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輿論と世論の違いが分かりますか?

「世論」と書いて「よろん」と読むのは、いまの時代一般的な感覚であろう。
「世論」の意味を「世間一般の意見のことで、公共の問題について、多くの人々が共有している意見」とするwikipediaの解説に違和感をもつ人は少ないに違いない。

しかし、「世論」という言葉の使われ方には肯定と否定の両面がある。
「政治家は世論の意見に耳を傾けよ」という言い方をする。肯定的な使い方である。
「浮ついた世論に流されてはいけない」と言ったりもする。こちらは否定的な立場である。

辞書を引くと、「かつては(よろん)は輿論と書き、世論は(せろん)と読んだ」とある。

佐藤卓己先生によれば、本来両者の意味は明らかに異なった。その違いは日本語で説明するよりも英語で表現した方が分かりやすい。

輿論:Public opinion  
世論:popular sentiments

satou.bmp
実際に、明治の知識人や新聞は、両者を的確に使い分けていたという。
「輿論は天下の公論」として尊重すべきものとされ、「世論は外道の言論・悪論」として受け流すべきものとされていた。

「輿論」は正確な知識・情報をもとにして、議論と吟味を経て練り上げられるべきものに対して、「世論」はたぶんに情緒的な感覚、日本語でいえば「空気」のようなものである。
大きく異なる概念をひとつの言葉に統合してしまったことが、イメージの両面性に起因する。

佐藤先生が問題視するのは、両者の概念混同がなぜ起きたのかという理由もさることながら、むしろ混同によって起きた現象である。
情緒的な感覚意見でしかない「世論」が、議論と吟味を経て練り上げられた「輿論」であるかのように重視され、世の中を動かすようになってしまったという事実である。

例えば、新聞の世論調査で示される内閣支持率は、情緒的な感覚意見を数値化したものである。タレントの好感度調査とよく似ている。
にもかかわらず、内閣支持率が20%を割ると、マスコミは「いよいよ危険水域に入った」と大見出しを打つ。その数字を受けて政治家は倒閣に走り出す。
世論調査が社論を決め、政局を動かしている。
逆に言えば、内閣支持率が高ければ、マスコミの政権批判は迫力を欠き、内閣は何をやっても許される風潮が生まれる。安倍政権はまさにこの状態である。

さて、「輿論」と「世論」の混同はなぜ起きたのか。
それは「輿」という字が戦後当用漢字表から外れ「世」という字を使わざるをえなくなったというテクニカルな理由だけではないようだ。

大正から昭和にかけて起きた、普通選挙法に代表される民主主義の進展やラジオの普及に象徴されるマスメディアの登場は、大衆が公共の問題に関わることを促し、その必然として輿論の世論化をもたらした。
それは後戻りが出来ない時代の流れでもあった。
佐藤先生によれば、世界で起きてきた問題でもあるという。
19世紀の市民社会が培った少数の知識人が先導する輿論形成システムは、20世紀の大衆社会においては、大衆の参加感覚や共感により産み出される情緒的な世論形成システムに取って代わられつつある。

では、私達はどうやって「輿論」と「世論」の使い分けをすればよいのだろうか。
佐藤先生は、ニュース・情報に向き合う姿勢を示唆した。
ニュース・情報には二面性がある。
ワクワク楽しく感動的なニュース
面白くはないが考えさせられる、タメになるニュース
前者は、快楽に直接響くので、ついつい追いかけてしまう。
後者は、即時効果がないゆえに、後回しにされがちである。

後者への感度を「教養」と呼ぶ。
教養とは、「対話が可能な知識と余裕」だと、佐藤先生は言う。
「輿論」を担う能力でもある。

佐藤先生は、ネット社会がもたらす明るい可能性も見逃していない。
「輿」の字が消えたのは画数が多すぎたからだ。書くのは面倒である。
ところがいま、ひのき=「檜」と「桧」という字の使われ方をgoogle検索で調べると、「檜」の方が件数は多いという。
「檜」と「桧」のもたらす語感的な違い、こだわりのようなものが、「檜」という字を選択させていると考えることもできる。私達はまだ文字への感度を失ってはいない。

まずは、「輿論」と「世論」を使い分ける努力からはじめてみよう。

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