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「勝利の方程式」 石井淳蔵さん

連休明け最初の「夕学五十講」は神戸大学の石井淳蔵先生でした。石井先生は日本を代表するマーケティング学者として革新的な研究成果を世に問うてきた方です。十年以上前に書かれた『マーケティングの神話』という本は、科学的分析アプローチが全盛であったマーケティング研究に“意味”や“想い”といった抽象概念を取り込むことの重要性を説いた画期的な文献として、いまでも多くの人に読まれています。世の中の人が「なんとなくそういうものだろう」と盲目的に追従してきた考え方に大胆に切り込んでいくのが石井先生の真骨頂で、きょうのテーマである「営業」の研究(特に日本の営業)もまったく同様で、これまで経営学者が扱おうとしなかった暗黒領域にメスを入れようというものです。当然ながら沸き起こるであろう、「そんなに上手くいくはずがない」という大多数の実務家の反応とねばり強く向き合いながら、営業革新の道筋を拓こうという意気込みを感じます。

さて、講演はプロ野球の話題を用いながら、営業革新が求められる時代状況の共有化から入りました。かつての稲尾、杉浦、金田のようにスーパーエースがチームの勝負の半数以上にかかわる属人的な営業形態から、先発・中継ぎ・押さえと分業化システムへの転換が必要な時代だと説明されます。石井先生のよれば「全部ワシがやったる」という時代から、「勝利の方程式」を描く時代への転換です。これは、顧客の抱える問題が複雑になってきているという一点において状況共有化ができるのであれば、およそ全ての営業で普遍的にあてはまるはずだと石井先生はおっしゃいます。

石井先生の言う「勝利の方程式」の大原則は営業プロセスの分化にあります。営業の役割は顧客の問題解決であるというテーゼに従えば、顧客の問題解決、その前提としての顧客との関係性構築プロセスの分化とも言えます。ひと口に「顧客との関係を大切にしろ」と言うのではなく、顧客との関係をいくつかの段階に分け、それぞれの段階毎に目的を明確にし、その目的にあった活動を洗い出して、それがどの程度なされているのかを、マネジャーや本社が客観的に管理できる仕組みをつくること、それが営業革新の本質だというわけです。

石井先生の話を聞きながら、以前読んだ本にあった「顧客ニーズはタマネギ構造である」という言葉を思い出しました。顧客が自分の問題やニーズを明確に認識しているわけでななく、タマネギの皮を剥くように一枚一枚表層を剥いていくことで、隠された真のニーズが見えてくる。その皮むきのパートナーが営業だということです。顧客との関係性構築プロセスというのは、このタマネギ皮むきの過程と同じようなものなのもしれません。石井先生も講演の中で、住宅メーカーの役員の方から聞いた話を紹介されました。「<お前のところからは買わない>というお客さんに対して<なぜ、買わないのか>を聞くことほど愚かな行為はない。相手は、こちらが納得しそうな理由をその場で見つけて、もっともらしく答えるだけだ」とのこと。多くの場合お客さん自身が明確に買わない理由を認識整理できているわけではないので、いきなり答えを出そうとする前に、まずお客さんの状況を確認し、新しい家に期待していたいくつものニーズをひとつ一つ明らかにする行為をしておかないといけないということです。

石井先生によれば、顧客との関係性には、二つのプロセスマネジメントがあるそうです。ひとつは顧客は誰かがよく見えている営業活動のプロセスマネジメント。もうひとつは顧客が誰か見えていない場合のプロセスマネジメント。きょうの夕学は前者の場合のプロセスマネジメントでした。後者の場合は、ブランドマネジメントが鍵を握るそうです。そして石井先生の次の関心テーマは「デザイン」とのこと。顧客との目に見えないコミュニケーションシステムとして「デザイン」の働きを研究することだそうです。こちらも「営業」と同様、科学的アプローチからもっとも遠いところに存在する「感性」の世界です。
次回は、是非「デザイン」をテーマに講演をお願いしたいものです。

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