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地上5メートルから見上げる戦略論  藤本隆宏さん ものづくり現場発の戦略論

2004年秋、ものづく経営研究センターが開催する「ものづくり寄席」という講演会で藤本先生が基調講演をされた時に聴いた面白いエピソードがあります。
その数ヶ月前、天皇皇后陛下主催秋の園遊会に藤本先生もお招きを受けたそうです。園遊会では、参加者がずらりと並んで、順番にひとり一人に陛下が声をかけるシーンがテレビでもよく放映されますよね。藤本さんについて「我が国の、ものづくり経営研究の第一人者で、東大のものづくり経営研究センターの責任者です」というお付きの方の紹介説明を受けた陛下から「日本のものづくりはどうですか?」とのご下問がありました。それに対する藤本先生の返答は「ハイ。“すりあわせ型”ものづくりは元気です!」だったとのこと。
この逸話に象徴されるように、この何年か藤本先生は日本の製造業、特に自動車産業に代表される「すり合わせ型のものづくりシステム」の素晴らしさを広くあまねく紹介する伝道師のような役割をされてきました。中国にとって代わられるという悲観的な観測に支配されていた日本の製造業ですが、「ある部分においては他国に簡単に真似の出来ない強みはある。その強みを武器にした戦略を構築するべきだ」というのが藤本先生の一貫した主張ですが、その「ある部分」というのが「すり合わせ型のものづくりシステム」です。
機関銃のような早口といい、風貌といい、ちょっと目には気むずかしい雰囲気の漂う藤本先生ですが、実際は腰の低い誠実なお人柄です。近くで見ると眼鏡の奥の小さな眼がとても優しいのが印象的です。そんな暖かい人間性で、世界の工場を見て歩き、現場のエンジニアと議論しながらものづくり現場発の戦略論を構築してきました。
きょうの講演はそんな藤本先生の人間性もかいま見えるような2時間でした。

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野球にかける思い 石毛宏典さん 「四国アイランドリーグの挑戦」

自分の話で恐縮ですが、私は高校~大学までは野球フリークで、毎週『週刊ベースボール』を購読していました。その頃のことを懐かしく思い出しながら、石毛さんの話を聞いておりました。
石毛さんの野球人としてのキャリアを改めて思い返してみると、一見野球エリートの本道のように見えますが、実際は、普通の野球エリートとはひと味違う、いい意味での“あまのじゃく”的な進路決定をしてきたのではないかと思います。駒沢大学時代から将来を嘱望されていましたが、彼が選んだのは創部したばかりのプリンスホテルでした。当時、堤清明氏が打ち上げた「野球でオリンピックを目指す」というロマンに共鳴してのことでした。堤氏の横で、詰め襟姿で記者会見をした石毛さんの紅潮した顔をおぼろげながら記憶しています。
西武では、誰もが疑わぬ監督候補の一番手で、球団もファンもそのつもりだったのに、あえて現役にこだわり、ダイエーに去っていきました。この決断が堤氏の逆鱗に触れたというのは有名な話です。
引退後は、野球評論家や指導者の道を選ばず、単身メジャーリーグにコーチ修行に出かけていきました。石毛さん程の実績があれば、そしてあの弁舌と頭の回転の良さからして、テレビ局も引く手あまただったはずです。フャンの「きっとこの道に進むだろう」という予想を見事に裏切りながら、それでいて「なるほど、そういう道もあったのか」と唸らせる独自の野球人生を送ってこられた方だと思います。引退後はバラエティー番組で醜態を晒すことに躊躇しない、多くの後輩達とは志のレベルが違います。
その延長線で考えると、四国アイランドリーグの設立も、石毛さんらしい選択だったと改めて思います。

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 「ジェネレーションYの起業家に聞く」

「ジェネレーションY」とは、デジタル時代に育ちネットを空気のように当たり前のものとして使いこなす世代を意味する言葉だそうです。何年生まれから「ジェネレーションY」と飛ぶのかは日米で基準が異なり、しかも日本でも諸説あるようですが、だいたいその時代に生まれた人々は、それ以前の世代とは明らかに違う価値観を持っているという認識から生じた概念かと想像されます。ところがそれは、あくまでも上の世代から彼らをみた時の感覚であって、当の世代の人にとっては、自分達が上の世代と価値観が異なるという意識はそれほどなく、違いを感じるとすれば、ネット社会の本質を掴まえることができるかどうかという洞察力であって、それは年齢とは関係がないという印象のようです。
確かに、「ジェネレーションYの起業家達」の話を聞いていて、世代論というレッテルでひと括りには出来ない普遍性を感じました。

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相対の精神を忘れない 山本一力さん 「人生の目利きになる」

「星にあげて、星から降ろしてるんですね」 山本一力さんに通信衛星による夕学サテライトの説明をした際におっしゃった言葉です。まさに「説明」ではなく「描写」ですね。映像が宇宙空間を飛んでいくさまが目に浮かぶようないきいきとした表現に、いきなり感服してしまいました。話を聞く際にも、真正面から相手の眼を見据えて離しません。「あなたの話を聴いていますよ」というメッセージがしっかりと伝わってきます。
「人生は全て相対で成り立つ。相手のこころを思いやる気持ちが原点であるべきだ」講演の中でそうおっしゃった通り、山本さんはいまでも営業マンのこころを持ち続けている素晴らしい人でした。

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新潟を世界一にする 池田弘さん 「アルビレックス新潟の奇跡と軌跡」

冷たい冬の雨をものともせず、人懐っこい満面の笑み浮かべながら池田さんは控室に現れました。スーツの襟元から覗くのは鮮やかなオレンジのクレリックカラーシャツ。オレンジはアルビレックス新潟のチームカラーです。
池田会長は、構えは小さいながらも新潟で一番の古社の宮司として生まれ、いまも現役の神主さんであると同時に、23の専門学校と高校・大学を要する北陸有数の教育グループ新潟総合学院の理事長、サッカー、バスケット、陸上競技、ウィンタースポーツのチームを運営するスポーツビジネス企業 アルビレックス新潟の会長、そしてベンチャーインキュベーションを目的に組織化されたニューベンチャービジネス協議会の会長を務めます。宗教・学校・スポーツ・企業...人間が社会を営むのに不可欠な要素の多くに経営者・リーダーとして関わっていることになります。一見脈略のない事業連鎖のように見えますが、池田さんの中では極めて筋の通ったシナジーが描かれていたのでしょう。聴く人に、そう納得させる講演でした。

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世界の地図を変える国 榊原英資さん 「インドを読み解く」

榊原先生がインドに関心を持ったのは最近のことだそうです。詳しく調べようと思い、書籍を探したところ、日本にあるインドの専門書は哲学や宗教学ばかりで、経済について、特に現代インド経済を解説する本はほとんど存在しなかったそうです。中国に関する本が有象無象含めて氾濫しているのと対照的だとのこと。
恥ずかしながら、私もインドについての知識は実に浅はかなものです。「ゼロの概念が生まれた国で数字に強い」「シリコンバレーはインド人だらけ」「カースト制はいまだに深刻な問題らしい」といった程度の知識はありましたが、首相の名前がモンマハン・シンだということさえ知りませんでした。
そんな私にとって、きょうの講演は「現代インド入門」とでも呼べるようなたいへん分かりやすいものでした。

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品格ある教養人たれ 村上陽一郎さん 「現代における教養とは」

「かつて、働くとことは“神の呪い”であった」 そんな刺激的なメッセージではじまる本があります。(『仕事の裏切り』ジョアン・キウーラ)
古代ギリシャにおいて、仕事は奴隷の役割でした。農地を耕すことも、工具を作ることも、火事、育児、全ての労働は神の呪いを受けた奴隷に課せられた宿命だと考えられていました。一方で市民(貴族)は詩を詠み、音楽を奏で、哲学を論じることに生き甲斐と精力を傾けていました。そのために必要な素養がLiberal Artsつまり「奴隷の責務である仕事から解放されるための技」だったわけです。逆に言えば、“神と繋がる”ための素養として必要なのが「教養」だったのです。
村上先生の講演は、そんな背景を受けて、12世紀に生まれた「大学」という社会システムの役割とそこで求められた「教養」についての話から始まりました。

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議論の本意を定る事 平山洋さん 真実の福澤諭吉を求めて

私は慶應の出身ではありませんし、恥ずかしながら、慶應MCCの立ち上げに参画するまで福澤諭吉については「一万円札の顔写真」と「天は人の上に人を作らず…」程度の知識と興味しかありませんでした。何年か前に、少しは福澤諭吉の勉強もしなければと『文明論之概略』(岩波文庫)を購入し、テキスト代わりに丸山真男の『「文明論之概略」を読む』(岩波新書)をセットで揃えたのが初めての福澤体験です。後から聞けば、最初は『学問のすすめ』を読むべきだそうで、確かに『文明論之概略』は格調高い漢文体で書かれているので、丸山氏の解説がないと理解するのが難しかったことを思い出します。(解説もかなり難解でしたが…)そんなわけで、読んだというより、パラパラとめくったというのが正しい表現かもしれませんが、第一章が「議論の本意を定る事」という章題で始まっていることを印象深く憶えています。いま風に言えば「ロジカルシンキングの重要性」とでも言えばいいのでしょうか。
このブログを書きながら『「文明論之概略」を読む』を今一度開いてみたところ、丸山真男は、最初に「議論の本意を定る事」ではじまる理由を、『文明論之概略』が書かれた明治初期の混沌とした時代背景と結びつけて、既存の価値観や物事の見方・考え方が大きく変わろうとしている時には、なによりもまず「思考と議論の方法論」を持つことが重要だという福澤の思想の表出であると論じています。福澤には他にも有名な「多事争論」という言葉もありますが、没後100年を経て、今またロジカルシンキングの必要性が声高に叫ばれている事実に、時代を超えた福澤思想の普遍性を感じざるを得ません。
きょうの講演で、平山先生が繰り返し主張されていたのは、福澤研究について、そんな論理的な議論をもっとやりたいという強い問題意識だったような気がします。

