« 2006年度前期 | メイン | 2005年度前期 »

地上5メートルから見上げる戦略論  藤本隆宏さん ものづくり現場発の戦略論

2004年秋、ものづく経営研究センターが開催する「ものづくり寄席」という講演会で藤本先生が基調講演をされた時に聴いた面白いエピソードがあります。
その数ヶ月前、天皇皇后陛下主催秋の園遊会に藤本先生もお招きを受けたそうです。園遊会では、参加者がずらりと並んで、順番にひとり一人に陛下が声をかけるシーンがテレビでもよく放映されますよね。藤本さんについて「我が国の、ものづくり経営研究の第一人者で、東大のものづくり経営研究センターの責任者です」というお付きの方の紹介説明を受けた陛下から「日本のものづくりはどうですか?」とのご下問がありました。それに対する藤本先生の返答は「ハイ。“すりあわせ型”ものづくりは元気です!」だったとのこと。
この逸話に象徴されるように、この何年か藤本先生は日本の製造業、特に自動車産業に代表される「すり合わせ型のものづくりシステム」の素晴らしさを広くあまねく紹介する伝道師のような役割をされてきました。中国にとって代わられるという悲観的な観測に支配されていた日本の製造業ですが、「ある部分においては他国に簡単に真似の出来ない強みはある。その強みを武器にした戦略を構築するべきだ」というのが藤本先生の一貫した主張ですが、その「ある部分」というのが「すり合わせ型のものづくりシステム」です。
機関銃のような早口といい、風貌といい、ちょっと目には気むずかしい雰囲気の漂う藤本先生ですが、実際は腰の低い誠実なお人柄です。近くで見ると眼鏡の奥の小さな眼がとても優しいのが印象的です。そんな暖かい人間性で、世界の工場を見て歩き、現場のエンジニアと議論しながらものづくり現場発の戦略論を構築してきました。
きょうの講演はそんな藤本先生の人間性もかいま見えるような2時間でした。

続きを読む "地上5メートルから見上げる戦略論  藤本隆宏さん ものづくり現場発の戦略論"

野球にかける思い 石毛宏典さん 「四国アイランドリーグの挑戦」

自分の話で恐縮ですが、私は高校~大学までは野球フリークで、毎週『週刊ベースボール』を購読していました。その頃のことを懐かしく思い出しながら、石毛さんの話を聞いておりました。
石毛さんの野球人としてのキャリアを改めて思い返してみると、一見野球エリートの本道のように見えますが、実際は、普通の野球エリートとはひと味違う、いい意味での“あまのじゃく”的な進路決定をしてきたのではないかと思います。駒沢大学時代から将来を嘱望されていましたが、彼が選んだのは創部したばかりのプリンスホテルでした。当時、堤清明氏が打ち上げた「野球でオリンピックを目指す」というロマンに共鳴してのことでした。堤氏の横で、詰め襟姿で記者会見をした石毛さんの紅潮した顔をおぼろげながら記憶しています。
西武では、誰もが疑わぬ監督候補の一番手で、球団もファンもそのつもりだったのに、あえて現役にこだわり、ダイエーに去っていきました。この決断が堤氏の逆鱗に触れたというのは有名な話です。
引退後は、野球評論家や指導者の道を選ばず、単身メジャーリーグにコーチ修行に出かけていきました。石毛さん程の実績があれば、そしてあの弁舌と頭の回転の良さからして、テレビ局も引く手あまただったはずです。フャンの「きっとこの道に進むだろう」という予想を見事に裏切りながら、それでいて「なるほど、そういう道もあったのか」と唸らせる独自の野球人生を送ってこられた方だと思います。引退後はバラエティー番組で醜態を晒すことに躊躇しない、多くの後輩達とは志のレベルが違います。
その延長線で考えると、四国アイランドリーグの設立も、石毛さんらしい選択だったと改めて思います。

続きを読む "野球にかける思い 石毛宏典さん 「四国アイランドリーグの挑戦」"

 「ジェネレーションYの起業家に聞く」

「ジェネレーションY」とは、デジタル時代に育ちネットを空気のように当たり前のものとして使いこなす世代を意味する言葉だそうです。何年生まれから「ジェネレーションY」と飛ぶのかは日米で基準が異なり、しかも日本でも諸説あるようですが、だいたいその時代に生まれた人々は、それ以前の世代とは明らかに違う価値観を持っているという認識から生じた概念かと想像されます。ところがそれは、あくまでも上の世代から彼らをみた時の感覚であって、当の世代の人にとっては、自分達が上の世代と価値観が異なるという意識はそれほどなく、違いを感じるとすれば、ネット社会の本質を掴まえることができるかどうかという洞察力であって、それは年齢とは関係がないという印象のようです。
確かに、「ジェネレーションYの起業家達」の話を聞いていて、世代論というレッテルでひと括りには出来ない普遍性を感じました。

