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「個人の可能性を信じる」 奥谷禮子さん

奥谷さんの夕学講演の当日、衆議院の予算委員会で奥谷さんの発言を巡るちょっとした議論があったそうです。
1月末に発行されたある雑誌に掲載された奥谷さんのインタビュー記事が問題とされていたとのこと。奥谷さんが労働政策審議会の委員をやっていることもあって、奥谷さんの意見が政府の大多数の考え方を代弁しているのではないかということだったそうです。
民主党の某委員が「あまりの暴言だ」と息巻いた内容は、実は本日の奥谷さんの講演内容とほとんど同じもののようです。
夕学をお聞きになった方はよくお分かりだと思いますが、奥谷さんは、スタンスが明確で、歯に衣着せぬ物言いをされる方であることは間違いありません。
では、はたして夕学講演の内容は「許すまじき暴言」なのか、それとも旗幟鮮明な考え方をする人の「ひとつの見解」なのか、どのように感じられたでしょうか。

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「日本のポップカルチャー」 中村伊知哉さん

学生時代、京都でロックバンドのディレクターをやっていたという中村先生は、蝶ネクタイがよく似合うポップな装いで登壇されました。
講演は、日本のポップカルチャーの影響力を象徴する一つの事件の紹介からはじまりました。

「昨年の6月、16歳のフランス人少女二人が、ビザを持たずに旅を続け、ベラルーシで身柄拘束されるという出来事があった。アニメをこよなく愛していた二人が目指していたのはアニメの聖地ニッポンであり、陸路を歩いてひたすら東へ東へと向かっていたのだ」

「母を訪ねて三千里」のマルコ少年よろしく無謀な旅を続けた少女達の憧憬の対象は「母」ならぬ「ニッポンのアニメ」だったという話が、日本のポップカルチャーが持つグローバルな影響力を象徴しているのだそうです。

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「権力との戦い方」 佐高信さん

「佐高は一人の人間に惚れるところから思考回路が始動し、一つの事象を極めて単純に割り切り、一点突破型で評論を展開する。センサーが感知した人間性が常に評論の基準にあり、私は佐高の本質は“人間評論家”と見ている」
毎日新聞の岸井成格氏の「佐高信」評です。

きょうの講演の中で何度か、「岸井が...」と佐高さんが口にしたのは、この岸井氏のことです。
これも講演の中で、佐高さんが、小泉純一郎氏、小沢一郎氏、浜四津敏子氏という三人の政治家と慶應の同期生だったという話がありましたが、慶應昭和四十二年卒業の同期生には、嶌信彦氏、岸井成格氏という高名なジャーナリストもいます。お二人とも夕学ではおなじみの方ですね。
ことに佐高さんと岸井さんは、法学部峯村哲郎教授の法哲学ゼミの同期でもあり、学生時代から40年以上の付き合いだそうです。
冒頭の一文は、昨秋に出版されたお二人の対談集『政治原論』のあとがきに岸井さんが寄せたものです。佐高さんと岸井さんは、政治的な立場や考え方が異なり、政治記者と評論家という性質の違いもあって、意見が一致しない点の方が多かったようですが、互いの人間性や歩いてきた軌跡を熟知し合う、古くからの友人同士でなければ出来ない、率直で激しい議論が展開されています。
岸井さんは、自分自身にとって、佐高さんの存在や評論が、ある種の危険を察知するセンサーのような役割を果たしているとしたうえで、「人間評論家」と評しています。

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「龍の背に乗る」 玄侑宗久さん

玄侑宗久さんが副住職を務める福聚寺の総本山、京都妙心寺には、「八方にらみの龍」と呼ばれる天井画があります。
狩野探幽が55歳のとき、8年の歳月を要して描きあげたとされ、龍の目は円相の中心に描かれていますが、立つ位置、見る角度によって、龍の表情や動きが変化するように見えることが有名です。

妙心寺に限らず、お寺の壁画には龍の絵が描かれていることがよくあります。また、龍神は古代から水の神とされ、日本の各地で奉られてきました。
かつてのTVアニメ『まんがにほん昔ばなし』の冒頭では、子守歌調の主題歌とともに、子どもが龍の背に乗って、自由に空を飛ぶ姿が印象的でした。
人気ドラマ『Dr.コトー診療所』のテーマ曲、中島みゆきの「銀の龍の背に乗って」の旋律も記憶に新しいところです。
日本人は龍の姿、特に、龍に乗って空を飛ぶ姿に、特別な思いを抱いてきたような気がします。
きょうの玄侑さんの講演では「龍の背に乗る」というイメージが意味するものを仏教の教えに基づいて教えていただきました。
それは講演の主題であった「もう一つの知のあり方」と密接に関わるものでした。