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新たな統合のあり方を目指す 姜尚中さん 「東北アジア共同体に向けて」

今朝、Googleで「姜尚中」と検索したところ、とあるブログのタイトルが目にとまりました。曰く「男も惚れる姜尚中という男」。つまり、女性が惚れるのは当然として、もてる男をやっかみたくなるのが本性の男でさえ「この人は凄い」と思わせる魅力があるとのこと。
控え室に現れた姜先生は、スラリとした長身に、ハイネックのホワイトボタンダウンシャツ、黒のイタリアンスーツをノータイで着こなし、ヒルズ族ベンチャー社長顔負けのダンディーな装いでした。しかも森本レオを彷彿させるハスキーな低音を響かせながら、ソフトに気配り豊かに話を進めます。
いざ講演がはじまると、頭脳明晰、論理明快、複雑に絡まった糸を丁寧に解きほぐすようにわかりやすく説明をしてくれます。確かに凄い人でした。

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内発的国際化 キャメル・ヤマモトさん 「日本人企業進化論」

「私は、バブルの最後にやって来る男です」キャメル・ヤマモトさんは冗談めかして、そう自己紹介されるそうです。外務省を辞めて外資系コンサルティングファームに転じた1年後にバブル崩壊に遭遇しました。2000年のITバブルの終焉がはじまったのはシリコンバレーで暮らしはじめて2週間後のことだったそうです。中国に活動の拠点を移しつつある現在、中国の活況ははかない終わりを迎えるのか、あるいはキャメルさんのジンクスが破られるのか。どうやら後者の可能性が高いようではあります。

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新たな経済モデルが求められている 細田衛士さん 「グリーンキャピタリズム」

先日の「サンデープロジェクト」で、金のリサイクル事情の特集がありました。金は地上で最も希少性の高い資源でありながら、すでに採掘可能な埋蔵量の7割近くを掘り出してしまっているという危機感もあって、携帯電話やパソコンのマザーボードなどさまざまな製品廃棄物から、些少な金を取り出してリサイクルしている様子が放映されていました。金の延べ棒1本のうち30%がそうやって再利用された金で出来ているとか...
きょうの細田先生の講演では、金のリサイクルシステムをグリーンキャピタリズムの先駆者として紹介されていました。

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失敗から学ぶ 堀紘一さん 「Ever Onward」

「君たちはそういう考え方をするのか。明らかに間違っているね」控え室に入って早々に、堀さんからそう指摘されました。
夕学では、講師の方々に当日の受講予定者リストをお見せしています。受講者の企業や職種によって、講演の進め方や事例の出し入れをする方が多いので、それを事前に確認していただくためです。実は春から個人情報保護対策の一環でお名前を伏せて、企業名と部署名だけの一覧に変更しました。そのリストをご覧になっての感想が冒頭のキツ~イ一撃です。
個人情報保護法の立法趣旨はこういう対応をすることを促しているのではない。安易な扱いが思わぬ悪用を招くことを避けるためのものだ。人に教えを請おうという時に自分の名を名乗らぬ人がいるはずがない。確かに名前があったところで、講師は何に役にも立たないが、礼儀として失礼な話だ。リストを持ち帰ってばら巻くような人達を講師に呼んではいないだろう。主催者の保身以外の意味はない。とバッサリと切られました。
講演前に怒らせてはまずいと思い、「そうはおっしゃいますが...」と言いたい気持ちをグッと抑えて丁重に謝りました。しかし、堀さんが指摘したかったのはそういう次元のことではなく、「何が問題なのかを、一歩突っ込んで考える姿勢の欠如」だったのだと、講演を聴きながら気づきました。

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中国は国というより世界そのものだ 関満博さん 「中国民営企業の先進性」

台風直撃情報の影響でやむなく欠席された方が多かったために、特別に設定した関先生の連続登壇ですが、きょうも中国のエネルギーを熱く語っていただきました。
関先生は、きょうのテーマである「中国の民営中小企業」を研究テーマと定め、北京、大連、無錫、深せん、広東の5都市をベンチマークし、定点観測をしてきました。それぞれが地域性を生かした独自のモデルを作り上げており、5都市を観ることで中国の全体像がつかめるからという理由からです。各地で30社、計150社の民営企業を訪問調査した集大成が、近々700頁の大著にまとまり出版されるそうです。きょうは、そんな調査から大連、北京、広州の各都市で出会ったエネルギッシュなベンチャー経営者や彼らと密接に関わりながら発展する大学関係者のお話を聞くことができました。

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賢明さと健全さ 黒田由貴子さん 「ファシリテーションの時代」

事前に黒田さんのプロフィールを拝見して「いったい、どんな方なのか」と正直身構えておりました。慶應卒。ソニーで海外マーケティングに従事し、フルブライト奨学生としてハーバードでMBAを取得。外資系コンサルティングフォームで活躍した後に、自ら会社を立ち上げて、いまやファシリテーションの第一人者。これ以上は望めないという圧倒的なキャリアです。ところが控え室でお会いしてみると、意外や意外、気さくで包容力があり、エリート臭を一切感じさせない暖かい雰囲気を持っています。よい意味で肩すかしを食った思いがしましたが、講演後には「これが、ファシリテーションなんだ」と納得しました。

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内村鑑三とマキャベリ 冨山和彦さん「産業再生2年間の軌跡」

1年半前の夕学で神戸大の三品教授が「戦略不全の論理」という講演をされました。失われた10年というがそれは間違いである。日本企業は70年代以降一貫して営業利益率を低下させてきた。それはひとえに経営戦略の欠如がもたらした結果であり、戦略不全の根元的理由は戦略と意思決定を担うべき経営者の能力の低下にあった。その原因は、長期間にわたる右肩上がり経済環境に適合する「経営者育成システム」が存在していないからだ...という趣旨でした。
きょうの冨山さんの講演も、はからずも同じ問題点を指摘していました。三品先生が学者らしい、実証データと論理を中心とした研究面からのアプローチだったとすれば、冨山さんは、事業再生・経営再建の修羅場で身を持って感じてきた現場からの危機感に根ざしていました。「経営者」の再生が「産業」の再生につながる。それが冨山さんの主張でした。

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食への畏敬の念 小泉武夫さん 「食の冒険家 大いに語る」

夜6時前、丸ビル7Fのエスカレーターをあがったところで福よかな太鼓腹の紳士と出会いました。それが小泉先生でした。「会場の下見をしたかったので早く来ました」と大きな声を響かせながら挨拶をしていただきました。控え室でも、人なつっこい東北なまりで、講演で話す内容や資料を早口で次々と説明してくれます。大学教授の傍ら、世界中を旅して、100冊近い本を書き、各種審議会・協議会の委員を務め、野球部の部長まで務めるという超多忙な毎日とのこと。カバンをガサコソとまさぐって本や写真をだされる際に、キャベジンコーワの瓶に入った薬のような物体が見えました。「やはり胃腸薬を常備しているのですね」などと失礼な質問をしたところ、「これですよ、これ!」といって見せてくれたのが、講演でも紹介された「乾燥納豆」でした。

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人間としての使命感 田坂広志さん 「なぜ、我々は“志”を抱いて生きるのか

きょうの講演にあたって、事前に田坂さんから二つの要望をいただいていました。ひとつは、8時半までの2時間を自由に使わせて欲しいということ。もうひとつは質疑応答をしないで終わりたいということです。前者については「きょうのお話は重い話なので、聴衆によっては集中力が持続出来ない場合がある。会場の状況を確かめながら終了する時間を自分で決めたい」という理由からです。後者については「講演後には、その余韻の中で静かに皆さんに内省をして欲しいから」という説明をなされました。田坂さんにとって、きょうの夕学は、言葉によって何かを伝達するものではなく、同じ時間と雰囲気を共有することを通じて“場の持つ力”を感覚的につかんでいただく、まさに一期一会の出会いだったのかもしれません。進め方に対する注文は、演出やテクニックといった次元のHow-toではなく、真剣勝負の2時間に全責任を持ちたいというプロフェッショナルの矜持だったように感じています。

