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「愛でる」という感覚を取り戻す 中村桂子さん

地球上にはじめて生命が誕生したのは38億年前、深海で生まれたバクテリアのような単細胞生物ではなかったかと言われている。驚くべきことに、そのDNA構造は、我々人類とまったく同じであるという。
つまり、生命は38億年前から連綿と続いており、現在地球上に存在する多様な生物は、全て繋がっている。
生命とは、「時間」と「関係」で成り立つ巨大なネットワークでもある。

人類が登場したのは15万年前のアフリカ大陸。農耕の発明により「生物圏」から「人間圏」というサブシステムが枝分かれしたのが1万年前。産業革命により、爆発的な拡大過程に入ったのは、わずか200年前のことである。
現在、人類の拡大速度は、地球の物質循環のそれを大きく上回る「異常な状態」にある。

「異常な状態」にいる私達は、自然を制圧する対象として捉え、科学技術をその道具として開発活用してきた。
中村先生は、「その関係図式を変えよう」と言う。
科学技術と自然の間に人間が入り、両者を融合させる役割を果たすべきだ、とする。

そのためには、価値観(世界観)を変える必要がある。
産業革命以来の「機械論的世界観」から「生物論的世界観」への転換である。
自然は数式で記述でき、人間も機械のような構造体と認識する。だから要素分解することで全てが解明できる。そう考えるのが、「機械論的世界観」である。
「生物論的世界観」は、世界をあやふやで、柔らかく、変化しつづける存在として理解する。だから複雑で、曖昧で、いまもってよくわからないものと考える。

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「言葉」が政治を動かす時代 佐藤賢一さん

「フランス革命」はフランス人にとって、語るのが苦手なテーマらしい。
「王家の伝統」と「自由・平等の価値観」という、ふたつの「フランスの誇り」が激しく対立し、結果的に「王家」を断絶させてしまったという事実を、フランス人は、いまだに消化できないでいるのではないか。
フランスを舞台に数多くの歴史小説を書いてきた佐藤賢一さんの見立てである。

だからこそ、外国人であり、作家である自分が語る。
客観的な視点から全体を俯瞰し、歴史的事実から抜け落ちている部分を直観とひらめきで埋めれば、本当の「フランス革命」に肉薄できるかもしれない。
構想5年、全12巻の大河小説『小説 フランス革命』に取り組む理由がここにある。

日本とフランスは、よく似ている点と大きく違う点があるという。
欧州の歴史家は、江戸幕藩体制とフランス絶対王政は、よく似た封建主義形態と認識しているらしい。中央に王権(将軍家)が君臨する一方で、各地の領主にも封建的な統治権を認めている。

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明治の青春物語が削ぎ落としたものは何か  松本健一さん

松本健一さんは、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』の外部諮問委員も務めている。司馬遼太郎の代表作とされながら、司馬が映像化を頑なに拒否したという、いわく付の作品である。
司馬の思いがどこにあったのか、いまとなって知るよしはない。同じように在野の歴史著述家であり、生前から交流のあった松本さんの役割は、歴史的な考証と司馬のこだわりをバランスさせながら、ドラマ作りに寄り過ぎる余りに、ありえない設定・描写に走らないよう、台本をチェックすることだったという。

『坂の上の雲』は歴史書ではなく、物語である、と松本さんは繰り返す。
そこには、「明治という時代」に対する司馬さんの肯定的な歴史観が反映されており、日本の青春時代を、あえて明るく描き出すために、意図的に触れなかったいくつかの史実があるという。
きょうの講演は、それを忖度しながら読み込むという『坂の上の雲』の高度な楽しみ方を教えていただいた。

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神は細部に宿る  種田陽平さん

「映画は“総合芸術”と言われますが、わたしはこの言葉が嫌いです」

実は控室で、何気なく、「映画って総合芸術ですよね」と口にしてしまったのだ。その言葉に敏感に反応した種田さんは、ソフトで紳士的な対応ではあるものの、力強く反論をされた。
そのまま講演に臨んだ第一声が、冒頭の言葉であった。
映画美術という、個別具体的な部分を担うプロフェッショナルとして、総合という、わかったようで、よくわからないタイトルで、自分の仕事を「ひと括り」にまとめて欲しくはない。そういう意志を感じた。

ふと、分子生命学者の福岡伸一さんの言葉を思い出した。

「部分をいくら集めても、全体にはならない」
「部分をいくら見ても、全体はみえない」
生命は、絶え間ない流れの中にある動的なもの、絶妙なバランスを保ちながら同一性を維持し続けている。部分の集合体は全体でない。
それが福岡さんのお話であったが、「映画芸術」とは、それと正反対のようである。

