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見えない壁を取り払う 金井真介さん

『ミルコのひかり』というイタリア映画がある。
実在する盲目の映画音響技師 ミルコ・メンカッチ氏の幼少時代の実話が本になっている。
1970年初頭、事故で視力を失った10歳のミルコは、望まない全寮制の盲学校に入る。そこは、同じ境遇(視覚障害)にある子供達が、教会の庇護のもとに暮らし、電話交換手や紡績工として自立するための職業訓練を受ける学校であった。
創造性が豊かなミルコは、決められた職業に就くことを前提にした統制型の訓練教育になじめないでいる。
やがて、「音」に強い関心を持ち始めたミルコは、学校備品のテープレコーダーを持ち出し、さまざまな「音」を創り出すことに熱中する。
野にいる鳥のさえずり、シャワーで創る雨だれの音、紙くずをクシャクシャに丸める音は落ち葉を歩く足音になる。
ミルコは、仲間を集い、音響劇を創ることを思い立つ。というストーリーである。

この映画のテーマは、ミルコをはじめとする視覚障害の子供達が、自分達の可能性が、与えられた道以外に開かれていることに気づくことである。
同時に、視覚障害の子供達を思いやる側の盲学校が、無自覚的に、彼らの可能性を限定してしまっている現実を指弾している。

社会が、庇護という美名のもとに「見えない壁」の中に、障害を持つ人々を隔離してしまっている。そんな現実が至るところにあるのだろう。
ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、そんな「見えない壁」を「体験」と「対話」によって取り払って行こうという静かな社会変革活動である。

金井さんは言う。
視覚障害者は、特別な存在ではない。背が高い低い、運動が苦手、音痴などと同じで、何かの特性や能力が平均的な人々と「違う」だけだ。
世の中は、平均的な人々を規準に、さまざまな仕組みを作るから、何かが「違う」ということが不便につながることは避けられない。
私は身長が185センチなのでよくわかるが、ノッポは洋服を探すのに苦労する。日本間の鴨居に頭をぶつける。
運動が苦手な人は、運動会が死ぬほど嫌だったというし、音痴には、カラオケは苦行である。
視覚障害者は、そんな不便が少しばかり多いだけなのかもしれない。不便を克服する術を身につけてしまえば、渋谷の街に飲みに出かけることが、少しも苦にならないのだ。
彼らは「見えない壁」を自由に乗り越えることができる。

むしろ「見えない壁」に阻まれているのは、わたし達である。
壁の存在に気づくための環境が、暗闇なのだろう。視覚が意味をなさない世界に入ることで、アテンドとして寄り添ってくれる視覚障害者が、普通の人々であることが実感できる。

また、暗闇は、他の五感を鋭敏にさせてくれる。
音、匂い、手触り、言語等々、視覚の支援なしに状況を把握することの難しさを悟り、暗闇環境に適応するための術を知る。
ダイアログを通じて、互いの感覚の違い、認識のギャップを埋めることができる。

「アメリカのように、互いを信頼できない社会では、ダイアログ・イン・ザ・ダークは普及できない」と金井さんは言う。
人々が違いを認め合い、互いが少しずつ配慮をすることができる自律型相互扶助社会であることが、ダイアログ・イン・ザ・ダークが受け入れられる条件であるようだ。
わたし達が、「ダイバーシティ」と呼ぶ概念に近いのかもしれない。

渋谷神宮前の長期開催実験は、もうすぐ2年の期限を迎える。
五感の使い方、感じ方も日本ならではの感性があることもよくわかってきたという。その意味では、実験は成功だったのかもしれない。
では、わたし達は、「見えない壁」を取り除くことが出来るのだろうか。
あなたの一歩が、それを決める。


追記
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/11月-1日-金井-真介/

この講演には3本の「感想レポート」が寄せられました。
1)暗闇を手探りで18年 ~金井真介という焚火~ (白澤健志/会社員/40歳/男性)
2)社会を静かに変えていくプラットフォーム (KLM/会社員/39歳/男性)
3)セミナー・イン・ザ・ダーク (よっしー/会社員/40代/男性)