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「したたかな戦略家」 藤原和博さん

藤原和博さんには、夕学だけでなく、他の講座のゲスト講師としても登壇いただいており、その都度、控室でもお話を伺ってきました。
その経験から、藤原さんには、「表に見える能力」と「見えにくい能力」の二つの能力があると思っております。
「表に見える」ものは、カリスマ的な魅力です。
親しみやすい雰囲気、流れるようなプレゼン、ユーモア、自信、豪快さ、頭の回転の良さetc....
売れっ子コンサルタントや評論家、ベンチャー起業家などに共通してみられる特性です。

では、「見えにくい能力」とは何か。
それに気づいたのは、昨年夏に、ある講座のゲストに来ていただいた時でした。

ひょんなことから「人脈」の話題なり、藤巻幸夫さんが、携帯電話のアドレス1000件を毎年更新し直しているというエピソードを振ったところ、「オレはケータイ使わないんだよね」と言いながら見せてくれたのが、A3サイズの紙に小さな字でびっしりと書き込まれたリストでした。
それは、アドレスリストというよりは、ネットワークマップのようなもので、藤原さん独自の分類軸をもとに、いくつかにグルーピングされています。

「誰かに電話する時に、その周りにある奴の名前を見るんだよ。 そうすると、こいつにも声掛けると面白いゾ とか、アイツと話が合いそうダ! とか浮かんでくるわけ」

このネットワークマップを毎年のように作り直すそうです。全て手書きですからかなりの作業時間だと思いますが、その時々で、問題意識や会う人々が違うので、マップの絵柄が変わってくるのでしょう。新しいグルーピングをしながら、人と人を「つなぐ」イメージが沸いてくるのかもしれません。

同じ時に、彼のノートも見せてもらいました(こちらも大きめ)。これは、業務日誌やメモ帳、アイデアノートなどを併せたようもので、やはり細かい字でビッシリと書き込みがあり、図やポストイットなども、きれいに貼ってあります。
『リクルートの奇跡』『つなぐ力』を読むと、リクルート事件の際の様子や、夜スペの企画から実現までのプロセスが、日付明記で詳細に記述してあり驚きますが、このノートあってこその具体性だと思います。

藤原さんは、表に見えにくいところでは、緻密で、分析的なことをしっかりとやっている人だとお見受けしました。
先述の「表に見える」能力だけの人は、発想やアイデアには目を見張るものがあり、人を巻き込んで大きな企てに着手することは出来ますが、継続性に欠け、頭の固い人達を味方にしたり、剛構造組織を動かすことが苦手です。
えてして、「夢想家」「あきっぽい」「大風呂敷」というレッテルを貼られることになります。

藤原さんは、それが出来ます。ゆえに活躍のフィールドを変えても、その都度着実な成果を出してきました。
「表に見える」能力に加えて、「表に見えない」の能力の下支えが、それを可能にしたのではないでしょうか。

さて、前置きが長くなり過ぎました。
藤原さんが、主張されている「つなげる力」とは、まったく違う要素をつなぐことで、これまでにない新しい価値を創造したり、出来なかったことを実現したりする力を意味します。
「情報編集力」は、対比概念である「情報処理力」と比べることでよくわかります。
「情報処理力」は、正解を導く力です。
コロンブスのアメリカ大陸発見は何年?と聞かれて即座に1492年と答えられるのは情報処理力です。ジグソーパズルを組み合わせるのに似ています。
一方「情報編集力」とは、納得解を導き出す力です。
正解のない問題に取り組んで、自分が納得し、かかわる他人を納得させることです。

ジグソーパズルが早くできる人間にできないことは何でしょうか。
パズルそのものの図柄を決めること、変えること、いわば「世界観」を描き出すことです。日本人はこれが決定的に苦手だと言われています。
「ビジネスの世界でも、教育の世界でも、一番足りないことは、まったく同じだ」と藤原さんが喝破する所以です。
戦後の復興、高度成長期は世界観を問われることはありませんでした。
「みんな一緒」に目的、夢に邁進できたからです。
しかし成熟社会を迎えた今「情報編集力」の欠如、世界観を描く力の不足は致命的な問題になります。
「みんなそれぞれ」の目的、夢を創りださなければ幸せになれないからです。


長くなり過ぎた「前置き」を踏まえて、藤原さんの話を聞くと、「つなげる力」というものが、実に大きな概念であることに気づきます。
発想、ネットワーク、コミュニケーションを含むものの、それだけではなく、戦略を実現させるための包括的な力を意味しているのではないでしょうか。

まったく違う要素を「つなげる」から、革新的な戦略が生まれる
まったく違う要素を「つなげる」から、種々の資源(金銭や人材)が調達できる
まったく違う要素を「つなげる」から、人と組織が動かせる

金井寿宏先生が言う「リーダシップの不変の2軸」である、「大きな絵を描くこと」と「他者を使って実現すること」の二つのリーダシップを統合する概念が「つなげる力」だと思いました。

しかも、幼い頃から、日常生活の中で、意識をして取り組めば、藤原さんまでいかないにしても、ある程度まで出来そうだと思わせてくれる「身の丈一致感」があるのがいいですね。

・年齢の違う友達と遊ばせる
・正解のない問い掛けをして、自分の意見を言わせる
・周りの人と意見交換、議論をする
・名刺を持たずに自己紹介する  などなど。

講演の中で、藤原さんが随所に散りばめた「つなげる力」育成方法は、けっして難しいことではありませんでした。しかし、意識をしないと出来ないことでもあります。


さて、最後に、今回の講演ではあまり触れられませんでしたが、大阪での学校改革も着実に進展しているようです。興味のある方は、是非藤原さんのサイトをご覧下さい。
よのなかネット http://www.yononaka.net/

口には出しませんが、藤原さんには、緻密で分析的なスケジュールプランがあるはずです。
「したたかなる戦略家」 藤原和博さんが、大阪の公教育をどう変えていくのか。
数年後に、4度目の登壇をお願いしましょう。