続きを読む " 「ジェネレーションYの起業家に聞く」"

相対の精神を忘れない 山本一力さん 「人生の目利きになる」

「星にあげて、星から降ろしてるんですね」 山本一力さんに通信衛星による夕学サテライトの説明をした際におっしゃった言葉です。まさに「説明」ではなく「描写」ですね。映像が宇宙空間を飛んでいくさまが目に浮かぶようないきいきとした表現に、いきなり感服してしまいました。話を聞く際にも、真正面から相手の眼を見据えて離しません。「あなたの話を聴いていますよ」というメッセージがしっかりと伝わってきます。
「人生は全て相対で成り立つ。相手のこころを思いやる気持ちが原点であるべきだ」講演の中でそうおっしゃった通り、山本さんはいまでも営業マンのこころを持ち続けている素晴らしい人でした。

続きを読む "相対の精神を忘れない 山本一力さん 「人生の目利きになる」"

新潟を世界一にする 池田弘さん 「アルビレックス新潟の奇跡と軌跡」

冷たい冬の雨をものともせず、人懐っこい満面の笑み浮かべながら池田さんは控室に現れました。スーツの襟元から覗くのは鮮やかなオレンジのクレリックカラーシャツ。オレンジはアルビレックス新潟のチームカラーです。
池田会長は、構えは小さいながらも新潟で一番の古社の宮司として生まれ、いまも現役の神主さんであると同時に、23の専門学校と高校・大学を要する北陸有数の教育グループ新潟総合学院の理事長、サッカー、バスケット、陸上競技、ウィンタースポーツのチームを運営するスポーツビジネス企業 アルビレックス新潟の会長、そしてベンチャーインキュベーションを目的に組織化されたニューベンチャービジネス協議会の会長を務めます。宗教・学校・スポーツ・企業...人間が社会を営むのに不可欠な要素の多くに経営者・リーダーとして関わっていることになります。一見脈略のない事業連鎖のように見えますが、池田さんの中では極めて筋の通ったシナジーが描かれていたのでしょう。聴く人に、そう納得させる講演でした。

続きを読む "新潟を世界一にする 池田弘さん 「アルビレックス新潟の奇跡と軌跡」"

世界の地図を変える国 榊原英資さん 「インドを読み解く」

榊原先生がインドに関心を持ったのは最近のことだそうです。詳しく調べようと思い、書籍を探したところ、日本にあるインドの専門書は哲学や宗教学ばかりで、経済について、特に現代インド経済を解説する本はほとんど存在しなかったそうです。中国に関する本が有象無象含めて氾濫しているのと対照的だとのこと。
恥ずかしながら、私もインドについての知識は実に浅はかなものです。「ゼロの概念が生まれた国で数字に強い」「シリコンバレーはインド人だらけ」「カースト制はいまだに深刻な問題らしい」といった程度の知識はありましたが、首相の名前がモンマハン・シンだということさえ知りませんでした。
そんな私にとって、きょうの講演は「現代インド入門」とでも呼べるようなたいへん分かりやすいものでした。

続きを読む "世界の地図を変える国 榊原英資さん 「インドを読み解く」"

品格ある教養人たれ 村上陽一郎さん 「現代における教養とは」

「かつて、働くとことは“神の呪い”であった」 そんな刺激的なメッセージではじまる本があります。(『仕事の裏切り』ジョアン・キウーラ)
古代ギリシャにおいて、仕事は奴隷の役割でした。農地を耕すことも、工具を作ることも、火事、育児、全ての労働は神の呪いを受けた奴隷に課せられた宿命だと考えられていました。一方で市民(貴族)は詩を詠み、音楽を奏で、哲学を論じることに生き甲斐と精力を傾けていました。そのために必要な素養がLiberal Artsつまり「奴隷の責務である仕事から解放されるための技」だったわけです。逆に言えば、“神と繋がる”ための素養として必要なのが「教養」だったのです。
村上先生の講演は、そんな背景を受けて、12世紀に生まれた「大学」という社会システムの役割とそこで求められた「教養」についての話から始まりました。

続きを読む "品格ある教養人たれ 村上陽一郎さん 「現代における教養とは」"

