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お金は大事だ、よく考えよう  橘玲さん

photo_instructor_672.jpg「未来は誰にも予想できない。なぜなら市場は複雑系の"小さな世界"だから」
「無数の参加者が、それぞれの思惑で勝手に行動する。こういう現象を予測することは原理的に不可能なこと」

橘玲さんは、そう前置きしたうえで、市場でどんな事が起きり得るのか、将来のシナリオは限定できる、という。


1.楽観シナリオ アベノミクスが成功し、経済成長がはじまる。
2.悲観シナリオ デフレ不況がまだまだ続く
3.破滅シナリオ 日本国の財政が破綻する
のいずれかである。

シナリオに沿った資産防衛策を考える際に、橘さんの基本スタンスは明解である。

「マクシミン戦略」
最悪の事態を想定して、その場合の最善の対策を考える、ことである。
マクシミン戦略は、極めて保守的な戦略であり、間違っても大富豪にはなり得ないが、リスク耐性の低い個人には相応しい戦略だというのが、橘さんの見解である。

さらに、もうひとつ考慮しておくべきことは、
経済には強い粘性がある、という特性だという。
ある日突然経済が悪化することはない。かならず兆候があり、段階を踏んで悪くなる。その変化を見落としさえしなければ、手は打てるということである。

もし仮に、日本が財政破綻するとしても、下記の段階を踏んでいくだろう。
第1ステージ 金利が上昇する(国債の下落)
第2ステージ 深刻な金融危機が発生する
最終ステージ 財政破綻が起きる ハイパーインフレとなり、預金が封鎖され、日本がIMF管理下に置かれる

仮に破滅シナリオを歩むとしても、いまがどの段階なのかを見極めて、適切な手を打てば大切な資産は防衛できる、ということだ。
これが、橘さんの考える「先の見えない時代の生き方」である。

さて、それでは各シナリオに応じて、私たちはどのようにして資産を守ればよいのだろうか。

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生活情報のプラットフォームをめざす 森川亮さん

photo_instructor_657.jpgLINE株式会社社長の森川亮さんに同行してこられた同社広報の女性は、LINE社の母体のひとつ旧ライブドア社のご出身だという。美人広報として有名になった某女史の後任として入社されたとか。
考えてみると夕学はライブドアと縁がある。全盛時のホリエモン社長も、再建を担った平松庚三社長も夕学に登壇いただいた。

平松さんが講演の中で「ライブドアには高い技術をもったエンジニアが沢山残っている」と強調されていたことを憶えている。テクノロジーカンパニーとしてわが社の将来は明るいと。
LINEの開発に旧ライブドア社員がどこまで関わったのかは知らないが、ずっと残ってきた人達は、統合されてホントによかったと思っている、というのがその方の弁。人生とはわからないものだ。

さて、森川社長の話を聞くと、LINEの成功は、3つのパラダイムシフトを的確に捉えたことにあるようだ。

1)PCからスマホへ
スマホは、PCと距離があった層から瞬く間に広がり、幅広い年代に満遍なく浸透した。「For Ordinary People」時代の生活密着型のネットメディアと言える。
ブラウザーではなく、あくまでもアプリに特化したというのも慧眼であった。
普通の人は、IDやパスワードは煩わしい、電車の中でつながりにくいと嫌われる。LINEはそういったマイナスを解消したコミュニケーションツールとして登場した。

2)オープンからクローズド&プライベートへ
ネットコミュケーションは、世界の誰とでも瞬時に「つながる」ことが何よりの魅力であった。たとえSNSのような半クローズドコミュニティであっても、その基本方向は変わらない。「つながる」ことに価値があった。
LINEは「つながる」ことではなく、すでに形成された「つながり」に載せるものに価値を見いだそうとした。それは人間の生活そのものである。
後述するようにLINEが最初から狙っていたのは、ここにあったようだ。

