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世界を知るためには宗教を知らねばならない 橋爪大三郎さん

photo_instructor_693.jpg世界の人口は約70億人と言われる。
橋爪大三郎先生によると、おおざっぱにみて、その9割(約63億人)は同じ宗教を中心に形成されている4つの文明圏に収斂できるという。
・キリスト教圏(欧州、米国大陸) 25億人
・イスラム教圏(中東、北アフリカ、海洋アジア) 15億人
・ヒンドゥー教圏(インド) 10億人
・儒教圏(中国) 13億人

宗教とは何か、という哲学的問いは横に置いておくとして、宗教がもたらす機能(働き)は何かを考えてみると、
「宗教は同質性を高める」というのが橋爪先生の解説である。
同一の宗教圏で生きる人々は、無意識のうちに同じように考え、同じように行動する傾向が強まる。あらゆる場面で人々の思考と行動を規定するもの。それが宗教である。

同質性が高い社会とは、予測可能性が高い社会である。
見知らぬ人、初めての関係であっても、相手の考え方、行動原理が読めるのでトラブルが起きづらい。
4つの宗教が数千年の歴史を経て、世界に拡大していったのは、宗教が持つトラブル回避効果を、人々が強く認識していたからであろう。

橋爪先生がよく指摘することは、
宗教というレンズを通してみると日本は世界の異端である、という事実である。
神社で初詣、葬式はお寺、年末の楽しみはクリスマスといったように、宗教は都合よく利用させてもらうにかぎるという認識がマジョリティである。
従って、宗教が人々の思考と行動を規定するという感覚がいまひとつわからない。

逆に、オカルト教や過激新興宗教が引き起こすセンセーショナルな事件のイメージが強いので、「宗教にはまると恐い」と極端に考えてしまう。

翻って、日本(特に日本経済、企業活動)が抱える最大のテーマは何かと言えば、いわずとしれた「グローバル化」である。
世界に出て行こう、世界でビジネスを広げようとするならば、世界を知らねばならない。

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長期投資とは成熟経済の生き様である 澤上篤人さん

photo_instructor_692.jpg長期投資の実践家であり熱き啓蒙家、さわかみ投信の澤上篤人会長
2006年5月以来2度目の夕学登壇になる。
いまにして思えば、前回はさわかみファンドの認知が一気に広まっていた頃であった。
2003年5月に400億円だった総資産額は、3年間で5倍近くにまで増えて、1,920億円にまで急増していた。

現時点(2013年10月29日)の総資産額は3000億円強。その間リーマンショック、東日本大震災、民主党政権による政治経済迷走等が連続して起こり、資産運用環境は順調ではなかったことを考えると、ペースは落ちたとはいえ着実に浸透しているといえるかもしれない。
なによりも澤上さんの話を聞くと、私たちの資産運用行動が、日本経済のありように繋がっているだな、ということがストンと腹に落ちていくのが不思議である。

「最初は恐い話からはじめます」

「1975年に23%を付けたものが、バブル崩壊時には15%、それがいま(2013年)ついに0%を割ろうとしている」

澤上さんが持ち出したのは、日本の家計貯蓄率の話である。
我が国の政府債務が対GDP比で200%に達するにも関わらず財政破綻が起きないのは、債務の多くを国内の金融資産(約1500兆円)が支えているからだと言われる。その半分を家庭の貯蓄が占めている。その額約790兆円。

「このペースだと、まもなく預貯金を食いつぶす時代に入り、30年もすればゼロになるだろう。その時に何が起きるか」

とはいえ怯えてはいけない。成熟時代に合わせた、お金の遣い方を身につけることで、将来を変えることができる。790兆円という金額はGDPの1.7倍の規模である。

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「殻」があるから成長する。「殻」があるからじり貧化する。 高橋伸夫さん

「工業化社会はT型フォードによって花開いた」と言われている。

T型フォード.bmp
この自動車がもたらしたインパクトはそれほど大きかったのである。
T型フォードは、1908年から27年にかけての20年間に渡って、単一車種として驚異的な1500万台を生産し、モータリゼーション社会を実現する原動力になった。

T型フォードといえば、単一モデル、部品共通化、移動式組み立てラインに代表されるフォードシステムが想起される。

photo_instructor_691.jpgしかしながら高橋伸夫先生によれば、ヘンリー・フォードは最初からフォードシステムによるT型を作ろうとしたわけではないようだ。