田坂さんに前回お越しいただいた際には、知的プロフェッショナルの思考力をテーマにしたお話でした。3年後の今回のテーマは「生きるうえでの志」です。テーマは抽象的になりましたが、その分田坂さんの思いはより鮮明・先鋭に研ぎ澄まされてきたような気がします。紹介の際にもお話しましたが、私は田坂さんのメッセージメール「風の便り」を3年近く欠かさずに読んでいます。このメールから、田坂さんの関心領域と活動が経営やマネジメントから発展して人生観や仕事観といった深淵な世界に少しずつ移っているという印象を持っていました。きょうの講演を聴きながら、なぜそうなっていったのか、少しだけわかったような気がします。
皆さんもお感じになったように、田坂さんは自らに問いを立て、自ら答えを紡ぎだし、その答えから新たな問いを立てるという思考のサイクルを回しているようです。それはソクラテスの問答法やヘーゲルの弁証法あるいは、「そもさん」「せっぱ」の禅問答のような崇高な真理に向かう終わりのない旅路なのでしょう。いかに産業を起こすか、いかに組織を運営するか、いかに部下をマネジメントするかという問題を突き詰めて考えれば考えるほど、「いかに生きるべきか」「何のために生きるのか」という根元的な問いにつながるのかもしれません、それを「哲学的」「宗教っぽい」という薄っぺらなレッテルを貼って理解してしまうのではなく、137億年の旅路の先端を歩く存在として、世代を越えて継承しようという「人間としての使命感」をしっかり受け止めなければいけないと強く思いました。

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「風の便り」はこちらから申し込むことができます。
http://hiroshitasaka.jp/

心のコップをたてる 原田隆史さん 「カリスマ教師が語る人材開発論」

きょうの原田先生の分かりやすいお話と対極にあるような理屈っぽい始まりで申し訳ないのですが、私の好きなコンセプトに「Reflective Practitioner(反省的実践家)」というのがあります。様々な領域の優れた実践者がどのように行動の中でその知識を発揮しているのかを説明する概念ですが、読んで字のごとく「優れた実践家は、ある行動の結果を自分自身で内省して、意味づけや再整理を行い、次の行動にあたっては新たな知識に再結晶することができる」という含意です。原田先生の講義を聴きながら「こういう人のことをReflective Practitioner(反省的実践家)と言うのだろうなあ」と考えていました。

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情熱と冷静 宮本亜門さん 「亜門流コーチング」

感動的な舞台やコンサートを見た夜、ベッドに入った後も軽い興奮が冷めずに、心地よい疲れとハイテンションが続くことがあります。いま、亜門さんの夕学講演を終えて、よく似た感覚に浸っている自分を感じています。パッションに包まれて自分自身も熱くなった後に、そんな自分の状態を客観的に分析しているもう一人の自分がいる。そんな感じでしょうか。「情熱と冷静」。何年か前によく似たタイトルの映画がヒットしましたが、亜門さんはこの二つの世界を自由に行き来している人なんだということを強く思いました。

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一人に対して百回同じことを言って、はじめてわかってもらえる 大橋洋治さん 「アジアNo1を目指して」

昨日、多くの新聞に日本航空の決算下方修正の記事が掲載されました。その対比で全日空の業績についても触れていたのをご覧になった方も多かったと思います。米国の航空会社が次々と破綻していることからもわかるように、世界の航空業界を取り巻く環境は、けっして安泰ではありません。日本航空でも原油高の影響を受けて、燃料費が前年比450億円増に上昇してしまったことが収益に大きく影響をしたとのこと。同時に全日空が燃料費をわずか90億円増に抑制できたことが業績の違いの要因になったとの解説がありました。
全日空は国内線や近距離国際線がメインなので、長距離国際線中心の日本航空とは前提条件が異なるものの、そこまでの燃料費抑制ができたKSFは何だったのでしょうか。きょうの講演は、その理由の一端を知ることができたような気がします。

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企画とは「記憶の複合」 おちまさとさん 「企画脳の作り方」

「イノベーションとは、“新しい組み合わせ”である」何年か前にイノベーション研究の第一人者といわれる経営学者に聞いた言葉です。きょうの、おちまさとさんの話を聞きながら、この時の記憶が想起されました。
10才の時、映画『ジョーズ』を観て、将来の仕事は、スクリーンの向こう側(制作者側)に立つことだと決断したという早熟の天才企画マンおちまさとさんの話が、お堅い職業の代表である大学教授の講義とつながる一瞬でした。
そして、はからずもこれがきょうの主題「企画脳」の本質にかかわる現象でもありました。

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企画の職人が持つ凄み くらたまなぶさん 「カラダ発想術」

くらたまなぶさんは、リクルート在籍の20年間、一貫して新規事業に携わってきた方です。創刊したメディアは全部で14。現在のリクルート28事業部のうち、半数の事業の立ち上げに関わったことになるそうです。その数もさることながら、その多くの事業が、現在の会社を支える看板事業に育っているという点が「伝説の創刊男」たる所以なのでしょうか。

「きょうは、私が20年間、家に帰らずに働きつづけて培ったノウハウを惜しみなくご紹介します。これを習得すれば、きっと皆さんは私のような苦労をせずに、人間らしい生活が送れますよ!」くらたさんは、そう話しながら講演をはじめましたが、その姿には、第一線の企画マンとして生き抜いてきたオーラや凄みを感じました。

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負ける建築 隈研吾さん「建築と自然の共生」

『負ける建築』 これは隈研吾先生の近著のタイトルです。建築は環境を制圧するものではなく、環境に付き従う“負ける”存在であるべきだ。このタイトルには隈先生のそんな建築思想が込められているそうです。きょうの講演は、その建築思想が完成していく軌跡をビジュアルで紹介していただけたのではないかと思います。

講演は「建築とはその場所(土地)と対話することなのです」というお話からスタートしました。たとえ会話すべき内容が同じであっても、相手が変われば会話の構成・言い方・表情が変わるように、建築も、その場所(土地)によって変わる。従って最初に相手(土地)の歴史・背景・特徴を把握することが建築の出発点になる。隈先生はそう話します。

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「よのなか」は面白い 藤原和博さん 「公教育の未来」

後期2回目は、藤原和博さんの登壇です。

9月に藤原さんの紹介を書いた際に、藤原さんの著書『リクルートという奇跡』のことを書きました。この本の主題として取り上げている「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変える」という精神を藤原さん自身がいまも実践されていることが、共感を持って伝わってくる熱い講演でした。

政治や社会システムの世界では、構造改革という言葉が盛んに喧伝されていますが、我々ビジネスパースンも、「規制が多い」「制約がある」という言い方をよくしがちです。確かに自由な発想や行動を抑圧する規制・制約が多いのは事実ですが、それを言い訳にして困難な課題に立ち向かうことを放棄してしまう、そんな他責の思考に陥ってはいないでしょうか。たとえ規制・制約があろうとも、本当にやろうと思えば、工夫次第でかなりのことができるはずだ。藤原さんの話を聴いて改めてそう思いました。

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だまされたと思ってやってみる 秋元康さん 「秋元流プロデュース論 ~答えは自分の中にある」

夕学2005年度後期がいよいよスタートしました。1回目の講師は作詞家の秋元康さん。会場を埋め尽くす300人の聴講者から寄せられる期待の眼差しにまったく臆することなく、たんたんとそれでいて印象に残るお話をしていただきました。

秋元さんは、作詞家としてはもちろんのこと、我々の世代(40代)にとっては、「とんねるず」や「おにゃん子」に代表されるように、多感な若者の感性をがっちりつかんだ新進気鋭の放送作家としての印象が強烈にあります。そのクリエイティビティは、49歳のいまも、まったく枯れることなく、小説、映画、脚本、ビジネスと多彩な領域でプロデューサーとして大活躍をしていらっしゃいます。この春からは、京都造形芸術大学の教授に就任され、月に2~3度は教壇にたつそうです。教えてるのは、「社会プロデュース論」とのこと。芸術家というのは、昔から食えない仕事と相場が決まっていました。古今東西、お金持ちのパトロンが芸術を支えてきたといっても過言ではないでしょう。そんな、いわば「社会に寄生する存在」から一歩進んで、芸術も自活できるようにしよう、そのために社会とのかかわりの中で、芸術が貢献できる価値を見つけ出していこう」というのが趣旨だそうです。10代後半から、浮き沈みの激しい芸能界で生きてきた秋元さんならではの授業なのかもしれません。

講演は、「プロデュースってどういう意味かご存知ですか」という会場への投げかけから始まりました。
秋元さんの考える「プロデュース」の概念は二つの言葉に象徴されるそうです。ひとつは、「客観性」です。自分の好きなことだけをやっているとしたら、それはただのアートであって、プロデュースされた(した)存在にはなりえない。環境や状況、対象の欲求や期待を冷静に読み込んでいく姿勢が欠かせないということです。これはビジネスのプロデュースでもまったく同じですね。
もうひとつは「潜在性」です。プロデュースする対象が持っている、潜在的な魅力や力を引き出すことがプロデュースの目的だということです。オーディションで審査員が、どうみても垢抜けない、素人っぽい人を選ぶのと一緒で、プロデュースとは、類まれな才能を秘めていそうで、磨かれきっていない原石を見つけて磨きあげることだそうです。原石がどこまで光り輝くかは、磨いてみないとわからない部分もあるそうで、これもなにやら新商品や新規事業開発と似ているかもしれませんね。

プロデュースされる立場にとってみると、この潜在性を引き出してもらうには、「だまされたと思ってやってみる」という意気込みが必要だとのこと。秋元さんは自らがプロデュースした沢田研二の「TOKIO」、美空ひばりの「川の流れのように」などを引き合いに出しながら、当時確固たる地位を築いていた二人が、新進の若手作詞家の提案に乗ってくれた逸話を紹介してくれました。

