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「動く、出会う、親しむ経済成長」飯田泰之先生

飯田photo_instructor_932.jpg人口が減少すると、経済に負の影響を与えると、私を含めた多くの人が思っているだろう。日本はまさに人口減少社会であり、2017年の合計特殊出生率は1.43と2年連続で低下している。しかし、飯田泰之先生によれば、人口減少悲観論は悲観しすぎであり、日本の未来はそこまで絶望的ではない。人口減少であれば、生産性の向上が期待されるという。ここでいう生産性の向上とはR&DやAIに代表される第4次産業革命技術導入によるものではないのが飯田先生の視点である。そして、生産性の向上には「動く成長」「出会う成長」そして「親しむ成長」の3つの成長が必要なのだ。

なぜ人口減少を悲観するべきではないのか、まずは生産性から紐解いてみる。コブ・ダグラス型関数において生産量(Y)は、労働(L)、資本(K)、生産性(A)の3つの要素で決定する。日本の高度成長期の年率10%の経済成長を分解すると、L=1.5%、K=2.5%、A=6% である。つまり、労働投入よりもはるかに生産性が果たした役割の方が高い。補足すると、生産性とは全要素生産性(Total Factor Productivity)であり、すべての要素を投入量として数値化するのが困難なので、全体の産出の変化率から、労働と資本の投入量の変化率を引いた差として計測される。高度経済成長期にこの値が高いのは、海外から科学技術を導入した部分が大きいと言われている。では、現代の日本でも技術導入すれば生産性が上がるのか?国々であまり差がなくなってしまった現代では、海外からの科学技術導入で生産性を上げるのは不可能であろう。

生産性をあげるためにはイノベーションが重要である。冒頭で述べたように、飯田先生のいうイノベーションとはR&DやAIに代表される第4次産業革命ではない。「人」が発揮する能力であるという。例えば、建設機械を生産するコマツの「KOMTRAX(コムトラックス)」は、もともとは盗難防止のためのGPSシステムであった。この防犯防止システムから何時間稼働したかを集計出来ることにより、先回りのメンテナンス営業が可能であることに気がついたのは「人」であった。GPS機能を搭載したことがイノベーションだったのではなく、「営業に使える」と「人」が気づいたことがイノベーションである。そのアイディアで、無駄にメンテナンスを奨めるコストが削減されて生産性が向上した。基本に立ち返れば、生産性とは「人」の発揮する能力なのだ。

経済成長の要素、生産性を上昇させるためには「人」が重要であり、さらに深めれば人が「動く」「出会う」「親しむ」ことがポイントだと飯田先生は述べた。経済成長は人の移動からはじまると。高度成長期には多くの若者が農村から都会に出てきた。農業から製造業に従事する人々が増加し、日本全体の生産性が向上した。

そして、イノベーションのためには、人と人が「出会う」ことが重要だ。特に現代は需要が供給を創出する世界であり、消費者の需要をいかにくみ取れるかがイノベーションの鍵だ。そこにはアイディアを生む環境が必要である。そのためには、やはり人が「動く」必要がある。スティーブ・ジョブズのいう"Connecting Dots!"のように、点と点が出会えば新しいアイデアが生まれる。人の「動く」が増えれば、「出会う」が増える。新しい刺激によってアイディアを生む。様々なバックグラウンドを持った人間とのコミュニケーションが新しいアイディアをもたらし、生産性が向上する。

「出会う」の次は「親しむ」が必要になってくる。イノベーションの第一段階ではアイディアが重要であり、多様性のある人と人との弱いつながりのほうが良い。しかし、第二段階でアイディアを現実化させるためには人と人とのつながりは強い方がいい。アイディアを製品化、そして販売し、利益を得るためには、共通ルール、共通社内特殊知識のもとで働いているメンバーのほうが効率良くできる。多様性や流動性の高さと同時に、相反する日本型の長期雇用制度も重要になってくる。だが、そうなると第一段階と第二段階は矛盾した組織構想になってしまう。その矛盾点を踏まえてまとめてみる。

「動く」「出会う」「親しむ」の3つを活かす組織とはどのようなものか。組織内での「動く」だけでも生産性は上昇すると飯田先生はいう。ただ、企業での流動性が高まりすぎると、人の入れ替わりが多い組織になってしまい、「親しむ」機会が失われてしまう恐れがある。そこで、社内異動で適材適所を探りつつ、横断的な企業内特殊知識を身につけていく。他の部署からきた人材と出会うことで、今までになかった視点が生まれ、アイディアが生まれる。また「出会う」ための弱いつながりは組織の外に求める。社外の勉強会などで、他業種の人と出会うことで、アイディアが生まれることもある。そのような社外とのコネクション構築のために、企業が積極的に研修費を出すなどして支援する。まだまだ様々なことが考えられるだろう。

最初に述べたように、全要素生産性とは全体の産出の変化率から、労働と資本の投入量の変化率を引いた差であり、これだという決定的なものではない。人が「動く」「出会う」「親しむ」ということは重要であるとは思う。しかし、全要素生産性が不確かな限りは決定的ではないだろう。ただ、私の経験上、アイディアは誰かと何かについて話しているときに生まれやすい。そして当たり前だが、このような経験は数値化して示すことができない。ただ直感的に、人との出会いが一人の人間の生産性を向上させることは間違いない。

(ほり屋飯盛)