3)インフォメーションからエモーションへ
昨年夕学に登壇した武田隆氏は、ネット社会のコミュニケーションニーズを「エモーション」と読んだ。彼は企業コミュティというウォームでウェットな世界で「心あたたまる関係」として具現化したが、LINEは、もっとストレートに即物的に勝負した。
愉快に楽しく盛り上がれることがLINE流の「エモーション」であろう。スタンプという発想は、デコメや絵文字の延長線上から生まれた。

「スマホ時代の新しいコミュニケーションツールをつくる」
というLINEのスタート時の戦略は見事に成功した。
全世界で1億4千万人。日本で4500万人のユーザーを2年弱で獲得したスピードには驚くしかない。

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監督選定の基準はただひとつ「ファンサービスが出来ること」  藤井純一さん

9年前2004年に巻き起こったプロ野球再編騒動を憶えているだろうか。
オリックスと近鉄の統合(現オリックス)に端を発し、セ・パの複数球団が経営統合し、10球団or8球団で1リーグ制に移行しようという構想が表面化したものだ。
慢性的な経営悪化に悩み続けてきた多くの球団が、いよいよ赤字を抱えきれなくなってきたという背景があった。

同じ年に日本ハムファイターズは北海道へのホーム移転を決断した。
合併と方向性は異なったが、移転を決意させた理由はまったく同じであった。
球団は2003年一年間で46億円の赤字を出した。広告宣伝費として補填をする日本ハム本社内にも投資効果への疑問の声が渦巻いていた。
チームは20年以上優勝から遠ざかり、人気も低迷していた。観客が267人しか入らない試合もあったという。

そこに送り込まれたのが藤井純一氏である。
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ファイターズと同様に日本ハムがスポンサーであるJリーグのセレッソ大阪を再建した手腕を買われての任命であったと思う。
2005年に役員として入り、翌2006年からは社長に就任する。

藤井さんの再建コンセプトは明確であった。
ファイターズに「経営」を導入することである。
企業の広告塔として発展してきた牧歌的時代が長い日本のプロ野球には「球団経営」という発想が薄い。ファイターズも業績さえ社員は知らなかったという。

「経営」の要諦は二つだと言われている。
「組織」を組むこと、「戦略」を立てること。

セレッソ大阪でプロスポーツ経営に通じていた藤井さんは、それを果敢に実施した。

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現状は1986年に似ている 山崎元さん

photo_instructor_671.jpg「経済誌の記事やオンラインメルマガで注目されて、それをベースに本を書き、テレビで名を売って、講演で稼ぐ。
それが経済評論家のひとつのビジネスモデルだとしたら、自分にはあてはまりませんね」

山崎さんは、控室で穏やかな表情でそう語った。
アベノミクスについて早い時期から肯定的な論評を発表し、市場の反応を先取りするような予想を展開してきた山崎さんには、さぞかし講演の依頼も多いかと思ったら、そうでもないようだ。

「経済講演のスポンサーは金融機関が多いと思いますが、わたしは彼らに嫌われていますからね」

・現在の投資信託にはろくなものがない
・生命保険は不要、特に医療保険は入らない方がいい
といった、歯に衣着せぬ刺激的発言をしてきたから、というのが本人の弁であった。

温厚で紳士的ではあるけれど、自分の信じたことは一歩も引かないし、言うべきことは遠慮なく言う。

それが山崎元さんなのかもしれない。


さて、きょうのお話の中心は、「アベノミクスはなせ効いたのか」というロジックの解説であった。
アベノミクス第一幕の演目は、「インフレ目標付き金融緩和策」であったが、それは概ね適切かつ必要な政策であった、というのが山崎さんの意見である。

成功要因は、インフレ「期待」への働きかけが効いたということ。言い方を変えれば、「働きかけの本気度」を市場が信じたということであろう。

2%と言う高いインフレ目標(過去20年間に2%を越えたのは、たった1年だけ)
筋金入りのインフレ目標論者が日銀総裁、副総裁になったこと
2%を達成できなければ辞任という発言を岩田副総裁が明言したこと