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「不特定多数無限大への信頼」 川崎裕一さん

『ウェブ進化論』の著者で、「はてな」の取締役も務める梅田望夫氏は、これからのネット社会を切り拓くのは「1975年以降に生まれた人」だと言います。
「はてな」社長の近藤淳也氏やミクシィの笠原建治氏など団塊ジュニアにあたる世代で、きょうの講演者川崎裕一さんも同世代人です。
講演は、まずこの世代がなぜ新たなムーブメントを起こすのか、梅田氏等が主張する世代論の解説から入りました。

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「戦略としてのダイバシティ」 内永ゆか子さん

日本IBMのWebサイトにある役員一覧をみると、内永ゆか子さんを筆頭に、4人の女性役員・執行役員がいることがわかります。
その比率は25%以上。国内上場企業の全役員に占める女性比率が1.2%であることを考えると圧倒的な数字であることがわかります。
しかも内永さんを含めて全員が日本IBMの生え抜きプロパー社員で、部下数千人を束ねるライン部門のトップを務めています。
女性の役員登用に積極的といわれている日本企業でも、その内実は、官僚からの天下りやの高度スペシャリスト的な存在であったりすることが多い中にあって、日本IBMの実績は抜きんでたものといえるでしょう。
ところが、きょうの内永さんの話によれば、日本では断トツのダイバシティも、ワールドワイドのIBMのダイバシティ指標でみると最下位とのこと。

フランス、ドイツ、アメリカ等々、先進国サミットの首脳の半数近くが女性になる日もそう遠くないと言われる世界の趨勢にあって、日本のダイバシティの現実には暗澹たる思いがします。
しかしながら、それをヒューマニズムで理解するのではなく、戦略的な経営視点の欠如として認識する人が少ないことが最も大きな課題であるというのが、内永さんの大きな問題提起であったと思います。

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デジタルメディア産業の創世にむけて 古川享さん

古川さんに夕学にご登壇いただくのは、実に5年半振りになります。最初は「夕学五十講」第一期、まだ新丸ビルの地下大会議室を会場にしていた頃でした。
その時は、講演開始2時間前に、大きなバッグを持参して来られました。バッグの中には携帯スピーカー、アンプ、無線機器などなどが入っていて、その場で独自のPA環境を設置していらっしゃいました。
その当時、古川さんの求めるデジタルプレゼンテーション環境を用意できる会場はほとんどなかったので、講演する際には全ての機器を持参することにしていたそうです。あの頃は、まだOHPやスライドを使ってプレゼンする人もたくさんいらっしゃいましたから「むべなるかな」という感じでした。

かつて、古川さん、成毛さんといったマイクロソフト経営者陣や、インテルの西岡さんが、PPTをつかったプレゼンを浸透させようと行く先々で実演に励んだという話を聞いたことがありますが、彼ら日本のIT世代の創世期を支えた世代は、社会の常識や人々の意識を変えるために自らが先頭になって走るという使命感のようなものをもっていらしたのだと思います。
今回古川さんが持参されたのはPCのみ。プレゼンテーションという小さな世界ではありますが、彼らの啓蒙は間違いなく成功し、世の中の常識が変わったということでしょうか。

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「舟が来たら乗る」 八塩圭子さん

ワタクシゴトで恐縮ですが、土曜日の朝は『めざましどうようび』で八塩さんの顔を拝見することから始まります。
愛犬の散歩から戻ると、八塩さんの修士論文研究通りの計画的・習慣的視聴行動が身についた娘達が、かならず8チャンにスイッチを入れていて、賑やかなメンバーに囲まれて、お姉さん的な仕切りをみせる八塩さんの笑顔を拝見しながら朝食をとるのが毎週の習慣になっています。
とはいえ、きょうの講演を聞くと、爽やかな笑顔の裏では、多忙な一週間乗り切ったうえに、ほぼ徹夜状態で早朝生番組に臨む隠れたご苦労があるということがよく分かりました。きょうの夕学もよくお受けいただいたと感謝しております。
生「八塩圭子」さんは、テレビのままに、いえテレビ以上に素晴らしい女性でした。古い言葉で言えば「八頭身美人」。スラリとした長身に小さな顔がちょんと乗っていて、「さすがテレビの人は違う」という感じです。

さて、そんな八塩さんが「自分で稼いだ金をつぎ込んでつらい思いをするマゾ的生活」を覚悟して、夜間のビジネススクールに進んだ理由は何なのか、そしてそこで得たものは何だったのかをお聞きするのがきょうの夕学でした。

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「相利共生」をめざして チャールズ・レイクさん

7日の日経新聞【春秋】欄は、ロンドンの金融街シティーの話題でした。空前の活況に沸き立ち、日本円で2億円以上のボーナスを受け取る金融マンが4千人以上いるとのこと。しかも英国人だけではなく、米国はもちろん、ロシア、中国など世界中から人材が集まっています。今年の企業買収や株式新規公開の取引額はロンドンがニューヨークに圧勝したそうです。高成長マーケットである中近東、アジアに距離的に近いのが最大の勝因と紹介されていました。

