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「読み」と「大局観」で勝負する 羽生善治さん

満席の聴衆で埋め尽くされた羽生さんの講演は将棋の歴史を紐解くことからはじまりました。
将棋の原型となる「チェトランゲ」というゲームが生まれたのは紀元前2千年頃のインドだそうです。その後このゲームは長い年月をかけて世界に広まりました。伝播の過程では、各国ひとつのゲームといってもよい程に、国ごとに異なったゲームとして定着したようです。それゆえにその国の文化や風土を色濃く反映しながら発展してきました。
平安時代に輸入された日本の将棋が現在の形に完成したのはおよそ400年程前でした。他国と比べて際だった特徴は「駒数や盤面が少なく小さい」という点と「取った駒を再利用できる」という2点に集約されるそうです。羽生さんは、これを「無駄を極力省き、全てを言わずに言いたいことを表現する侘びさびの文化や和歌の価値観に通ずるものがある」言います。シンプルになる一方で、取った駒を使えるようにすることで、打ち手が飛躍的に増え、ゲームとして面白みが増しており、日本文化の深みを感じさせてくれるとのこと。
江戸時代以降、家元制度のもとで、勝負というよりは、芸術として継承されてきた将棋が、再び真剣勝負の世界に戻ったのはそれほど古いことではないそうです。勝負としての将棋は、坂田三吉に代表されるように、知的技能というよりは、人対人の人間力を競い合う戦いとして発展してきたそうです。
そしていま、将棋はITをフル活用した綿密な情報収集と論理的分析に拠った体系的なアプローチが主流になっているそうです。
このような歴史的背景を受けて、羽生さんが考える「現代の将棋の戦い方」へと講演は進んでいきました。

羽生さんは、体系的なアプローチが主流になることにより、現代の将棋に次の3つの変化が生まれたと考えているそうです。
1. 事前の戦略・戦法に選択が重要になった。
かつては弱者の戦略であった「事前の準備」が必須のものとなり、行き当たりばったりでは絶対に勝てなくなったこと
2. 画期的な作戦の有効性寿命が短くなった。
どんなに素晴らしい作戦もあっという間に広まり、対策が練られてしまうこと。
3. 打ち手が多彩になり(広く・浅く)、オールラウンダーが存在しなくなった。
人間の知力の限界を超える程に選択肢が広がってしまった。

このような変化は、将棋の戦法、棋風の変化を促すことになります。
羽生さんは、それまでの「1000手先を読む」と言われた高性能コンピュータのような分析型棋風から、ベーシックなセオリーを身につけたうえで、「直感」で戦う棋風へと大きくパラダイムチェンジをしたそうです。
具体的には、「読み」と「大局観」による将棋です。
「読み」とは、まず直感で思い切って2~3に絞り込んだ打ち手を徹底的に読むということで、全ての打ち手を読むよりもはるかに効率的です。とはいえ、一手ごとにそれをやるわけですから、時には読み切れずに打たなければいけない局面もでてきます。
その時に「大局観」が求められるそうです。これは打ち手そのものではなく、「とにかく攻めよう」「いまは我慢しよう」といった、もう一段上の方向性だけを決めるというもので、打ち手の選択に迷った時の意思決定基準になるものです。
「直感」で、打ち手を粗選びし、「読み」で精緻に検証する。それでも駄目なら「大局観」に従う。それがいまの羽生さんの棋風です。

そんな羽生さんといえども、「読み」と「大局観」を使ってもなお迷う時があるそうで、そんな時は原点に立ち返って「直感を信じる」そうです。直感とは、その人が長い間に重ねた経験の蓄積として身につけた無意識の枠組みに沿って選択された「暗黙知的な能力だと信じているからです。これはそのままビジネスの世界の意思決定においてもあてはまる普遍的な話ですね。

また羽生さんは「直感」的な意思決定が陥りやすいバイアスもよく承知していて、次のような留意点を常に心がけているそうです。
1. 意識的にリスクテイクする
「直感」で選択すると無意識のうちに安全な方へ流れてしまうので意識して冒険的な打ち手を選ぶようにすること
2. 面倒だけれど新しいやり方に挑戦する。
「直感」は、過去の成功体験に縛られるという側面もあるので、意識して新しい事に取り組む。それが異説・異端の手とされていることでも躊躇しない
3. 繰り返すことで理解していく
同じことを何度も繰り返していくと、ある日突然バラバラになっていたものの関連性が見えてくる。一度で全てが解決できるものではない

最新の認知心理学やモチベーション理論の知見とまったく同じことを羽生さんは将棋の世界から紡ぎだしているようです。しかも圧倒的な分かり易さと説得力に満ちています。異なる世界の極人から学ぶことの重要性を改めて思い知りました。
羽生さん恐るべし。

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