« 万葉に輝く 里中満智子さん | メイン | 西田 亮介「ソーシャルメディア時代の政治と民主主義~その現状と課題~」 »

中竹竜二氏に聴く、「もしも高校ラグビーの女子マネージャーが中竹コーチの講演『誰よりも学ぶことができるリーダーが組織を育てる』を聴いたら」

中竹竜二

「今日、皆さんは、何を期待してここに集まったのでしょうか?」

講師の声が会場に響き渡る。

私の期待は、はっきりしている。それは、ラグビー部のマネージャーとして必要な心構えを、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さんから直接教わることだ。
コーチングディレクターとは、コーチたちを束ねる存在、コーチのコーチ。その初代の日本代表。すごい。

一言一句も聞き漏らすまいとメモを取る手に力を入れた時、意外な言葉が聞こえてきた。

「今日の期待を、隣の人と話し合って共有してください」

ん?話し合う?共有?って、どういうこと?
思いがけない言葉に、一瞬、アタマが真っ白になる。
周りの人たちもしばし戸惑っていたが、じきにざわざわとした話し声が起こり始めた。
横を向くと、隣の席の人がこちらを見ていた。見知らぬ人だ。挨拶もそこそこに、お互い、ぎこちなく、それぞれの「期待」を話し出す。

まずは私からだ。

「ラグビー部のマネージャーをしています。弱小なんですけど、どうしても花園に行きたいんです。甲子園に行った野球部の先輩マネージャーからは『マネジメント』っていう経営学の本を紹介されたんですけど、私、読書とか大の苦手で...。それよりは、ラグビーのすごいコーチから話を聴いたほうがいいかなと思って」

「なるほど。マネジメントが組織に働きかけるものだとしたら、コーチングは個人に働きかけるもの。野球部とは違ったアプローチがあってもいいかもしれませんね。それにしても、お若いと思ったら学生さんでしたか」

そういわれて後ろを振り向くと、確かに会場は、サラリーマンっぽい恰好の人ばかり。勢い込んで最前列に座っていたので気づかなかった。一抹の不安を覚えながら、相手に訊いた。

「あの、あなたもラグビーのコーチなんですか?」

「いえ、僕は会社員です。ラグビーは、ルールもよく知りません。ただ、組織開発や人材開発に関心がありまして」

相手の方がそこまで言ったところで時間切れになってしまった。私が喋り過ぎたみたい...。

再び中竹コーチが会場全体に話しかける。

「ではみんなで共有しましょう。あなたは何を期待して来られたのですか?」

そう言いながら、通路を歩き、受講者を順に当てていく。

「私は、組織について考えたく...」
「リーダーシップについての知見を...」
「学び、という言葉にひかれて...」

そっか、『期待』はみんな違うんだなあ...、と思いつつ、「ラグビーについて...」という人がいないことに不安が増した。ひょっとして、私、場違い?

そんな私の心配をよそに中竹コーチは、一人一人の答えに「お、いいですね!」「素晴らしい!」などとポジティブな言葉をかけていく。そして「拍手!」と会場に拍手を促す。
自分が当てられたらどうしよう...というところで中竹コーチがみんなの答えを引き取って言った。

「いま皆さんと『期待の共有』をしました。言い換えれば期待の『言語化』をしてもらいました。なぜ私はそうしたのでしょうか?今度はその理由を考えて、お隣さんと『言語化』してください」

また隣の人との話し合いだ。でも今度はスムースに話が始まる。

「モチベーションをあげていくため...?」
「ゴールを明確にするため...?」

短い『言語化』の時間が終わり、再び中竹コーチが会場の人に訊いていく。もちろんポジティブな言葉掛けと拍手は先ほどと同じ。
そのとき挙げられた答えは、私たちが話し合ったのと同じようなものだった。ひょっとして私たち、正解?
そんな心を見透かしたかのように、中竹コーチが言った。

「この問いに、特に正解はありません。私はただ、皆さんの中の何かが上がればいい、と思っただけ。やる気、というか、主体性。みなさんの主体性を上げたかった」

「今この場でいちばん主体性があるのは誰ですか?はい、講演者である僕です。(笑)皆さん、もちろん主体性を持ってこの会場に来られたのですが、そちらの受講席に座るとどうしても主体性がなくなっていく。でも本来、学びは主体性がないと意味がないんです。今日はせめて、努力して言語化することで主体性を発揮してください」

確かに。
こういう講演会って、聞いただけで分かった気になったり、できるつもりになったりしてしまう。でもそれって、考えることを他人任せにして、自分のアタマは働かせてなかったりするんだよね。
今日みたいに、隣の人と話をしながら『言語化』すると、いつもより自分のアタマで考えている気がする。アタマの中でモヤモヤしていた考えが、『言語化』することでハッキリしてくる感じ。インプットだけじゃダメ。アウトプットがあって初めて、インプットが生きてくるんだ。