この記事にはありませんが、世界から人材とマネーを引き寄せるシティーの磁力は地政学的な理由だけではなく、そうなるように意図した政策(法整備・インフラ整備・人材配置)の効果だというのが、きょうの講師チャールズ・レイクさんのご指摘のひとつでした。

3歳~15歳まで日本に在住し、アメリカンスクールではなく、日本の学校で義務教育を修めたレイクさんは日本人以上に日本のことをよく知っている知日派米国人です。
一方で90年代には米国通商代表部特別補佐官として日米貿易摩擦交渉の実務に携わったハードネゴシエイターでもあります。きょうのプレゼンテーションは、随時全体のアジェンダを示すことで、現在の位置取りを確認しながら、分かりやすいデータに裏付けられた論理的な主張を展開する説得力溢れるものでした。米国ビジネスエリートのプレゼンテーション見本を示してくれたような気がします。講演の中でレイクさんが使った言葉をお借りすれば、まさに「ベストプラクティス」でした。

日本と米国の良いところを身につけ、逆に言えば双方の欠点もよく理解したうえで、日本在住の親日派米国人の代表として、日米関係をよりよくしていこうと志をもって活動をされていることがよくわかりました。

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「エンタテイメント(感動)経験をデザインする」 稲蔭正彦さん

「コンテンツは王様である」
これはITやネットワークの世界で語られる有名な言葉だそうです。
CGを駆使したファインアートの創り手として、またプロデューサーとして、ハリウッドを含めて国際的に活躍してきた稲蔭先生の講演は、この言葉で始まりました。

「デジタルエンタテイメント」というワードからすぐに連想されるのは、「通信と放送の融合」問題です。新しいIT技術とネットワーク環境の整備によって、映画・テレビ・ゲームといった既存コンテンツがデジタル化され、自由に流通される。消費者にとっては便利だが、制作者サイドでは知財保護や課金システムなどの課題がある...といった連想が働いてしまいます。
稲蔭先生は、既存コンテンツのメディアチェンジは重要ではあるけれど、本質的な問題ではなく、むしろテクノロジーの進化によってはじめて可能になる新しいコンテンツが生まれるかどうかがこの言葉の含意であると説明しました。
良質なコンテンツには必ず「予測と裏切り」がセットされているそうです。
ヒットするコンテンツには、「この次はきっとこうなる」という予測可能な安心・安定を提供しながら、ポイントで、あっと驚く裏切りや意外性を埋め込まれているもので、その組み合わせの妙が決め手になるとのこと。ハリウッド映画はその典型だと言います。
例えば『マトリックス』は、テクノロジーオリエンテッドの発想で生まれた「予測と裏切り」の最新系で、新たな技術により「まさか、こんなことが」と思えるような世界を表現することで画期的な「予測と裏切り」を提供しました。
しかし、稲蔭先生によれば、テクノロジーオリエンテッドの「意外性」は長続きしないし、むしろ最新テクノロジーを利用はしても、それに頼らず「意外性」をまったく別の方法で表現できるかどうかがキモになるそうです。
このあたりは、高度MPU「セル」を駆使した高解像度をウリにするソニーの『P3S』と『DS』や『Will』でゲームの新領域を開拓することに成功している任天堂の戦略を対比させるとなにやら暗示的ですね。

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M1層のホンネを掴む 藤井大輔さん

“人材輩出企業の雄”と言われるリクルート社からは、多くの起業家や社会イノベーターが産まれています。
夕学にも多くのリクルート出身者・現役社員が登壇してきました。指折り数えてみたら、今期の藤井さん、大久保さんを含めてその数なんと7人。夕学にとっても、リクルートは、実務家講師の最大の供給源です。一民間企業としては特出すべき実績になります。

本日の講師、藤井大輔さんもリクルート遺伝子の伝承者として、その系譜を継ぐ者のお一人です。
リクルートが年に一度行う新事業開発コンテスト「Newリーグ」から生まれたM1層向けのフリーマガジン構想を『R25』という形にして実現し、大成功を収めた若き編集長です。

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奥-井ノ上3rdメモリアルフォーラム 日本の外交戦略への提言

きょうの「夕学五十講」は特別編でした。
3年前の11月29日にイラクで凶弾に倒れた二人の外交官、奥克彦さん・井ノ上正盛さんの遺志を受け継ぐべく、サントリーラグビー部監督の清宮克幸さんをはじめ、生前お二人と親しかった方々が立ち上げたNPO法人「奥-井ノ上イラク子ども基金」の主催する「奥-井ノ上3rdメモリアムフォーラム」を夕学の一環として開催したものです。