このあと、秋元流プロデュース論のポイント10か条を、作詞家ならではの詩的な表現も交えながら伝えてくれました、そのすべてを紹介することはできませんが、いくつかのフレーズが聴講された方々の中で、感性のアンテナにしっかりと引っかかっているのではないでしょうか。

私は、秋元さんが講演の最後でお話になった「最近の私のテーマは、"呼吸するように生きること”です」という言葉が印象に残りました。周囲の喧騒に惑わされることなく、自分の軸足をしっかりと見据え、自然に、気負うことなく生きる。それでいて、隠棲するのではなく、時代の真中をしっかりと歩くことができる。そんな生き方が秋元さんの理想だそうです。
そう聞くと、「川の流れのように」という歌は、美空ひばりという不世出の歌手の潜在性を引き出しながらも、秋元さん自身の心の中の風景を表現してたのではないかと理解できます。まさに、「答えは自分の中にある」ということでしょうか。

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パラダイムイノベーターに聞く

6つ目のテーマは「パラダイムイノベーターに聞く」です。

このテーマも前期からの継続テーマです。会場で「パラダイムイノベーターってどういう意味なんですか」と質問されたことがありますが、あくまでも造語です。辞書でパラダイムを調べると「ある一時代の人々のものの見方・考え方を根本的に規定している概念的枠組み」とあります。パラダイムを革新するという意味では、「パラダイムシフト」「パラダイムチェンジ」という言葉がよく使われますね。でもなんとかくシフトやチェンジというと既に世の中に存在しているものの中での変化のようなニュアンスを感じませんか?
このテーマで取り上げたいのは、まったく新しいものをはじめた人達が持っているイノベーティブな精神や発想・ものの見方・考え方なのです。あえて「パラダイムイノベーター」という造語を使った理由がそこにあります。

さて今期は
・自ら校長として学校現場に乗り込んで公教育を変えようとしている 藤原和博さん
・日本のコンサルタントの草分けの一人 堀紘一さん
・福澤諭吉論に一石を投じた 平山洋さん
・20代に起業した佐藤さん、家本さん、そしてベンチャーインキュベーションに取り組む牧さん
・四国に独立リーグを立ち上げ新たな野球人を育てようとする石毛宏典さんとスポーツジャーナリストの二宮清純さん
の5組にご登壇いただきます。

藤原さんは2年前、校長就任直後にお越しいただきました。この2年の改革報告がお聞きできます。二宮さんは前期に続いての連続登場になりました。
パネルや対談セッションもあって変化に富んだテーマになりました。


これで、6つのテーマの紹介が終わりました。
10月19日のスタートまであと一ヶ月。これからは個別の講師の紹介を順次していきたいと思います。

目利きが語る仕事と人生

5つ目のテーマは「目利きが語る仕事と人生」です。

夕学では、これまでもノンジャンルで仕事論・人生観を話していただけるテーマを設けて来ましたが、今回は目利きという言葉にこだわりました。高度情報化社会に生きる我々は情報感受・知識習得に対して強迫観念に近いあせりのようなものを持ってしまいがちです。しかしながら、同じ現象に出会い、同じ話を聴き、同じものを読んでも、そこから本質を紡ぎ出せる人とそうでない人がいます。そんな目利きをお呼びしてお話を伺おうという企画です。

今期は
・芸能から芸術までマルチプロデューサーとして活躍する 秋元康さん
・トニー賞のノミネート候補にもなった世界的演出家の 宮本亜門さん
・美食からゲテモノまで世界を食べ尽くす食の目利き 小泉武夫さん
・風情溢れる人情話の中にも肯定的人生観を忘れない作家の山本一力さん
の個性多彩な4人の方にお越しいただきます。

秋元さん、宮本さんは早々に満席マークが灯りましたがあきらめないでください。
この時期の予約は流動的で、当日まで半数が入れ替わります。こまめなチェックをお忘れなく。

組織をつくる 人を育てる

4つ目のテーマは「組織をつくる 人を育てる」です。

組織と人にかかわる問題は、ビジネスパースンが最も関心の高いテーマのようですね。毎回テーマ名こそ変えていますが、継続している定番企画です。
経営とは「戦略をつくり、組織を組むこと」、リーダシップとは「大きな魅力的な絵を描き、人を集めて力を結集すること」、マネジメントとは「人と仕事を管理すること」と言われています。
つまり人と組織の問題は、経営者にとって、事業部長にとっても、現場のラインマネジャーにとっても、2分の1の精力を注ぎ込むにたり得る大きな問題ということでしょう。

さて、今期はこのテーマで
・企業内教育でも大活躍のカリスマ教師 原田隆史さん
・いまや社会起業家としてスケールの大きな問題提起をされる 田坂広志さん
・「稼ぐ人・余る人、安い人」で話題を呼んだ キャメル・ヤマモトさん
・含蓄深い教養論を語る 村上陽一郎さん
の4人が登壇されます。

田坂さんは2003年に続いての2度目の登壇、他の方々ははじめての登場です。

実践 仕事の方法論

テーマの3つめは「実践 仕事の方法論」です。

このテーマはもう何回つづけているでしょうか。すっかり定番テーマになりました。
仕事ができる人は、必ず「上手くやるコツ」や「仕事の勘どころ」を知っています。
それはHow toや手法といった表層的なものではなく、もっと深くて、本質的なもので、業種・業界・年齢・役職を越えて普遍的な方法論のようなものではないかと思います。
そんな仕事の達人の技に触れてみようというシリーズです。

今期は
・リクルートで「創刊男」の異名をとった くらたまなぶさん
・TV界のヒットメーカー おちまさとさん
・ファシリテーションの第一人者 黒田由貴子さん
・感性と論理のバランスを重視する数学者の藤原正彦さん
の4人の方にお越しいただきます。

早くも満席講演も出ています。乞うご期待!!

復活と再生の軌跡

今期の6つのテーマを順番にご紹介していますが、その2回目。
きょうは「復活と再生の軌跡」です。
この2~3年企業再生が大きなトピックです。夕学でもお話いただいたM&Aアドバイザーの佐山展生さんによれば、企業の再生の成否は兎にも角にも経営者だとか。これまでの夕学でも、福助の再建を成功させた藤巻幸夫さん、名門老舗旅館の再生を請け負っている星野佳路さん、ウィンザーホテル洞爺をついに黒字化させた窪山哲雄さんなど、再生・再建を担った経営者の方々に来ていただきましたが、いずれの方も強い印象を残してくれました。皆さんタイプは違いますが、修羅場を乗り越えた人特有の滲み出るような自信と人間的魅力を兼ね備えて方々でした。
この企画はそんな経営者をお呼びしようというものです。

今期は経営者3人に来ていただきます。
・全日空復活の舵取りを担った 大橋洋治会長
・産業再生機構のCOOとして日本経済の再生に尽力する 冨山和彦さん
・アルビレックス新潟をはじめ教育や企業支援などで新潟活性化に活躍する 池田弘会長

「名門大企業の再建、「産業再生の視点」「地域の活性化」と、「復活と再生」は同じでも、それを取り巻く環境や状況はそれぞれ異なります。何が共通で、なにがユニークなのか、成功に鍵は何なのか、じっくりと考えてみたいものです。

相克の時代 共生の時代

10月19日の開講まで、このブログで講師依頼の楽屋話をすると書きましたが、その前に今期の6つのテーマについて順番に説明しておきたいと思います。

きょうは「相克の時代 共生の時代」です。
インターネットが世界を繋ぎ、人も金もナレッジもボーダレスに動き回る時代にあって、イラク紛争に代表されるような価値観の対立、各地で噴出する民族間抗争、日本と東アジア諸国の根深い相互不信感など世界の至るところで「相克」がうまれています。
その一方で、民族やイデオロギーの違い、国家間の利害、自然と人間、企業と個人、仕事と家庭などさまざまな領域で二項対立を次元超越的に統一しようという「共生」の必要性が声高に叫ばれています。
「相克と共生が同時に起こる時代」そんな現代社会を識者をどう切り取り、整理し、解釈するのか。政治、経済、経営、建築など多様なジャンルで第一線を走る人々を講師に招き話を聞こうという企画です。

・建築と自然の共生を目指す 隈研吾先生
・中国のベンチャー企業に日本人が失った挑戦意欲を見いだす 関満博先生
・資源循環型経済システムを提唱する細田衛士先生
・日本と東アジアの共生を語る 姜尚中先生
・インドの可能性を熱く説く 榊原英資先生
の5講演です。