議論の本意を定る事 平山洋さん 真実の福澤諭吉を求めて

私は慶應の出身ではありませんし、恥ずかしながら、慶應MCCの立ち上げに参画するまで福澤諭吉については「一万円札の顔写真」と「天は人の上に人を作らず…」程度の知識と興味しかありませんでした。何年か前に、少しは福澤諭吉の勉強もしなければと『文明論之概略』(岩波文庫)を購入し、テキスト代わりに丸山真男の『「文明論之概略」を読む』(岩波新書)をセットで揃えたのが初めての福澤体験です。後から聞けば、最初は『学問のすすめ』を読むべきだそうで、確かに『文明論之概略』は格調高い漢文体で書かれているので、丸山氏の解説がないと理解するのが難しかったことを思い出します。(解説もかなり難解でしたが…)そんなわけで、読んだというより、パラパラとめくったというのが正しい表現かもしれませんが、第一章が「議論の本意を定る事」という章題で始まっていることを印象深く憶えています。いま風に言えば「ロジカルシンキングの重要性」とでも言えばいいのでしょうか。
このブログを書きながら『「文明論之概略」を読む』を今一度開いてみたところ、丸山真男は、最初に「議論の本意を定る事」ではじまる理由を、『文明論之概略』が書かれた明治初期の混沌とした時代背景と結びつけて、既存の価値観や物事の見方・考え方が大きく変わろうとしている時には、なによりもまず「思考と議論の方法論」を持つことが重要だという福澤の思想の表出であると論じています。福澤には他にも有名な「多事争論」という言葉もありますが、没後100年を経て、今またロジカルシンキングの必要性が声高に叫ばれている事実に、時代を超えた福澤思想の普遍性を感じざるを得ません。
きょうの講演で、平山先生が繰り返し主張されていたのは、福澤研究について、そんな論理的な議論をもっとやりたいという強い問題意識だったような気がします。

続きを読む "議論の本意を定る事 平山洋さん 真実の福澤諭吉を求めて"

新たな統合のあり方を目指す 姜尚中さん 「東北アジア共同体に向けて」

今朝、Googleで「姜尚中」と検索したところ、とあるブログのタイトルが目にとまりました。曰く「男も惚れる姜尚中という男」。つまり、女性が惚れるのは当然として、もてる男をやっかみたくなるのが本性の男でさえ「この人は凄い」と思わせる魅力があるとのこと。
控え室に現れた姜先生は、スラリとした長身に、ハイネックのホワイトボタンダウンシャツ、黒のイタリアンスーツをノータイで着こなし、ヒルズ族ベンチャー社長顔負けのダンディーな装いでした。しかも森本レオを彷彿させるハスキーな低音を響かせながら、ソフトに気配り豊かに話を進めます。
いざ講演がはじまると、頭脳明晰、論理明快、複雑に絡まった糸を丁寧に解きほぐすようにわかりやすく説明をしてくれます。確かに凄い人でした。

続きを読む "新たな統合のあり方を目指す 姜尚中さん 「東北アジア共同体に向けて」"

内発的国際化 キャメル・ヤマモトさん 「日本人企業進化論」

「私は、バブルの最後にやって来る男です」キャメル・ヤマモトさんは冗談めかして、そう自己紹介されるそうです。外務省を辞めて外資系コンサルティングファームに転じた1年後にバブル崩壊に遭遇しました。2000年のITバブルの終焉がはじまったのはシリコンバレーで暮らしはじめて2週間後のことだったそうです。中国に活動の拠点を移しつつある現在、中国の活況ははかない終わりを迎えるのか、あるいはキャメルさんのジンクスが破られるのか。どうやら後者の可能性が高いようではあります。

続きを読む "内発的国際化 キャメル・ヤマモトさん 「日本人企業進化論」"

新たな経済モデルが求められている 細田衛士さん 「グリーンキャピタリズム」

先日の「サンデープロジェクト」で、金のリサイクル事情の特集がありました。金は地上で最も希少性の高い資源でありながら、すでに採掘可能な埋蔵量の7割近くを掘り出してしまっているという危機感もあって、携帯電話やパソコンのマザーボードなどさまざまな製品廃棄物から、些少な金を取り出してリサイクルしている様子が放映されていました。金の延べ棒1本のうち30%がそうやって再利用された金で出来ているとか...
きょうの細田先生の講演では、金のリサイクルシステムをグリーンキャピタリズムの先駆者として紹介されていました。

続きを読む "新たな経済モデルが求められている 細田衛士さん 「グリーンキャピタリズム」"

