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世界はどう変わるか 佐藤優さん

photo_instructor_870.jpg「さてね。今、半年後の世界を予測できるっていう人がいたら、それは嘘つきです。とにかく、変数が大きすぎますから」

本邦きってのインテリジェンスの使い手、佐藤優氏をもってしても大変に読み解きづらくなっているというこの世界。いわんや、我々をおいてをや。しかし、諦めることなかれ。今日はあなた方にだけ、この皮袋の中から特別に、情報という名の葡萄酒を数滴ふりかけてあげよう......と言った(かのように見えた)その直後から90分。立て板に落ちる水のような流麗さで、目をむくような逸話がリリースされつづけた。そのあまりのスピードに、喘ぎ喘ぎしながら「変数」のピースを拾い上げる。

掛けあわせる定数は、むろん旬の男、ドナルド・トランプだ。

■変数a=FBI
折しも講演があったのは、コミー前FBI長官の公聴会証言がメディアで流れた日の翌日。見映えが良く、鎮痛な面持ちで証言するさまが悲劇のヒーローにも見えたコミーだが、一体全体、本当のワルはどっちなのか?テレビを観てもネットを漁ってもさっぱりわからんぞ。その困惑を当夕学会場まで持ち込んできたとおぼしきわれわれ聴衆は、心なしか前のめり気味で壇上を見つめたものである。謹んで「お言葉」を待つ我々に氏が下した洞察は、「(FBIの)面従腹背」と直裁だった。

「そもそもトランプを大統領に仕立て上げた張本人がコミーだった。なぜならば、クリントンが大統領になると、彼女が私用メールで機密文書をやりとりした件を捜査できなくなってしまうから。つまり、FBIは組織防衛のためにトランプを当選させたんだが、こともあろうにその恩人に対して、突然の解任宣言。トランプは、最も怒らせてはいけない人を怒らせてしまったんだ」

「日本にも過去にそういう人がいたね。外務省を潰しにかかった人。はい、トランプはつまり田中真紀子さんだ、そう考えればわかりやすいよね? 当然、コミーは猛撃に出る。『このオッサン(←トランプ)には普通に言ったってダメだから、マスコミに流して締め上げてやれ』とね。かくして、トランプ・CIA・FBI怪獣大戦争の火蓋が切って落とされた。ふたりの会話を録音した音源が見つかれば、さらに面倒くさいことになるぜ......」

■変数b=無知の爆弾
「ホワイトハウスで行われたロシア・ラブロフ外相との会談で、トランプはISが支配する地域についての機密情報を自慢げに披露した。ネタ元はモサド(イスラエルの情報機関)だろうが、トランプはモサドにあらかじめ仁義を切っていなかったので、サード・パーティ・ルールと呼ばれる第三者に関する規則――外国のインテリジェンス機関からとった情報は勝手に伝えてはならない――を破ったことになる。トランプは、きちんとした準備をしないまま大統領になってしまったから、インテリジェンスの"掟"を知らなかったんだね。だけどインテリジェンスの世界で ひとたび掟を破れば、二度とふたたび相手にされなくなるんだ」

■変数c=痛風の金正恩
「トランプが電撃的に北朝鮮を攻撃するシナリオはあるか? 答えはノーだ。韓国にいる20万人の米国人に危害が及ぶことを、アメリカは極度に嫌がるからね。あまり知られていないが、金正恩は、実際はとても冷静な人なんです。ただ痛風と痔瘻という彼の持病が、ミサイル発射という決定的瞬間に与える影響は、はかり知れないけれど」

■変数d=北の核ミサイル
「いざとなったら、トランプと金正恩とで話をつけさせて、アメリカから日本に核を持ち込んでもらうというシナリオも考えられるかもしれないね。日本は非核三原則を解除して"二原則"とし、パキスタンのようになるというわけ」

けんのんな話がふんだんに織り交ぜられたネタの砲撃におののくばかりだったが、何せ、かの佐藤氏が語ることである。妄想や陰謀と看過できない。ほかにも、

「今、日本語の平壌放送の最後に、スリーパー(工作員)に向けた数字の読み上げが始まっている。覚醒したスリーパーたちが日本でテロを起こす日が遠からず来るかもしれないね。しかもその後に声明を発表するのがIS、というオチで」

「ISの自爆テロ候補を選ぶのに、精神科医がからんでいるといわれている。精神科医に自殺志願者リストをもらって、そこから適宜選んで殉職者に仕立てあげる」

といったしみじみ怖い話から、

「ホテルオークラはCIAのたまり場で、オータニは日本のインテリジェンスのデパート。丸善、ジュンク堂、八重洲ブックセンターの洋書売り場にもリエゾンと呼ばれるスパイがうようよ居ます。本の並びを変えて、シグナルを送るんです」

という映画のワンシーンのような胸躍る逸話まで、世界の楽屋裏が次々と開陳されたのであった。

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超人的な頭脳をもって古今東西の書物を読みこなし、尋常でない量の著作を物し、イスラエルの元インテリジェンス・オフィサー(友だちです)と情報交換をし、日本の第一線の知識人とはだいたい懇意で、おまけにキリスト者の信仰まで持っている、恐るべき知の巨岩。

しかし氏の語り口はいたって親しみやすく、いやむしろちょっとハスに構えた兄貴風ですらあった。なんと意外な。聴衆との距離を近づけようと意識されたのか。情報の分け前を惜しみなく授け、凡夫でも明日から使えるインテリジェンス戦術を教え、覚醒をうながす。

どうか諸君らも、でき得る限りの知識と智慧を身につけて、この乱世を渡ってゆけ。怯むな、生き延びよ。地獄から生還した正真正銘の「サヴァイヴァ―」から投げられたサインは、極めてまっすぐだった。

(茅野塩子)