Form follows emotions 中村史郎さん 日産ブランド&デザイン戦略

4月15日に高橋俊介先生の講演ではじまった今期の夕学もきょうが最終回。おおとりを飾るに相応しく、会場は約300人の受講者で熱気に満ちていました。登壇いただいたのは中村史郎さん、躍進を続ける日産自動車のデザイン戦略の責任者です。
日産自動車には世界14カ国に1000人近いデザインスタッフがいます。中村さんによれば、デザイナーを組織内に抱える人数が一番多いのは自動車産業であろうとのこと。グローバルレベルの合従連衡が急速に進む自動車業界では、例えば米国のメーカーが、ドイツの資本を使って、イギリスブランドの車を作ることが当たり前のように行われています。資本だけでなくブランドが国境を越える時代が到来しているわけです。中村さんが学ばれたアートセンターバウハウスといった世界的なデザイナー養成機関が存在する米国や欧州には多くのカーデザイナーがいましたが、いまや彼らは、活躍のフィールドを求めて世界のいたるところに散りはじめたそうです。当然のことながらブランドのボーダレス化はデザインのそれを誘因します。そもそも、その国や地域の歴史と文化に根ざした独自性を持つはずのデザインがボーダレス化する時代。そこに帰因するデザインの危機と可能性、それが中村さんのデザイン観の中軸をなす問題意識でした。

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行動する経済学者 関満博さん 「世界の工場 中国の本質」

「行動する経済学者」関先生はそう称されています。年間の三ヶ月を海外調査、三ヶ月を国内の地域調査、残り六ヶ月を大学での活動で過ごし、365日24時間ONを宣言する行動派です。迫力ある風貌とドスの効いた声とあいまって、まさに異色の研究者といった観があります。聞けば、中国 大連生まれとのこと。関満博という名前の“満”の字は満州にちなんでつけられたそうです。中国の産業研究は天職なのかもしれません。

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わからないことから逃げない 玄田有史さん 「私の仕事道」

玄田先生に夕学で話していただいたのは2回目です。前回(2003年前期)の講演では、フリーター問題の解決法について「私にはわかりません」という一言から解説がはじまったことが印象に残っていました。控室でそのお話をしたところ、「きょうもそれでいきましょうか」と悪戯っぽい笑顔を残して会場に向かわれました。
冒頭で、「私にはわかりません」のお話を紹介されたうえで、テレビに出ない理由として、テレビは「わかりません」という言葉を許容しないからだとたたみかけます。更には、学生の進路相談にあたってのポリシーとして、「迷っている奴はトコトン迷わす」と断言します。一見、投げやりで、奇をてらったかに見えるこの対応が、実はきょうの講演を貫く玄田先生の強いメッセージでした。

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使命を持って生きること 大谷由里子 元気をつくる「大谷流」コーチング

大谷由里子さんの仕事人生は、吉本興業で横山やすしのマネージャーからはじまったそうです。「世の中に、彼ほど“自分に甘く、他人に厳しい”人はいません。横山やすしのお陰で、私の人間許容のキャパシティは目一杯広がりました」大谷さんが、良く通る元気な声と底抜けの笑顔でそう話すと会場にはどっと笑いが広がりました。実は控室で、「丸の内の方は最初は裃をきていらっしゃるのでほぐれるのに時間がかかります」などど、笑いのプロを相手に余計な事を言ってしまいましたが、まったくの杞憂でした。つかみはOKというところでしょうか。

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アーキテクチャで読み解く中国製造業 新宅純二郎さん 「中国企業との分業と協業」

新宅先生に夕学の依頼をしたきっかけは、昨秋東大ものづくり経営研究センターが主催する「ものづくり寄席」を聴講したことに遡ります。ものづくり経営研究センターは、トヨタ式生産方式や全社品質管理(TQC)に代表され、日本製造業の強みとも言われる「統合型ものづくりシステム」を組織的に研究するためにつくられた研究機関です。
「ものづくり寄席」は、その研究構想と内容を実務家向けに紹介することを兼ねたセミナーでした。ものづくり経営研究センターは藤本隆宏先生がセンター長に座り、高橋伸夫先生もいらして、夕学にも縁がある所です。そこで藤本・高橋先生に並ぶ主要メンバーである新宅先生にも是非お越しいただきたいと思い、本日の講演となりました。

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分析ツールを使いこなす力 水越豊さん 「BCG戦略コンセプト」

水越さんの名刺には名古屋事務所の住所が一番上に記載されています。聞けばBCG名古屋事務所開設の責任者でもあったそうです。水越さんによると、コンサルティングファームは顔のわかる人数が理想とのこと。社歴やポジションに関係なく率直な意見交換が出来ることが組織の必須要件なのに、規模大きくなるとどうしてもヒエラルキー意識が発生してしまい、フランクな組織風土が硬直化してしまいます。その弊害を避けるためにブランチを増やして事務所の絶対人数を調整したのだそうです。「コラボレイティブな組織は顔の分かる範囲が限度」という基準は、難しくはないけれど経験に基づいた説得力のあるルールですよね。きょうの主題である「ツールやフレームワークを使いこなす」ということもまったく同じで、実践に裏付けられた経験知が重要だということでしょうか。

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デザインの98%は日常である 喜多俊之さん 「デザインの力」

きょうの夕学は工業デザイナーの喜多俊之さんでした。ご存じない方も「シャープのアクオスのデザインを手がけた方」と言えば、なるほどと思うでしょう。大阪生まれの喜多さんは、品の良い柔らかな関西弁と笑顔が印象的な方です。講演の冒頭はそんなソフトな語り口ではありながら、日本のデザインを取り巻く環境についての危機意識から始まりました。
「中国ではデザインを“新産業”と位置づけています。工業デザインの高度専門教育を担う大学が500以上もできているのです。」喜多さんはそうおっしゃいます。
中国のみならず、韓国もシンガポールも国家政策としてデザイン振興が掲げられており、国を挙げての取り組みがなされているそうです。翻って我が国の現状はどうでしょうか。喜多さんをはじめ一握りの才能に頼るばかりで、政策論としてデザインが語られることはほとんどありません。今こそ、ITやバイオ産業の育成と同じくらい、デザインの振興が必要だというのが、喜多さんのきょうのメインメッセージでした。

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人事経済学のすすめ 樋口美雄 「インセンティブ社会の再設計」

「人事経済学」というのは、1990年代に生まれた新しい研究分野だそうです。「人間は利己的な存在である」ことを前提に利潤最大化・効用極大化といった経済合理性を追求する経済学の立場とナイーブでエモーショナルな現実社会(人と組織にかかわる)の融合を目指した野心的な学問です。そしてわが国においてこの分野を切り拓いてきた代表的な研究者がきょうの講師である樋口美雄先生です。

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つぶやきをかたちにする 世古一穂さん 「参加協働型社会へのパラダイムシフト」

「NPOとNGOの違いはご存じですか?」「NPOとボランティアは何が違うかお分かりですか?」 世古さんの講演はこの投げかけからはじまりました。
曰く、厳密に言えば、NGOとは国連憲章第71条に依拠する組織を意味するそうですが、広義で捉えれば、強調したい性格が「非営利」なのか「非政府」なのかの違いであって、両者はほぼ同様の活動組織と理解してよいそうです。世古さん自身、国内ではご自分の組織をNPOと称しますが、海外にいくとNGOと名乗るとのこと。
またボランティアとNPOの違いは、前者が、個人が主体、無報酬、自己実現重視、マネジメント不要であるのに対して、NPOは、組織が活動主体で、収益を伴い、目的達成度合いを重視し、マネジメントが不可欠と整理できるそうです。
シャープで分かりやすい整理ですね、私もはじめて知りました。

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ファンダメンタルを鍛える 船川淳志さん 「プロフェッショナルの思考力と対人力」

千住博さん(日本画家)、梅津光弘さん(慶應大助教授)、守島基博さん(一橋大教授)、そして船川淳志さん。今期の夕学にご登壇いただいた4人の方には共通点がありました。何かお分かりでしょうか。皆さん慶應の同期生で、この春に卒業25周年を迎えられたのだそうです。きょうの控室でも、その話が話題になりました。慶應では卒業25周年を迎えられた方々を卒業式に招待をする企画があり、船川さんも出席されたとのこと。安西塾長の祝辞の中で、期待をこめて語った人材像が、ご自身が常日頃主張されているそれと同一であったことを嬉しそうにお話になりました。

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リゾート運営の達人 星野佳路さん

「IT導入の経営へのインパクトが最も高いのは、ITから一番遠いところにある業界である」 きょうの星野さんのお話を聴きながら、3年前に夕学に来ていただいた成毛眞さんのお言葉を思い出しました。
星野さんは、コーネル大学大学院でホテル経営学を学び、外資系企業や金融機関でリゾート開発や投資ビジネスに携わったキャリアがあります。理論ベースの科学的アプローチに習熟したプロフェッショナルと言えるでしょう。一方で、日本のリゾート開発や温泉旅館の経営は、そういった科学的経営とは少し距離をおいた世界にあった産業です。だからこそ星野さんの新しいリゾート経営のモデルが花開いたのではないでしょうか。時代と産業が星野さんの登場を待ち望んでいたように思いました。

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背中を押せる人になる 「営業のテクニックはいらない」 和田裕美さん

300回近い「夕学五十講」の実績の中で、営業をテーマにした講演は、きょうが初めてだったと思います。だからでしょうか、早々に満席マークが灯り、皆さんの期待の高さが伺えました。和田裕美さんは、ブリタニカで英語教材の営業として記録的なセールス実績を残した方です。フルコミッションの成果報酬で、20代前半で3,800万円の年収があったというから驚きです。