失敗から学ぶ 堀紘一さん 「Ever Onward」

「君たちはそういう考え方をするのか。明らかに間違っているね」控え室に入って早々に、堀さんからそう指摘されました。
夕学では、講師の方々に当日の受講予定者リストをお見せしています。受講者の企業や職種によって、講演の進め方や事例の出し入れをする方が多いので、それを事前に確認していただくためです。実は春から個人情報保護対策の一環でお名前を伏せて、企業名と部署名だけの一覧に変更しました。そのリストをご覧になっての感想が冒頭のキツ~イ一撃です。
個人情報保護法の立法趣旨はこういう対応をすることを促しているのではない。安易な扱いが思わぬ悪用を招くことを避けるためのものだ。人に教えを請おうという時に自分の名を名乗らぬ人がいるはずがない。確かに名前があったところで、講師は何に役にも立たないが、礼儀として失礼な話だ。リストを持ち帰ってばら巻くような人達を講師に呼んではいないだろう。主催者の保身以外の意味はない。とバッサリと切られました。
講演前に怒らせてはまずいと思い、「そうはおっしゃいますが...」と言いたい気持ちをグッと抑えて丁重に謝りました。しかし、堀さんが指摘したかったのはそういう次元のことではなく、「何が問題なのかを、一歩突っ込んで考える姿勢の欠如」だったのだと、講演を聴きながら気づきました。

続きを読む "失敗から学ぶ 堀紘一さん 「Ever Onward」"

中国は国というより世界そのものだ 関満博さん 「中国民営企業の先進性」

台風直撃情報の影響でやむなく欠席された方が多かったために、特別に設定した関先生の連続登壇ですが、きょうも中国のエネルギーを熱く語っていただきました。
関先生は、きょうのテーマである「中国の民営中小企業」を研究テーマと定め、北京、大連、無錫、深せん、広東の5都市をベンチマークし、定点観測をしてきました。それぞれが地域性を生かした独自のモデルを作り上げており、5都市を観ることで中国の全体像がつかめるからという理由からです。各地で30社、計150社の民営企業を訪問調査した集大成が、近々700頁の大著にまとまり出版されるそうです。きょうは、そんな調査から大連、北京、広州の各都市で出会ったエネルギッシュなベンチャー経営者や彼らと密接に関わりながら発展する大学関係者のお話を聞くことができました。

続きを読む "中国は国というより世界そのものだ 関満博さん 「中国民営企業の先進性」"

賢明さと健全さ 黒田由貴子さん 「ファシリテーションの時代」

事前に黒田さんのプロフィールを拝見して「いったい、どんな方なのか」と正直身構えておりました。慶應卒。ソニーで海外マーケティングに従事し、フルブライト奨学生としてハーバードでMBAを取得。外資系コンサルティングフォームで活躍した後に、自ら会社を立ち上げて、いまやファシリテーションの第一人者。これ以上は望めないという圧倒的なキャリアです。ところが控え室でお会いしてみると、意外や意外、気さくで包容力があり、エリート臭を一切感じさせない暖かい雰囲気を持っています。よい意味で肩すかしを食った思いがしましたが、講演後には「これが、ファシリテーションなんだ」と納得しました。

続きを読む "賢明さと健全さ 黒田由貴子さん 「ファシリテーションの時代」"

内村鑑三とマキャベリ 冨山和彦さん「産業再生2年間の軌跡」

1年半前の夕学で神戸大の三品教授が「戦略不全の論理」という講演をされました。失われた10年というがそれは間違いである。日本企業は70年代以降一貫して営業利益率を低下させてきた。それはひとえに経営戦略の欠如がもたらした結果であり、戦略不全の根元的理由は戦略と意思決定を担うべき経営者の能力の低下にあった。その原因は、長期間にわたる右肩上がり経済環境に適合する「経営者育成システム」が存在していないからだ...という趣旨でした。
きょうの冨山さんの講演も、はからずも同じ問題点を指摘していました。三品先生が学者らしい、実証データと論理を中心とした研究面からのアプローチだったとすれば、冨山さんは、事業再生・経営再建の修羅場で身を持って感じてきた現場からの危機感に根ざしていました。「経営者」の再生が「産業」の再生につながる。それが冨山さんの主張でした。

続きを読む "内村鑑三とマキャベリ 冨山和彦さん「産業再生2年間の軌跡」"

