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意思決定の実際と対策  長瀬勝彦先生

随分と前のことですが、とある組織で人事部に配属され、新卒採用の仕事に携わった時期があります。その時に、人事部長から、面接用の評価シートの修正を命じられました。
我が社の求める人材像をもとに、一般教養・知識、表現力、論理力、対話力等々いくつかの能力項目を設定して、それに見合う具体的な行動評価項目を洗い出しました(例えば、挨拶ができたか、笑顔の印象はどうか、時事問題に答えられたか、簡潔な自己紹介ができたか、志望理由に説得力を感じたか、厳しい質問にどう対応したかetc)
評価シートは、それらを10項目程度のチェックリストに仕立てて、5点法で点数化しました。もちろん重要な項目には加重をかけて総合点がでるようにしてあります。
ところが、人事部長は、実際の面接の際には、項目は一切チェックせずに、ただ総合点だけを付けて、横になにやら走り書きのメモを書き入れていました。
「使わないのなら作らせるなよ!」と腹を立てて、先輩に訴えたところ、「君の勉強のために作らせたのだよ」「でも、よく出来ているから僕は使うからさ」と慰めてくれたものです。
にもかかわらず、その先輩も実際は、まず総合点を書き入れて、あとで要素毎の点数を逆計算しながら記入していました....

間違いのない判断を下すために用意された、さまざまな分析ツールが、実際に意思決定をする際には使われない。 この種の経験は多くのビジネスパースンが持っているものではないでしょうか。
頭で考えた理屈と実態の意思決定の乖離現象。それこそが、長瀬先生が専門とする行動意志決定論の研究領域です。

長瀬先生は喝破します。
「人間は、理性的に意思決定しているつもりでも、実際に決めているのは無意識であって、理性は事後的に自分の選択肢を説明するための理由を構築しているに過ぎない」
人間の意思決定は、「神の見えざる手」ならぬ、「無意識の見えざる手」に委ねられているのだということです。

しかも、無意識は、疲れを知らない働きもので、一生懸命何かを考えていると、意識的に思考しなくても、無意識が思考を続けてくれることがあります。
ニュートンが、リンゴの落下を見て、万有引力の法則を閃いたのは、リンゴの落下という情報に意味があったというよりは、その前提としてニュートンが無意識に思考を続けていたことが重要だったということです。
無意識は創造力の源泉でもあるのです。

そんなスグレモノの無意識の意思決定ですが、いくつかの致命的な欠点を持っています。
1.早とちりをしがち
(専門用語では「バイアス」と言われており、数十種類の「バイアス」が解明されているそうです)
2.融通がきかない
3.短期志向になりやすい
(人間は、本能として目の前の利益に飛びつく傾向がある)

無意識の意思決定は、過去の成功体験の影響を受けており、また、人間の本能的な傾向に引っ張られてしまうので、環境が大きく変わった場合に、思わぬ失敗に陥る可能性があります。
特に、経営上の意思決定ミスの多くは、ここに起因すると言われています。
講演では、具体的な「バイアス」例として、「埋没コスト」を紹介してくれました。
人間は、過去に注ぎ込んだ時間・労力・お金が多ければ多いほど、それにとらわれて、諦めた方がよいことに執着してしまうというものです。
浮上が見込めない赤字事業をズルズルと続けている企業の場合、経営者が、過去の「埋没コスト」に引っ張られて冷静な判断が出来ない場合がほとんどだと言います。

では、どうやって意思決定をすれば、よりよい意思決定が出来るのでしょうか。
長瀬先生は、意識と無意識の「折り合いの妙」をつけることだと言います。
端的に言えば、
まず、意思決定の現実を知ること
合理性・論理性の限界を知り、意思決定における無意識の働きをよく理解すること。
次に、無意識の欠点を知ること
無意識はどういう間違いを起こすのか(バイアス)を、あらかじめ認識しておくこと
最後に、欠点を補うこと
無意識の意思決定は必ず間違えるので、間違えを補正するための対策を事前に打っておくこと
になります。

例えば、赤字事業の撤退基準を決めておくこと、必ず批判ができる人物を意思決定集団に加えること、最終判断に第三者の意見を聞くプロセスを入れることなどが、それにあたります。
現在放映中の『篤姫』に、「一方聞いて沙汰するな」という母親の戒めを実行する場面がありましたが、まさに、こういう知恵が必要だということでしょうか。

最後に、長瀬先生は、意思決定をスキーに擬えました。
「スキーは自己流では上達に限界がある。上達するためには、後傾姿勢になろうとする本能に逆らって前傾姿勢を保たなくてならないのに、自己流ではそれに気づかないからだ」
上手く滑るようになるには、「向こう脛をスキー靴の押しあてる」とか、「谷足のヒザを山足のヒザ裏にくっつける」といった、ちょっとした、しかし実践的なアドバイスが有効なように、優れた意思決定にも「コツ」が必要です。

では、どんな「コツ」があるのか。
それは是非、MCCの『主観を磨く意思決定』で学んでいただければと思います。