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これまでとは異なった飛行機の乗り方  井上慎一さん

photo_instructor_636.jpg「LCCを作って、アジアの流動を取り込め」
2008年、当時の全日空経営トップから指示を受けた井上慎一さんは、航空業界にイノベーションを起こすべく、二人の人物に教えを請うたという。

ひとりは、一橋大学イノベーション研究所所長(当時)の米倉誠一郞教授。
米倉氏は、井上さんに戒めたという。

「"失われた10年"と言う奴にイノベーションは起こせない。"失われた"のではなく、"失った"のだから。 失敗を一人称で語る人間であれ」

もうひとりは、ライアン航空社長のパトリック・マーフィー氏。LCC業界で「レジェンド」と呼ばれるカリスマ経営者である。
マーフィー氏は、日本にこれまでLCCが誕生しなかった理由(数々の規制)を縷々語る井上氏を一喝したという。

「それに対して君はいったい何をしたのだ。他者に自分の人生を支配されていいのか!」

ふたりに共通しているのは、イノベーションは環境が起こすのではなく、人間の強い意志が可能にするのだ、というシンプルな原理である。


さて、わたしはLCCについてはよく存じ上げなかったが、欧米の航空業界ではすでに主流になっているようだ。

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世界に発信する日本史  北川智子さん

近代以降、数多く著されてきた日本人論・日本社会論の中でも、古典として読み継がれている本がこれである。

『菊と刀』ルース・ベネディクト 

第二次大戦中の米国戦時情報局による日本研究をもとに執筆され、後の日本人論の源流となった、とされているが、法政大学の長岡健先生によれば、著者のベネディクトは、実は日本に来たことはなかった。
随分と乱暴なやり方と思うかもしれないが、ベネディクトは日本に関する文献と限られた日系人との交流だけを頼りに、この本を書いたという。
「実際に読んでみると、確かに首をかしげたくなる箇所もいくつかある」と長岡先生はいう。
にもかかわらず、この本が、日本通の米国人や日本の教養人の間で、高く評価されてきた理由は何か。

長岡先生は、ベネディクトが徹頭徹尾ストレンジャーの視点で日本を分析しているからだという。日本人ではないから、日本の内側を知らないからこそ書ける日本人論・日本社会論も存在しうるのだということを、この本は示している。

photo_instructor_642.jpg3年連続でハーバード大「ティーチングアワード」に輝いた、うら若き歴史学者北川智子さんの日本史講義もよく似ているのではないだろうか。

北川さんは福岡県大牟田で生まれ育った生粋の日本人だが、日本の大学で日本史を研究したわけではない。東大資料編纂所への留学経験(1年)を除けば、カナダとアメリカの大学で歴史学の修士と博士を取得している。
だから、ストレンジャーの視点を失っていない。

それが証拠に「都(みやこ)」ではなく「Capital」、「統治者」ではなく、「Ruler」という言葉が自然と口に出てくる。日本の歴史学者の口からは、まず聞かれないだろう。
ストレンジャーならではの、ユニークな切り口で日本史を語ることが出来る。

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お知らせ:「ダライ・ラマ法王と科学者との対話」

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科学は、哲学から始まったと言われています。

自然のメカニズムを「理性」を使って解明できるとするデカルト的な世界観が、近代科学を産み出しました。

哲学は、神学とその源を同じくすると言われます。

デカルトは、「理性」を使って、神の意思=世界の本質を読み解こうを試みました。

神学者が、聖書に向き合うことで、神の意思に近づこうとしたように、科学者は、自然と向き合うことで、世界の本質や原理を探ろうとしました。

確かなものへの強い欲求をエネルギーにして、壮大なる対象に真摯に向かうという点において、宗教家と科学者は共通点があるように思います。

そんな両者の接点を掘り下げるシンポジウムが開催されます。

「ダライ・ラマ法王と科学者との対話 ~日本からの発信~」
2012年 11月6日(火)・7日(水)
会場:ホテルオークラ東京 平安の間 [本館1階]


夕学五十講にも登壇いただき、昨年はagora講座で
【科学と向き合う人間力】という講座を主宰していただいた筑波大学名誉教授の村上和雄先生が中心になって企画したイベントです。

『遺伝子・科学/技術と仏教』
『生命科学・医学と仏教』
『物理科学・宇宙と仏教』
といった興味深いテーマで、それぞれに日本を代表する科学者が登場し、ダライ・ラマ法王と対話を行うとのこと。

