« 明るい未来がやってきた!? 西野亮廣さん | メイン | 東京五輪後の金融政策をうまく使うための、暮らしの考え方 白井さゆり先生 »

琴坂将広先生の考える経営戦略の未来

コトサカphoto_instructor_930.jpg経営戦略とは何か―
その答えには、実務家と研究者との間で大きなギャップがある。
実際に会社を経営している人は、明日や1ヶ月後の未来のことを考えて戦略を練る。つまり、実務家にとって経営戦略とはプランである。反対に研究者は、過去の実現された成功事例を見て、経営戦略とは何かを体系化する。つまりはパターン化。実務家と研究者の経営戦略とは何かのギャップには、そこで未来を見ているのか過去を見ているのかの違いがある。そのギャップを埋めようとされているのが、慶應義塾大学総合政策学部の准教授である琴坂将広先生である。本日の講演テーマは「テクノロジーが変えた経営戦略:進化を振り返り、未来を考える」である。さっそく、過去を振り返るところから始めてみよう。

経営戦略の起源はいつだろうか――
まず、経営戦略とは「特定の組織が何らかの目的を達成させるための道筋」であるという定義のもとに話を始めれば、そのルーツは紀元前約200万年前に遡る。その時代に描かれた壁画には複数の個人が役割を持ち、協業をしている姿が見てとれる。その後、エジプトのピラミッドのように、ノウハウを持って行動をして、その行動の記録を蓄積し、情報伝達によって知識を伝播していった。ピラミッドを建設している作業員たちのモチベーションを上げるための祭りや踊りもあれば、人材育成としてマネージャーを育てることもしていた。情報通信は紀元前3000年前の伝書鳩から、1900年代の海底通信へと技術発展していった。

このような時代の変化と平行して、経営戦略も変化していった。紀元前500年頃には孫子の兵法、国民国家が成立した19世紀には、国家はどのように戦うべきかを説いたクラウゼヴィッツの『戦略論』やジョニの『戦争概論』など、国家間の戦争は戦略論の発展を牽引してきた。時代は進み、1908年には科学的管理法と分業化に特化して成功を収めたフォードのモデルTが普及し始めると、科学的管理法のテイラーや、ホーソン実験を行ったメイヨーが組織行動論を生んだ。また、経営自体が研究や科学的な理解の対象となり始めた。そして、ドラッカーをはじめとする経営思想が生まれ、1960年代に経営戦略を分析的かつ体系的に初めて取り扱ったイゴール・アンゾフの『企業戦略論』によって、経営戦略という学術領域が成立された。

大衆消費社会であった1960年代のアメリカは競合が多くない状況であり、先回りすることが経営戦略であり、それだけで勝つことができた。 しかし、1970年代になると経済成長は停滞し、産業内競争がはじまる。1980年代には、産業構造ではなく、技術革新で優位をもつ企業が台頭しはじめ、その資源の価値、希少性、模倣や代替困難性が重要となってきた。そして、近年では急成長するGoogleやNetflixなどのITスタートアップの方法論が、大企業にも模倣されはじめてきた。現代から未来への経営戦略は、もはや戦略だけではなく技術と融合していくだろうと琴坂先生は予測する。さらに、AIやロボットをはじめとする技術革新によって戦略は仮想空間でシミュレーション可能となり、空間と時間を超越した検証が可能となる。

例えば、人間でも可能な簡単で単純な領域の意思決定プロセスが、ディープラーニングやAIの導入により、選択肢の比較検討や選択肢の検索がより複雑な部分まで出来るようになり、人間が気づけない領域まで戦略を立てることが可能になる。
例えば、ゲーム理論上の分析では、相手がこういう戦略をとってきたら、自社はこちらの戦略をとるということが、繰り返しゲームで計算し、シミュレーションすることが出来るようになると琴坂先生。そうすれば、あちらはこういうシミュレーションをしているだろうから、それに対する戦略を考えることになると、もはや経営者の差異や能力より、どちらの社のAIが優れているかになりそうな未来になりそうだ。

また、人的資本管理にも技術が導入しはじめる。私たちは気づかないうちに、マックス・ウェーバーの言う「鉄の檻」に入れられている。企業では"vision"や"mission"、"culture" 等々の言葉を使って、従業員の行動や考え方を統制している。それも科学によって、脳の構造を理解すれば、モチベーションを引き上げることができる。あの手この手を使って、従業員のモチベーションを引き上げる努力をする必要はなくなってくる。

最後に、琴坂先生によると、経営戦略の未来は、次の3つのトレンドに左右されると予測されている。

行動理解
技術活用
多様化

である。

「行動理解」とは、人間理解であり、先に述べたように脳の構造が理解できれば、モチベーションを引き上げたり、イノベーションを引き起こすことも可能である。また、どのように人が行動するかがテクノロジーで把握できれば、マーケティングも可能となる。さらに、「技術活用」ではロボットやディープラーニング、ヴァーチャルな世界を活用し、仮想空間で戦略シミュレーションを行う。また、多様化では、高度なシステムを作ることが出来るフリーランスの人々など、多様な人材を活用することが必要である。ここまでテクノロジーが経営戦略に導入されると、理系の経営者が有利ではないかとのこと。
ここまで、テクノロジーが経営戦略を練ることが可能となれば、経営者なんていらないのではないかと思えそうだが、私自身は昭和の時代のサンプル1の成功法則によって築きあげられた経営戦略(経験と勘、根性)に苦しめられてきた思い出があるので、テクノロジーが経営戦略を変化させていくのはとても楽しみである。

1903年の写真では馬車が何台も走っている中、自動車は1台だけであった。しかし、その10年後の1913年の写真には自動車の中に馬車が1台走っている。10年で世界の風景は大きく変化していた。現在、2018年から10年後の2028年の風景はどのようになっているだろうか。会社はいかに経営され、意思決定を下していくのだろうか。

(ほり屋飯盛)