開催の経緯は、7/5のブログ(清宮さん登壇の回)に書かせていただきましたが、二人の外交官が命の代償に残した、平和への願いをこめた「志」を受け継いだ素晴らしい企画だったと思います。
「奥-井ノ上3rdメモリアムフォーラム」は毎年一回、お二人の命日に時を合わせて、日本の外交戦略について議論を深めることを目的に開催されています。
今年は、イラクへの自衛隊の復興支援活動がとりあえずの収束をみたこともあって、イラクが残した課題をどう考えるべきかを主眼に企画されたそうです。
毎回フォーラムでは、一方の意見を声高に主張する場ではなく、できるだけ多面的な議論が展開できるように、さまざまな立場の論客をパネリストに招いています。
今回は、第一部で、現役自衛官の本音の意見もお聞きできましたし、第二部では、市民・財界・政府と異なる三者の立場を代弁するお三方の熱のこもった議論もありました。
司会の黒岩祐治さんのメリハリの効いたプロフェッショナルな進行もあって、聞きにくいこともズバリと聞いていただき、パネリストの方も飾ることなく、本年をぶつけ合っていただいたと思います。
多角的な議論を行うというフォーラムのねらいは十分実現できたのではないでしょうか。

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「五感と実質価値を提供する」 須藤実和さん

東大理学系の大学院でバイオを学んでいた須藤実和さんが、畑違いのマーケティングの世界に飛び込んだ理由は「化学を社会にPRする」という夢を抱いたからだそうです。
博報堂で広告実務を経験した後、外資系コンサルティングファーム、ベンチャーキャピタルで会計や企業投資のキャリアを積み、戦略系コンサルで経営戦略、新事業創造に携わり、今春からは大前研一さんのもとで人材開発支援活動を中心に活躍を始めました。
華麗なキャリアに加えて、相手を優しく包み込むような、柔らかな対人能力はトップコンサルタントに不可欠な要素かもしれません。
控え室でお聞きしたところでは、須藤さんは、個人の活動として、来春オープンを目指して、飲食系の新規ビジネスの立ち上げにもコミットしており、リアルビジネスへの関心も強く持っていらっしゃるようです。

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「投資はマーケティングである」 小幡績さん

1400兆円を越えるとも言われる個人の金融資産を、いかにしてリスクマネー(株式、投資信託等)に振り向けるかということは、いまや国家的な政策課題だと言われています。
団塊世代のリタイアを目前にして、彼らをターゲットにした資産運用・資産管理セミナーも花盛りです。そして、そういう場で、株を始めたい人へのプロのアドバイスとして必ず言われるのが、
・業績の良い会社を選ぶ
・よく知っている会社、応援したい会社を選ぶ
・できるだけ長期で保有する
といった原則論です。
小幡先生は、これらをすべて「それは誤りである」と真っ正面から否定します。それは挑戦的とも言えるほど刺激的なメッセージです。

株価は、様々な要因で激しく上下している。長期保有は、24時間365日間株価下落リスクに晒されていることになるので不健康。「いまは下がっていても、いつかは上がる」というがそれなら国債を買った方がよほど着実のはずだ。

よく知っている会社ほど大局が見えないものだ。お気に入り商品や上得意店舗があったとしても、それが会社の業績を保証するわけではない。ファンであるゆえに眼鏡が曇ることの方が多い。

配当で回収などと言うが、とんでもない。高配当企業(例えば武田薬品)でも配当利回りは1.5%程度、回収に70年はかかる。不動産投資なら5%が確実だ。

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「人の心に届く音楽を」 千住明さん

千住三兄弟のお母様、千住文子さんの著書『千住家の教育白書』には、明さんの「はじめての作曲」にまつわるエピソードが綴られています。

 

「(明氏が)小学校の高学年になったある日、私はランドセルの中に投げ込まれていた紙を見つけた。  小さい字で書かれた楽譜のようなものだったが、いつものマンガであろうと見過ごしていた。
 数日後、担任の先生から電話がかかってきた。
 「アキラ君が私の還暦祝いに作曲をしてくれました。いま私の娘にピアノで弾いて聞かせてもらったとこ ろです」
           <中略>
 楽譜といえるかどうか。それでも人間の心を表現する歌、一つの言葉であったのではないか。
 “先生おめでとう。元気でいてね。うれしいよぼくは。心配だよ僕は。先生おじいさんにならないでね”
 このような先生に対するお話であったと思う。
 楽譜に似せた形で語ったアキラは、その時初めて曲を書いた。」

母親だからこそ見届けることができた、いまをときめく作曲家千住明さんの原点です。

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モティべーションの持論アプローチ 金井壽宏さん

金井先生にご面識を得て、折りに触れていろいろなご相談をさせていただくようになってから、もう5年近くになります。
5年の間に、私の方は、肉体的にも、精神的にも「くたびれて来たなァ」と思うことが多いのに、金井先生は、年を取るどころか、どんどん若くなる感じで、どうみても50歳を過ぎていらっしゃるようには見受けられません。
昨夜お聞きしたところによれば、金井先生は「神戸の服地屋の倅(先生談)」だそうで、着るものにはこだわりを持つお母様に育てられ、「子どもの頃は半ズボンも別注品だった」とのこと。
オシャレのセンスは、しっかりと受け継がれて、金井先生の若々しさを一層際だたせているような気がします。