フォードが、まだ若き技術者に過ぎなかった頃、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていた。
馬に変わる動力も蒸気機関、ガソリンエンジン、電気モーターなどが乱立しており、いずれも「オモチャ」の域を出ることができなかった。

フォードは、技術者であると同時に、自分で自動車を作り、レーサーとして自動車レースで優勝するほどの「自動車マニア」だった。
フォード自動車は、自動車好きの青年技術者が、自分の納得できる自動車を作るために作った会社であったのだ。

フォードは、T型に至るまで、Aからはじまって8つのモデルを次々と開発・発売していった。そのプロセスは、現代の経営学コンセプトでいう「ユーザーイノベーション」に近いものだったと、高橋先生は言う。

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音楽とは一緒につくる感情 千住真理子さん

mariko_senju.jpg皆さんこんにちは&はじめまして。
慶應MCC 湯川 真理です。『夕学五十講』今期より城取とともに、進行役をつとめさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。

さて、今回ご登壇いただきましたのはヴァイオリニスト 千住真理子さんです。お話は千住さんの「アメージンググレース」のヴァイオリン演奏で始まりました。

リサイタルでも、ボランティアでも、講演やトークショーでも、千住さんはいつも始めに、一曲、ヴァイオリンを演奏されるそうです。ご自身の心を落ち着かせるために、そして何よりも観客が、「心を開いてくれるのを待つ」ために。

「演奏家と聴衆が、連鎖反応で心を開きあい、一緒に空気をつくるのです。ひとつの感情になるのです。」

心を表現するのが演奏家で、観客は心を揺さぶられるのを待つもの、と思ってはいませんか。私はすっかりそう思い込んでいました。けれどもそうではないのですね。「演奏家は観客が心を開いてくれるのを待っているのです。演奏家はいつでも心を開く準備はできているのです。」千住さんは演奏に言葉を続けられました。「アメージンググレース」は、小さいけれども確かなかたちで、感覚的にも私たちに伝えようとしてくださったのでした。

この日千住さんは、たくさんのお話をしてくださいました。今回のお話を伺って、千住さんの音がなぜこれほどまでに私たちの心に響き、感動させるのか、とてもよくわかりました。私は千住さんの演奏もたびたび聴かせていただいているファンの一人でもあり、agoraにご登壇いただいたこともありました、そこで今回の講演でいちばんに感動したことをすこし書きたいと思います。

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組織の老化への向き合い方 細谷功さん

photo_instructor_689.jpg人間が生物である以上、老化は避けられない。
・お腹が出てくる。
・二の腕がたるむ
・頭髪が薄くなる。
・目尻のシワが目立つようになる。
・イスから立ち上がるときに「よっこらしょ」と口にしている
・「最近の若いヤツは...」と言い出す etc
個人差こそあれ、40歳を越えれば、誰もがこのような老化現象を迎える。
老化は不可逆的な変化であって、けっして戻すことはできない。

「複数の人間が、共通の目的のもとに、調整された諸活動を行う」場と定義される組織においても、人間と同じような不可逆的な老化現象が起きる。ところが人間と少し違うところがあって、その違いゆえに組織の老化は始末が悪い。

それが細谷功氏の問題意識であった。

・定例会議が多い
・やるリスクは真っ先に論じられるが「やらないリスク」が論じられることはない
・「できない理由」が得意な社員が多い
・簡単な経費の使用にも複雑な承認プロセスが必要である
・個性的な人が少ない金太郎飴集団である
・仕事は誰がやっても同じアウトプットが出るよう「組織化」されている
・「変わった人」は迫害される企業文化である etc

上記が細谷さん流の組織老化チェックリストである。
一瞥したところ、マイナスのことばかりに見えるが、そう単純なものではない。
組織の老化とは、組織の経験学習の蓄積である。さまざまな成功や失敗の上に積み重ねてきた「資産」でもある。
ある時点までは蓄積には意味があった。組織の成果につながる対応であった。
ところが、ある時点で臨界点に達して、「資産」が「負債」に転化をはじめる。
そこが組織の老化がはじまる時である。

