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宇宙から見た人間の営み 松井孝典さん

「夕学五十講」が始まって丸7年。400回近い講義が開陳されてきましたが、果たして、ここまでスケールの大きな講義はあったでしょうか。
松井先生の提唱する“地球学的人間論”とは、「天と地と人の和」を最新科学の知見を使って理解しようというものです。
ギリシャ・ローマに端を発した「哲学的人間論」ではなく、ダーウィンを嚆矢とする「生物学的人間論」でもない。我々の人間の営みを宇宙から俯瞰してみようという、巨視的な試みであります。

“地球学的人間論”とは何かを論じるにあたって、松井先生は「二つの前提」を説明されました。
ひとつは、宇宙からの視点
それは「俯瞰的・相対的・普遍的」の3つの原則に立脚することです。
・宇宙規模で全体が論じられている(俯瞰的)
・存在を特殊化せず「他にある(いる)のではないか」と考える(相対的)
・より広い時空で成立する概念である(普遍的)
「3つの視点でみると、既存の学問体系のうち、成立しうるのは物理学・化学だけで、生物学・地学などは地球のみで成立する学問に過ぎない。ましてや社会科学などは...」
松井先生はそう言います。

いまひとつは、「二元論」「要素還元論からの脱却
人間は新たな情報を得ると、それを大脳皮質に格納された既存知識と関連づけながら新たな内部モデルを作り上げますが、科学者は既存知識として「二元論」「要素還元主義」の二大ルールに縛られています。
それから脱却することだそうです。

宇宙は、137億年前のビッグバンに始まり、いまもって膨張を続けているわけですが、自然界には、宇宙の歴史的痕跡が刻み込まれており、いわば「宇宙の古文書」の役割を果たしています。
それを解読する作業から“地球学的人間論”は始まるそうです。

宇宙をシステム的に捉えると、地球システムにおける「人間圏」が「生物圏」の一要素から独立し、サブシステムとして分離したのは、およそ一万前になります。
「人間圏」の誕生は、農耕の開始によって特徴づけられるとのこと。
それまで「生物圏」のひとつの種として、狩猟採集によって環境から受け身で生命を繋いできた人間が、農耕をすることで環境に対して相互作用的な存在に昇格し、「人間圏」を作り上げることが出来たと松井先生は解説されました。

なぜ「人間圏」は誕生できたのか。
その理由を松井先生は、「おばあさん」と「言葉」というユニークなキーワードで説明します。
「おばあさん」とは、閉経後の女性を意味し、出産という機能を有しない女性が生きながらえることが出来るようになったことで、「知恵の伝承」システムが生まれ、「人間圏」の誕生が可能になりました。
“おばあさんの知恵袋”は、古き良き家庭道徳の世界ではなく、地球学的に説明できるというわけです。

また、「言葉」を持ち得たことで、情報伝達が飛躍的に高まりました
それは、人間が抽象概念を核に強固な一体性を持つことを可能にしました。松井先生はこれを「共同幻想」という言い方をして重視しています。
「共同幻想」は、原始宗教にはじまり、各種の宗教を産み、哲学や思想を導きだし、近代の資本主義社会や進歩史観的な科学技術論に至っています。

では、この一万年の「人間圏」の歴史を地球学的にみるとどうでしょうか。
松井先生は、20億年続いた「生物圏」が、地球システムにおいて親和的で安定性があったのに対して、「人間圏」は地球システムと非適合的であると言います。
特にこの100年の「人間圏」の拡大速度は、地球の物質循環を大幅に上回ってしまいました。
そのスピードはおよそ10万倍で、この100年の「人間圏」の拡大は、地球時間の1000万年に相当するそうです。
現代の環境問題やエネルギー問題は、「人間圏」と地球システムとの間に生じた亀裂に違いないと松井先生は警鐘を鳴らします。

ソーシャルネットワークが注目されるのは、現代社会に「おばあさん」的な知恵の伝承システムが機能しなくなったことのパラドックスかもしれません。
この100年の人類の発展は、「共同幻想」の自己増殖が暴走をはじめ、制御不能に陥った状態とも言えるかもしれません。

「人間圏」を成立ならしめた二つの機能が不全状況にあるとしたら、「人間圏」の未来は限りなく暗いことになってしまいます。

随分と暗い示唆を披露しながら、松井先生はどこか冷めた姿勢で淡々と語ります。

生き延びるためだけならば、人間は「生物圏」に留まった方がよかった。にもかかわらず「人間圏」が生まれたのには、何か理由があるはずだ。
宇宙規模で捉えた時に「人間圏」が生まれた普遍的な理由は何か。

“地球学的人間論”は、その存在を示唆しているのかもしれません。