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ロンドン、リオ、そして東京へ 水鳥寿思監督

photo_instructor_880.jpg予選結果4位。

「自分たちには世界トップの実力がある」という甘い考えがあった。田中、山室が続けて平行棒で落下。ミスがミスを誘い、内村は鉄棒で背中から落ち、唯一、調子が良かった白井も床でラインオーバーの減点であった。

内村航平はリオオリンピック事前のインタビューでこう応えている。
「予選1位にならなければ、(金メダルのチャンスは)半分以上は消えちゃうと思う」

しかし、翌々日の決勝では日本中が歓喜の声をあげることになる。予選4位からの大逆転。日本体操男子団体は金メダルを獲得した。なぜ、予選から決勝までの短い時間で、選手たちは切り替えることができたのか?水鳥寿思監督はリオオリンピックを振り返る。

  • 他のどの国よりも金メダルを獲りたいという強い気持ちを持つことができた
  • ミスした箇所は、徹底的に確認し、全ての選手が成功するまで練習した

決勝までの中一日、選手たちと徹底的に取り組んだ。と、ここまで聞いて、ちょっと拍子抜けしてしまう。一流アスリートなら、それぐらい当然じゃん、みたいな。失敗したら、間違えたところ確認して、次は上手くやれるように気持ちも切り替えてって、超凡人の私もやってるよ!と思った。

しかし、なぜだろう。自分ではやっているとは思うのだが、できているという実感はない。気持ちを切り替えようとしても、頭の片隅に残っていたり、まぁ、本番でどうにかなるか、みたいな適当な部分があったりで、当たり前のようなことでも、いざやろうとすると難しいのだ。

さて、予選4位から決勝で金メダルを獲得するまでが、勝因のすべてではない。それは、4年前のロンドンオリンピックまで遡る。

男子体操団体、日本の順位は電光掲示板に4位と表示された。しかし、日本は内村の演技にC難度があったと、得点について抗議した結果2位となった。「余談ですが」と前置きし、「再審をしてもらうにはお金が必要なんです」と水鳥監督は続けた。1回目の再審請求では$300、2回目は$500、3回目は$800払わなければ再審してもらえない。しかも請求は4分以内。誤審であったら、お金は戻ってくる。で、結果は銀メダル。で、めでたしめでたしではない。ロンドンオリンピック直後には、関係者や有識者50名から意見を集約し、大反省が行われた。そして、史上最年少の32歳で強化本部長に水鳥監督は抜擢された。

現役引退直後に日本体操男子の強化本部長に就任したが、むしろそこに強みがあった。

  • 選手時代の感覚が鮮明で、選手のニーズや技術を理解できる
  • どこにも所属しておらず、公平な立場で代表選手を選ぶことができる

経験が浅いからこそ、見えてくるものがあった。
従来のオリンピック代表選手の選出方法にも疑問を感じていた。まず、個人総合で12位にならなければオリンピック選手になれない。しかし、6種類ある全ての種目で秀でている必要はない。1、2種目でいいのだ。

4年後のリオに向けての強化テーマは3つある。
「スペシャリスト強化」「選手主体」「ジュニア育成」。

「スペシャリスト強化」は1、2種目に秀でた選手を育成した。そして、2014年には116.3ポイントであったDスコアを2016年には118.7ポイントへと、2年間で2.4ポイント高めた。自身が出場したアテネでは、キャプテンによるチーム作りの大切さを実感した。
また、「選手主体」で動いてもらうようにした。技がどんどん進化していて、コーチが教えられないのが現状であり、選手同士で教え合うのが体操界のやり方だ。
最後が「ジュニア育成」である。水鳥監督以前の強化本部長は、ジュニアよりもナショナル強化を軸としていたが、指導をすれば伸びやすいジュニア育成に力を入れ始めた。

さらには、自分で考えられる選手を育てるのが大きな目標である。体操選手にとって最も大事なことは、情報を取り入れ、自分の中の常識を壊すことだという。4回転ひねりはそれまで誰もできなかったのが、白井選手が成功し、その後、高校生が挑戦したら若干のミスはあるものの、できてしまった。できると思ったらできてしまう。これが体操の面白さだ。

以上3つの強化に加え、強化合宿に審判員を配置し、審判の目線でフィードバックをもらった。ロンドンオリンピックで食事が合わず痩せてしまった内村選手を見て、栄養サポートの面も強化した。味の素のスタッフに同行してもらい、常に日本食が食べられるような状態にした。これで、栄養面だけでなく、精神的にもリラックスすることができた。このような体調管理対策が功を奏し、リオでは怪我や体調不良が少なかった。実力があっても勝てないのがオリンピックである。万全を期して挑まなければ、何か一つでも欠けていたら、金メダルは無かったかもしれない。

水鳥監督は、すでに高いレベルにいる選手に対し、監督のかかわり方はコーチングよりマネジメントの要素のほうが強いと感じている。

以下、監督として感じたことである。

  • 選手に自分の考えを押し付けるのではなく、彼らの考えを引き出しながら整理していくことが大事
  • 時には自分と違う考えも取り入れながら、チーム全体を方向づけしていくことが重要

自身が出場したアテネ大会と、監督として参加したリオでは、ルールも異なれば選手も異なり、ゆえに目標達成に必要なプロセスマネジメントも同じではなかった。当然次の東京も、過去や慣習に固執せず、時には自分と異なる考えも受け入れながらチームを創り上げていかなければならない。
現在は東京オリンピックに向けて、団体優勝のみならず、その先の結果も見据えた目標を考えている途中である。

(ほり屋飯盛)

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