今回の夕学は、「金井先生のお話を聞いて元気になりたいのですが...」とお願いに対して、「城取さんにピッタリの本が出るから、その話でいきましょう」とい快諾いただいたことで実現いたしました。

金井先生は、かねてから「リーダシップ」「キャリア」「モチベーション」の3つの研究テーマを深く追い続けていらっしゃいますが、今回は「モチベーション」を取り上げ、ここ数年、各テーマに横串を差すようにして取り組んでいらっしゃる「持論アプローチ」と結びつけた新しいモチベーション論をお話しいただきました。

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「資産インフレ時代の運用哲学」 藤巻健史さん

藤巻健史さんの弟さんで夕学にも登壇していただいたことがある藤巻幸夫さんが、鈴木敏文会長に請われて、IYグループの衣料品部門大改革に奮闘中であることはよく知られたところです。実は、お兄さんである健史さんが、それに一役買うべく、自らCMモデルに志願したという逸話があるそうです。破れをガムテープで修繕した紙袋を両手に提げて、さえない姿で歩く健史氏が、イトーヨーカ堂の服を着たとたんにファッショナブルに変身していくという案で、モデルのみならず企画も健史氏が考案したものとか。話題沸騰間違いなしであったであろう、このCM案、残念なことに幸夫氏によって「丁重にお断りをされた」とのことですが、そこは仲の良いフジマキ兄弟。CMはかないませんでしたが、健史氏をモデルにするという案は実現しました。
夕学五十講に現れた藤巻健史氏は、ロンドンストライプの紺のスーツに薄紅ストライプのクレリックシャツ。ネクタイも見事にコーディネイトされた鮮やかな赤色というオシャレな装いでした。一式を、幸夫氏がイトーヨーカ堂商品からコーディネイトし「全部で4万800円也!!」とのこと。
会場は一気にリラックスした雰囲気に変わり、「つかみはOK」とばかりに講演ははじまりました。

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「食育の伝道師」 服部幸應さん

服部幸應さんが稀代のTVプロデューサーであることは衆目の一致するところでしょう。
料理番組を“情報番組”から“エンタテイメント”に変えることに成功した方です。
もちろんそれまでにも、グルメ番組や大食い番組はありましたが、どちらかといえば出来上がった料理や食べる行為がメインで、料理を作るプロセスが表にでることは少なかったように思います。調理場面が主役になるのは、NHK「きょうの料理」の流れをくむ奥様向けの献立情報提供番組くらいで、ゴールデンタイムを飾ることはあり得ませんでした。

服部さんが出演・企画・監修として関わった多くの料理番組は、料理を作るプロセスをメインコンテンツに据えています。
それでいて『料理の鉄人』では、厨房の奥に隠されていたプロの技術を、
『ビストロスマップ』ではアイドルの意外な小器用さを、
『愛のエプロン』では「おいおい、本当かよ~」と嘆息をつきたくなるような芸能人の素の姿を、
それぞれ見事なエンタテイメントに仕上げて披露してくれました。
番組で見せる服部さんの博識や巧みなコメントは、絶妙な調味料として番組の味を引き立たせていました。
そんな服部さんのもう一つの顔が、「食育」の伝道師としての活動にあります。

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「使える会計学」 山根節さん

個性派が多いKBS教授陣の中にあっても、山根先生のキャリアは際だっています。
公認会計士、コンサルタントとして20年近い実務経験を持つ一方で、博士号を修得、現在は日本を代表するMBAで経営を教える。いわば、会計と経営のプロ中のプロと言えるでしょう。
それでいて、Papasのコーデュロイスーツをさらりと着こなし、カーオブザイヤーの選考委員を務めるほどの自他ともに認める「自動車オタク」でもあります。

そんな山根先生が、重要視しているのが「使える会計学」です。
その普遍的必要性を誰もが認識しながらも、専門知識の壁に立ちつくし足がすくんでしまいがちな会計の世界に、「そんな難しく考えないで、どんぶり勘定でもいい。 大局をつかみさえすれば使えるのだよ」という暖かいメッセージを発信してくれます。
会計と経営の専門家から、そう断言してもらえると会計アレルギー罹患経験者の私も勇気づけられる思いがします。

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「意識」が脳を活性化する 池谷裕二さん

池谷祐二先生は今年36歳。
大学の先生というよりは、白衣を着て顕微鏡を覗いている姿の方がしっくりときそうな、爽やかで礼儀正しい青年です。それでいて、脳科学者らしく、聴衆のシータ波(これは後述します)を刺激するための豊富なスライドを用意した素晴らしいプレゼンテーションは、科学者の新しい姿を予見させてくれるのに十分なものでした。

