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下り坂の生き方 小幡績さん

小幡績先生は、大学教員としては有数の人気ブロガーであろう。
「東大首席卒業」「大蔵官僚出身」「ハーバードのPh.D」といったエスタブリッシュなキャリアとは対照的な発言が魅力である。
実にシャープで歯切れがよい。心地よく言い切ってきれる。(例えばこれ
しかも、金融政策からアイドル論、牛丼ネタまで、守備範囲が恐ろしく広い。

夕学の冒頭で、小幡先生は言う。
「世界は変わっている。実は30年も前から...」

1970年代までの「フロー獲得競争」の時代から、21世紀の「ストック主導経済」への移行である。
80年からの30年間は、時代が変わる移行期と見なした方がよい、という意見である。

かつての資本主義は、資本と人民を動員してフローを稼ぎだす時代であった。いかに早く、いかに大きく投資できるかが勝負を決めた。最初は、産業(事業)への投資が進み、続いて資本は、金融に注ぎ込まれていった。

21世紀は、資本が余る時代である。
フローの蓄積で産み出された資本は、次の投資先を見失いつつある。早く・大きく投資すれば誰もが儲かる時代は終わり、投資先を見つけ出す「目利き」ができる者だけが儲かる。
「目利き」が出来ない者の資本は、新興国に集まり、バブルを引き起こす。
このメカニズムは、小幡先生の著書『すべての経済はバブルに通じる』に詳しい。

さて、移行期であるこの30年間に何が起きてきたのか。
それは、移行期の典型的な現象と考えれば説明しやすいと言う。

ひとつは、金融が儲かる。
時代が大きく変わる時、最初に儲けるのは切り替えの早い人である。金融はもっとも足が速く、移動が容易である。だから移行期には金融が儲かる。
「これからは金融立国だ」という掛け声が喧伝されたが、移行期特有の隆盛を本質と見誤ってはいけないと小幡さんは言う。

ふたつめは、辺境が中心に変わり、富が移動する。
フランスの思想家ジャック・アタリは、人類の中心地域は三千年かけて「西から東へ」と移動しきたと説く。(『21世紀の歴史』
メソポタミアからギリシャ・ローマへ、ローマ帝国崩壊後はジェノバ・ヴェネチアを経てアムステルダムやロンドンへ、産業革命を経てボストン、ニューヨーク、シリコンバレーへと世界の富の中心は移ってきた。
いずれもかつての辺境が中心に置き換わってきた歴史である。
いま起きているのは、中心が太平洋を飛び越えて(当然日本も越えて)中国、インドへと移行する過渡期といえる。

ただし移行は一直線には起きない。
移行期には、古いモデルを徹底した方が短期的な競争には強いからだ。社会システムの移行には時間がかかる。いち早く新システムの乗り換えた者は、短期線では負けることが多い。
韓国型はこの典型だという。短期的には大成功。しかし持続力には黄色信号がともる。


新しい資本主義に対応する新システムは、あらゆる次元で二元的な性格を持つ。
地域的には、新興経済の勃興と成熟経済の探索が同時に発生し、産業面では、質を追う者と大量消費を志向する者に分かれる。組織(政府・企業)スタイルは、ボトムアップとトップダウンが並立する

この時、小幡先生の主張する「双対性」概念が輝きを放つ。
「双対性」とは、二つの相対立する要素が同時に生まれ、しかも遠いようでいて関連性を持つという考え方である。
例えば、グローバルとローカルは別々に注目されながら、グローバルを突き詰めるとローカルが必要とされ、ローカルを選ぶようでいてグローバルなシステムを利用せざるを得ない。
皆が同じ方向に向かえば、その中での独自性が必要になる。特殊性をウリにしながらも、標準との相互連結は欠かせない。

経済構造と政策も「双対的」になっていくという。
経済が複雑化するからこそ、政策は単純化せざるを得ない(詳細についてはこちら)。
こういう時代には、ビジョンではなく、フィロソフィで国民のOKを取って、個別政策判断は任せてもらうやり方が一番いい。
小泉改革は、中身の是非は別として、やり方としては理想的だったと小幡先生は言う。

さて、これからの時代、日本は、企業は、どうすればよいか。
国家と資本による競争の時代は終わった。
個人と美・知による競争の時代だという。
先が読めない以上は、成功と失敗を事前に予測することは、どんどん難しくなる。やってみないとわからない。
成功するか失敗するかわからない道を、一歩前へ踏み出すドリブンになるのは、「好きかどうか」「共鳴できるかどうか」である。
最初から大当たりを狙うのではなく、好きなことを、コツコツと工夫してやっていたらいつの間にか大化けした。それが理想であるという。
好きなことをやっていれば、失敗しても納得できる。

これを、小幡先生は「Perfume理論」と呼んでいる。Perfumeの説明と理論の詳細はこちら

単純な力任せの市場は、中国や韓国に委ねよう。
物量以外のものが重要な高度な新しい市場で勝負しよう。
成熟社会の歴史的経験を蓄積しないと出来ないことに特化する。
それが小幡先生の、まとめの主張である。

Perfumeは、国民的アイドルにはなれない。
しかし、国民的アイドルを求める発想をやめて、各自が、自分にとってのPerfumeを選び、育てるやり方だってある。
数多くの本物に触れてきたからこそ身についた好事家のような眼力と長期的視点。
それが求められている。


・この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/1月20日-小幡-績/

・この講演に応募いただいた「感想レポート」です。
「新しい社会」の話から"就活"をみてみると!(TAKA/会社員/40代/男性)