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「演劇の力」 平田オリザさん

「例えば電車や飛行機で隣に乗り合わせた人がいるとします。あなたは隣の人に自らは話しかける方ですか?」
平田オリザさんはこの質問を世界中でしますが、その返答傾向はお国柄がはっきりと反映されるそうです。日本や英国は自ら話かける人の比率が少ない一方で、米国やアイルランドは圧倒的に話しかける人が多いとのこと。日本が少ないのは容易に想像できましたが、同じアングロサクソン系の民族でも傾向が違うのはおもしろいことです。平田さんによれば、この違いは、その国が培ってきた文化・社会特性や歴史的背景に依拠しているとのこと。英国は階級社会で、社会階層が異なると表現方法が異なるため、よく分からない人には容易に話しかけにくにのだそうです。日本や韓国語など相手に応じて敬語を使い分けなければならない言語圏では同じ傾向があります。一方で米国は開拓時代の名残からか他者との敷居が低くフランクです。アイルランドもパブ文化の影響で初対面の人とすぐに打ち解ける気質があるとか。つまり我々のコミュニケーションスタイルは、自身が置かれた社会的・文化的状況に強い影響を受けるわけです。
きょうの講演は、これを踏まえたうえで、その影響をどう乗り越えてコミュニケーションをとっていけば良いのかを示唆してくれるものでした。

平田さんによれば、日本人は、冒頭のシチュエーション設定で「ご旅行ですか?」というセリフを言うことが著しく下手だとそうです。普段使いなれない表現ほど自然に言うことが難しいからです。平田さんはこの現象を「コンテクストのズレ」と説明します。コンテクストは通常「文脈」と訳されますが、平田さんは「ある言葉・表現に込めた思い」と解説してくれました。同じ言葉でも、その人がどういうイメージを抱いてそれを使っているかによって意味が異なります。演劇でいえば、劇作家のコンテクストや演出家のコンテクストを役者が的確に認識できないと、台本通りにセリフを言ったつもりで、NGが出てしまいます。観客を感動させるには、作り手(劇作家・演出家)のコンテクストを正確に伝達する必要があります。
平田さんによれば、演劇とは、この「コンテクストのズレ」を解消するプロセスに他ならず、だからこそ演劇を体験することに意味があると主張されます。
「コンテクストのズレ」は、どんな社会的関係にも存在しますが、長い時間をかけてそれを解消するのが普通です。異なる家庭に育った男女がひとつ屋根に下で生活をはじめる中で生じる「コンテクストのズレ」を何十年の時間をかけてスリ合わせていく夫婦生活のように... 演劇は、わずか数ヶ月間でそれを実現することを宿命づけられている点に特徴があります。ひとつの言葉・表現が意図するもの、伝えなければならないものは何なんかを短期間で理解しなければいけません。そしてその状況は、現代の日本社会の置かれた状況によく似ています。

平田さんは、「協調性」から「社交性」へコミュニケーションパラダイムが変わる時代を迎えていると認識しています。楽屋では口も聞かない不仲な俳優同士が、舞台では堅い絆で結ばれた親友関係を感動をもって演じられるように、たとえ心からわかりあえずとも立派に成立するコミュニケーション、それが求められていると考えているようです。

平田さんが教授をされている大阪大学コミュニケーションデザインセンターは、大学院で科学・医学・化学を学ぶ理系の知的専門家志望の若者が、共通素養のひとつとして「演劇によるコミュニケーション」を学ぶことを目的としているそうです。
異なる文化的背景を背負った人々が、互いのモノの見方・考え方を対話を通してすり合わせ、理解を深めていく。そのために演劇を活用して欲しい。平田さんの「コンテクスト」を感じた講演でした。

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