脳を知ることは、我々の「無意識」を知ることに他ならないそうです。 
脳の働きのほとんどは、我々が無意識に行う思考や行動に反映されており、「無意識の大海原にこそ脳の真の活動潜んでいる」とのこと。逆説的にいえば、意識が表に立ちあわれる時にこそ、脳に新たな回路を埋め込むチャンスがあり、無意識の世界に意識を注入することが脳を成長させる唯一絶対の道なのだということを学ぶことができた講演でした。

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トップコンサルタントの仕事術 内田和成さん

内田さんの著書『仮説思考』は20代後半から40代半ばのビジネスパースン層に読まれるであろうという“仮説”に基づいて書かれ、実際にその年代層が多く購入したようですが、予期せぬ読者層として、一括まとめ買いという特異な購入形態をとった人達がいたそうです。企業経営者や役員の方々です。
内田さんによれば、そういう方々が異口同音に発したのが「常々自分が考え、実践してきたやり方を的確に表現してくれた」という言葉だったとか。
このことからも、仮説思考というのが、仕事ができる人・早い人・的確な人が、経験的に身につけてきた発想術だということがわかるかと思います。

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「商人の道」 伊藤雅俊さん&佐山展生さん

日本有数の流通業セブン&アイグループの創業者であり、いまでは数が少なくなった戦後起業家の一人として存在感を放つ伊藤雅俊さんと、M&Aの専門家として、いまをときめく佐山展生さん。一見接点がないように見えるお二人ですが、実は互いを良く知る間柄です。
聞けば、昨今のM&A動向に関心を持った伊藤会長が、佐山先生に連絡をされて、何度か個人レクチャーをお願いしたことがきっかけだったとか。
きょうも開始前の控え室では、メモ帳を片手に、矢継ぎ早に質問を繰り返す伊藤会長の姿がありました。82歳の今も旺盛な知識欲を失わずに勉強を続ける伊藤会長の姿に頭が下がります。
また30歳近くも年齢の違う経営の大先輩に対して、まったく臆することなく自分の考えを述べる佐山先生にも自信が漲っていました。「経営にもっとも大切なのはハートである」という点で両者の意見が一致したところで、対談開始の時間になりました。

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醒めているから見えるものもある 田勢康弘さん

田勢さんは政治記者一筋に38年。“日経の良心”とも言われた名政治ジャーナリストの一人です。政治記者というと、番記者から政界入りした先達(河野一郎氏、田中六助氏等)や政治家以上に政治家的な強面評論家(細川隆一郎氏、三宅久之氏等)を思い浮かべてしまいますが、田勢さんの場合、政治に極めて近いところにいながら、どこか醒めた目で、冷淡に政治を見てきたその立ち位置に特徴があるようです。それは、あるべき政治と現実の政治の埋めがたい溝の深さに、静かな怒りを燃やしてきたジャーナリスト魂ともいえるかもしれません。

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「民を主役にしつつ官が支える社会」 山口二郎さん

山口先生によれば「私は小泉政権に対する批判的な論評を、最も多く発表してきた学者の一人」だそうです。昨年夏の郵政民営化解散で小泉自民党が圧勝した影響もあって、しばらくの間、「まったくお座敷がかからない」状況だったそうですが、今年に入って以降、ライブドア事件、耐震偽造事件、村上ファンド事件と続く社会事件が続き、小泉改革が指弾してきた「官のモラルハザード」だけでなく、実は「民のモラルハザード」も同時に起こっていたことが判明したことで、コメントを求められることが多くなったそうです。
「官」か「民」かという不毛な二元論ではなく、「民を主役にしつつ官が支える」市民社会を提唱する山口先生の主張が改めて注目されているということかもしれません。

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「読み」と「大局観」で勝負する 羽生善治さん

満席の聴衆で埋め尽くされた羽生さんの講演は将棋の歴史を紐解くことからはじまりました。
将棋の原型となる「チェトランゲ」というゲームが生まれたのは紀元前2千年頃のインドだそうです。その後このゲームは長い年月をかけて世界に広まりました。伝播の過程では、各国ひとつのゲームといってもよい程に、国ごとに異なったゲームとして定着したようです。それゆえにその国の文化や風土を色濃く反映しながら発展してきました。
平安時代に輸入された日本の将棋が現在の形に完成したのはおよそ400年程前でした。他国と比べて際だった特徴は「駒数や盤面が少なく小さい」という点と「取った駒を再利用できる」という2点に集約されるそうです。羽生さんは、これを「無駄を極力省き、全てを言わずに言いたいことを表現する侘びさびの文化や和歌の価値観に通ずるものがある」言います。シンプルになる一方で、取った駒を使えるようにすることで、打ち手が飛躍的に増え、ゲームとして面白みが増しており、日本文化の深みを感じさせてくれるとのこと。
江戸時代以降、家元制度のもとで、勝負というよりは、芸術として継承されてきた将棋が、再び真剣勝負の世界に戻ったのはそれほど古いことではないそうです。勝負としての将棋は、坂田三吉に代表されるように、知的技能というよりは、人対人の人間力を競い合う戦いとして発展してきたそうです。
そしていま、将棋はITをフル活用した綿密な情報収集と論理的分析に拠った体系的なアプローチが主流になっているそうです。
このような歴史的背景を受けて、羽生さんが考える「現代の将棋の戦い方」へと講演は進んでいきました。

