« 2011年5月 | メイン | 2011年7月 »

プロセスにこだわる経営 辻井隆行さん

untitled.bmp
パタゴニア社の創業者イヴォン・シュイナードは、ユニークな経営者である。
経営者としてのモットーは「MBA」。といっても"Master of Administration"ではない。
イヴォンの場合は、"Management By Absence(不在による経営)"
1年の半分は会社を留守にし、世界中の自然を渡り歩き、サーフィン、フライフィッシング、クライミングを楽しみながら、使用者の立場から自社製品への意見フィードバックをしているという。
「いい経営者は社員を見張らない」が口癖だと言う。

日本支社長の辻井隆行さんのキャリアもイヴォンに負けないくらいにユニークである。
photo_instructor_566.jpg
大卒で就職した大企業を二年で退職。早稲田の大学院で「日本人の自然観」を研究した。
修了後は、シーカヤック専門店の店員やスキー場のパトロール、シーカヤックガイドで暮らしの糧を稼ぎながら、アウトドアースポーツにどっぷりと浸かる生活を送った。
パタゴニアに入ったのは三十歳を過ぎてから、パートタイムスタッフとして渋谷の店で働き始めたのがきっかけだったという。

二人とも、経営者になろうと思ってなった人ではない。好きなことにのめり込み、こだわっているうちに、いつのまにか経営者になっていた。
そんな感じであろうか。

続きを読む "プロセスにこだわる経営 辻井隆行さん"

21世紀の日本発イノベーションとは  辻野晃一郎さん

「いまの大学生は、井深大・盛田昭夫という名前を知らないのです」
photo_instructor_565.jpg
辻野晃一郎さんは、自分の故郷であるソニーの創業者二人の名が、日本社会で急速に忘れ去られようとしている現実に驚いたという。
一方で、二人の名前は、シリコンバレーのITベンチャーの間では、今も語り継がれている。
1999年、スティーブ・ジョブスは、アップルの新製品発表スピーチの冒頭で、前日に亡くなった盛田昭夫の偉績に触れた。
トランジスタ、トリニトロン、CD、ホームビデオ、ウォークマンetc... 既に過去のものとなった技術も含めて紹介しながら、MORITAのようになることが若い頃の夢であったと語った。

2007年、Googleに入社した辻野さんは、わずか20時間滞在という強行スケジュールで訪日したエリックシュミット(当時のGoogle CEO)と初めて顔を合わせた。
辻野さんがソニー出身だと聞いたエリックは、ソニーがいかに素晴らしい会社であったかを熱く語ったという。

ソニーとGoogleの共通点は何か。
「イノベーションを宿命とした会社であること」
辻野さんは、そう喝破する。
先述のソニーのイノベーションが、世界のエレクトロニクス産業を変え、人々のライフスタイルを変えたように、Googleの検索エンジンは、情報探索の方法を変え、知のあり方を変えた。クラウド・コンピューティングは、マイクロソフトやインテルが作り上げた20世紀型IT産業の力学構造を変えようとしている。

「イノベーションは、リスクを取ることから始まる」
だから、異能・奇才が活躍できる。

ソニーは、創業者のカリスマ性や、創業期に入社した冒険心溢れる世代が作り出した企業文化が、異能・奇才を育んだ。これまでに夕学の登壇した出井伸行氏、天外司朗氏、そして辻野さんもその一人だろう。
創業者が亡くなり、カリスマの余韻が消えるとともに、冒険者世代が退場したことで、いまソニーは、普通の大企業に変わろうとしている。

Googleは、もっとシステマティックに異能・奇才に場を与えようとしている。
自由な服装、遊び感覚溢れるオフィス、24h無料食堂etc...。いずれも、仕事とプライベートの境界を取り去り、異能・奇才の遺伝子を24時間ONの状態にするために設計された意図的な環境である。
だから仕事に「のめり込む」ことが出来る。泥臭い、地道な作業も厭わない。
すべては、イノベーションを生み出すために、考えられた生態系維持システムである。

続きを読む "21世紀の日本発イノベーションとは  辻野晃一郎さん"

ヒットの方程式は「e=mc²」 干場弓子さん

photo_instructor_564.jpg出版というのは、新規参入が難しい業界だという。
腕利きの編集者が、著名作家との個人的繋がりを武器に独立する例は多いようだが、それはあくまでも個人事務所の域を出ないものであって、企業として、ある程度の規模に成長させるのは難しいとされる。
干場さんによれば、幻冬舎とディスカヴァー・トゥエンティワンの二社が希有な例で、他にはほとんどないという。

端的にいえば、業界構造が閉鎖的で、新規のビジネスモデルが入り込む隙間が少ない業界のひとつになるだろう。
そんな業界にあって、ディスカヴァー・トゥエンティワンは、この数年、特色のある書籍でヒット作を出し続ける注目企業と言えるだろう。
無名だった勝間和代氏を世に出し、知る人ぞ知るコンサルタントであった小宮一慶氏をベストセラー作家にした。
『ニーチェの言葉』は百万部の大ベストセラーになった。

