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嗚呼、すばらしきかな、踊り場のある人生 中原 淳先生、為末 大さん

photo_instructor_888.jpgphoto_instructor_889.jpg「2007年に生まれた子どもの50%が107歳まで生きる」。

2016年に発売された『LIFE SHIFT』で、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンはこう予想している。団塊の世代と言われる1947年生まれの平均寿命は、女性53.96歳、男性50.06歳であったのが、約半世紀で平均寿命は延びた。これまで、人々は「教育→仕事→引退」という単線型のライフパスで生きることができた。しかし、これからはそうはいかない。100年生きることを想定して、人は何度か人生の「リセットボタン」を押すことになるだろう。だから、為末大さんから学ぶ。アスリートはその人生に対する現役時代は短い。第二、第三の人生があることが、当たり前なのだ。だから、リセットボタンのある人生をアスリートから学ぶ。そして、人材開発の視点から、中原淳先生が為末さんのキャリアの転機、つまり「踊り場のある人生」を紐解く。

「僕は、高校のときから、100メートルからハードルに転向しているんです。僕の競技人生そのものが、踊り場と方向転換の連続でした」(為末)

アスリートは競技人生をはじめたときから、いつか「別のキャリア」を選択しなければならない。引退は必ずやってくる。それも人生の早い時期に。彼らの「転機」に満ちた競技人生がビジネスパーソンにも参考になると思ったのが、中原先生にとって『仕事人生のリセットボタン: 転機のレッスン』(為末・中原)を書くきっかけとなった。

冒頭で述べたように、長寿化はますます進行し、長期間労働時代をいかに完走するかを考えなくてはならない。これまでも65歳で会社を定年退職し、第二の人生を趣味に没頭したりして、楽しんで生きるという人は多くいた。しかし、長期間労働時代は、複線型のキャリアパスを考えなくてはならない。一つの仕事を引退する前に、次のキャリアを。それも人生の早い段階から考え、備えなければならない。

「スタジアムに入ったときの歓声が自分以外に向けられる声のほうが大きくなったことです。そして、自分が自信をもっていた第一ハードルのタイムを、後続する選手に抜かれたとき、引き際を感じました」(為末)

これが、為末さんがそのアスリート人生にピリオドを打つきっかけだった。多くのアスリートが引退に踏み切れない。過去の栄光を引きずり、しがみつく。おそらく私たちは、それはアスリート特有のもので、若い時期に引退をしなくてはならないからではと考えている。しかし、これからの時代は不確実性が増し、ビジネスパーソンでさえも、一つのキャリアで定年まで働き続けられるか怪しい。

人工知能(AI)導入の気運が高まる中、自分の職業、さらには会社が10年後、20年後と存続している可能性は低い。2020年には小学校教育でプログラミングが必修科目になる予定であり、それだけでなく教育内容全体も今後ますます変化していくだろう。そのような教育を受けて育った若者たちと仕事をするには、仕事人生を休んで教育を受けなければならないかもしれない。これからの時代は、大学を出て、就職しても安泰ではなく、どこかで第二、第三のキャリアを考えざるをえない。中原先生も45歳で人生一区切りと考えている。

「アスリートの苦しみの多くが、実は"なりふり構わない自分に戻れない"というところから生まれると思うのです。あの時輝いていた自分が忘れられない。本当はどん底からやり直せば、抜け出せるはずのものが、抜けられなくて格闘するという例が結構多いです」(為末)


一度、人から注目を浴びた人間は、簡単にはそれを手放せない。街を歩いていても、振り向く人が少なくなり、自分よりほかの選手のほうが「写真撮ってください」とお願いされる数が多いことに嫉妬してしまう。また、過去のトップイメージをキープするコストがものすごくかかる。電車に乗ったら、「儲かってないのかな」と思われるのではないかと不安になる。そんな為末さんに、「ちいさっ」と中原先生が一言。しかし、人目を意識しすぎるのが、アスリートが陥りがちなセカンド・キャリアの失敗である。次のサイズに自分の身の丈を合わせられないのだ。

「なりふり構わない自分」に戻るために、為末さんは「自分にはできないこと」を実行し始めた。起業した後は、苦手だったファシリテーターにも挑戦した。人前で負けること、つまりは人前で出来ない自分を晒すことで、なりふり構わない自分に戻れる。そうやって地に足をつけていく。地に足がつくともう一度頑張れる。失敗することと、そこから燃え上がることはトレードオフの関係なのだ。どんな人でも自分をリセットするには苦痛が伴うだろう。キャリアを変えるとなると、金銭的にもかなりダメージがある。しかし、長い目でみれば苦しい時があったっていいではないか。失敗はしたほうがいい。為末さんによれば、アスリートにとって最高の時は、計10日間ぐらいしかないそうだ。人生そんなもんだ。

「本当はしっかりと踊り場で『完走の戦略』と、そのための『学び直し』をしなければならないのに...」(中原)

最後に。日本人は長時間労働と長時間通勤によって「振り返り」と「学び直し」の時間が世界と比較しても、著しく少ない。また、欧米をはじめとする先進国と比べてもリカレント教育が浸透しておらず、25歳以上の大学(学部)入学者数も極めて少ない。長期雇用や年功序列がまかり通っていた昔は、会社が人的資本に投資し、教育を受けられる機会が多かったが、多くの人が転職を繰り返す現代では、そのような機会は減るだろう。一度、会社を辞めて、新たな学びを求める時、その一歩を踏み出せるだろうか。おそらく、その時、アスリートの人生を思い浮かべるのではないだろうか。そこは肯定的に行く。踊り場のある人生を楽しむように。

(ほり屋飯盛)

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