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「真剣勝負の経営教育に生きる」 一條和生さん

夕方6時前、丸ビルの一階エレベータ前で、偶然一條先生と一緒になりました。細身の身体にフィットしたグレイのスーツにピンクのシャツを合わせたクールビズスタイルです。いつもながらのお洒落な装いを話題にしながらお声をかけたところ、ニコニコと頭を下げるだけで声を発しません。エレベータの中でようやく絞り出された声がすっかり枯れていて吃驚。スイスと日本を年間20回以上往復する激務もあって体調を壊されたとのこと。
最高のパフォーマンスを出すことを信条とされている一條先生としては、忸怩たる思いもあったかと思います。会場内のマイクがどこまで自分の声を拾ってくれるか、そればかりを心配されて講演ははじまりました。

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「“言霊”としてのULTIMATE CRUSH」 清宮克幸さん

3週間程前のことでしょうか。「きょう、そちらの事務所に伺ってもいいでしょうか」というお電話が清宮監督自身からありました。なにか粗相をしてしまったのか、と一瞬青くなりましたが、「ご相談したいことがあるので…」とのこと。
MCCのオフィスに現れた清宮さんが相談されたのが、清宮さんが代表を務めており、きょうの講演でも紹介された「奥-井ノ上3rdメモリアルフォーラム」の案件でした。必要だと判断したら躊躇せずに即行動する。そのフットワークの軽さに、何かの記事で読んだ関東学院大学ラグビー部春口監督が語る清宮監督にまつわる逸話を思い出しました。
2001年低迷を続ける早稲田ラグビーの復活を期して監督に就任した清宮さんが、まずやった事は、横浜市郊外にある関東学院の練習グランドに単身乗り込み、練習試合を申し込むことだったそうです。春口監督と清宮監督は旧知の仲だったとはいえ、伝統ある早稲田の監督が自ら新興チームを訪れ、試合を申し込むということは、従来の常識では考えられなかったことだそうで、春口監督は、その行動力と柔軟性に「清宮早稲田」への脅威を感じたとか。その予感どおり、以降、両大学は大学ラグビー日本一をめぐる熾烈な戦いを繰り返しすことになりました。

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「私を守りつつ公にかかわる」 ソーシャルアントレプレナー 金子郁容さん

「ヒデ(中田英寿)の潔さと日銀総裁の往生際の悪さ」
対称的な二人の引き際に、金子先生は、現代の日本社会に起きている変化の萌芽を感じるそうです。中田選手は、日本のサッカー界に異質性を持ちこもうとした選手です。群れない生き方、明確な自己主張、相手にレベルを無視した強いパス等々、中田選手が持ち込んだ異質性は日本人的集団には違和感を与えるものでした。ただしその異質性は国際社会で日本人が克服しなければならない普遍的課題でもありました。
一方で、今回の引退発表で見せた潔さは、武士道にも通ずる日本的価値観と近いものがあります。かつての日本人はこうだったはずだという懐かしさにも似た感情を想起させます。
「日本的でなかった中田選手が、最後に見せた日本的な価値観」金子先生はそこに、国際人としての日本人の新しい人間像を感じるそうです。“「公」に積極的に関わりながらも「私」を失わない力強さ”のようなものでしょうか。そしてそれはきょうのテーマ「ソーシャルアントレプレナー」の姿と同じだと金子先生は考えています。

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「進化する経営」 北尾吉孝さん

北尾さんにご登壇いただくにあたっては、日本商工経済研究所の松尾康男さんと明治キャピタルの久村泰弘さんにご仲介をいただきました。松尾さんは、慶應MCCのヘビーーユーザーのお一人で、この2年ほど、夕学はもちろんのこと、メインキャンパスのプログラムにも継続して参加していただいています。松尾さん、久村さん、そして北尾さんは慶應経済学部出身で、同じゼミで学んだ同期だそうです。そのお話を松尾さんからお聞きして「なんとかお願いします!」と無理を言いました。松尾さん、久村さんありがとうございました。
北尾さんをお呼びしたいと思った理由のひとつは、昨年秋に「企業価値」の考え方を修正されたと聞いていたことにあります。そしてきょうの講演は、まさにその話からはじまりました。