人間の場合、臨界点のタイミングは年齢というわかりやすい目安がある。
「俺も来年は後厄だしな...」などと人知れずつぶやきつつも、少しずつ老化という現実を受け入れはじめる。
昼食のメニューを決めるときに、「ちょっと待てよ」とカロリー計算をするようになる。
万歩計を買い、ジムにも通うようになる。
自分の手柄より若い人を育てることに意識をむけるようになる。
人生とは何か、幸せとは何か、を再考すべく座禅を組んだりもする。

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「会所」という学習の場 桝野俊明さん

photo_instructor_688.jpg住職、作庭デザイナー、造園設計会社の経営、美大教授、文筆家。5つの仕事・役割を兼ねる桝野俊明氏。その活動の中心には「禅」がある。

桝野先生によれば、「禅」は日本的なるもの、特に中世以降の日本文化、に多大な影響を与えた思想であるとのこと。その影響力は日本古来の「カミ観念」以上といってよいだろう。
大人の学びをプロデュースすることを生業とする立場からみると、中世社会の学習システムを駆動させるエンジンのような役割を担っていたようだ。

禅というのは、「本来の自己」と出会うことだ、桝野先生はいう。
自己の内面世界を深く見つめ、自分の中にある真理をつかみ取ることだ。禅ではそれを「悟り」と呼ぶ。
何かをつかみ取った時、真理に気づいた時、人間はそれを他の人々に表現したくなる。目には見えないものを形に置き換えて表したくなる。
禅僧も同じであった。
絵が上手い人間は悟りの瞬間を絵に描いた。
文学的素養がある人は書に表した。
立体的な芸術に秀でた人は庭を造った。
雪舟(水墨画)夢窓疎石(作庭)も、そういう禅僧達のひとりであった。

自分のつかみ取ったものを他の人に表現したいと考えた禅僧達は、おのずと集まりサロンのような場ができていった。禅ではそれを「会所」と呼んだ。
彼らは、それぞれの表現を見せ合い、重ね合わせ、溶け込ませながら、静かな議論に花を咲かせたに違いない。
言い方は悪いけれど、「会所」というのは、表現欲求に突き動かされた禅僧達が作った知的梁山泊のような場所だったのかもしれない。私が思うには、これは素晴らしき「学習の場」である。

やがて「会所」には禅僧のみならず、武士や文化人も顔を出すようになった。
桝野先生が「一休文化学校」と呼ぶ、大徳寺の一休禅師のもとには、連歌の飯尾宗祇能の金春禅竹茶の湯の村田珠光が集い、禅の思想をそれぞれの表現芸術に移し替えていった。
俳諧、能、生け花、茶道、枯山水の庭、水墨画...この時代以降に完成をみた日本文化の多くは、禅の思想を根本の支えとしている。

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経営センスとは、抽象と具体の往復運動である。 楠木建さん

photo_instructor_682.jpg「歌って、踊れる唯一の経営学者」を自認する楠木建先生の夕学講演。
まずは3年前のブログを読んでもらいたい。
ビジネス書として画期的な売れ行きを記録した『ストーリーとしての競争戦略』にちなんだ講演を聴いてまとめたものだ。

「イケてるストーリーが人を動かす」
2010年10月 6日

「競争戦略の本質はこの二つに尽きる」と、楠木先生は言う。

「違いをつくること」と「つなげること」である。

戦略をストーリーとして語れるかどうかは、「つなげること」にかかっている。
多くの場合、戦略は「違いをつくること」に止まる。つまり静止画でしかない。動き、流れをもった動画として「つなげること」で、戦略はストーリーになる。

ではなぜ、静止画で止まってしまうのか。
それが今回の講演の主題である。

担当者と経営者の本質的な違いを理解していないからだ。
楠木先生は、そう喝破する。
経営者とは、商売全体丸ごとを動かし成果を出す人。
これに対して担当者は、ある一つの機能を部分として担い、方法論を駆使して答えを出す人といえる。

経営者に必要なのは「センス」であり、担当者に求められるのは「スキル」である。

「センス」とは、
定義や記述があいまいで、良し悪しを計る物差しがなく、千差万別。努力したかといって上手くいくわけではないし、育てることができない。よって代替もきかない。

