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「企業の使命と責任」 坂本光司さん

いまから80年ほど前、第一次大戦の後遺症と世界恐慌の傷を癒しきれていないオーストリアに、若きピーター・ドラッカーがいた。
彼は、欧州にヒタヒタと広がる全体主義と社会主義に強い違和感を抱いていた。

一国の利益、個人の利益の最大化を追究する経済至上主義は、人々を幸せにすることはできない。

新しい時代は、人間を歯車として扱うのではなく、自由意思を持った生身の存在として機能させるできである。

その主役は、政治・行政ではなく、挑戦意欲とイノベーション精神をもった企業であるべきだ。


そう信じたドラッカーは、米国に渡り、『CONCEPT OF CORPORATION』(邦題:「企業とは何か」)という本を書いて、世に出た。
そして、新時代の主役である企業が発展拡大するためには、「マネジメント」が鍵を握ることに辿り着き、以降「マネジメントの発明者」として大活躍する。

遅れること50年、ドラッカーが愛した日本で、坂本光司先生は、6000社に及ぶ中小企業を「はいずり回るように」訪ね歩きながら、同じ問題意識を抱いていた。

企業経営の本質とは何か。

企業の使命と責任とは何か。

やがてその答えが、地方や都市の下町にある、名も知れぬ、小さな会社にあることに気づいた。
「日本に三百万社ある会社のほとんどは、間違っている」
「しかし、ほんの僅かだが、素晴らしい経営を実践している会社がある」
「それを、どんな形を使っても、応援したい」

その願いを具現化するために書き上げたのが、『日本でいちばん大切にしたい会社』である。

企業経営とは、
5人に対する使命と責任を果たす(幸せを実現する)活動である。 会社とはその場所のこと。

5人とは、
1)社員とその家族、2)社外社員とその家族、3)顧客、4)地域住民、5)株主・関係者

なによりもまず、社員や取引先を大切にし、彼らの幸せを実現するために、企業は存在する。

こう書けば反論する人はいないだろうが、本当に実践している会社は、驚くほど少ない。
「景気や政策が悪い」「業種・業態が悪い」「規模が小さい」「ロケーションが悪い」「大企業・大型店が悪い」
間違っている会社の社長や社員が口にする言い訳は決まっている。他責の思考である。
しかし、実践している会社の社長は、こういう言い訳をしない。
問題の原因は、内側にあり、自分達は何ができるのかを考える。

以上が坂本先生の主張である。
シンプルでありながら、恐ろしく説得力を感じる講演であった。

『日本でいちばん大切にしたい会社』で最初に紹介されている日本理化学工業の章を是非読んでみることをおすすめしたい。(講演でも紹介された)
必ず、グっと込み上げるものがあるはずだ。
しかし、この章の本質は、感動に酔いしれることではない。社長の「イノベーション精神」こそ、見習うべきだ。
施設の先生や、従業員の熱意にほだされて障害者の採用を決めた社長が、彼らの仕事を作るために考えた思考と行動に、イノベーションの本質があると思う。
ドラッカーやシュンペーターよりも、ずっとわかりやすい。しかし難しい。だからこそ本質であろう。

ドラッカーが、「マネジメントの発明者」という称号を与えられたことで、彼の最初の問題意識や思想は後ろに隠されてしまった。
企業経営のWHATやWHYを語る人ではなく、HOW TOの啓蒙者として神様になってしまった。
『もしドラ』が50万部売れているのはその証左である。

しかしながら、『日本でいちばん大切にしたい会社』も50万部売れているという。

企業経営の本質とは何か。
企業の使命と責任とは何か。

それを考えることが、私達の潜在欲求であることも事実だ。
僅かな希望の灯が、そこにある。