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銀座のママの圧倒的な人間力 白坂亜紀さん

白坂photo_instructor_950.jpg「銀座のママ」と聞くと、メイクが濃くて、いかにも「オンナ」といった感じの女性を想像してしまうのだが、白坂亜紀さんは童顔といってもいいくらいの可愛らしいお顔立ち。お化粧も控えめで、決してギラギラした雰囲気ではない。
でも着物の着こなしはさすがに堂に入っていて、所作のひとつひとつが美しく、大輪の百合のような迫力がある。やっぱり、どこからどう見ても「銀座のママ」だ。

語り口はといえば、さすが接客業のスペシャリスト。聴き手を全く飽きさせない。ところどころにユーモアを挟みつつ、ついつい耳を傾けたくなるようなエピソードが次々と繰り出される。 レポートを書く、というミッションを控えているわたしが必死でメモを取るのはあたりまえだが、両隣の男性のペンも最後まで止まることはなかった。それほどまでに、気づきと含蓄が全編に散りばめられた講演だった。

銀座の栄枯盛衰、ホステスさんたちの厳しい実態、銀座の夜の裏話や一流のホスピタリティについての見解、そしてニッポンのものづくりのすばらしさなど、長年にわたり銀座で生きてきた白坂さんだからこそ語れるお話に、唖然としたり感心したり勇気をもらったり。

なかでもわたしの心に残ったのは、ホステスさんたちがどのようにしてお客さまの心をつかむか、というお話だ。銀座の夜の蝶たちの、卓越したコミュニケーション術。その種明かしを少しだけ紹介する。

美しく居ること

良好なコミュニケーションのために必要なのは、まず「美しく居ること」。 身だしなみを整えることは、敬意をあらわすことと同義である。「あなたのために、しっかり準備して参りました」というこちらの意思を一瞬で伝え、相手の好感を得ることができる。 好印象のままコミュニケーションの第一歩を踏み出せるのだ。

そんなわけで、ホステスさんは出勤前の美容院通いを義務づけられているそうだ。美容院で髪を整えないまま出勤したらペナルティの罰金が科せられる。身だしなみに手を抜くことは許されない。ちなみに、日々の美容院代も衣装代も、お店ではなく個人持ちだというお話には衝撃を受けた。

一般人にあてはめて考えれば、清潔感と、季節やTPOに合わせた服装くらいは最低でも心がけたいものである。洗っているのかいないのか分からないような頭髪や、体型に合わない服装の人、電車に乗っているとよく見かけるが、とてもじゃないけど好印象は持てない。

あっ。 誤解のないように言っておくが、これは女性に限った話ではない。男性も全く同じである。 そして、「外見がきちんとしている=仕事ができる」は成りたたないかもしれないが、逆はかなりの確率で"真"なのではないだろうか。

ほめ上手になる

ほめられて嫌な気持ちになる人はいない。でも、いざ他人をほめようと思うとなかなか難しいものだ。白坂さんは、「ほめる」と「おだてる/媚びる」は違う、と言う。気に入られようとしてついたウソは、逆に相手を居心地悪くさせてしまう。

他人をほめるには、まずは観察から始めると良いそうだ。 たとえばファッション。もしほめられる場所がネクタイしか見つからないときには、「そのネクタイ、いいですね」だけで終わらせず「きれいなむらさき色ですね」「よくお似合いですね」「柄のセンスがいいですね」など、とにかく具体的にほめるのがポイント。

容姿は、恥ずかしがらずストレートにほめる。わかりやすいイケメンなら「ハンサムですね!」でOK。もしほめづらければ、「セクシーな唇」「まゆげがりりしい」などパーツをほめる。

エピソードの舞台が夜のお店なので、ちょっとそれっぽい例えが多かったが、実際のところ繊細な観察眼なくして誰かをほめることはできない。具体的にほめることによって「あなたに関心を持っています」という姿勢を自然と伝え、相手の心を和ませ、ゆくゆくは相手の心をつかむことにつなげていく。ということなのだろう。

本当の「おもてなし」とは

じぶんが美しく居ることも、相手をほめることも、白坂さんが語る「コミュニケーション」は全てホスピタリティの精神にもとづいている。 昨今、軽々しくもちいられることの多い「おもてなし」という言葉について、「相手にとってのベストを考え抜き、それを実現するためのふるまいが"おもてなし"だと思います」とおっしゃっていたが、白坂さんから聞くと大変に説得力があった。

今回の講演タイトルは「銀座ママに学ぶ経営力、人間力」だったが、クラブの経営手法や人材育成に関するエピソードをそのまま一般企業にあてはめるのはちょっと無理があるように感じる瞬間もあった。
その一方で、白坂さんのお話はすべてご自身の経験にもとづいた実感のこもったものであり、何より物事の本質を的確に捉えられる人でなければ語れない内容だった。これは間違いなく白坂さんの人間力によるもので、大いに感銘を受けた。

いつか、もし「クラブ稲葉」で遊べるくらい粋な大人になれたら、お店に出向いて白坂ママによる一流のおもてなしを受けてみたい。 その前に、まずはスポンサー探しから始めなくては。

千貫りこ