興味のある方は下記にお問い合わせください。

「ダライ・ラマ法王と科学者との対話」実行委員会
事務局:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所 URL http://www.tibethouse.jp/
〒160-0022東京都新宿区新宿5-11-30 第五葉山ビル5階
TEL:03-3353-4094 / FAX:03-3225-8013

想定外変化の時代のキャリアと人材開発  高橋俊介さん

photo_instructor_641.jpg2010年-11年にかけて、高橋俊介さんが所属する慶應SFCのキャリア・リソース・ラボラトリーとリクルート社ワークス研究所との共同調査が行われた。
「21世紀キャリア研究会」と名付けられたその調査を通じて、高橋先生が確認したことは、10年前の自らの予測が、現実のものになったという事実であった。


将来的な目標に向けて、計画的に一つ一つキャリアを積み上げていくというキャリアデザインの考え方が、急速に成り立たなくなろうとしている。
21世紀には、自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により、短期間のうちに崩壊してしまう現象が、あちこちで起こるのではないか...

『キャリアショック』(2000)という本の「まえがき」で、高橋先生はこのように綴っていた。10年後、この予言通りの現象が、多くの企業で起きていることが検証できたという。

「想定外変化」「専門性細分化・深化」
上記の現象は、この二つの特色で表現できる。
コツコツと積み上げてきた自分のキャリアが、あっという間に崩壊してしまう。
にもかかわらず、仕事は高度化・細分化しており、ひとつの道を深く極めることを求められる。
股先現象とも呼べるような根深いジレンマに陥って、多くの人々が困惑している。

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企業の「マニュフェスト」  出口治明さん

photo_instructor_640.jpgライフネット生命には、「マニュフェスト」がある。

ライフネットの生命保険マニフェスト
http://www.lifenet-seimei.co.jp/profile/manifesto/

企業に「マニュフェスト」と聞いて違和感を覚える人も多いだろう。「マニュフェスト」とは、元来は政治用語のはず。
調べたらマルクスの『共産党宣言』の原題は、Das Kommunistische Manifestであるらいしい。
宣言書、声明書という意味が適切だろう。

多くの企業にあるのは、「マニュフェスト」ではなく、「経営理念」である。
両者の違いは、誰に向けて作られたのかという対象の違いではないだろうか。
「経営理念」は、主たる対象を従業員に想定しているように思う。共に働く人間として、こういう志を共有して欲しいというメッセージである。だから「同志」という言葉がよく使われる。

「マニュフェスト」の場合は、外部を対象としている。(もちろん従業員も含まれるが)
自分達の方針や意図を、広く多数の者に人々に知ってもらうために作られるのが「マニュフェスト」である。

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有名人ビジネス体験記  勝間和代さん

photo_instructor_629.jpg旅行記、戦争記、経営記etc。さまざまなジャンルに「体験記」と呼ばれるものがある。
体験記は、当事者でしかかけない臨場感が魅力である。皮膚感覚、風の匂い、その時沸き起こった感情が散りばめられていることが不可欠である。
一方で、情緒的になり過ぎてもいけない。読む人がどう受け取るかを意識しながら言葉を選ばねばならない。

きょうの講演は、勝間和代さんによる、秀逸な「有名人ビジネス体験記」であった。

勝間さんによれば、アイドルビジネス、パンダビジネス、のように、有名人ビジネスといううべきものがあるようだ。
中核をなす人物(動物)から産み出される力、影響力、エネルギーを、経営資源として活用しようという人々が集積することで発生するビジネス形態である。

アイドルであれば、CD、コンサート 写真集 キャラクター商品、冠番組などが派生的に生まれ、総額ウン百億円という巨大ビジネスになる。

有名人ビジネスもよく似た構造だという。
文化人、経営者、作家、モデルなどを「有名人」に育て上げ、彼・彼女の書籍、講演、企画でビジネスをしようとする人達がたくさんいる。
アイドルと同じでヒット率は低いが、当たると大きい。
アイドルのように、しつけ、化粧、演技や歌等々の基礎トレーニングや、悪い虫がつかないように身辺警護をしなくてよい分だけ、投資効率は高いかもしれない。

勝間さんの本は累計で500万部近くになる。一冊1000円として500億円の巨大市場。
パンダほどではないにしろ、本人の実入りが驚く程少ないというのもアイドルと同じ。産み出された富の多くは、ビジネスに参集した人々に分配される。
アイドルビジネスと有名人ビジネスが違うのは、多くの場合、プロデュースを自分でやらなければいけないということ。彼・彼女に、つんくや秋元康はいない。