和田さんのお話は“空気をつくる”ことからはじまりました。和田さんが歩んできた営業の世界は「話せばいい人なんだよね」という甘えが許されません。第一印象でマイナスイメージを与えたら、次回は会ってもらうことすらできません。だからこそ、まず目の前の相手から好かれる人になるための“空気をつくる”ことが重要なのだそうです。
「場の空気を作るのは、私一人ではないのです。皆さんとの相互作用が必要です。皆さんも、明日は営業として取引先の方と商談するかもしれませんよね。営業の場であろうとなかろうと、いつも“空気をつくる”ことに慣れていなければ、必要な時に空気はつくれませんよ。」 和田さんは、そう語りかけながら聴衆に協力を仰ぎ、味方に引き込んでいきます。

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民が公を担う 「構造改革道半ば」 本間正明さん

2週前位の「日経ビジネス」で“竹中改革を支える大阪大人脈”という特集が組まれていました。大阪大学は、商人の街を拠点にするだけあって、開学以来、実学を重んずる気風が特徴で、竹中大臣を含めて、阪大に連なる有識者が竹中さんの政策ブレーンを構成しているという内容でした。その阪大人脈のキーパースンとして、最も重要な役回りを担っているのが竹中大臣の先輩にあたる本間先生です。

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教養としての表現力 鴻上尚史さん 「自己演出のすすめ ~あなたの魅力を演出するヒント」

第三舞台の芝居をはじめて観たのは1986年の冬、池袋サンシャインでの『ハッシャバイ』が最初でした。当時、第三舞台&鴻上尚史さんは一気に全国区に駆け上がっていた時期で、芝居にも凄いエネルギーを感じた記憶があります。病みつきになって、しばらくの間、芝居がかかる度に毎回欠かさず観劇していました。前売りチケットが買えず、当日席を取るために何時間も紀伊国屋ホールの階段に並んだものです。われわれの世代にとって、当時の鴻上さんは時代を語るカリスマ的な存在でした。
同世代のカリスマが“おじさん”になって、何をどのように語るのか、興味津々できょうの夕学を迎えました。

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“志”の人 「人生の座標軸」 堀義人さん

堀義人さんと慶應、そしてMCCとは浅からぬご縁があるようです。
慶應MCCの看板プログラムのひとつ「ビジネスプロフェッショナルの交渉学」は、講師の田村次朗先生(法学部教授)が掘さんと旧知であったことから、グロービスの協力を得て開発されました。更には、きょうの講演ではじめて知りましたが、堀さんのおじいさまは、藤原工業大学(慶應理工学部の前身)の学長でいらしたとのこと。
そんな関係もあって、きょうの夕学も快くお受けいただきました。

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普通の人々を大切に 「組織能力としての人材マネジメント」 守島基博さん

「守島さんは紳士やなあ」
私が私淑する神戸大の金井寿宏先生は守島先生のことを語る時よくそうおっしゃいます。そのお言葉通り、いつも謙虚で、丁寧で、それでいて無駄のない的確な対応をされます。しかも暖かい人間性を感じさせてくれる人です。新しい本を出版されるといつも献本をしていただきます。今回の依頼に際しても、依頼状を受け取られた後に、慶應MCCに立ち寄られ、直接ご快諾の返事をいただきました。
そんな守島先生のお人柄を皆さんもよくご存じなのか、定員一杯300人近い方にお越しいただきました。

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考え続けるエネルギー 「創造的なこころ」 安藤忠雄さん

「5,000円もとってるの。ぼったくり商売やな」控室で夕学のパンフレットを見た安藤さんにいきなり言われてしまいました。つづいて、「よし、○○くんの講演に何人来るかあててみせよか」と言って愉快そうに講師の名前の横に数字を書き込みはじめました。しかも、それがあたってるんです。あげくには「こんなことしていたら時間がもったいない。本にサインでもしよか」と席を立ち、気づいたらロビーでにこやかにサインをこなしています。
こんな感じで、完全に安藤さんのペースに巻き込まれながら講演は始まりました。

お話は、大阪人らしいユーモア満点の展開です。それでいて、安藤さんが建築家としてどう生き、何を考え、誰と交流してきたのか、そして建築を通して何を表現しようとしているのか、熱い想いがビンビンと響いてきます。「創造的なこころ」というきょうの主題に随所で触れながら、私たち日本人の生き方に厳しい指摘も忘れません。

私が強く印象に残ったのは、「創造的なこころとは“考え続けるエネルギー”だと思う」という言葉でした。安藤さんは、ちょっとした空間や古くなった建物に出会うと、そこにはどんな建築がいいのかを常に考えるのだそうです。時には頼まれもしないのに、オーナーに提案することもよくあるとのこと。
安藤事務所のスタッフに対しても、まず「お前はどう考えるのか」を厳しく問いかけるのだそうです。人に意見を求める前に自分の意見を考えること、それも思いつきでなく、根拠や理由を伴った論理的なものであること、その姿勢がクリエイティブマインドの大前提ということでしょう。私たち日本人に向けられている教戒であったのかもしれません。

また、安藤さんのお話を聴いて、キャリア論で語られる「Planned Happenstance(計画的偶然性)」という言葉を思い出しました。人生とは、あらかじめ設計図を描いて、その通り進もうとしても、思い通りにはいかない。偶然の積み重ねで構築されるものだ。しかし偶然が起きる確率を高めるための行動をすることは出来る。簡単に言うと、そういう考え方です。
家庭の事情もあって大学進学をあきらめ、独学で建築の道に進もうと決意した10代の安藤さんは、徒手空虚のまま世界一周の旅に出ます。旅先で目にしたさまざまな建築や事象に「なぜか」「自分ならどうする」という問いを繰り返したことが安藤さんの原点だったようです。頼まれもしないのに図面や模型を作って提案に行くという行為も同じです。一見非効率な行動の連鎖が、斬新なアイデアのストックを生み、生涯の支援者との出会いと交流を実現し、結果として多くの建築へと結実していったのではないでしょうか。
大きな方向性が定まったら、あれこれと細かいことにこだわらず行動してみること、それが道を切り拓くのだと改めて思いました。

「また呼んでくださいね。いつでも来ますから」そうおっしゃって、のぞみの最終電車に飛び乗ってお帰りになった安藤さん。主催者が言うのも変ですが、5,000円の価値は十分にあった講演でした。

最後に、いま安藤さんが注力している「瀬戸内オリーブ基金」の趣旨に賛同し、夕学の場を活用させていただきました。多くの募金が集まったようです。印税が「瀬戸内オリーブ基金」になる「建築を語る」「連戦連敗」もたくさん売れました。この場をお借りして御礼申し上げます。

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原理・原則の人 「実践的起業家論」 堀江貴文さん

きょうの夕学は堀江さんでした。
堀江さんに夕学の依頼をしたのは今年の1月、一連の騒動の前でした。申込受付を開始したのは3月1日で、最も話題が盛り上がっていた頃です。お陰様で、わずか1日半で満席マークが灯りました。夕学始まって以来の驚異的スピードでした。

さて、講演ですが、堀江さんが生来の起業家マインドの持ち主であることが改めて確認できるものでした。話の内容は、極めてベーシックな起業論が中心でしたが、堀江さんは、自立した個人の活力が産み出す自由なマーケットの力を心底信じているのですね。しかも信念というよりは、極めて論理的かつ合理的な結論としてそこに行き着いているのが強みなのかもしれません。
原理・原則をそのまま実行している人なのだと思います。

堀江さんによれば、起業には4つの条件が必要だそうです。①初期コストが安いこと、②利益率が高いこと、③マーケットサイズが大きいこと、④誰もやっていない(競争が少ない)こと。こう書いてしまえば、「そんなことが分かっている、そういう事業が見つからないから苦労しているのだ」となってしまいますが、堀江さんの眼には、そういう市場がいくつも見えているようです。もちろん、それは天才のなせる技だと言ってしまえばそれまでですが、実はわれわれに見えないのではなく、目先の小さな障害に眼を奪われて見ようとしていないだけかもしれません。

堀江さんは、会場の質問に答えて、上記4つの条件は全て同等で優劣のあるものではないとおっしゃっていましたが、個人的には「誰もやっていないこと」に行き着くジャンプ力がホリエモン流起業の真髄のような気がします。
「100人に聞いて、皆がやめた方がいい、無理だということこそやるべきだ。だって一人占めできるのですよ」堀江さんは何度かそう強調されていました。考えてみれば、プロ野球参入も放送局を傘下に収めようしたことも、「誰もやっていないこと」ですね。
あるいは、少し先の見える人なら考えついても実行できないことを、憶せずにやってしまう行動力が凄いのかもしれません。

最後の控室で、上記4原則を満たす市場として堀江さんが着目している業界の話をちょっとだけしてくれました。それは「学習参考書」市場だそうです。すでに「堀江式英単語学習帳―ホリタン」という本も出していますが、他にもいろいろ考えているみたいですよ。
ホリエモンが拓く新たな「学習参考書」マーケットに乞うご期待。

堀江さんのブログはこちらです。
堀江貴文のお仕事Blog  http://blog.livedoor.jp/takapon_career/
livedoor社長日記  http://blog.livedoor.jp/takapon_ceo/
講師紹介は こちら