食への畏敬の念 小泉武夫さん 「食の冒険家 大いに語る」

夜6時前、丸ビル7Fのエスカレーターをあがったところで福よかな太鼓腹の紳士と出会いました。それが小泉先生でした。「会場の下見をしたかったので早く来ました」と大きな声を響かせながら挨拶をしていただきました。控え室でも、人なつっこい東北なまりで、講演で話す内容や資料を早口で次々と説明してくれます。大学教授の傍ら、世界中を旅して、100冊近い本を書き、各種審議会・協議会の委員を務め、野球部の部長まで務めるという超多忙な毎日とのこと。カバンをガサコソとまさぐって本や写真をだされる際に、キャベジンコーワの瓶に入った薬のような物体が見えました。「やはり胃腸薬を常備しているのですね」などと失礼な質問をしたところ、「これですよ、これ!」といって見せてくれたのが、講演でも紹介された「乾燥納豆」でした。

続きを読む "食への畏敬の念 小泉武夫さん 「食の冒険家 大いに語る」"

人間としての使命感 田坂広志さん 「なぜ、我々は“志”を抱いて生きるのか

きょうの講演にあたって、事前に田坂さんから二つの要望をいただいていました。ひとつは、8時半までの2時間を自由に使わせて欲しいということ。もうひとつは質疑応答をしないで終わりたいということです。前者については「きょうのお話は重い話なので、聴衆によっては集中力が持続出来ない場合がある。会場の状況を確かめながら終了する時間を自分で決めたい」という理由からです。後者については「講演後には、その余韻の中で静かに皆さんに内省をして欲しいから」という説明をなされました。田坂さんにとって、きょうの夕学は、言葉によって何かを伝達するものではなく、同じ時間と雰囲気を共有することを通じて“場の持つ力”を感覚的につかんでいただく、まさに一期一会の出会いだったのかもしれません。進め方に対する注文は、演出やテクニックといった次元のHow-toではなく、真剣勝負の2時間に全責任を持ちたいというプロフェッショナルの矜持だったように感じています。

田坂さんに前回お越しいただいた際には、知的プロフェッショナルの思考力をテーマにしたお話でした。3年後の今回のテーマは「生きるうえでの志」です。テーマは抽象的になりましたが、その分田坂さんの思いはより鮮明・先鋭に研ぎ澄まされてきたような気がします。紹介の際にもお話しましたが、私は田坂さんのメッセージメール「風の便り」を3年近く欠かさずに読んでいます。このメールから、田坂さんの関心領域と活動が経営やマネジメントから発展して人生観や仕事観といった深淵な世界に少しずつ移っているという印象を持っていました。きょうの講演を聴きながら、なぜそうなっていったのか、少しだけわかったような気がします。
皆さんもお感じになったように、田坂さんは自らに問いを立て、自ら答えを紡ぎだし、その答えから新たな問いを立てるという思考のサイクルを回しているようです。それはソクラテスの問答法やヘーゲルの弁証法あるいは、「そもさん」「せっぱ」の禅問答のような崇高な真理に向かう終わりのない旅路なのでしょう。いかに産業を起こすか、いかに組織を運営するか、いかに部下をマネジメントするかという問題を突き詰めて考えれば考えるほど、「いかに生きるべきか」「何のために生きるのか」という根元的な問いにつながるのかもしれません、それを「哲学的」「宗教っぽい」という薄っぺらなレッテルを貼って理解してしまうのではなく、137億年の旅路の先端を歩く存在として、世代を越えて継承しようという「人間としての使命感」をしっかり受け止めなければいけないと強く思いました。

講師紹介ページはこちら

「風の便り」はこちらから申し込むことができます。
http://hiroshitasaka.jp/

心のコップをたてる 原田隆史さん 「カリスマ教師が語る人材開発論」

きょうの原田先生の分かりやすいお話と対極にあるような理屈っぽい始まりで申し訳ないのですが、私の好きなコンセプトに「Reflective Practitioner(反省的実践家)」というのがあります。様々な領域の優れた実践者がどのように行動の中でその知識を発揮しているのかを説明する概念ですが、読んで字のごとく「優れた実践家は、ある行動の結果を自分自身で内省して、意味づけや再整理を行い、次の行動にあたっては新たな知識に再結晶することができる」という含意です。原田先生の講義を聴きながら「こういう人のことをReflective Practitioner(反省的実践家)と言うのだろうなあ」と考えていました。

続きを読む "心のコップをたてる 原田隆史さん 「カリスマ教師が語る人材開発論」"

情熱と冷静 宮本亜門さん 「亜門流コーチング」

感動的な舞台やコンサートを見た夜、ベッドに入った後も軽い興奮が冷めずに、心地よい疲れとハイテンションが続くことがあります。いま、亜門さんの夕学講演を終えて、よく似た感覚に浸っている自分を感じています。パッションに包まれて自分自身も熱くなった後に、そんな自分の状態を客観的に分析しているもう一人の自分がいる。そんな感じでしょうか。「情熱と冷静」。何年か前によく似たタイトルの映画がヒットしましたが、亜門さんはこの二つの世界を自由に行き来している人なんだということを強く思いました。

