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日本経済の機会とリスク 竹中平蔵先生

タケナカphoto_instructor_991.jpg慶應義塾大学名誉教授であり、東洋大学教授でもある竹中平蔵先生は、開口一番に「日本人は平成の時代に起きてきた海外の出来事について検証を行っていない」と警鐘を鳴らした。令和の時代がしなやかで強い時代であるために、捉えておくべき世界の事象とは何か。グローバルにコネクトされた社会を生き抜くために求められることは何か、考える時間となった。

我々の生きるこの世界では、戦後の世界的復興と同レベルのエネルギーを注いで、World Architectureを再構築することが求められている

スイスで行われている世界経済フォーラムのダボス会議では、各国の経済リーダーが集い、世界の安定的な成長に向けた様々なテーマを討議する。2019年は、ドイツのメルケル首相が提唱した「戦後構築したLiberal World Orderはうまく機能しておらず、我々の生きるこの世界は、戦後の世界的復興と同レベルのエネルギーを注いで、World Architectureを再構築することが求められている」というメッセージが観衆の注目を浴びた。ポピュリズムの台頭や米中対立の最中にある、現在の世界情勢を表すのにふさわしい言葉である。

世界をけん引するのは、GAFAや中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)である

Industry 4.0(第4次産業革命)という概念は、2011年ドイツにおいて提唱された。個別のモノを製造して個別に販売する製造業から脱却し、ビックデータ、人工知能、ロボット、シェアリングそれを下支えするIoTのような技術や特性を持ち合わせた経済活動へのシフトを意味している。米国では、自由な発想と体制の基でGAFAを育むこととなった。また、中国においては、共産党の権威を以って、データ関連のビジネスに多大なエネルギーが注がれ、BATが誕生した。今や街づくりや社会システムの形成にデータが欠かせない時代となっている。例えば、Googleはトロントにおいて、データを活用した街づくりを試みている。

米中貿易摩擦は、米中の政治理念の対決にまで根深い対立構造に発展しており、世界経済の見通しを大きく揺るがしかねない

貿易摩擦であれば、物流量の調整という、対立を回避する比較的簡単な方法がある。しかし、Googleを育てた自由な経済風土と、共産党の権力一極集中による産業育成という、理念の対決の様相を呈する米中対立の根底は深い。政治構造の根幹が変わらない見込みであるため、深刻化した対立は、安易な解決の糸口を見つけることができず、世界経済への大きなインパクトを及ぼす可能性がある。

日本は規制のサンドボックス制度を活用して、ビックデータや人工知能の活用を進め、激動の平成から令和へのしなやかな移行をすべきである

民主政治と国際協調が守り抜いてきた時代は確固たる地位が揺るがされている。技術的革命や対立を含む政治情勢が顕在化した平成の31年間に、日本は他国に後れをとった。勤勉で貯蓄性が高い日本人のブランド価値も相対的に低下した。例えば、日本の大学進学率は50%で足踏みをしているが、米国は75%(社会人の再学習を含む)。製造業の労働時間は米国の製造業従事者よりも短い。家計貯蓄率は年率約14%から4%に低下。日本の経済成長を促進するために、データを活用した産業構造の移行戦略が必要になる。

2019年のダボス会議において、安倍首相は英語でスピーチを行った。そのテーマはIndustry 4.0に基づくデータガバナンスである。これらの技術革命がもたらす産業構造の変化に日本が、うまく適用するため、安倍総理は「Osaka Track for Data Governance」を謳った。DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)という概念と2019年に大阪で開催されるG20会合に合わせたイニシアチブである。個人情報を除く情報については、自由な流通を促進するような制度構築を進める政策である。

このためには、既存の規制をいわば飛び越えたスピードでの実験や人工知能学習が求められる。英国発祥の概念である「規制のサンドボックス」の仕組みを用いて、あらかじめ定められた地理的・空間的範囲内であれば、規制を超えたイニシアチブを推進できる環境を整備すべきだ。

ここからは主観であるが、地方部にこそ、このような世界的情勢に追いつき、それを逆手にとる環境が充実しているはずである。高度情報産業は都市部に集中しがちであるが、これらのアイデアを実装する特区を整備するには都市部は混雑しており、多様な社会課題が煩雑に絡み合いすぎている。地方部での社会課題はその因果関係を特定しやすく、技術導入の効果を特定しやすい。また交通関連の技術を導入するためには、一定の土地の広さも必要である。インターネットさえ整備されていれば、猛烈なスピードで起こっている世界の出来事に、アクセスできる状況が目の前に広がっているはずである。日本の地方部で起こっている課題は、世界の先進課題であることも言うまでもない。日本で実現したことを、世界の人々と共有することにも大きく期待したい。

(全員ではないと思うが)地方中核都市部における世界的情勢に対する「対岸の火事感」や極めて短絡的な「現状維持志向」は、さらなる幸福や楽しさを追求せずに平凡に甘んじる無意識の中に温められてきたと思う。この傾向は、その裏には必ず機会が待っているのだという明るく希望に満ちたリスク感覚に転換されるべきと考える。「戦後復興と同様のエネルギーを要する」時代なのである。地方部の人でもぜひ、エネルギー満点で新たな時代作りに参加してほしい。リスクを、将来の機会ととらえる意識を地方市民が自覚さえすれば、日本には限りない可能性が開けているはずだ。

沙織