「部分に徹底してこだわることで、全体に命が宿る」
種田さんなら、きっとそう言うだろう。部分を担うプロの矜恃を持った人である。

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「共同体」ではなく、「共異体」という発想を 小倉紀蔵さん

中国のGDPが日本を追い抜くこと。
韓国併合から100年を迎えること。
韓国思想・文化を専門とする小倉紀蔵先生は、この二つの事実をもって、「日中韓2010年問題」と呼んでいる。
それは、東アジアが150年前の「正常な姿」に戻ることに他ならない。言い方を換えれば、この150年が「異常な姿」であっただけのこと。
有史以来、経済的にも文化的にも、東アジアの中心は中国であった。その差は圧倒的であったのだから。
一方で、世界は異常化する。この20年の中国の急成長は、中国の影響力がグローバルしたことに他ならず、歴史上はじめて、東アジアが世界の中心になる時代が到来したのである。
これが21世紀世界に混乱をもたらすことは間違いない。

東アジア秩序の「正常化」と世界秩序の「異常化」という流れの中で、日本と韓国の果たすべき役割は何か。かつてのように、中国に盲従的に付き従うことではないはずだ。
新たな東アジア像を構築しなければいけない。ただし、日本人が、当然のように発言する日本中心の発想からも抜け出さなければならない。
それが、小倉先生の主張である。

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クールヘッドとウォームハートの人 柳家喬太郎

「あたしゃあ、なぜ、いまここにいるんでしょうかね。いまもってよくわかんないんです」

出囃子で登場するなり、見事なつかみで、会場に笑いを起こした柳家喬太郎師匠。
「いまもっともチケットが取りにくい落語家」と評されるだけあって、きょうも春日部高校での二回の公演を終えて、夕学が、三つめの御座敷とのこと
「Noを言わせない交渉術」を誇る夕学スタッフの熱意に感じ入ってくれたのか、疲れたそぶりもみせずに、二時間たっぷりとお話していただきました。

半数の人が、落語を生で見るのは初めて、ということを知ると、芸能としての落語論をさらりと紹介してくれる。
しかも五代目志ん生六代目円生八代目正蔵(彦六)といった昭和の名人達のモノマネも随所に織り込んで、落語ファンのこころもしっかりと捉える。さすがである。

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第四回 「ハイエク、フリードマンが考えた自由な経済」その2

ミルトン・フリードマンは、ハイエクと同様に「自由な経済」を主張しました。
ハイエクが経済学者から社会哲学領域へとスタンスを変えていったのに対して、フリードマンは、具体的な政策提言や論争を繰り広げたことで知られています。
二人とも、自由主義を標榜する「シカゴ学派」に分類されていますが、先述のようにハイエクは、人間の合理性の限界を認識して「懐疑主義」を貫きました。一方で、フリードマンは、極めて合理性を重視する立場を通し、「期待インフレ率」の考え方やそれを突き詰めた「合理的期待形成理論」という理論を構築しました。

フリードマンの考え方は、1962年の『資本主義と自由』という本を読むとよくわかります。
自由とは、自由放任ではない。むしろ積極的な政策によってはじめて実現する。
フリードマンはそう考え、自らを「急進的自由主義者」と呼びました。
竹中先生は、ハイエクは総論を語り、フリードマンは各論を語ったといいます。

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第四回 「ハイエク、フリードマンが描いた自由な経済」その1

参議院選挙の前日、6年前の選挙の思い出を語ることではじまった竹中先生の経済古典講座第四回。今回は「ハイエクとフリードマンが描いた自由な経済」です。
今回は、二回に分けて、まずはハイエク編です。

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ケインズの登場は、ケインズ革命と称されます。
資本主義の未来を悲観的に予測した言説(マルクスのように)に対して、「こうすれば資本主義は崩壊しない」という処方箋を提示したという意味において、ケインズの登場は画期的といえるかもしれません。
しかし、ケインズ政策は、第二次大戦後、広く取り入れられたわけではありませんでした。
オープンエコノミーのもとでは、ケインズが言うような財政政策・金利政策をとると、確かにGDPは増えるけれども、「クラウドアウト」効果を引き起こし、逆の圧力も発生することが分かってきたからです。

ケインズ後の新たな経済問題に対処した存在が、きょうの主役であるハイエクとフリードマン、そして少しだけ言及したブキャナンだと竹中先生は言います。
彼らのケインズ政策に対する問題意識は次の三つに集約されます。
1)集産主義の弊害
2)スタグフレーションへの対応
3)財政赤字の増大
竹中先生は、1)についてはハイエクを、2)に関してはフリードマンを、そして3)の問題ではブキャナンを論じることで、彼らに共通する「自由な経済」の思想を解説してくれました。