続きを読む "情熱と冷静 宮本亜門さん 「亜門流コーチング」"

一人に対して百回同じことを言って、はじめてわかってもらえる 大橋洋治さん 「アジアNo1を目指して」

昨日、多くの新聞に日本航空の決算下方修正の記事が掲載されました。その対比で全日空の業績についても触れていたのをご覧になった方も多かったと思います。米国の航空会社が次々と破綻していることからもわかるように、世界の航空業界を取り巻く環境は、けっして安泰ではありません。日本航空でも原油高の影響を受けて、燃料費が前年比450億円増に上昇してしまったことが収益に大きく影響をしたとのこと。同時に全日空が燃料費をわずか90億円増に抑制できたことが業績の違いの要因になったとの解説がありました。
全日空は国内線や近距離国際線がメインなので、長距離国際線中心の日本航空とは前提条件が異なるものの、そこまでの燃料費抑制ができたKSFは何だったのでしょうか。きょうの講演は、その理由の一端を知ることができたような気がします。

続きを読む "一人に対して百回同じことを言って、はじめてわかってもらえる 大橋洋治さん 「アジアNo1を目指して」"

企画とは「記憶の複合」 おちまさとさん 「企画脳の作り方」

「イノベーションとは、“新しい組み合わせ”である」何年か前にイノベーション研究の第一人者といわれる経営学者に聞いた言葉です。きょうの、おちまさとさんの話を聞きながら、この時の記憶が想起されました。
10才の時、映画『ジョーズ』を観て、将来の仕事は、スクリーンの向こう側(制作者側)に立つことだと決断したという早熟の天才企画マンおちまさとさんの話が、お堅い職業の代表である大学教授の講義とつながる一瞬でした。
そして、はからずもこれがきょうの主題「企画脳」の本質にかかわる現象でもありました。

続きを読む "企画とは「記憶の複合」 おちまさとさん 「企画脳の作り方」"

企画の職人が持つ凄み くらたまなぶさん 「カラダ発想術」

くらたまなぶさんは、リクルート在籍の20年間、一貫して新規事業に携わってきた方です。創刊したメディアは全部で14。現在のリクルート28事業部のうち、半数の事業の立ち上げに関わったことになるそうです。その数もさることながら、その多くの事業が、現在の会社を支える看板事業に育っているという点が「伝説の創刊男」たる所以なのでしょうか。

「きょうは、私が20年間、家に帰らずに働きつづけて培ったノウハウを惜しみなくご紹介します。これを習得すれば、きっと皆さんは私のような苦労をせずに、人間らしい生活が送れますよ!」くらたさんは、そう話しながら講演をはじめましたが、その姿には、第一線の企画マンとして生き抜いてきたオーラや凄みを感じました。

続きを読む "企画の職人が持つ凄み くらたまなぶさん 「カラダ発想術」"

負ける建築 隈研吾さん「建築と自然の共生」

『負ける建築』 これは隈研吾先生の近著のタイトルです。建築は環境を制圧するものではなく、環境に付き従う“負ける”存在であるべきだ。このタイトルには隈先生のそんな建築思想が込められているそうです。きょうの講演は、その建築思想が完成していく軌跡をビジュアルで紹介していただけたのではないかと思います。

講演は「建築とはその場所(土地)と対話することなのです」というお話からスタートしました。たとえ会話すべき内容が同じであっても、相手が変われば会話の構成・言い方・表情が変わるように、建築も、その場所(土地)によって変わる。従って最初に相手(土地)の歴史・背景・特徴を把握することが建築の出発点になる。隈先生はそう話します。

続きを読む "負ける建築 隈研吾さん「建築と自然の共生」"

「よのなか」は面白い 藤原和博さん 「公教育の未来」

後期2回目は、藤原和博さんの登壇です。

9月に藤原さんの紹介を書いた際に、藤原さんの著書『リクルートという奇跡』のことを書きました。この本の主題として取り上げている「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変える」という精神を藤原さん自身がいまも実践されていることが、共感を持って伝わってくる熱い講演でした。

政治や社会システムの世界では、構造改革という言葉が盛んに喧伝されていますが、我々ビジネスパースンも、「規制が多い」「制約がある」という言い方をよくしがちです。確かに自由な発想や行動を抑圧する規制・制約が多いのは事実ですが、それを言い訳にして困難な課題に立ち向かうことを放棄してしまう、そんな他責の思考に陥ってはいないでしょうか。たとえ規制・制約があろうとも、本当にやろうと思えば、工夫次第でかなりのことができるはずだ。藤原さんの話を聴いて改めてそう思いました。