「スキル」は
標準的な定義が社会に共有されており、物差しで多寡を測ることができる。努力すればある程度は獲得できるので、育てることが出来る。だから代替が利く。

経営者の「センス」と担当者の「スキル」を組み合わせることで理想的な経営となるはずが、両者の混同が」散見される。
代表取締役担当者のような人が、「スキル」で戦略を立てようとするから、静止画どまりの戦略に陥る、というわけだ。

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「偶然」と「誤解」の安倍外交 佐藤優さん

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今期第一回目の「夕学五十講」 タイトルは「安倍外交は国益を体現できているか」
講演者の佐藤優氏は言う。
質問型の演題に答えを出すことからはじめるとすれば「体現できている」、となる。
ただしそれは「偶然」と「誤解」の上に成り立ったガラス細工の国益でしかない。

なぜ、「偶然」と「誤解」なのか、佐藤氏は、シリア問題を題材に独自の見立てを披露してくれた。

毒ガス攻撃はシリア政府によるものだと断定し、オバマ大統領が軍事介入に踏み切る決意を示したことで、一気に緊張関係が高まったシリア問題は、英国、日本の協力を得られず窮地に陥った米国が、プーチンの大岡裁き的な提案に助けられて、国連安保理に問題解決を委ねるという形で決着しつつある。

佐藤さんの連載「インテリジェンスの教室」風にシリア問題に関わる8月末~9月初旬の事実関係を整理すると次のようになる。

・8月26日 米国はダマスカスでの毒ガス攻撃がシリア政府によるものだと断定し、「シリアはレッドラインを越えた」と軍事介入に踏み切る決意を示した。

・8月29日 英国の下院は、シリアへの軍事介入に参加する前提となる議案を否決した。オバマはシリア攻撃に対する国際世論の厳しさに動揺をはじめた。

・9月3日 安倍首相はオバマとの電話会談で「国連安全保障理事会の決議を得る努力も継続してほしい」と伝え、5日サンクトペテルブルクのG20サミットの場でも軍事介入への同意を求めるオバマに言質を与えなかった。

・9月7日 安倍首相はサミットを中座し、オリンピック開催国を決めるIOC総会に出るためにブエノスアイレスへ飛んでしまった。結果として、オバマは安倍首相を直接口説く(恫喝する)機会を失った。
一方、プーチン大統領は、オバマとの会見で「シリア政府に対し化学兵器を国際管理下に置くよう提案した」と告げ、軍事介入を思いとどまるように要請した。

・9月10日 安倍首相はプーチンとの電話会談でロシアの提案を支持する旨を伝えた。

・9月11日 プーチンは『ニューヨークタイムス』に寄稿し、米国世論に直接訴えるという掟破りのやり方で、オバマの軍事介入に正面から反対した。

・米国は軍事介入を思い止めざるをえず、問題解決は国連安保理に委ねられた。結果として、オバマは国際的・国内的な威信を失い、プーチンのそれは高まることとなった。

この間に安倍首相は、オバマに対して軍事介入支援の言質を与えることなく、ロシアの側面支援をすることで米国の暴走を止め、世界平和と日本のエネルギー確保に貢献した、というのが、結果論としての「国益体現」だと佐藤氏は見立てた。

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第25回 1/31(金) 篠田謙一さん

最終回の第25回 1/31(金)に登壇いただくのは国立科学博物館で人類史を研究する篠田謙一先生です。
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太古の昔、アフリカの大地で誕生した私たちの祖先=ホモ・サピエンス(現生人類)が20万年という途方もない年月をかけて世界中に散らばり、人類の歴史を紡いできた「グレートジャーニー」と評される旅路は、壮大なロマンを感じさせてくれるテーマであります。

人間のDNA分析を考察することで、人類の旅路の行程が急速に解明されてきたのはつい最近のことだと聞きます。篠田先生は、その専門家です。
私たち日本人は、いつ頃、どういう経路を辿って、どんな人々と交じり合いながら、この列島に辿り着いたのか。
いわば「日本人の起源」がDNA研究から読み取れるようになったということです。

篠田先生によれば、その結論は、「単一民で同質性が高く、閉鎖的な社会を形成してきた」というステレオタイプの日本人論を覆すものだったといいいます。

「日本人らしさ」を言う前に、そもそも日本人とは何なのか、欧米やアジアの他民族とは何が、どうして違うのかを、DNA研究の知見から考えてみたいと思います。