そうして講演はここから本題に入って行った。でも、その内容を、よくできた「まとめ」みたいなカタチでここに書くのは、やめておこうと思う。
え?
それを「期待」してここまで読んできたのに、って?
だって、会場に足を運んで直に講演を聞いても「主体性がない」と言われるのに、その「まとめ」の文章を読むだけなんて、もっと主体性がないじゃない!
それ、きっと、学びとしての意味がない。

...ということを前提に。

問われて考えたプロセスそのものは書ききれないけど、結果として私が何を感じ、何を学んだのかを、ノートに書き留めた中竹コーチの言葉から抜き書きしておく。
ラグビーにちなんで15個、選んでみた。


  1. コーチが答えるのではなく、選手に問うこと。考えさせ、答えさせること。

  2. コーチがどう教えるかではなく、選手がどう学ぶか、に視点を移す。主語を変える。

  3. 他人との関係構築力だけでなく、自己と向き合う力、自己認識力が必要。

  4. 他者が自分をどう認識しているかを自己認識するのはつらい。でもそれをすること。

  5. 人に、共感できる人に、人はついていく。

  6. ラグビー日本代表をONE TEAMにしたのは、忌憚のない相互フィードバックだった。

  7. コーチは、教えることのプロであるだけでなく、学び手としてもプロであれ。

  8. 「あなたの成長を信じている」と、言葉と態度で示す。それが選手の自己肯定感を生む。

  9. 満杯のコップに水は注げない。今あるものを捨て去らないと新しいものは学べない。

  10. 捨て去ることは難しい。それは「恐怖」を伴うから。でもそれができるリーダーがイノベーションを起こせる。

  11. 今、自分をとらえている価値観を捨て去ってみると、どんな自分が出現するか。

  12. 練習での良質な失敗体験が、本番での成功体験をもたらす。

  13. 子は親の背中から学ぶ。リーダーが学べばみな学ぶ。(だから「誰よりも学ぶことができるリーダーが組織を育てる」。)

  14. 単なるメンバーはいない。全員がリーダー、としてチームビルディングする。

  15. 誰かの失敗を、自分の失敗、と思えるメンバーばかりなら、そのチームは強い。


この15文、ただ読むだけでは、きっと学びにはならない。でも、「これってどういうこと?」「ほんとに?」「なんで?」と、問い掛け、考えるきっかけにするなら意味があると思う。

とにかく講演の90分間、中竹コーチは私たちに「問い」を次々と投げ掛け、言語化というアウトプットを求めた。「これからの指導者に求められる能力は?」とか、「学びの3大原則とは?」とか、「コーチング&人材育成界で起きているパラダイムシフトは何か?」とか。講演の最後も、「最後に、この90分で何を学んだか、隣の人とアウトプットしてください」だった。

ラグビーそのものの話は意外と少なかったけど、中竹コーチの話は、どんなスポーツにも、学校にも会社にも、当てはまる内容だった気がする。中竹コーチ自身、他のスポーツのコーチもしている。そう思ったら、ラグビーの選手ではない私にも、もっとできることがあるはず、という気がしてきた。
でも、話の内容もさることながら、何よりも今日のこの中竹コーチの立ち居振る舞いそのものが、言葉よりも雄弁に、コーチのあるべき姿を体言していたと思う。

いい言葉をいっぱいもらった。
さて、これを、どうやってラグビー部のみんなに教えればいいんだろう?
...という発想自体が、まだ「教える側視点」、指導者中心主義なんだよね。「学ぶ側視点」で、選手ひとりひとりが学びの中心になるように、部の活動をデザインしていかなくちゃ。
そのための「問い」を投げ掛け、みんなに考えさせるのが、私の役割だ。けど...。

「ではそろそろ最後の質問にしましょう」

司会の人の言葉に、私の右手が無意識に反応した。え?と、右手を見つめて驚く私。

「はい、じゃあ勢いよく手が挙がった最前列の方」

当てられちゃった...。
係の人からマイクを受け取り、壇上の中竹コーチに向きあう。中竹さんは優しい顔でこちらを見ている。ひとつ、深呼吸をして、口を開く。

「あの、私、うちのラグビー部を強くしたくて。いろいろ悩んだり、苦しんだりして、でも、みんなの意識はなかなか変えられなくて。
今夜の中竹さんの話には、とても勇気づけられました。でも、話を聞くにつれ、中竹さんだからこそ、いろいろなことができるような気もしてきたんです。中竹さんのようなすごい人でないと、変革のリーダーにはなれないのでしょうか?」

中竹コーチはにっこりと微笑んで、言った。

「リーダーは、誰でもなれますよ。僕だってなれたのだから」

司会の人が講演の終了を告げた。そのとき、ノーサイドの盛大な拍手とともに、中竹さんと私たちの間を区切っていた見えないなにかも、なくなったような気がした。

(白澤健志)