等々の効果によって「こいつは本気だな」と市場が信じたということであろう。

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戦わずして勝つためのインテリジェンス 手嶋龍一さん

インテリジェンスとは、西洋流「孫子の兵法」である

photo_instructor_654.jpg手嶋龍一さんのインテリジェンス論を聞いた私の感想である。

「孫子の兵法」は、非戦・非攻の思想、つまり"戦わずして勝つこと"に本質がある。
兵を損傷することなく、国土を痛めることなく、財貨を費やすことなく、求めるものを手にいれる。そのために孫子は、「謀」「間」といった情報戦の意義と方法をつまびらかに説いたのだ。


孫子は「間に五有り」と説く。情報には五つあるという意味である。
因間、内間、反間、死間、生間の五つ。

・因間-その地に精通した者がもたらす地元情報
・内間-官僚・知識人が知っている専門家情報
・反間-心理の裏側や内面をなど見えないものから読み取る情報
・死間-偽りの噂を流して、相手の出方を探る攪乱情報
・生間-現場を自分の目で見てきたものだけが知る現場情報

まったく異なる出自と文脈で形成される五間(五種類の情報)を統合し、的確な意思決定につなげることが「戦わずして勝つこと」に通ずる。

インテリジェンスも同じであろう。
手嶋さんの定義に基づけば、インテリジェンスとは、
「膨大な一般情報(インフォメーション)から、情報の原石を選り抜き、真贋を確かめ、分析を加え、全体像を描き出す」こと。
巨大で精巧なジグソーパズルによく似ている。

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第25回 7/30(火) 延岡健太郎さん

第25回 7/30(火)今期最後の登壇は一橋大学イノベーション研究センター長・教授の延岡健太郎先生です。
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延岡先生の夕学登壇は2004年以来(当時は神戸大)二度目になります。
80年代末、当時飛ぶ鳥落とす勢いであった日本の自動車産業を研究しようと、アメリカ経営学界は日本の若手経営者を次々と招聘していました。
この頃、ハーバードに藤本隆弘先生(東大ものづくり経営研究センター長)、MITスローンに延岡先生、武石彰先生(京都大学大学院教授)など、そうそうたるメンバーがボストンで研究をしていました。

いずれの方も現在は、日本のものづくり経営、イノベーション研究の第一人者として大活躍をしていらっしゃいます。

延岡先生が提唱されているのは、「価値づくり経営」です。
ものづくりの目的は、よいモノをつくることではなく、価値づくりにある、と喝破する延岡先生は「顧客が真に喜び、主観的に意味付ける意味的価値」が鍵を握ると言います。
この原理は、アップルのような消費財についても、3Mのような生産財についてもまったく変わることはないと。

最終回の講義は、意味的価値の創出とコア技術戦略を中心に、価値づくり経営について語っていただきます。

第23回 7/24(水) 坂井直樹さん

第23回 7/24(水)に登壇いただくのは、WATER DESIGN取締役でコンセプターの坂井直樹さんです。

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若くして渡米し、サンフランシスコでTattoo Companyを設立。TattooT-shirt (刺青プリントTシャツ)を売り、大ヒットさせたという坂井さん。根っからのプロダクトコンセプターと言えるかもしれません。

80年代には、日産で「Be1」「PAO」という未来型レトロカーブームを起こしたのをはじめ、カメラ、時計、美術館など、さまざまなプロダクト、サービスのコンセプト開発に関わっていらっしゃいました。

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2008年からは慶應SFCの教授に就任し、デザインと通信技術やUIを研究されました。この春、慶應を退官され、再び自由な立場で活躍されることとなった坂井さんが近年力を入れているのが「ダイバーシティーデザイン」です。