◆ハイエクの生きた時代
F・Aハイエクは、1899年ウィーンで生まれました。当時のウィーンは、ハプスブルク家の支配するオーストリー・ハンガリー帝国の終末期にあたります。ハプスブルク家一族の暗殺が相次ぎ、1914年の皇太子暗殺(サラエボ事件)を契機に、第一次世界大戦が勃発したことで、帝国は崩壊していきます。
ハイエクを含むオーストリー学派の思想的特徴である「懐疑主義」は、こういった時代背景を色濃く反映しているそうです。
人間は所詮非合理な存在であり、情報は不完全なものである。従って人間の理性には限界がある。
そう考える「懐疑主義」は、ハイエクが唱えた「自律・分散」の思想の基層を形成するものだと竹中先生は解説してくれました。

1929年、30歳の時に、英国のフェビアン協会の招きで英国に渡ったハイエクは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで職を得て、徹底したケインズ批判を展開することで、経済学の表舞台に登場します。
フェビアン協会は、当時勢力拡大期にあった英国の社会主義右派の団体でした。
社会主義勢力が、社会主義を猛烈に批判することになるハイエクを引き上げたというのも「歴史の皮肉」であろうと竹中先生は言いました。
ちなみに、1934年にロシア革命が成立し、1932年には、ドイツでナチが、34年にはイタリアでファシストが政権を握ります。さらには38年にはドイツがオーストリーに侵攻します。
19世紀に民主主義を産み落とした欧州で、20世紀の初頭には、「共産主義・社会主義」と「全体主義」がひたひたと台頭していました。
そんな時代の中で、ハイエクは、やがて経済学者から社会哲学者へと、そのスタンスを変え、20世紀後半に花開いた「自律・分散」の政治哲学を説くことになります。


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歴史から学ぶ経済学 若田部昌澄さん

リーマン・ショックからほぼ2年。
-未曾有宇の金融破綻は回避できたものの、回復状況は国ごとにまだら模様で、成長の足取りは鈍い。なによりも「出口戦略」をどう描くかという大きな問題は積み残されている-
これが世界で共有されている経済の現状認識になる。
この認識を踏まえて、世界恐慌や昭和恐慌など「危機時の経済学」を専門とする若田部昌澄先生は、経済学を取り巻く二つの「危機」に言及した。

1)いま世界が直面する経済危機
2)経済学そのものの危機

1)の危機は、冒頭の現状認識に起因するからわかりやすい。
2)の危機は、「なぜ、経済学は、この危機が予測できなかったのか」「合理性で塗り込められた既存経済学への批判が、行動経済学ブームを誘っている」といった声として喧伝されている。

若田部先生は、世界大恐慌時の状況と比較できる諸々の資料を提示しつつ、「経済学の歴史的な知見は、十分に有用である」と語る。

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「夕学五十講」が本になりました

「夕学五十講」の講義をもとにした本が出ました。

『考える力をつくるノート』(講談社)

本書には豪華執筆人9人の
講義録が掲載されています。

・脳科学者の茂木健一郎さん
・クリエイティブディレクターの箭内道彦さん
・ビジネスコンサルタントの細谷功さん
・早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成さん
・脳神経外科の築山節さん
・中国大使になられた丹羽宇一郎さん
・藤巻兄弟社の藤巻幸夫さん
・HACKSシリーズの小山龍介さん
・精神科医の香山リカさん

超多忙はこれらの方々と書籍化の交渉をして、内容を詰めていくというのは、実はかなりたいへんな作業です。
担当編集者である講談社の舟橋さんの熱意があって実現した本です。

<以下、舟橋さんのお言葉から抜粋>

キャッチコピーは、
『もうひとりで考えるのはやめましょう。あなたには、心強い味方がいます』です。

講義を収録したテープやDVDから、
文字を起こし、よりわかりやすい文章へと、編集し、
先生方に再編集して頂いて、、、ようやく刊行の日を迎えることができました!!(涙)

講義そのものよりも、
しっかりと文章を補足説明しているので、情報量が多く、
大変役に立つ構成であることを自負しております。

特に、読んで頂きたいところは、
箭内道彦さんの「矢沢永吉さんがかっこいい理由」のくだりです。
47ページから50ページのところですので、どうぞお見逃しなく!!
特にここの「箭内さんと矢沢永吉さんの会話」は、
40代の男性にズシリと響くようで、社内外から感動の声を頂いております!!

このノートのような装丁や風合いは、
装丁家の文平銀座の寄藤文平さん、篠塚基伸さんが考えてくださいました。
個人的にも品があり、とてもかわいらしく、気に入っています。
ビジネス書よりの書籍ではありますが、
女性にも手にとってもらいやすい装丁に工夫して頂きました。

中身も、外側も充実した1冊です!
ぜひご活用頂けますと嬉しいです!

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『考える力をつくるノート』(講談社)

夕学の会場でも販売しますので、是非どうぞ!!