« 武田双雲という人 | メイン | 鴻上尚史氏に聴く、「壁」を押し広げる方法 »

「クチコミは売れる」  山本晶(ひかる)さん

ITが登場したことで大きく変容したものはいくつもあるが、マーケティングで言えば「消費者理解の方法論」がそれにあたるだろう。

消費者が製品・サービスに関わる情報を認知してから、購買、使用に至るまでのプロセスのうち、見えづらかったAttention、Interestといった初期段階のトレーサービリティが、ITによって飛躍的に高まった。ソーシャルメディアの登場はそれを加速させている。
今や、消費者はいたるところに「消えない足跡」を残してくれるようになった。
それを利用した新たな消費者理解の方法論が開発されてきた。

新たな消費者理解の知見は、さまざまな成果となって現れてきた。
夕学でもいくつかの事例がある。
・オンライン上のコミュニティをマネタイズすることに成功した武田隆氏(エイベック研究所)

・消費者を起点としたイノベーションを研究している小川進先生(神戸大学)

・ネットを通じてつながることで生まれる経済システムを説く國領二郎先生(慶應大学)

photo_instructor_746.jpg「クチコミマーケティング」もそのひとつであろう。
10年以上に渡って「クチコミマーケティング」を研究してきた慶應ビジネススクールの山本晶(ひかる)先生は、本当にクチコミは売れるのか、というど真ん中の疑問を解明すべき調査研究を行ったことがある。

結論からいえば、「クチコミは売れる」という結果が出た。

なんと自動車では23%の効果(100件のクチコミ発信のうち23件が購入につながった)、PC周辺機器では41%、コンビニ菓子では70%もが購入につながったという。
この結果には、聴衆の多くが驚いたのではないか。

では、なぜクチコミが効くのだろうか。
山本先生は、その理由を「共感フィルター」による信頼だと喝破する。
友人・知人の実体験を通した声には、他を圧する説得力がある。その通りだろうと思う。

となると、共感フィルターを形成する友人・知人とはどんな人なのかが気になる。
山本先生は、本人とクチコミ元との関係性に着目をした調査研究を行った。
結論は、自分と似ていて(同じ程度の知識があり)、ちょっとだけ詳しい人のクチコミが一番効く、というものであった。
素人にオタクのクチコミは意味をなさない。自分と同じような人の情報こそが役に立つ。すこぶる経験的納得感が高い結果だと思う。
同じことは、ブログなどのネット上でのクチコミ効果を調査した結果でも言えたという。

はたして、クチコミはどのようにして広がっていくのか。
山本先生によれば、クチコミは、ある程度情報が広まると生まれるようになり、その後「雪だるま」の如くに大きくなって、ある一定の広がりに達すると終息する。

それでは、「ある程度情報が広まった」「ある一定の広がりを見せる」とはどの程度か。
山本先生は、「メジャー感」という言葉を使って表現する。
「メジャー感」というのは、客観的な指標ではなく、人々が何となく共有する感覚的な認知のこと。正確には「知覚認知率」というらしい。

「メジャー感」が、20%以下(知っている人が極端に少ない)だとクチコミは広まらない。
逆に、メジャー感が80%以上(ほとんどの人がすでに知っている)だと、クチコミは起きない。
「メジャー感」が20%~80%の間が、クチコミ発生のゴールデンゾーン
である。

たとえば6人の友人グループが集まるとする。
誰かが「ねえ、ねえ●●知っている? この前使ったんだけど結構いいよ」とクチコミをふる。
そのうち一人が、「俺も知ってる!」と反応するくらいの情報の広がりだとクチコミは広がる。
逆に知らない人が一人しかいない(多くの人がすでに知っている)状態だとクチコミは起きない。これまた納得度の高い解説ではなかろうか。

そこまで聞くと、「メジャー感」はコントロールできるだろうか、という疑問が起きる。
山本先生は、アイデア次第でメジャー感を作り出せるという。
例えば、小さなセグメントでもいい、「●●ジャンルで第一位」という打ち出しはメジャー感作りに効果的な訴求方法だという。
そういえば、このキャッチはよく目にする。

さて、クチコミを意図的に発生させる場として、数年前から企業はソーシャルメディアに注目している。しかし、場をつくれば=FBやツイッター発信をすれば消費者が集ってくれるほど甘いものではないことも分かってきた。

企業が作る消費者参画型ソーシャルメディアには、消費者にとってのベネフィットとコストを冷静に計算する視点が必要だという。

消費者にとってのベネフィットは、機能的な価値よりも、情緒的でウェットな要素が鍵を握る。先述の武田氏が、オンライン上のコミュニティの成功のKFSを「心あたたまる関係」と称したこととよく似ている。

消費者にとってのコストは、参画する物理的・心理的な手間である。
あれも、これも入力しないと入れない参入障壁の高いコミュニティには、クチコミも生まれない。

では、どんなソーシャルメディアがいいのか。
聴衆の知りたい欲求を先回りするかのように、調査研究を積み重ねてきた山本先生も、さすがにそこまでは話してくれなかった。

「それは、自分で考えてください。考えるための材料は十二分に提供しましたから...」
そんな声なき返答が聞こえてきそうだ。

(慶應MCC 城取一成)