マーケティングの達人 西川りゅうじんさん 「変化を捉えて活かす情報力養成講座」

“バブル・シーラカンス” 西川りゅうじんさんはご自身に称せられた造語を愉快そうに使われます。なんでもバブル崩壊直後に「噂の真相」に書かれたのが最初とか。自分を揶揄する表現を逆手に取ってジョークに使ってしまうのが西川さんの真骨頂です。
一方でそれは、25年間、時代のド真ん中で、斬新な当事者かつ冷静な観察者として生きてきた実績と自負の裏返しとも言えるでしょう。本当にシーラカンスになってしまった人達をたくさん見てきたから、そして、彼らが、なぜシーラカンスになってしまったのかをよく見極めているからこそ言えるのかもしれません。
「Win-Winの信頼関係がなによりも重要だ」という、当たり前に聞こえるシンプルなメッセージの中に西川さんの想いを強く感じました。

講演は、まさに西川ワールドです。「なんでも不況のせいにする“不況者”」「勝ち組=価値組」「民主党は風力発電所。風邪が吹かないと動かない」等々の得意の造語を散りばめて人物・事象を斬っていきます。西川さんはサービス精神豊富な方なので、会場の反応を読み取りながら、適度な脱線も入ります。曰く、田中康夫長野県知事の名刺手裏剣配り術、大阪の不況と道頓堀ダイビングの因果関係、サッチーを使った豊島園CMの裏話…これはこれでとても楽しいものでした。
最後の30分で、きっちり皆さんにお土産も持たせてくれましたね。個人的には「儲ける」という漢字の西川流解説はいただきでした。「人+言+者」つまりコミュニケーション、「人+諸」つまり異質な人との交流、「信+者」つまり信じてくれる人、信じられる人を増やすこと、それが「儲ける」ことだそうです。

さて、冒頭の段落で触れた西川さんのメッセージにも関連しますが、講演終了後は9時半近くまで受講生の方と名刺交換をしていただきました。質疑応答の時間が取れなかったので、事前打ち合わせなしの苦し紛れのお願いでした。西川さんは快くお引き受けくださり、ひとり一人の質問に丁寧にお答えしながらコミュニケーションをされていました。
「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」そんなことわざが浮かぶ光景でした。

西川さんはご自身公式webサイトももっていらっしゃいます。
是非定期的にご覧になってください。、<西川りゅうじんオフィシャルwebサイト>

<追記>
そうそう、「きょうは焼酎の話ができなくて残念だったなあ」とおっしゃっていました。芋焼酎にはまっている私としても、是非聴きたいところでした。次回に期待します!!

講師紹介ページはこちらから。

企業が善くならなければ、社会はよくならない 「経営革新のためのCSR」梅津光弘さん

JR西日本福知山線の悲しい事故の記憶も新しい中、きょうの夕学は「企業の社会的責任(CSR :Corporate Social Responsibility)」がテーマでした。講師の梅津先生は、慶應の文学部を卒業後、米国で企業倫理学のPh.Dを取得し、いまは商学部に所属されています。倫理学という人文科学の真ん中から生まれた学問が、企業経営の最前線のトピックになるところに企業倫理やその隣接領域であるCSRの奥の深さがあるのでしょうね。

講演は、やはり事故の話題からはじまりました。Responsibilityという言葉が [“Response”:応答する]という語彙を持つということは、CSRとは「社会の期待に応えることが企業の責任である」という意味になります。「・・・問題視されているJRの過密ダイヤも周辺住民の増発・スピードアップという期待に応えようとした過剰な企業行動の結果という側面もあるかもしれない。CSRは、企業に何をどこまで期待するのかという私達の意識と社会の期待にどこまで応えうるのかという経営サイドの判断とが複雑に交錯した、一筋縄では括れない問題をはらんでいる。・・・」梅津先生がそうおっしゃったのが印象的でした。

梅津先生は、研究者・教育者であると同時に、企業の倫理規定の策定や社内教育にも積極的に関わっているので、日本企業の企業倫理への取り組み状況に精通しています。そんな梅津先生から見ると、日本企業の取り組みは「形式は整ったが態勢はこれから」とのこと。
倫理コードも作成した、専門部署も設けた、立派なCSR報告書も出来た。でもそれを適切に運用できるかどうかはこれからの努力にかかっているという評価だそうです。
確かに倫理コードはコンサルタント会社に丸投げ、組織が出来ても専任は一人だけ、CSR報告書は広告代理店に発注なんていう会社もあります。もちろん何もやらないよりはいいのでしょうが。
「例え最初はA4-2枚のCSR報告書であっても、年を重ねるごとに中身が充実し立派な冊子に変わっていけばよい。いきなり無理をして見栄えのいいものを作らなくてもいいんです」という言葉に、時間をかけてでも企業倫理を浸透させていきたいという真摯な想いが感じられました。

企業倫理に関心のある方は梅津先生も中核メンバーである「経営倫理実践研究センター」の活動をご覧になったら如何でしょうか。

また、慶應MCCでも梅津先生が講師を務める「ケースメソッドで学ぶ企業倫理」というプログラムが6月に開催されます。企業倫理やCSRの教育は各企業の独自性や業界特性を反映したものでないと効果がないそうです。その会社の裏も表もしった人間が手作りで展開するのが一番いいとのこと。そんなリーダーを育成するプログラムです。

がっちり勉強したい方は梅津先生の下記の書籍をどうぞ。
『ビジネスの論理学』 『ハーバードのケースで学ぶ企業倫理』

講師紹介はこちら

捨てる決断と加える決断 「革命時代の経営哲学」 松井道夫さん

昨夜、このブログを書き終えて帰宅途中の電車で週刊ダイヤモンドを読んでいたら、
“都銀五行の定期預金残高がこの1年で1兆6千億円減った”という記事がありました。
減少分はそのまま、リスクを伴う金融商品に回ったているという解説もついていました。
個人のリスク資産という市場は着実に拡大しているんだと改めて思いました。と同時に、松井社長はこの時代をどう読み解いているのか、何を考えているのかを知りたくなり、きょうの夕学がより楽しみになりました。

夕学は、3年振り2度目のご登壇です。
「きょうは、昼飯も取れなかったので...」多忙なスケジュールを縫って、駆けつけてくれた松井社長は、そう言いながら、サンドイッチを大急ぎで頬張り、会場に向かいました。
そしてもきょうも、お得意の極端で刺激的なフレーズが連発されます。「会社30年説は大昔の話、いまは3年で寿命がくる」「社長はすぐに辞めてもいい」「松井証券をいまより大きくすることはまったく考えていない」...
正直、最初は圧倒されますね。
でもじっくり聞いていると、実に味わい深いお言葉も出てくるのが松井節です。

私は、「捨てる決断と加える決断」の話が印象に残りました。松井さんが10年余りの社長としての
決断を総括してみたところ、「捨てる決断」は全て成功し、「加える決断」の多くは失敗だったそうです。
営業マン廃止、コールセンター廃止、手数料廃止...みな「捨てる決断」です。でも加えることより捨てることの方が圧倒的に難しく、反対も多いものです。血も流れます。
しかも経営者に求められる決断は、いくら考えても正解がでないことに白黒をつけることです。
しかし、あえてそれをしないと前にすすめないものだそうです。
「新しいことを始める前には、古いものを捨てなければばらない」松井さんが話すと一層説得力のある言葉ですね。

終了後の控室では、松井さんから見た、ベンチャー経営者の人物像や評価が新鮮でした。
革新度や過激さでは若手ベンチャー経営者に勝るとも劣らぬ松井さんですが、人生経験・組織経験が豊富な分、またひと味異なる時代観や経営観をもっていらっしゃる気がします。

きょうの講演を聴いて、オンライン取引をはじめようと思った方、ものは試しに口座を開いてみたらどうですか。無料だそうですよ!!
詳しくは松井証券のサイトまで。

この講演は後日受講者レポートがでます。こちらもお楽しみに。

SkillよりWill 「勝者の思考法」 二宮清純さん

GW期間中にお休みしていた夕学がまたはじまりました。
きょうの講師はスポーツジャーナリストの二宮清純さんです。TV画面では、よくわからないのですが、二宮さんはスポーツ選手顔負けの素晴らしい体躯をしていらっしゃいます。

控室では、二宮さんの故郷、愛媛の八幡浜の話からはじまりました。我が社の副社長は愛媛在住の経験があるので詳しいそうですが、「八幡浜の二宮一族」というのは愛媛では有名なのだそうです。なんでも、「日本初の飛行機発明家」の二宮忠八氏、シーボルトの娘さん(楠本いね)に医学を教えた二宮敬作といった偉人を輩出してきたとか。祖先は相模国の二宮に拠点をおいた平家方の水軍で、平家滅亡後八幡浜に根づいたそうです。スポーツジャーナリズムの世界に新境地を開拓した二宮さんもその血筋を引いているんですね、きっと。

「野茂のフォークはヒュルヒュルと音を立てて落ちる」 マイク・ピアザのこの言葉にヒントを得て、二宮さんは、野茂のフォークがなぜ打たれないのかという理由を探索します。さらには、「そういえば、野茂はよく爪を痛める」という事実からその理由が「回転」にあるのではないかと思い巡らします。普通フォークは回転を殺すことによって空気抵抗を起こし、落ちる変化を可能にします。ところが野茂はあえて微妙に爪を縫い目にかけて回転させているのだそうです。大リーガークラスになると球種さえ見抜けば、いくら落差があったところで対応できてしまいます。彼らは球の回転の有無でフォークか否かを見抜いてしまうとのこと。つまり回転をかけることで、一瞬の判断を遅らせ押さえることができるのだそうです。
二宮さんは、ピアザのコメントと爪の故障という事実からその秘密を推察し、本人にぶつけることで検証していきます。
野茂も凄いけど、二宮さんも凄い! まさにプロの技術ですね。

講演の冒頭で高橋尚子と小出監督の決別についてもコメントされましたが、数分間のインタビューの中から、高橋尚子が発した「卒業」「自己責任」という二つの言葉を見つけ出し、二人のこれまでの軌跡と現在の環境を読み込んだうえで、ズバリ彼女の心境を解説してみせた時にも同じ切れ味を感じました。
二宮さん自身にも「勝者の思考法」があるのですね。

二宮さん! 堀江さん安藤忠雄さんの夕学でお会いできるのを楽しみにしています。
今度は、是非鋭い質問をお願いします!!

