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ユーザーインで1兆円企業を狙う 大山晃弘さん×清水勝彦さん

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ウォルマート、BMW、プジョー、ディオール。これらの企業に共通することは何かーーそう、同族経営であることだ。
実は世界の企業の80~90%は同族経営だという。特に我が国においては国内法人企業約250万社のうち97%は同族経営だ。また、この約250万社のうち中小企業は全体の99.7%で、従業者数では66%を占めている。つまり日本の企業の大部分が「同族経営の中小企業」だと言える。

偉大なる中小企業

アイリスオーヤマは、そうした「同族経営の中小企業」の中でも自他ともに認めるトップクラスの有名企業だ。
「え?アイリスオーヤマが中小企業?」と疑問に思う向きも多いだろう。実際、グループ総売上高4900億円(2018年度予想値)、グループ総従業員数11,866名という陣容を見ると押しも押されもせぬ大企業に思えるが、会社法上の大会社の要件である「資本金5億円以上」「負債200億円以上」は満たしておらず、税法上も中小企業者に分類される会社なのである。

アイリスオーヤマは上場もしていない。利益率の確保を仕組み化しているので、直接金融に頼って資本家に支配権を渡す意味がないからだ。また本社を仙台に置く地方企業でもある。「生活者視点」を大切にするためだ。しかし同時に、世界5カ国に16拠点を構えるグローバル企業でもある。
こうした概要を見るだけでも、非常にユニークな会社であることが分かるが、何よりユニークなのはその経営思想だ。

ユーザーインという造語

アイリスオーヤマを語る時に一番重要なタームが"ユーザーイン"である。「プロダクトアウトではダメでマーケットインの発想が重要だ」という話はよく聞く。しかしマーケットインではまだ生ぬるい。市場ニーズというのは小売店や問屋などのバイヤーが売りたい物を意味するが、それが実際に商品を使うユーザーのニーズを捉えているとは限らないからだ。生活者の不満や不便を解消することを目的として、ユーザー目線の商品開発をすること。それがユーザーインという造語の示す意味だ。

アイリスオーヤマでは、「作り手や売り手の都合で商品を作ってはいけない」が金科玉条。開発者が生活者の代弁者となり、生活者が快適な生活を送るために不満に思っていることを見つけ出す。そしてその不満を少しでも改善する商品を開発して売る。重視するのは「なるほど」「便利」「値ごろ価格」だ。
開発にあたっては生活者の値ごろ感を起点に利益や管理費を引き算して原価を決めることで、生活者が欲しいと思う価格を実現する。このスタイルで年間1000アイテム以上の新商品を生み出している。こうして潜在需要を顕在化する「需要創造」を行うのが同社の経営だ。

それには開発だけではダメで、流通までもを変える必要があった。ベンダーの都合に合わせているとユーザーのためにならない場合も多いからだ。そこでベンダー機能を強化。2万点に及ぶ多品種小ロットの商品を揃えた上で、全国に9工場を半径100−300km(1日配送圏)ごとに設けて分散製造しながら、46万パレットもの自動倉庫を設けて流通までもをまかなう。
さらにはホームセンターと提携して販売員までもを提供してユーザーに直接説明しながら売る。ネット通販も早い時期から力を入れて来た。こうして実にユニークでイノベーティブな「メーカーベンダー業」を確立したのだ。

5年後には1兆円企業に

講師である大山晃弘社長と慶應義塾大学大学院の清水勝彦教授との対談中、非常に印象に残った言葉があった。「ロングセラーは会社をダメにする」と「バックミラーばかり見るな、前を見ろ」との2つがそれだ。

普通のメーカーであればロングセラーの定番商品というのは喉から手が出るほど欲しい。しかしアイリスオーヤマはそれを良しとしない。ロングセラー商品やその派生商品に頼って新商品の開発を怠っていては会社が衰退するからだという。

また、マーケットインの世界では重んじられるPOS等のビッグデータも、参考にはしても頼ることはしない。データは過去をあぶり出しはするが、潜在ニーズという未来を映し出しはしない。「バックミラーばかり見るな、前を見ろ」というのは「需要創造」を狙いとする同社ならではの掛け声だ。

少品種・大量生産でスケールを追い求める大企業メーカーとは真逆に、多品種・少量生産でも利益を確保できる仕組みがあれば不況期にも生き延びていける。その言葉通り、この低成長下にあってアイリスオーヤマは年に15%ずつ増収し続けている。

「5年後には1兆円企業にする」というのが、大山社長がこの7月に就任した際のマニフェストだったが、現在の成長を続けていけばこの目標も夢ではない。

世間が注目する世代交代

しかし、ここまで紹介してきたユニークな方針の数々は、すべて先代のカリスマ社長・大山健太郎氏(現会長)が打ち立てたものだ。講演の冒頭、大山社長は「有名な先代社長の大山健太郎は父であり、今年40歳の私はその父のもとで40年間会社を見て来たので、誰よりもアイリスオーヤマを知っていると自負している」と語った。しかし代替わりしたばかりの二代目・大山社長オリジナルの施策が実を結ぶには、まだしばらくの時間が必要だろう。

トム・コリンズ著の『ビジョナリー・カンパニー』に、「時を告げるのではなく、時計をつくる」という有名なフレーズがある。創業者のカリスマ経営者は、自らの感覚だけで「正確な時を告げる」ことができる。しかしそれだけに頼っていると、その経営者がいなくなれば会社は時間を知る術を失って迷走する。だから「時計をつくる」、つまり価値基準なり判断の仕組みなりを作りあげることが重要である、という意味だ。大山社長には今、この「時計をつくる」という大きなミッションが課せられている。

世界的会計事務所アーンスト・アンド・ヤングのピーター・エングリッシュは「世界の同族経営ベスト500社のうち、44パーセントのオーナーは4代目以降。彼らは、世代交代のやり方がとてもうまい」と語った。アイリスオーヤマも同様に"うまい世代交代"を果たせるかは、これからだ。

私の知人の二代目社長がよくぼやいている。「二代目というのは損な役回りだ。事業がうまく行けば"オヤジさんのお陰だな"と言われるし、うまく行かなければ"オヤジさんは立派だったのに"と言われる」と。
起業こそが大変で、跡を継ぐだけは簡単、と思われがちだが、案外そうではないのかもしれない。若き二代目・大山社長は、どんな魅力的な「時計をつく」っていくのか。世間が固唾を呑んで見守っている。

三代貴子