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中小企業社長という生き方 近藤宣之さん

photo_instructor_903.jpg「いやぁ、皆さん熱心で偉いな。仕事終わりでお疲れでしょ?お腹も空いてるでしょ」
その人は登壇するや開口一番、破顔一笑しながら言った。そして、予定を超える1時間45分もの間、終始ニコニコと笑いながら猛烈な早口で膨大な内容のプレゼンを語り通した。会場からはたびたび笑い声が上がり、最後の質疑応答に挙手した質問者たちも笑顔。そして終了時間となり、軽く頭を下げながら降壇する際、その人は満面の笑みを再び会場に振り向け、力強く呼びかけた。「がんばりましょうね!」

■経営破綻から表彰ラッシュの会社へ

これまで私は『夕学五十講』では、著名な経営者や経営関係の研究者の講演ばかりを聴いて来た。だからなのか、こんなに会場に笑いが起きた講演は初めてだった。

講師の名は近藤宣之氏、株式会社日本レーザー代表取締役社長。あまり耳馴染みのない社名だが、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」・中小企業庁長官賞(2011)、「新宿区優良企業経営大賞」新宿区長賞(2012)、東京商工会議所「勇気ある経営大賞」大賞(2012)、経済産業省「おもてなし経営企業選」・「ダイバーシティ経営企業100選」入選(2013)、厚生労働省「キャリア支援企業表彰」(2015)、「ホワイト企業大賞」大賞(2017)など次々と表彰を受けている、23年間連続黒字・無借金経営という超優良企業だ。
とはいえ業容は、売上40億・社員60名。まぎれもない中小企業である。

1968年に設立された同社は、世界最先端のレーザー・光学関連製品の輸入販売のほか自社製品開発も行う、日本で最も歴史のあるレーザー専門商社。もともとは一部上場企業の子会社で、1993年度に債務超過になったのを機に、翌年、経営破綻処理のため親会社の役員だった近藤氏が社長に就任する。

ここからのストーリーが尋常ではない。普通ならば、親会社から破綻処理のために派遣された"雇われ社長"は、淡々と機械的にリストラを遂行するのが常だ。しかし近藤社長は違った。就任を引き受けるにあたってポケットマネーで300万円を出して株式を買い取るのだ。それを「社長としての本気度が示せるでしょ?」と近藤社長は事も無げに言う。

■結果としてのダイバーシティ

そこからが修羅場だった。
かつて親会社時代には、労組委員長として1000人のクビ切りや米国現地法人での熾烈な人員削減を直接担当し、「リストラはダメだ」と痛感したという。そこで日本レーザーの経営再建に際しては、「肩たたきはしないで頑張ろう」と決意。「新しい体制に合わない人は辞めてもいいよ」と言ってみたところ、果たして最初の数年間で50人が辞め、代わりに50人を採用した。もともとが30人程度の会社だったから総入れ替えとなった。同時に積年の不良在庫・不良設備・不良債権などを解消して行ったため、まさに大混乱の数年間だったという。
その甲斐あって企業再建を果たし、2007年には日本で初めて MEBO(Management & Employees Buy-out) を行い親会社から独立。パートを含めた全従業員が株主になっている日本で唯一の会社となった。

大混乱だった時期、採用はハローワークに頼るしかなかった。以来、同社は今でも新卒一括採用はしないで通年採用をしている。官民あげてダイバーシティが声高に言われているが、「うちの場合、ダイバーシティは目指したんじゃなくて結果なんです」という。独立後10年を経た現在は、60歳以上の社員が25%、女性管理職が3分の1、身体障がい者や外国人の課長も活躍。誰でも希望すれば70歳まで雇用継続するし、癌闘病中の社員は在宅勤務扱いで給与・賞与ともに満額払うなど、政府のいう「1億総活躍時代に向けた2030(ニイマルサンマル)目標」などは既に楽々クリアしてしまっている格好だ。

■会社にとって重要なことは何か

失われた20年の間に、かつて日本的経営と賞賛された手法はすっかり旗色を悪くした。"終身雇用は古い!"と批判され、社員旅行はおろか社内懇親会なども"強制ですか!?それはブラックだ"と槍玉にあがる風潮だ。

