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会社は夢で誕生し、情熱で成長し、責任感で安定し、官僚化によって衰退する  坂本幸雄さん

経営の第一線でバリバリと仕事をしていた人が、辞めた後に体調を壊すという話はよく聞く。多くの場合、緊張感がなくなったことで身体のたがが緩んで悪いところが噴出する、というものであろう。

2013年7月末、エルピーダ再建の道筋をつけて、管財人兼CEOを退任した坂本幸雄氏もまもなく帯状疱疹を発症した。それをきっかけにしばらく体調を崩した。
しかし、自覚している理由は、普通の人と少し異なったようだ。
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ストレスがなくなって身体のたがが緩んだのではなく、「ストレスがないことがストレスになった」とのこと。
身も心も、骨の髄まで仕事人間なのかもしれない。

日体大野球部出身で、地元(群馬)で高校野球の監督になるつもりだった坂本氏が、夢破れてビジネスの世界に入ったのは1970年である。日本法人設立3年目の日本TIの倉庫係からの出発であった。ジャパニーズドリームの体現者でもある。

坂本氏は、汎用DRAM全盛期の頃から半導体業界の風雲児と呼ばれていた。
社長になっても電車通勤を通し、社員には、「会議は1時間以内」、「資料はA4一枚」を厳命した。空いた時間で世界を飛び回り、ひと癖もふた癖もあるIT業界の創業者やワンマン経営者を口説き落としてきた。
「異能」の経営者と言ってよいだろう。

栄華を誇った日本の半導体産業が凋落し、大手メーカーのDRAM事業を切り出し統合することで誕生したエルピーダ社は、坂本氏の「異能」に頼り、社長に迎えた。
日の丸半導体死守を掲げて支援に乗り出した経済産業省も、坂本氏の「異能」に掛けた。
坂本氏は、その期待に応えた。
2002年の社長就任時をドン底として、売上高とシェアは増大しV字回復に成功した。
半導体はとてつもなく環境変化が激しい業界である。しかも技術革新や市場の変化に対応して、巨額の開発投資・設備投資を間断なく投じることを宿命づけられている。
坂本氏は、その荒波を持ち前の果敢な経営判断と行動力で切り抜け、汎用DRAMからモバイルDRAMへの転換もしっかりと視野に入れていた。
リーマンショックの荒波も国と銀行団の協調融資体制でなんとか乗り切り、一時は4000億円までいった負債も2011年末には1100億円にまで圧縮していた。

超円高の逆風にもう少しだけ耐えることができれば、スマフォやタブレットPCが一気に普及し、モバイルDRAM時代が到来する。そうなれば、エルピーダの時代がやってくる。
そう確信して、北風に向き合っていた坂本氏だったが、太陽を見る前にコートを脱がざるをえなかった。
2012年2月末、エルピーダは会社更生法を申請する。
経産省が支援の方針を転換し、「3ヶ月以内に新たな資本提携先をみつけなければ融資の延長を認めない」と宣言した。
坂本氏が起死回生をかけて臨んだマイクロン社との資本提携交渉も、旧友のアップルトンCEOが事故死したことで頓挫した。
民主党政権下の経産省が支援方針を転換した理由はいろいろとあるであろうが、政治家や官僚には、坂本氏の「異能」が、理解できなかったのかもしれない。

エルピーダ社は、本当に会社更生法を適用しなくてはならなかったのか。
決断の当事者である坂本氏は、いまもそれを疑問に思っているようだ。
「異能」ゆえにエルピーダの再建を任され、「異能」ゆえに国や銀行の支援を打ち切られた。
そんな感じがする。

会社更生法の申請により、株主や債権者に多大な損害を与えたことを深く反省しながら、坂本氏は、最後までプロ経営者として「異能」ぶりを発揮した。
マイクロン社の傘下に入ることで、リストラをすることなく会社を存続させた。
読みから少しだけ遅れて到来したモバイル時代の波に乗り、円安効果の追い風も吹いて、わずか1年で復活した。
社名はマイクロンメモリーと変わったけれど、モバイルDRAMに特化し、巨人サムスンに対抗できる唯一のメモリーソリューションメーカーとして蘇りつつある。

日本の半導体産業にはまだチャンスがある。けっして遅くはない。
坂本氏は、そう言う。
ただし、いまの業界再編政策はあまりに中途半端。発想・スケール・スキーム全てにおいてあっと驚くような大再編が必要になる、という。
坂本氏は「こうしない限り無理だ」とは言わない。「こうなればいける」と考える。
いまも「異能」ぶりはまったく変わっていない。

会社は夢で誕生し、情熱で成長し、責任感で安定し、官僚化によって衰退する。
それが、坂本氏の持論とする会社の変遷史である。
韓国、台湾メーカーは、夢と情熱はあっても、責任感で安定する段階にはなっていない。
日本は、責任感は強いが、官僚化も進んでいて衰退が止まらない。
坂本氏のような「異能」の経営者を活かしきることができるかどうかではないだろうか。