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相対の精神を忘れない 山本一力さん 「人生の目利きになる」

「星にあげて、星から降ろしてるんですね」 山本一力さんに通信衛星による夕学サテライトの説明をした際におっしゃった言葉です。まさに「説明」ではなく「描写」ですね。映像が宇宙空間を飛んでいくさまが目に浮かぶようないきいきとした表現に、いきなり感服してしまいました。話を聞く際にも、真正面から相手の眼を見据えて離しません。「あなたの話を聴いていますよ」というメッセージがしっかりと伝わってきます。
「人生は全て相対で成り立つ。相手のこころを思いやる気持ちが原点であるべきだ」講演の中でそうおっしゃった通り、山本さんはいまでも営業マンのこころを持ち続けている素晴らしい人でした。

山本さんは作家として世に出るまでに、さまざまな職業を経験されています。離婚も2度経験され、現在の奥様とは3度目の結婚です。しかも2億円を超える借金を抱えたこともあります。『家族力』という著書に中には、その経緯や顛末が、ここまで書いていいのかというくらいに正直に書かれています。普通の人なら人生を投げ出したくなるような壮絶な体験だったようです。幾多の困難を乗り越え、失敗を次の糧にすることで人間力を磨き上げてきた人なのでしょう。その原点は、人と人との相対の関係を大切にすること、人との絆を結ぶことにあったのかもしれません。

講演は、高校を卒業して就職した旅行会社での先輩との出会いからはじまりました。
「わからないことを分かった振りをして、いい加減な対応をするな」
「時間通りに集まって欲しかったら時間を尖らせろ(切れにいい時間にせずに、半端な時間を設定しろ)」
「責任を取ると軽々に口にするな。何か事が起きた時点で、もうお前は責任を果たしていない。事が起きないようにすることが本当の責任だ」
どれもこれも珠玉の忠告ではありますが、我々も新入社員時代に先輩や上司から、一度や二度は言われたことがある言葉でもあります。その場では神妙な顔つきで聞いてはいても、いつしか言われたことさえも忘れてしまう何げない体験をじっくり時間をかけて消化して自らの血と肉に変えていき、その場のシチュエーションも含めてありありと描写できる力。それが山本さんの凄さです。
旅行会社以外にも、自ら起こしたデザイン事務所の失敗、販促企業での営業マン時代、作家になってからの修行時代、いつの時も、逆風の中でしっかりと自分を磨いていたことがわかりました。

山本さんは若い頃からの趣味である自転車をこよなく愛しているそうです。前述の『家族力』という本によれば、いまの奥様との出会いも自転車がきっかけだったとのこと。きょうの講演も深川の自宅から丸ビルまで二人で自転車を走らせてきました。「風に逆らうことで、季節の風を感じることができます」とお話になりましたが、ペダルを漕ぎなら季節を身体全部で感じるように、人との出会いやつらい出来事を通して、多くのものを感じとってきたのかもしれません。

山本さんの小説は、なんともいえない爽やかな読後感を残してくれます。それは爽快、痛快というのではなく、等身大のリアルな共鳴感とでもいいましょうか。人間も捨てたものじゃないと思わせる力があります。壮絶な体験を経て小説という形で紡ぎ出される文章や言葉が澄んだ水のようにこころに潤いを与えてくれます。
埃まみれの雪解け水が大地に染み込み、長い年月を掛けて濾過されて、天然水として湧き出すさまを思い浮かべた時間でした。

ちなみに、サイン会の際にお隣で甲斐がしくお世話をされていた明るい女性が奥様です。『家族力』に書かれた奥様の描写そのままで、お会いしたことがあるような錯覚をしてしましました。

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コメント

 「法の上に道義をおけ」と質問の回答の中でおっしゃっていましたが、この極意こそコンプライアンスの要点だ!と膝をたたきました。
 じつは、前日の2月2日に会社でコンプライアンスの研修を受けていました。
9時から12時までの3時間、講師の先生が「法令遵守といっても法律に違反しなければ何をやってもいいというわけではない」とか、「不祥事を未然に防ぐには職場の風通しをよくして自主管理できる運営のしくみ、風土をつくる」などと手を替え品を替え説明されていたことはまさにこのことだったんだなあと気づいたのでした。
 3時間かけて聞いた説明より「法の上に道義をおけ」という一言の方がはっきりわかるし、忘れない。さすが極意!

何げない一言に珠玉に言葉がちりばめられるのも作家ならではのものかもしれませんね。

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