国籍、民族、文化、社会習慣を越えて価値を共有化するデザインとはどうあるべきか。坂井さんに力強く語っていただければと思います。

第24回 7/26(金) 大木聖子さん

第24回 7/26(金)にご登壇いただくのは、4月から慶應義塾大学環境情報学部准教授に就任された大木聖子先生です。
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先月までは、東大地震研究所に在籍していらしたので、案内もそうなっていましたが、4月からは慶應のお仲間に加わっていただきました。
慶應SFCという新しいフィールドで、益々の活躍が期待出来るのではないでしょうか。

高校1年生の時に阪神淡路大震災に遭遇したことをきっかけに地震学者を志した大木先生が、いちやく有名になったのは、先の東北大震災の後でした。
東大地震研で、災害情報、防災教育、災害科学コミュニケーションの研究と実践に関わっていた大木さんは、研究所の広報のような立場で防災教育を語る機会が増えました。
分かりやすい解説に華麗な容姿が加わって、美人地震学者として、一気に注目度が高まりました。

地球表面の1%も領土領海を持たない日本で、世界の地震の10%が起きているそうです。にもかかわらず、抱えるリスクにふさわしいだけのリテラシーを、私たち日本人が身に付けているかというと実に心許ないものがあります。

地震大国に生きる人間として、何度にも地震の被害に遭い、多くの同胞を失ってきた人間として、大木先生の「教養としての地震学」に耳を傾けたいと思います。

第22回 7/18(木) 中島尚正さん

第22回 7/18(木)にご登壇いただくのは、海陽学園 海陽中等教育学校 校長中島尚正先生です。
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世界に通じるリーダーの育成を旗頭に掲げ、英国イートン校に倣い、全寮制の中高一貫校として海陽学園が開校したのは、平成17年のことでした。
トヨタ、中部電力、JR東海といった中部地域の財界が全面支援した新時代の学校として大きな注目を集めました。
男子のみ120名の学生は、「マンガ・ゲーム禁止」「週末の外出は引率者の同行が条件」という環境の中で生活します。支援企業から送り込まれた若手社員が寮で寝起きを共にし、人生の先輩として、さまざまなアドバイスをすることも大きな特徴です。

昨年一期生が卒業し、東大をはじめとした有名大学に多数合格したこともあって、再び話題になりました。

とはいえ、東大合格者数を競い合うだけなら、これまでの中高一貫私学となんら変わらないことになります。むしろ、卒業して10年、20年経った時に、世界のエリートと渡り合えるリーダーとして、日本の各界を背負う人材をどれだけ育てたのかが問われるべきでしょう。
その意味では、海陽学園の評価は、もっと長い時間軸で捉えるべき壮大な実験といえるのかもしれません。

中島先生は、長らく東大工学部の教授を務められたのちに、創設時から学園に関わられ、4年前からは校長を務めてきました。
中島先生に寄せていただいた講演のメッセージを拝読すると、海陽学園の教育は「自分で考え、行動できる人間を育てること」にあるようです。
まさに先の見えない時代の生き方として求められることでもあります。

第21回 7/16(火) 萱野稔人さん

第21回 7/16(火)のご登壇は、津田塾大学学芸学部准教授で哲学者の萱野稔人先生です。
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国家、カネと暴力、権力、ナショナリズムなどなど骨太なテーマを一般の人々の目線で語ろうとされている若き論客の一人です。
近年は、サンデーモーニングのコメンテーターなど、テレビでお顔を拝見する機会も増えたので皆さんもよくご存じかと思います。

萱野さんの本やコラムを拝見していると、現代日本が文明の転換点にあるということを強く意識していらっしゃるように感じます。成長・発展・拡大の時代から停滞・退廃・縮小の時代へと、文明のありようが変わりつつあるということです。
拡大再生産を本質とする資本主義社会にとって、縮小社会という現実はとても大きな困難を突きつけていると、萱野さんは言います。

縮小の時代とはどのような時代なのか、日本が縮小社会を乗り切るために取り組むべき課題は何なのか、文明史的な大きな物語を語っていただければと思います。