二宮さんには素敵なサイトを持っていますのでこちらも是非どうぞ。
「SPORTS COMMUNICATIONS」二宮清純責任編集サイト

時代を越えた普遍の真理を学ぶ 「変貌するビジネスシステム」加護野忠男さん

経営学者の中で“西の重鎮”と称される加護野先生。けっして難しい言葉は使わず、ユーモアたっぷりに、絶妙の間を取った語りには、聴く人を心地よく納得させる深さを感じます。

「競争原理の導入」「イノベーションの創出」「オープンネットワーク」など、多くの企業がこぞって取り組む経営コンセプトがあります。そして、それらを持続可能なシステムとして構築するために、さまざまなアプローチがなされています。加護野先生は、先端的ビジネスコンセプトを根づかせるためのヒントは日本の伝統システムの中に織り込まれていると主張します。

京都の特徴である閉鎖的・排他的な文化風土が、実は京都企業特有の革新性を産み出したのではないかという解釈。灘の酒蔵と丹波杜氏の関係はコア技術の外部化による品質維持・技能継承システムと理解できるという解説。東大阪の中小製造業には、力のない企業がつぶれる一方で、細胞分裂のように新興企業が発生する健全な競争原理が機能してきたという認識。いずれも、それぞれの地域の文化特性を土壌にして育った伝統システムですが、見方を変えれば、多くの大企業が必死で模索している先端ビジネスコンセプトの成功事例だというわけです。

伝統システムの中から先端システムに活用できるヒントを見つけ出すために、“夜学”の効用を説かれたことも夕学担当者としては嬉しいことでした。松下幸之助、本田宗一郎、中内功に共通したことは、起業後に夜間大学で学んだことだそうです。加護野先生は、「経営学の授業は全部忘れたが、日本国憲法に授業が面白かった」という中内さんの言葉を紹介しながら、「彼らが夜学で学んだことは、実務知識や専門技能ではなく、基礎科学や古典を通して、時代を越えて生き残った普遍の真理を学び取る力だったのではないか」と推察しています。

「夕学五十講」は、“時代の潮流と深層を読み解く”ことをコンセプトにしていますので、基礎科学や古典をテーマにすることはありません。しかし経営やビジネスのみならず、政治、文化、スポーツなど各領域の第一線で活躍する識者の言葉や論理を通して、業種・業界を越えた共通原理のようなものを掴んでもらえるのではないでしょうか。

「今度は、経営学者じゃあなくて、文学や歴史の先生を呼んだらどうですか」
講演終了後、愉快にそうお話になりながらホテルに帰っていかれました。

京都の革新性については「むろまち」という小説がよいそうです。
古典を通して普遍の真理を学ぼうという方には、講演で紹介された次の2冊はいかがでしょうか。「>文明論の概略を読む」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神


講師紹介ページ

伝えたいという心が力の源泉 「芸術の力」千住博さん

ニューヨークにアトリエを構え年間300日を海外で過ごす千住博さん。今回の帰国はわずか一週間だそうです。一昨日ミラノから帰り、昨日は名古屋、週末には福岡、東京でも分刻みのスケジュールをこなすとのこと。そんな多忙な中にあって「今回はこの講演を中心に予定を組みました」と言っていただきました。感謝の気持ちで一杯です。

慶應義塾の塾監局の応接室には、千住さんに寄贈いただいた絵画が飾られています。日吉の大イチョウをモチーフにしたその絵を見る度に、「いつか夕学に来て欲しいなあ」と思っていました。間に立っていただいた多くの皆さんのご尽力もあって、念願がかないました。そして期待に違わぬ素晴らしい講演になりました。

「芸術とはコミュニケーションである」という言葉から講演ははじまりました。内面から沸き起こるイマジネーションを他者にどう伝えていくか、そのための創意工夫のプロセスが芸術活動であり、「伝えたい」という想いの強さこそが、優れたアートを産み出す源泉だそうです。
千住さんは自らの経験と豊富な美術史の知識を織り交ぜながら、「伝えたい」という想いを込めて語りかけてくれました。まさに「芸術の力」を体感した2時間でした。

控室でも印象に残るお話を聴くことができました。千住さんは、日本画の新しい可能性を拓くという開拓者としての使命を強く意識され、さまざまなフィールドに野心的に挑戦されています。「日本画というと保守的な世界というイメージがありますが障害はないのでしょうか」などという愚問を投げかけたところ、「真ん中を歩んできたからこそ、新しいことができるのです」とのご返答。東京芸大大学院で日本画を専攻し、現在も旺盛な創作活動を続けている“日本画の保守本流”という自負があるからこそ新たな挑戦ができるのだそうです。それは「新たな挑戦は決して伝統を壊すことではなく、日本画本来の素晴らしさを世界中に人々に伝えることに繋がるのだ」という信念を強く感じさせてくれるお話でした

最後に千住先生のこれから活動をいくつかご紹介します。
5/29まで福岡アジア美術館で「千住博展」が開催されています。大徳寺聚光院別院の襖絵全77枚を鑑賞できる初めての機会だそうです。

9月には「愛・地球博」のフィナーレイベントのアートディレクターをされるそうです。あっと驚く企画だそうですが、こちらはまだ公開はされていないみたいです。乞うご期待。

それと、「千住博美術の授業 絵を描く悦び」(光文社新書)は絶対のおすすめです。
京都造形芸術大学での講義を本にしたそうですが、ビジネスパースンが思わず膝をたたきなくなるような珠玉の言葉が一杯です。特にキャリア論に関心のある方は是非お読みください。


  講師紹介:https://www.sekigaku.net/member/detail.asp?NO=1&ID=248

“実感のはりついた知識”こそ本質  「スローキャリアのすすめ」高橋俊介さん

2005年前期の第一回目。
早々に満席マークがついて予約できなかった方も多数いると思います。本当にごめんなさい。
きょうの高橋先生の講演は、期待に違わぬ素晴らしいものでした。

夕学では2度目のご登壇ですが、高橋先生には、それ以外にも「人事プロフェッショナル養成講座」や「キャリアアドバイザー養成講座」で教壇に立ってもらっています。はじまる前に、高橋先生の講義を聴いた回数を指折り数えてみたら、なんと12回目でした。つくづく「役得だなぁ~」と思います。短い間に12回も聴けば、当然内容の重複はあるんですが、不思議なことに聴けば聴くほど納得感が高まるのです。きょうは、その理由を考えながらステージ横に座っていました。

高橋先生の話をお聴きになったことのある方ならおわかりだと思いますが、自分の言葉に置き換えた平易な理論説明と豊富な事例を、マシンガントークに乗っけて一気に語り尽くすあの話術は天下一品です。
でも、きっとそれだけが理由ではないんです。

自分の生き方・働き方を通して、強い共感と信念をもって理解したことしか話さないからではないでしょうか。いわば「実感のはりついた知識」なんですね。きょうの講演でも触れていましたが、高橋先生は、夏休みがはじまる前に宿題を終わらせる少年だったそうです。ワイアットの社長時代から、秘書は持たず雑用も全部自分でこなしてきたとのこと。その理由を動機理論に絡めて「自己管理」「徹底性」という動機が強いからだと解説してくれます。
実は、高橋先生今もそうなんです。講義を依頼すると、OKの返事の翌日には、当日の配布教材が届きます。何か問い合わせをしても、必ず期日前に返答が来ます。こんなに有り難い先生は滅多にいないんです。いつも、時間ピッタリまで、ひとりの聴衆も退席させることなく講義してさっとお帰りになります。

そんな人となりを知れば知るほど、話の内容に説得力を感じてきます。
「スローキャリア」は高橋先生自身のキャリア観の集大成なんですね。
ご自身のキャリアを語り、他の方のそれに共鳴し、響き合う中で概念が形づくられ、その概念を理論で補強し、具体的な事例に還元する。だから、何度聴いても面白い。そんな気がします。

講演内容そのものを知りたい方は、是非「スローキャリア」をお読みください。
それと、講演の中で何度もお名前の出た玄田有史先生には「仕事の中の曖昧な不安」という名著があります。こちらもおすすめです。
7/20には夕学にも登壇されますので、よろしければお越しください。

それではまたお会いしましょう。

  講師紹介:https://www.sekigaku.net/member/detail.asp?NO=1&ID=247