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行動デザインの魅力と魔力を知った夜 國田圭作さん

photo_instructor_862.jpg國田圭作さんの講演の話をする前に、いきなりの自分語りで恐縮だが、私はクライアントのwebサイトを制作することを生業としている。
この仕事をはじめて20年ほど経つが、最初の頃はただただ「作る」ことに夢中だったように思う。しかし、いつの頃からか「自分が提供すべきサービスは、作る行為そのものではない」と考えるようになった。今では、「クライアントのビジネスに貢献できないwebサイトなら(極端な言い方をすれば)作る意味がない」とすら思っている。

もちろん、大抵は「webサイトでできること」なんてたかが知れているのだが、それでも可能なかぎりクライアントの実質的な利益になる仕事をしたいのだ。
ただ、クライアントに「集客できるサイト」「モノが売れるサイト」を提供するには、"マーケティング"という、サイト制作職人にとっては未知の領域に踏みこんでいかざるを得ない。それが、今回の講演を聴講する動機だった。

"マーケティング成分"をうっすらと絡ませた書籍なら読んだことがあるが、マーケティングを本格的に勉強した経験はない。それに、実を言うとマーケティング用語というやつがどうも苦手だ。カタカナだらけで気取っている。「講師がマーケティング用語みたいに気取った人だったら嫌だなあ」などとくだらないことを心配していたのだが、講師の國田さんはオシャレでスマートだが気取ったところの全くない、そして私のようなマーケティング入門者にも理解できるよう心配りしてくださるホスピタリティ精神にあふれた方だった。

「間に合ってます社会」のスキマを探る

講演冒頭の「現代は変化の激しい時代。だからこそ、本質に学ぶ姿勢が大切」というお話には、「たしかに!」と心のなかで膝を打った。webサイト制作の世界もツールや手法はどんどん変わっていく。でも、だからといって、それらを習得することに振り回されてしまっては本末転倒だ。

國田さんは「マーケティングの本質とは、"競争に勝つための智恵"」と語った。モノづくりの能力に長けた日本人は「良いモノを作ればおのずと売れる」と考えがちだが、どんなに優れたモノでも、売り方が悪ければそれなりにしか売れない。

講演ではいくつかの「智恵」が紹介されたのだが、印象的だったのは「間に合ってます社会」という言葉。
私たちは、ふだんの生活のなかで「未充足」を感じることは少ない。いま存在するもの、見えているものの向こう側に考えが及ぶことなんてまず無いから、常に「間に合って」いるのだ。しかし、ひとたび「未充足」に気づいてしまったら、充たさずにいることは難しくなる。

「未充足」の例として、電車移動中の時間について考えてみよう。
もしあなたがスマートフォンを持たずに電車に乗ってしまったら、どんな気分になるだろうか。きっと、ほとんどの人はソワソワと落ち着かないだろう。しかしながら、スマートフォンが普及する前には、文庫本が一冊あれば充実した移動時間を過ごすことができたはずだ。
スマートフォンは、私たちの「移動中には限られた行為しかできない」という「未充足」にスルッと入り込んできて、あっという間に欠かせない存在になってしまった。

発想の転換で勝機をつかむ

多くの人が気づいていない「未充足」に目を向け、いち早くそこに切り込んでいけば商品が飛ぶように売れるのかというと、残念ながらそれだけではうまくいかないらしい。
そこで必要になってくるのが、本講演のテーマである「モノではなく行動で市場を捉え直す」という智恵。ああ、商売で成功するにはどれだけ多くの智恵を振り絞らねばならないのか。

たとえば、「イヤホンを売るのは音楽市場」と考えるのは"モノ発想"だ。
実際にイヤホンを使う場面を想像してみよう。すると、イヤホンは通勤や通学時以外だけでなく、ジョギングなど運動のお供として利用されていることに気づく。「イヤホン」という"モノ"ではなく、「イヤホンを使う」という"行動"を基準にしてみると、運動市場という新たな市場が浮かび上がってくる。

"モノ発想"からの脱却がもたらすのは、「新しい市場に目を向ける」という結果だけではない。 人々の行動をデザインして、行動の変化を消費に結びつける可能性だ。「童話『北風と太陽』のように、消費者に何かを命じるのではなく、自然とそうしたくなるよう仕向けるのがマーケティングの極意」と國田さんは語る。

マーケティングっておもしろい

今回の聴講を通して、私の中のマーケティングに対するイメージは一変した。聴講前は、どこかうさんくさい実体の見えづらいものだと思っていたが、実は過去から連綿と続く商人たちの智恵の結集だということが分かった。誰も気づいていない「未充足」に目を向け、上手に行動を促して期待する結果に結びつけられたときの喜びを想像すると、それだけでワクワクする。

よし、これはもう"行動デザイン"を学ぶしかない! 聴講前は「仕事のために仕方なく」くらいのテンションだったのに、ずいぶんな違いだ。講演翌日には國田さんの書籍を購入したし、今はマーケティングを学ぶためのセミナーを具体的に探し始めている。

...あれ? もしかしたら、これって國田さんの思惑どおり?
完全に動かされてますね、私。まいりました。

(千貫りこ)

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