自分で自分をプロデュースした勝間さんに言わせると、
有名人になることは意外と簡単だという。
経営コンサルが、経営不振企業を建て直しに際して立案するマーケティング戦略のプロセスと同じだという。

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山中伸弥先生 ノーベル医学賞受賞の報に寄せて

山中伸弥京都大学教授(50歳)が、ノーベル医学賞を受賞されることになりました。心から祝福申し上げます。

夕学五十講には、2008年7月18日にご登壇いただきました。
山中先生の研究は、4年前の当時から、ノーベル賞間違いなしと評価されていた画期的なものですが、その頃は、ここまで早い受賞になるとは思いませんでした。

記者会見での誠実なお人柄そのままに、講演でも丁寧に、わかりやすくiPS細胞の研究意義についてご紹介をいただきました。

お祝いの言葉とともに、4年前のブログを再掲させていただきます。

「iPS細胞が拓く医学」
http://www.keiomcc.net/sekigaku-blog/2008/07/ips.html

山中先生、本当におめでとうございます。

「変人の役割」  猪瀬直樹さん

photo_instructor_639.jpg「見えないものを見る、聞こえない声を聞く」
これは、人間が発揮できる究極の能力である。

私が敬愛する東洋思想研究家の田口佳史さんの説である。
未来、人のこころ、背後に隠れたものといった見えないものを見通し、聞こえない音や声を聞き分けることが出来ること、それが「玄人」と呼ばれる人の特性だという。

「見えないものを見る、聞こえない声を聞く」ということは、予知能力や透視眼、テレパシーの類ではない。
微かな兆候を見逃さないこと、小さなつぶやきに耳を凝らすこと、である。
私なりに解釈すれば、修羅場経験を積んだ人だけに備わる「直観力」のようなものだと思う。

猪瀬直樹さん、そんな「直観力」を持った人なのだ、とつくづく思った。

講演の話題は多岐に渡った。
東京都による尖閣諸島購入騒動、オリンピック招致活動、都が模索する新たな電力供給源etc。
副知事として直接関わった当事者ならではの裏話もあって、どれも興味深いものであった。

その中でも、猪瀬さんが、多くの時間を割いたのはふたつの話題。
猪瀬さんの「直観力」を象徴するものであった

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儲かる仕組みを異業種に学べ  山田英夫さん

photo_instructor_638.jpgビジネスモデル(山田先生の定義によれば「儲ける仕組み」)の議論になると、その成功例としてアップルやグーグルのような画期的で斬新な例が話題にのぼる。
そこには、なんとなく他人事ような真剣さが薄い雰囲気が漂うことが多い。

しかし本当にそうだろうか。
伝統企業による寡占状態が続いている成熟産業であっても、工夫次第で、ビジネスモデルのイノベーションは起こせるはずだ。
それが山田先生の問題提起であった。

例えば、文具業界では、15年間に3回のビジネスモデルが登場したという。
アスクルの登場が1回目のイノベーション。
大塚商会が仕掛けた集中購買システムの成功が2回目。
数年前からは、先進企業を中心に、リバース・オークションという新しい購買形態が始まった。
こういう変化が起こりうるのは、文具業界だけではないはず。
変化を読み解くヒントは「異業種に学ぶ」こと。異業種のビジネスモデルを移植することである。

山田先生は、5つの具体例をあげて、異業種にあるヒントを解説してくれた。
1)スターマイカ
賃借人が住んでいるマンションを売買する「オーナーチェンジ」に特化した不動産事業である。この会社のモデルは、金融の「裁定取引」をヒントにして考案された。

2)コマツのKOMTREX
GPSによる建機の位置情報管理を通じたモニター&制御システムである。
このシステムは、富士ゼロックス社の「マネージド・プリント・サービス(MPS)」と驚くほど似ている。

3)楽天のバスサービス 
ホテルの稼働率向上策として活用されていたレベニューマネジメントを、楽天トラベルが、バスの稼働率アップ策に転用したものである。

4)日本ゴアのゴアテックスブランド
インテルが「Intel inside」で成功した成分ブランドマーケティングと同じやり方である。

5)ブヂストンのリトレッド(再生タイヤ事業) 
GEの航空エンジンと同じで、製品を売り切らずに低価格とする代わりに、メンテナンス契約で長く稼ぎ続けるモデルである。

いずれも、成熟産業におけるビジネスモデルのイノベーション例である。
しかも、他業種の成功モデルに、その範がある。意識して考えたか、無意識にそうなったのかは別として、「儲かる仕組み」には業種を越えた共通点があるのだ。

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