続きを読む "「よのなか」は面白い 藤原和博さん 「公教育の未来」"

だまされたと思ってやってみる 秋元康さん 「秋元流プロデュース論 ~答えは自分の中にある」

夕学2005年度後期がいよいよスタートしました。1回目の講師は作詞家の秋元康さん。会場を埋め尽くす300人の聴講者から寄せられる期待の眼差しにまったく臆することなく、たんたんとそれでいて印象に残るお話をしていただきました。

秋元さんは、作詞家としてはもちろんのこと、我々の世代(40代)にとっては、「とんねるず」や「おにゃん子」に代表されるように、多感な若者の感性をがっちりつかんだ新進気鋭の放送作家としての印象が強烈にあります。そのクリエイティビティは、49歳のいまも、まったく枯れることなく、小説、映画、脚本、ビジネスと多彩な領域でプロデューサーとして大活躍をしていらっしゃいます。この春からは、京都造形芸術大学の教授に就任され、月に2~3度は教壇にたつそうです。教えてるのは、「社会プロデュース論」とのこと。芸術家というのは、昔から食えない仕事と相場が決まっていました。古今東西、お金持ちのパトロンが芸術を支えてきたといっても過言ではないでしょう。そんな、いわば「社会に寄生する存在」から一歩進んで、芸術も自活できるようにしよう、そのために社会とのかかわりの中で、芸術が貢献できる価値を見つけ出していこう」というのが趣旨だそうです。10代後半から、浮き沈みの激しい芸能界で生きてきた秋元さんならではの授業なのかもしれません。

講演は、「プロデュースってどういう意味かご存知ですか」という会場への投げかけから始まりました。
秋元さんの考える「プロデュース」の概念は二つの言葉に象徴されるそうです。ひとつは、「客観性」です。自分の好きなことだけをやっているとしたら、それはただのアートであって、プロデュースされた(した)存在にはなりえない。環境や状況、対象の欲求や期待を冷静に読み込んでいく姿勢が欠かせないということです。これはビジネスのプロデュースでもまったく同じですね。
もうひとつは「潜在性」です。プロデュースする対象が持っている、潜在的な魅力や力を引き出すことがプロデュースの目的だということです。オーディションで審査員が、どうみても垢抜けない、素人っぽい人を選ぶのと一緒で、プロデュースとは、類まれな才能を秘めていそうで、磨かれきっていない原石を見つけて磨きあげることだそうです。原石がどこまで光り輝くかは、磨いてみないとわからない部分もあるそうで、これもなにやら新商品や新規事業開発と似ているかもしれませんね。

プロデュースされる立場にとってみると、この潜在性を引き出してもらうには、「だまされたと思ってやってみる」という意気込みが必要だとのこと。秋元さんは自らがプロデュースした沢田研二の「TOKIO」、美空ひばりの「川の流れのように」などを引き合いに出しながら、当時確固たる地位を築いていた二人が、新進の若手作詞家の提案に乗ってくれた逸話を紹介してくれました。

このあと、秋元流プロデュース論のポイント10か条を、作詞家ならではの詩的な表現も交えながら伝えてくれました、そのすべてを紹介することはできませんが、いくつかのフレーズが聴講された方々の中で、感性のアンテナにしっかりと引っかかっているのではないでしょうか。

私は、秋元さんが講演の最後でお話になった「最近の私のテーマは、"呼吸するように生きること”です」という言葉が印象に残りました。周囲の喧騒に惑わされることなく、自分の軸足をしっかりと見据え、自然に、気負うことなく生きる。それでいて、隠棲するのではなく、時代の真中をしっかりと歩くことができる。そんな生き方が秋元さんの理想だそうです。
そう聞くと、「川の流れのように」という歌は、美空ひばりという不世出の歌手の潜在性を引き出しながらも、秋元さん自身の心の中の風景を表現してたのではないかと理解できます。まさに、「答えは自分の中にある」ということでしょうか。

講師紹介ページはこちら

目利きが語る仕事と人生

5つ目のテーマは「目利きが語る仕事と人生」です。

夕学では、これまでもノンジャンルで仕事論・人生観を話していただけるテーマを設けて来ましたが、今回は目利きという言葉にこだわりました。高度情報化社会に生きる我々は情報感受・知識習得に対して強迫観念に近いあせりのようなものを持ってしまいがちです。しかしながら、同じ現象に出会い、同じ話を聴き、同じものを読んでも、そこから本質を紡ぎ出せる人とそうでない人がいます。そんな目利きをお呼びしてお話を伺おうという企画です。

