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文化としての「ソングライティング」 佐野元春さん

「詩=言葉」は力を失ってしまった、とよく言われます。現代詩が文学ディレッタントに終始するかぎり、そう言われても当然です。しかしどうでしょうか。唄の詩人達=ソングライターたちの言葉は、深く人々の心に届いています。そう考えると、ソングライターたちこそが、現代を生きている詩人といえるのではないかと思います。

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佐野元春さんが、母校立教大学の公開講座であり、NHK教育テレビのドキュメンタリー番組でもある「ザ・ソングライターズ」の企画に際して寄せた文章の、冒頭にある一節である。

夕学の講演も、同じメッセージから始めた。
唄の詩人達=ソングライターたちの充実した仕事ぶりと社会への影響力を見れば、「ソングライティング」という知的営みは、文学、演劇などの他の表現と同様に、現代のパフォーミングアーツとしてアカデミズムの研究対象になり得る一級の表現形式であるはずだ、という自負と確信を持って、佐野さんは「ソングライティング」を語る。

日本語には、伝統的に秀でた言葉のビート(韻律)の文化があったと佐野さんは言う。
例えば、俳句。
五・七・五の形式は、言葉の数の決まり事だが、その裏には、4拍×4小節の韻律が隠されている。

♪♪♪「古池や / 蛙飛びこむ / 水の音 / ・・・・/」♪♪♪

佐野さんが、指でビートを取りながら、この句を詠むと、芭蕉もラップに聞こえてくるから不思議だ。
最後の1小節は無言ではあるが、韻律はしっかりと刻まれる。だから余韻が残るというわけだ。

現代の、唄の詩人達=ソングライターたちもこの系譜を受け継いでいるのだ。

佐野さんのお話を聞くと、ソングライターとは、言葉と音楽の関係をマネジメントする専門家」と言えるのではないかと思う。
例えば、文字や声に表すと重苦しい言葉も、メロディ・韻律・声の組み合わせによって、まったく異なった生命を与えられる。劇的にイメージが変わることさえある。
「言葉」と「音楽」を、感性に頼るだけでなく、経験と技術によってマネジメントする人が、ソングライターであろう。

専門家には、必ずメソッドがある。
佐野さんの場合なら、ソングライティングを「音」と「映像」と「意味」の三つの要素で捉え、このバランスの妙を発揮することだと考えている。
同じように、小田和正さんには小田流の、桜井和寿さん(ミスチル)には桜井流のメソッドがあるはずで、それを佐野さんが表出化させることが、「ザ・ソングライターズ」という企画であった。

優れた歌詞とは何か。
おそらくは、番組の中で、多くのソングライターたちに投げ掛けたであろう問いに、佐野さんは自らも答えてくれた。

  • 他者への優しいまなざしがあるか
  • 生存への意識があるか
  • 言葉に内在するビート(韻律)に自覚的であるか
  • 文字として読んだ時、ポエトリーとして成立しているか
  • 自己憐憫でないか
  • 普遍性がある。時代・性・国籍・年代を超えることが出来る
  • 音と言葉の継目のない連続性があるか
  • 共感を集めることに自覚的か
  • 良いユーモアの感覚があるか

「ソングライティング」を通して、自分自身を知り、他者との共感を紡ぎ、世界を友として、世界を変える。
ソングライター 佐野元春の矜持を感じる。

人類の歴史を見れば、「言葉」も「音楽」も文字よりもずっと早くに生まれた。
「イーリアス」や「オデュッセイヤ」といったギリシャ神話の壮大な叙事詩は、ホメロスが文字に記すより以前に、口承で伝えられてきた物語である。
「古事記」も、元は多くの語り部達が、代々暗誦してきた神々の歴史である。
中世欧州には、吟遊詩人と呼ばれるパフォーミングアーティスト達がいた。鎌倉・室町期の日本では、琵琶法師達が、琵琶の韻律に乗せて平家の盛衰を語り歩いた。
人間の生と死を見つめ、韻律や連続性豊かに、時代・性・年代を越えて、共感を集めようとした先達がいた。

現代社会にあって、その役割を担っているのが、唄の詩人達=ソングライターたちである。


この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/5月27日-佐野-元春/

この講演には3件の「感想レポート」を応募いただきました。
・「詩」を書き、読むということ。(鞠小春(まりこはる)/会社員/42歳/女性)
・共感のラグランジュ・ポイント ~佐野元春という約束~(白澤健志/会社員/41歳/男性)
・佐野元春氏が伝達してくれたこと(Tsutako/語学講師/40代/女性)

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