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よい理論ほど実践的である  金井壽宏先生

There is nothing as practical as a good theory
よい理論ほど実践的である

社会心理学者クルト・レヴィンのこの言葉を初めて聴いたのは20年近く前のことだ。
経営行動科学学会の設立最初の学会で、設立呼び掛け人の一人として壇上に立った金井壽宏先生の口から発せられた言葉であった。

金井先生photo_instructor_849.jpgは、当時四十代前半、少壮気鋭の経営学者であった。学会会場の南山大学キャンパスを、何人かの学生を引き連れて、颯爽と歩いている姿を眩しく眺めていたことを憶えている。

四年ぶり六回目の夕学登壇になった今夜も、金井先生は、クルト・レヴィンの言葉から始めた。


There is nothing as practical as a good theory
よい理論ほど実践的である

この言葉は、「持論アプローチ」という金井先生の研究&教育&実践アプローチ姿勢と通底する。
例えばリーダーシップ論でいえば、すぐれたリーダーシップの実績がある達人には、自らの経験から導き出した薫陶を整理し、言語化して「持論」として他者に語ることが出来る人がいる。それは実務家が、リーダーシップを実践し、部下や社員を育てるうえで、極めて有効な実践的なアプローチ方法である。
一方で、実務家の「持論」が、研究者が実証研究の積みあげの結果として構築してきた「理論」に負けないほど豊かであれば、研究者にとっての研究対象にもなりうる。
リーダーシップに限らず、モチベーションでも、キャリアでも金井先生は、いつも「持論アプローチ」の重要性を指摘してきた。いわば、領域を貫く一貫したアプローチテーマと言えるだろう。
研究者、教育者、実践家の3つの顔をひとつに統合する紐帯のようなものかもしれない。

「持論アプローチ」には、いくつかの留意点がある。
・ひとりよがりの我見にならぬように、できれば理論の裏付けを得たものが望ましい。
・一度作ってそれで終わりにするのではなく、何度でも書き換えて、練り上げる方がよい。
・持論を語ることで人を育て、育った人間が新たな持論を生み出す、「持論カスケード」形成されるようになると組織にとっても意味がある。 
等々。


さて、「持論アプローチ」を腹落ちさせるために有効なのが、たっぷりの自分語りであることに気づいたのは今夜の大きな収穫であった。
これまで何回となく、金井先生の「持論アプローチ」を聴いてきたが、前段でたっぷりと人生の自分語りを聴いたのは初めてのことだ。しかも金井先生自身の「持論」がどうやって練り込まれたのかを開示してくれるような、「持論習作メモ」のおまけつきである。

金井壽宏少年は、神戸の商店街に生まれそだった。実家は婦人服地やプレタポルテを扱う商家であった。幼い頃は、店舗の二階に住まいがあり、商人として働く両親を見て育った。経営学者は天命だったのかもしれない。
秀才だった金井少年は、灘中・高の自由な校風と知性ストレッチングの中で青春を送った。勉強もしたが、バンドに夢中になり、ステディな彼女もいた。
東大入試には失敗したが、失敗したからこそやりたい分野を見定めることができた。臨床心理学に興味を持ち、河合隼雄氏のいる京大教育学部に進んだ。
入試会場で河合氏を見つけ「河合先生ですよね。ユングは何から読んだらいいですか」と話しかけたというから、好奇心旺盛の行動派であったようだ。
大学院では、心理学と経営学の結節領域である組織行動論へチェンジし、神戸大大学院に転じた。修士論文は「働く人のモチベーション」だった。
修士が終わり、マッキンゼーに入社寸前までいったが、恩師や先輩の助言・誘いがあって経営学者を目指すことになった。

金井先生の前半生をお聴きすると、生涯発達心理学のハイスペックモデルケースのようだ。よき家庭、よき友人、よき恩師に恵まれ、人生の節目で彼らの助言や導きを受け、大きく成長してきたことがわかる。もちろんご本人には、その助言を素直に聞いて、進路を考え直す柔軟性があった。

「紺屋の白袴にならないように・・・」と再三口にされたように、金井先生は、ご自身もリーダーシップの持論を持っている。
講演で紹介いただいた12の持論ワードは、当たり前の言葉が並んでいるように見えるが、ひとつひとつの言葉には、理論に裏付けられた豊かな経験的知見が隠されている。
ゼミの主宰者、学会の会長、大学院の研究科長等々、自らのリーダー経験を踏まえて、行動指針を言語化してきたものだ。
参考資料として配付していただいた「持論習作メモ」には、事ある毎に自らに問いかけ、思考し、紡ぎ出し、修正してきた持論の軌跡がそのまま載っている。
この持論の薫陶を受けて、金井ゼミからは多くの経営学者が育った。20年前、南山大のキャンパスで先生に付き従うように歩いていた学生達が、いまでは日本の組織行動論研究を引っ張っているに違いない。持論は間違いなく人を育てるのだ。

金井先生の講演に心地よく浸りながらも、持論のような思いはあっても、持論化せずに、ここまで生きてきてしまった自分を恥じる一夜であった。
(慶應MCC城取一成)

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