今期は
・芸能から芸術までマルチプロデューサーとして活躍する 秋元康さん
・トニー賞のノミネート候補にもなった世界的演出家の 宮本亜門さん
・美食からゲテモノまで世界を食べ尽くす食の目利き 小泉武夫さん
・風情溢れる人情話の中にも肯定的人生観を忘れない作家の山本一力さん
の個性多彩な4人の方にお越しいただきます。

秋元さん、宮本さんは早々に満席マークが灯りましたがあきらめないでください。
この時期の予約は流動的で、当日まで半数が入れ替わります。こまめなチェックをお忘れなく。

組織をつくる 人を育てる

4つ目のテーマは「組織をつくる 人を育てる」です。

組織と人にかかわる問題は、ビジネスパースンが最も関心の高いテーマのようですね。毎回テーマ名こそ変えていますが、継続している定番企画です。
経営とは「戦略をつくり、組織を組むこと」、リーダシップとは「大きな魅力的な絵を描き、人を集めて力を結集すること」、マネジメントとは「人と仕事を管理すること」と言われています。
つまり人と組織の問題は、経営者にとって、事業部長にとっても、現場のラインマネジャーにとっても、2分の1の精力を注ぎ込むにたり得る大きな問題ということでしょう。

さて、今期はこのテーマで
・企業内教育でも大活躍のカリスマ教師 原田隆史さん
・いまや社会起業家としてスケールの大きな問題提起をされる 田坂広志さん
・「稼ぐ人・余る人、安い人」で話題を呼んだ キャメル・ヤマモトさん
・含蓄深い教養論を語る 村上陽一郎さん
の4人が登壇されます。

田坂さんは2003年に続いての2度目の登壇、他の方々ははじめての登場です。

復活と再生の軌跡

今期の6つのテーマを順番にご紹介していますが、その2回目。
きょうは「復活と再生の軌跡」です。
この2~3年企業再生が大きなトピックです。夕学でもお話いただいたM&Aアドバイザーの佐山展生さんによれば、企業の再生の成否は兎にも角にも経営者だとか。これまでの夕学でも、福助の再建を成功させた藤巻幸夫さん、名門老舗旅館の再生を請け負っている星野佳路さん、ウィンザーホテル洞爺をついに黒字化させた窪山哲雄さんなど、再生・再建を担った経営者の方々に来ていただきましたが、いずれの方も強い印象を残してくれました。皆さんタイプは違いますが、修羅場を乗り越えた人特有の滲み出るような自信と人間的魅力を兼ね備えて方々でした。
この企画はそんな経営者をお呼びしようというものです。

今期は経営者3人に来ていただきます。
・全日空復活の舵取りを担った 大橋洋治会長
・産業再生機構のCOOとして日本経済の再生に尽力する 冨山和彦さん
・アルビレックス新潟をはじめ教育や企業支援などで新潟活性化に活躍する 池田弘会長

「名門大企業の再建、「産業再生の視点」「地域の活性化」と、「復活と再生」は同じでも、それを取り巻く環境や状況はそれぞれ異なります。何が共通で、なにがユニークなのか、成功に鍵は何なのか、じっくりと考えてみたいものです。

相克の時代 共生の時代

10月19日の開講まで、このブログで講師依頼の楽屋話をすると書きましたが、その前に今期の6つのテーマについて順番に説明しておきたいと思います。

きょうは「相克の時代 共生の時代」です。
インターネットが世界を繋ぎ、人も金もナレッジもボーダレスに動き回る時代にあって、イラク紛争に代表されるような価値観の対立、各地で噴出する民族間抗争、日本と東アジア諸国の根深い相互不信感など世界の至るところで「相克」がうまれています。
その一方で、民族やイデオロギーの違い、国家間の利害、自然と人間、企業と個人、仕事と家庭などさまざまな領域で二項対立を次元超越的に統一しようという「共生」の必要性が声高に叫ばれています。
「相克と共生が同時に起こる時代」そんな現代社会を識者をどう切り取り、整理し、解釈するのか。政治、経済、経営、建築など多様なジャンルで第一線を走る人々を講師に招き話を聞こうという企画です。

・建築と自然の共生を目指す 隈研吾先生
・中国のベンチャー企業に日本人が失った挑戦意欲を見いだす 関満博先生
・資源循環型経済システムを提唱する細田衛士先生
・日本と東アジアの共生を語る 姜尚中先生
・インドの可能性を熱く説く 榊原英資先生
の5講演です。