ところが同社では終身雇用どころか将来的には80歳まで雇用する『生涯雇用』をめざすと言い、社員旅行や忘年会には社員が家族連れでこぞって参加する。会社が大切なコミュニティとなっているからだ。ある支店では、病気で亡くなった女性課長の8歳の遺児の日々の面倒を、社員たちが自主的に見続けているという。こうした社風からか、独立後の10年間で不満による離職者は1人もいない。

また、近藤社長の強い意志により「個々の社員の人生を活かす」ことを徹底してきたおかげで、誰もが言いたいことが言える明るい風土ができ、生涯雇用への安心感から「献身と貢献」の空気が生まれたという。もとより全社員が株主であることなどからそれぞれに圧倒的な当事者意識があり、その上で社員自身が「会社から大切にされている実感」を持っているため、何度かあった危機にも「社員の火事場の爆発力によって救われた」。

世間では"株主利益の最大化が最重要""顧客満足こそが至上命題"といった言説が聞かれる。しかし近藤社長は「いやいや、社員満足が最重要。社員とその家族が幸福であることがいちばん大切なんです」と言う。
なるほど...と深く納得させられたのが「徹底した顧客満足などを目指すからブラック企業になるし、クレーム隠しやリコール隠しが生まれるんです」という指摘だ。

私も小さな企業を経営しているが、小企業の常として、大企業クライアントからの苛烈なオーダーには悩まされている。鳴り物入りで施行された下請法なんて全くのザル法で、世間にならって顧客満足度を追及すればするほど社員を犠牲にせざるを得ない。そんな呪縛からも、近藤社長は易々と逃れている。

もちろん、「個々の社員の人生を活かす」というのは精神論だけではない。緻密に組み立てられた能力評価の指標や粗利に対応するインセンティブの制度、クレドによる「働き方の契約」など、納得性の高いユニークな仕組みがいくつもある。そのすべてをここで紹介する余裕はないので、興味のある方は『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』(ダイヤモンド社・2017年刊)を読まれることをお勧めする。

■『今ここを大事にせよと桜咲く』

少しホッとしたのは、近藤社長も最初から聖人君子だった訳ではないという開陳がなされたくだりだ。大企業で肩で風を切っていた時代には、自分中心の世界観で俺が俺がと傲慢になり、トラブルが起きるとまず人のせい周りのせいにする他責思考だった。それが、経営を通じて成長した今では、すべて周りの人のおかげだと謙虚な気持ちになり、周りの人を思いやる「利他」の精神が身につき、トラブルに対しては自分がどう改善すればいいかを考える自責思考となったという。

「嫌なことでもニコニコして聞く。トラブルを社員のせいにしない。すべては社長の責任だから逃げない! 日々の経営は社長にとって修行の場なんです」と語る近藤社長は、ある仮説を持っているという。
「それは、自分が変われば周りも変わる、という仮説です。誰しも他人に言われて変わることはない。会社という世界は社長である自分が招いた必然である以上、社内の不均衡や混沌をしっかり受け止めるのが社長の仕事。自分自身が変わることで会社も変わって行くんです」

近藤社長ですら最初はダメな人間だったと聞かされてホッとしたのも束の間、この仮説には打ちひしがれた。
あぁ、あの社員がこんな風だから。あぁ、この社員がもっとこうだったら。ややもするとそんな思いに苛立つ毎日。でもそれは社長である私が招いた必然だったのか。社員に変わって欲しいと思う前に、まず私自身が変わらなくては何も変わって行かないというのか...。
呆然とする私の耳に、近藤社長の朗らかな声が届く。「社長ってね、孤独ですよ。でも大丈夫!とある人の詠んだ俳句に『今ここを大事にせよと桜咲く』というのがあります。まさにこれです。今・ここ・自分を大切に。人生において2点間の最短距離は直線ではないから」

どんなに孤独でも、今ここを大事に、利他と自責の思いで自分から変わって行けば、きっと会社は変わり、夢は形になる。遠回りのようでいて、それが最も近道になる、というのだ。
降壇しながらもなお「がんばりましょうね!」と後進たちを励ます近藤社長の声に背中を押されて外に出ると、凍てつく空の下、イルミネーションに輝く並木が潤んで見えた。

(三代 貴子)

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