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あまりに人間的な 柴山和久さん

柴山和久「百科事典のセールスマンに百科事典が必要か聞くな」という。けれども投資のアドバイスを欲しい時には投資の専門家、証券会社などに相談しなければならないのがネックである。ファイナンシャル・プランナーもいるけれど色々勧められそうだし...。多くの人はそんなところで悩んでいるのではないだろうか。

医療や法律はテレビでも専門の番組が多数あるのに、どういう訳か投資についてはない。学校でも学ばない。せいぜい経済ニュースがあるくらいだ。そうした背景があるためか柴山和久氏は「本質の流れ」を中心に話すと初めに宣言してくれた。そして「投資」ではなく「資産運用」との言葉を用い続けた。

「本質の流れ」の前に柴山氏は日米の格差に驚いた話をされた。米国人の夫人のご両親から資産の相談を受けた時に気づいたのが、ご自身の両親と義父母は教育も職業も似ているにも関わらず資産運用に対する姿勢も社会背景もあまりにも異なっていることだった。義父母が見せてくれたポートフォリオの頭にはプライベートバンクのロゴが入り、何かあるとすぐに電話して相談する、そんなことが当然のこととされる米国。片や日本ではどれだけの人が同様のことをしているのだろう。「投資に関してはアングロサクソンが優れている」といったのは大前研一氏で、寺島実郎氏も「日本とドイツは労働に価値を置く」といっていた。何だか根が深そう。そもそも資産運用ってしないといけないの?

ここから「本質の流れ」になるのだが、現在の日本は「資産運用ってしないといけないの?」などと呑気なことはいっていられないようなのである。企業の退職金は年間で2.5%ずつ減少し、退職金だけでは老後の生活が成立しなくなる。その上、少子高齢化による年金不安という問題もある。これまでのような「30歳前後で住宅を購入し、退職金で住宅ローンを完済、定年退職をしてから退職金で資産運用」のプランはもはや成立しない。働く世代の時点でも資産運用しなければならない時代らしい。ところが日本では1000万円以上の資産があっても3人に1人は資産運用をしていない。その最大の理由が「やり方がわからず、信頼できる相談相手もいないから」である。これでは資産運用の知識を「持つ者と持たざる者」の差は広がる一方だ。これが資産運用1.0の時代。

資産運用の次の時代は資産運用2.0で「資産運用の民主化」、誰でも富裕層並みの最適化された資産運用を実現する時代だ。最適な資産組み合わせを算出するために、異なるパターンの資産組み合わせをテクノロジーをもって計算、調節する。「長期・積立・分散」を大きな柱とするこの考えは、短期的に何らかのマイナス(リーマン・ショックなど)が起きても長期的にはリターンがそれを上回るようになる。世界経済全体に分散投資することが金融危機のショックを和らげ、リスクも分散できる。そして積み立て続けることで為替変動のリスクが抑えられるなどの効果がある等々。こうしたことを詳細なグラフを用いて大変わかりやすく説明された。

次の段階が資産運用3.0。一人ひとりに合ったアドバイス、金融資産以外のネット通販、教育などにおいても最適化、ライフ・プランに合わせたサポートがキーワードとなる。この最適なアドバイスにAIが活躍する。それぞれの性格や行動パターン、悩みや知識は様々で、しかも複数抱えているものだからAIが分析をして最適なアドバイスをしてくれるというのだ。インターネット閲覧中に表示される広告やネット通販で表示されるお勧め商品などを思い起こせばすぐにイメージできるだろう。一昔前までは夢物語のようだったけれど、あっという間にそれが当然のことになってしまったようだ。

でもねえ、AIって所詮は機械でしょ。そんなのに人の心の襞や社会分析がわかるんですかねえ。ところがどっこい、何と「人間の脳は資産運用に向いていない」という衝撃の事実が発表されて考えの間口を広げなくてはならなくなった。人間の「損をしたくない」という感情が冷静な判断を失わせることは確実なようで、過半数の人が売却すべき時に購入してしまい、購入すべき時に売却するという非合理的な行動を取ってしまう。人間的な、あまりに人間的な!そういう訳でAIの方がむしろ冷静な判断ができるのだと柴山氏は説く。

とはいえ、柴山氏のウェルスナビ社と共同研究をしている東京大学の松尾研究室には「これをやってみようと判断するのも、やっぱりやめようかなと思うのも『人の心』だからそれをどう紐解いていくのがこれからの課題」だといわれたそうだ。そうするとアドバイス以前の資産運用についての学習もAIでよりきめ細やかにサポートや最適化していけるのだろうか。

AIは道具ではあるけれど、なぜだろう柴山氏の話を聞いているうちにAIの持つ特性と可能性をより感じるようになっている。あまりにも人間的な行動をサポートするためにAIを活用する。AIをよりよく活用するためには人間をよりよく知らなければならない。そういう意味で柴山氏は人間をよく知っている。宣伝臭さを出さず「誰でも富裕層になれる数式がある」「日本社会はこの先明るくない」と来られたら、たいていの人は参ってしまう。聞いている側は押し付けられた感を持たず、自ら「それなら資産運用しようか」となる。エアウィーヴ社長の高岡氏も同じだけれど、社長は凄腕セールスマンだ。さすが預かり資産1,400億円突破は伊達ではなかった。これは嫌味でも皮肉でもないことを付け加えておく。

日本人がなぜ資産運用の話をしたがらないのか、価値観はどこにあるのか。そんなことも解明してAIにプログラミングする日も遠からず来るだろう。そしていつか「日本人ほど資産運用に優れたものはいない」といわれる日が来たら日本社会全体が大きく変化しているような気がする。

太田美行