行)