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わたしは「気」の存在を信じます。  唐池恒二さん

今夜の夕学はこの歌&映像から始まった。

https://www.youtube.com/watch?v=FB8dJjBUlyo

2013年にJR九州が運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」のテーマ曲である。
七つの県をまたがって走る七両編成の列車。当初は七人のサービス添乗員を乗せようと企てたことから命名された名称である。「ななつ星」は北斗七星の和名だという。

この列車の産みの親が、きょうの講演者 JR九州会長の唐池恒二氏である。
photo_instructor_764.jpgアルミニウム合金の車体はピカピカに磨き上げられ、青空がくっきりと映り込むほど輝いている。
内装には福岡の伝統工芸大川組子の建具が使われ、洗面鉢として十四代酒井田柿右衛門の遺作が据えられている。
ラウンジカーでは常に生演奏が奏でられ、乗客が最初に楽しむ食事の際は博多の寿司割烹「やま中」の大将がその場で鮨を握る。
いずれも唐池氏が企画に参画し、場合によっては自ら口説き落として実現したドリームである。

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「ななつ星in九州」は発表と同時に世界の富裕層から申し込みが殺到しているが、公正抽選にこだわって、一切のコネ・ツテを排しているという。
世界の王貞治直々の依頼さえ、断腸の思いで断った。

そんな唐池氏が、経営の要諦としてこだわるのが「気」である。

「わたしは、気の存在を信じています」

一歩間違うと宗教っぽく聞こえる唐池氏の宣言も、関西人特有のユーモアに満ちた人間性と、豪快さとおとぼけを絶妙の配合でミックスした雰囲気に載せると、すっと受け入れられてしまう。

繁盛するお店を見れば誰もがわかるように、客商売の成否は「気」で決まる。
動きはきびきびとして迅速、元気な声が溢れかえり、それでいてスキのない緊張感が漂っている。人々は向上心と意欲に満ちている。
元気の「気」、気迫の「気」、勇気の「気」etc。
唐池氏がこだわる「気」は、抽象的でありながら分かり易い。組織論的にいえばKey Performance Indicatorと言えるだろう。

「ななつ星in九州」は、唐池氏の「気」がギューギューに込められ、車両と乗務員の「気」が乗客に伝播する。「気」のパワーが感動を感激を産み出すという。

唐池氏が、「気」が要諦であるという確信を得る過程では、外食事業部の立て直しに関わった経験が大きいようだ。
当時JR九州フードサービスは25億円の売上高で8億もの赤字を出していた。唐池氏は「気」にこだわることで、3年後に黒字転換させたという。
精神論を振りかざしたのではない。社員に提示する目標を、頑張れば手が届きそうな身近な目標に置き換えることに心を砕いた。
例えば、3億円の赤字を声高に叫んだところで従業員には遠い話である。各店が一日1万円利益を稼ぎ出そう!と呼びかければ、各自が自分の頭で策を考え出す。
店の前で呼び込みをやる。注文を受ける時にお勧めをする。食材のムダを減らす。シフトを工夫して残業代を削減する。一日1万円の利益は、そういう積み重ねで捻出できる。
唐池氏のいう「気」とは、そういうことなのだ。

唐池氏の、JR九州の「気」はいまも満ち溢れている。
その代表例として紹介してくれた「デザイン&ストーリー列車」は、その象徴であろう。
「ゆふいんの森」「あそぼうい」「海彦・山彦」「指宿のたまて箱」etc。
三戸岡鋭治氏デザインの斬新な車両に遊びごころ一杯の名称を付けられた列車には、その地域の歴史にゆかりのある物語が埋め込まれている。

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観光地へ向かうための移動手段ではない。乗ることそのものがエンタテイメントになる。
デザイン&ストーリー列車に込められた、そんな「夢」も「気」を満ち溢れさせるための重要な要件である。

気を失いかけた時に取り戻すにはどうしたらよいか。
この質問に答えた唐池氏の返答をもって、この拙文を〆たい。

「会いたくない人に、会いたくないときに、わざと会いにいく」

チャンスと同じで、「気」にも前髪しかないようだ。

(城取一成)