同社を設立し、育ててきたのが、干場弓子さんである。
2年前に、小宮一慶さんに夕学に登壇いただいた際に、「面白い人ですよ」とご推薦をいただいてから、いつかお呼びしようとタイミングを狙っていた。

続きを読む "ヒットの方程式は「e=mc²」 干場弓子さん"

「水を治める」ということ 中村哲さん

photo_instructor_563.jpg
「人々を飢えと洪水から救うこと」

私の中国古典の師である田口佳史さんによれば、古代に中国の政治リーダーに求められた最大の仕事は、「治山・治水」であったという。
豊かな恵みをもたらす一方で、時に激しく荒れ狂う大黄河を、治めることが出来るかどうか、が指導者の最大の眼目であった。

豊潤で深淵な思想文化が花開いた古代中国に、唯一絶対の一神教が生まれなかった理由もここにあるという。
人間の救済は、人間のみが可能である。
「水を治める」ことが出来るのは、神でも仏でもない。治山・治水の技術に長けた現世のリーダーである。
それが、中国古典の底流に流れる合理的な精神にも通じるという。

中村哲さんのお話を聞くと、アフガンにも同じことが言えるようだ。
アフガンの地は、ヒマラヤの根雪を源流とするインダス河水系の河川が支える農耕の土地であった。気まぐれな河の流れとどう付き合うかに、人々は腐心をしてきた。
しかも、地球温暖化の影響を受けて、渇水と洪水の厳しさは、年を追う事に振れ幅が大きくなり、深刻なものになっている。

パキスタンのハンセン病治療のボランティアとして、彼の地の渡った中村さんは、病気の治療云々の前に、アフガンの地に厳然と屹立する「生きる」という問題に立ち向かわざるを得なかった。

続きを読む "「水を治める」ということ 中村哲さん"

「好きか、好きでないか」 石坂浩二さん

「この数年、(慶應に)こき使われておりまして...(笑)」

photo_instructor_575.jpg石坂浩二さんの講演は、ため息気味の愚痴を披露することで、会場をほぐすことから始まった。

確かに慶應義塾は、2008年の創立150年記念事業にちなんだ数々のイベントで
石坂さんに頼り切りであった。

・記念講演会『学問のすゝめ21』岡山会場での講演

・天皇皇后両陛下を迎えた記念式典での司会

・東京・大阪・福岡で開催した『福沢諭吉展』での音声ガイドナレーション

ここ一番という役回りで、石坂さんに大役を引き受けていただいた。
そして、今回の『夕学五十講』
石坂さんも、もういい加減十分だろう、と思っていらしたに違いないが、150年記念事業室長として、上記のイベントを仕切った慶應の岩田光晴さんに仲介をいただいて実現した。

岩田さん、ご尽力ありがとうございました。
石坂さん、本当に感謝をしております。

石坂浩二さんは、慶應義塾高校在学中に「通行人役」としてテレビに出演するようになって以来、半世紀以上途切れることなく、重要な役どころで活躍をされてきた希有な俳優である。
映画、テレビ、舞台。
大河ドラマ、ホームドラマ、時代劇、クイズ・情報番組。
役者、司会、回答者、コメンテーター、ナレーター。
その幅の広さには驚嘆する。
しかも、絵画、写真、作詞、骨董鑑定等々。文化人としても玄人領域に達している世界がいくつもあるという。
芸能界の「知の巨人」といってよいだろう。

続きを読む "「好きか、好きでないか」 石坂浩二さん"

夢の力 武田双雲さん

photo_instructor_562.jpg
武田大智少年(双雲さんの本名)の少年時代を想像してみる。
休み時間になると、いつも机の回りに友人達が集まり、輪ができる。
中心にいる、ひときわ身体の大きな大智少年は、やたらと大きな声でしゃべりながら、なにやら絵を描いている。
それは、先生や友人の似顔絵かもしれないし、昨日のテレビドラマの主人公かもしれない。
彼がひと言冗談を発するたびに、笑いが広がり、ひと筆鉛筆を走らせるたびに、驚嘆が起きる。
始業のベルが鳴っても大智少年の言葉と手の動きは止まらず、教室にやってきた先生は「またか!」という表情で、一喝する。
怒られながらも、大智少年の笑顔は消えることはない、叱りながらも、先生の口元は笑っている。
ちょっと調子もので叱られることも多いが、いざという時には目の色を変えて集中する。
クラスの中心で、誰からも好かれる。きっとそんな少年だったに違いない。

35歳になり、書道家武田双雲として、脚光を浴びるようになったいまも、天性の明るさと人懐っこさは変わらない。
身体中から正のエネルギーを発散し、周囲からも引き出すことができる人。"気の元"になる人である。

続きを読む "夢の力 武田双雲さん"