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「人・本・旅」で総オタク化すれば、日本は変わる 出口治明さん

デグチphoto_instructor_939.jpg 何かに耽溺している人を見るのは楽しい。たとえ「好き」を追求するあまり、常軌を逸した世界にイってしまっていたとしても、熱情そのものに罪はなく、むしろ尊いのだ。
 そういう尖った熱情をもって何かに打ち込みすぎる人は、日本では長らく「オタク」「変態」と疎まれてきた。しかし、「オタクと変態を増やさなければ日本に未来はない」と本物のオタクであるこの人は喝破する。研究者でもないのに世界史の本を物すほどの歴史オタク(ご自身の言)で、万象にあかるい「歩く教養」のような人。本業は、今をときめくAPUの学長。超一級のビジネスマンとしても知られる、彼の人が言うのだ。

 国際大学という生き馬の目を抜く市場にさらされ奮闘する立場からの言は、否応なく切実だ。日本はもう本当に、確実に、激ヤバな事態にきている。うすうす感じてはいたが、もはや斜陽を通り越して、沈没寸前なのかも。
 じっさい平成元年には、世界のトップ企業20のうち14社が日本企業を占めていたが、元号が変わろうとする今、トップ20にはビタ1社も残っておらず、トヨタですら、かろうじての35位である。上位5位は、キラッキラのGAFAとマイクロソフトが占め、それに続くユニコーン(評価額が10億ドル以上のベンチャー企業)において日本の存在感は激薄で、中国やインドにも遠く及ばない。
 出口さんによれば、GAFAに続くユニコーンをぞくぞく輩出するシリコンバレーは、「オタクと変態」の巣窟である。性別も国籍も理系・文系の壁もボーダーレスで、数学と哲学のダブルドクター保持者も当たり前にいたりして。天才が集まっているのではない。ダイバーシティがデフォルトの多様な価値観がぶつかり合う中、皆こめかみが痛くなるほど勉強した猛者たちだからこそ、日々是革新を生む企業を創り出せているのである。
 のみならず、成長著しいアジアの、例えば深センやシンガポールなどの例と引き比べるまでもなく、日本人の学ばなさ加減は今や世界においてもてっぺん級である。大学進学率50%はOECD平均(62%)をかなり下回っており、学生は相も変わらず大した勉強をせぬまま卒業していく。いつまでたっても労働時間が短くならない社会人は、さらにもっと「学ばない」。これでは社会や産業にイノベーションが生まれず、世界と伍して戦えるわけがないのは道理だ。

 出口さんの学びの方法論は、「タテ・ヨコ・算数」。タテは歴史、ヨコは世界、算数はデータ(ファクト)である。古典を薦めるのも、社会の仕組みや考えるための「型」のヒントが多角的に詰まっているから。たくわえた知識を参照し思考の型をなぞることで、自分の考え方が養われる。考える力がつく。そして学びのソースには「人・本・旅」の三原則を挙げる。
 製造業で栄えてきた日本では、力が強くてまわりの空気を読める男性による長時間労働、という工場労働モデルが価値あるものとされてきた。夫は「メシ・フロ・ネル」で、妻は専業主婦。しかし、21世紀に産業の主流となったサービス産業には常に新鮮なアイデアが必要とされ、何より産業のメインユーザである女性を重用しなくては始まらない。そんなわけで、改めて現代の日本人はそっこー「メシ・フロ・ネル」をやめて「人・本・旅」で学び続ける必要に迫られている。
 残業をやめてさっさと帰り、人に会い、本を読み、日常から離れる。「人・本・旅」が欠かせない兼業や副業を持つのも、大いに結構だ。夕学のような「講演も旅ですわ」。

 厳しい提言を語る出口さんのたたずまいは、しかしゆったりとして、上方の抑揚がはんなりとした声音は、どこまでも優しげ。説法のような愉悦がある。講演の内容は、少なからず著作でも繰り返し説かれていたと思われるが、字面を追うだけではわからなかった「学び」の必要性が、静かに、しかし今までになく胸に迫ってきた。ライヴ最高!
 DVDかCDが出ていれば買いたいと思ったが出ていないようなので、最近は、通勤途中にスマホで出口さんの講演動画(短い)をはしごして聴いている。学びへの熱は、ややもするとすぐに醒めてしまうものだから、まずは出口治明ヲタをめざすことから始めてみたい。

茅野塩子