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「大地のメッセージを読む」 中沢新一さん

中沢新一さんは甲州の出身です。信州・甲州は八ヶ岳を中心に花開いた東日本の縄文文化の痕跡が色濃く残っている地域だそうです。地表のすぐ近くから縄文土器の破片が出てきたり、小高い丘にある神社が実は古墳の上に立てられていたり、境内の末社の片隅にある石の祠に石棒が祀られていたりするそんな土地柄・風土の影響もあって、幼いころから、大地や習俗に埋め込まれた僅かな残滓から、縄文文化の息づかいを読み解く術を身につけてきたかもしれないと言います。
その中沢さんが、縄文地図を片手に、東京の街に残された縄文の残香を辿る散策の記録が「アースダイバー」という本です。それは期せずして、現代と四千年前の“繋がり”を見つけ出すためイマジネーションの旅のガイドブックになりました。

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「哲学とユーモアは表裏一体である」 土屋賢二さん

「哲学で語られる問題の多くは間違っている(ナンセンスである)」
哲学を専門領域とする大学教授とは思えない刺激的な言葉で、きょうの講演ははじまりました。冒頭の言葉は、土屋先生が信奉し、哲学研究のパラダイムを変えたと言われるウィトゲンンシュタインという研究者が言ったものだそうです。
ここで「ナンセンス」というワードで表現しているのは、1.「言葉の規則に違反していること」2.「説明として不適切な表現になっていること」、3.「問題の設定そのものに意味がないこと」だとのこと。
土屋先生は、1の例で言えば、数試合ヒットが出ない野球選手が「最近、スランプ気味で…」と言うのが規則通りの言葉の使い方であるのに対して、規則違反の例として「生まれた時からずっとスランプで困ってます」などという表現を紹介してくれました。ある場合、ある範囲で使用されている時には問題なくても、限度を超えて使用すると違和感が生じるものです。
2の例では、野球解説者が「ボールに力ないから打たれるのですよ」とコメントする例をあげていただきました。一見正しいようですが、よくよく聞いてみると、ボールに力がないから打たれるのか、よく打たれるからボールに力がないと解釈しているのかわからない時があり、表現としてトートロジーに陥っている場合が多いそうです。
これらと同じように、哲学で語られる問題、例えば「人間はいかに生きるか」「世の中で何に一番の価値があるか」「昨日の自分と明日の自分ははたして同じか」といった問いかけの多くは、そもそも深く考えて、答えを出す程たいそうなものではないとのことです。

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「人を動かす力」 リリー・フランキーさん

「お願いだから時間通りに来て欲しい!」 きょうは、朝からそればかりを祈っておりました。確信犯的な遅刻常習者と言われるリリー・フランキーさんがいつ現れるのか、主催者としては気が気ではありませんでした。6時半過ぎ“想定の範囲内”の遅れでやってきたリリーさんに、正直胸を撫で下ろしながら、講演がはじまりました。

リリーさんは『東京タワー』のプロモーションのために全国30カ所でサイン会を行いました。一カ所100人限定ではありますが、たっぷりと3時間をかけて、ひとり一人(延べ3000人)と触れあったそうです。
その際に分かったことは、『東京タワー』を読んだ人は、本をきっかけに、家族にまつわるさまざまな体験を重ね合わせて、私的『東京タワー』をイメージしてくれるということだったそうです。リリーさん自身も嬉しかったのは、「お母さんに電話をしました」「先週の週末に会いに帰りました」「一緒に住むことにしました」という感想を多くの人達からもらったことだったとか。かく言う私も、昨年末に読んだ後すぐに、故郷の母親に正月休みの帰省予定を告げる電話をかけた記憶があります。
この話を聞きながら、昨日の夕学で李鳳宇さんがおっしゃった「強い映画」という言葉が頭に浮かびました。李鳳宇さんによれば「強い映画」の最大の条件は「人を動かす力」があることだそうです。『東京タワー』は、人を動かす力を持った近年まれにみる「強い本」だったことは間違いありません。

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「映画の力を信じる」 李鳳宇さん

李鳳宇さんプロデュースで昨年度の映画賞を総ナメした『パッチギ!』(井筒和幸監督)の中に、京都朝鮮高校の生徒と修学旅行高校生の乱闘場面があります。そのクライマックスは、相手高校生が逃げ込んだ観光バスを朝鮮高校生が集団でひっくり返すというシーンです。映画パンフレット掲載の井筒-李対談によれば、あのシーンは、李鳳宇さんの実体験に基づいているとあります。そんなこともあって「いったいどんな人だろうか」と興味津々で李鳳宇さんの来場を待ちました。
実際にお会いした李さんは、どうみてもバスをひっくり返すとは思えない爽やかな印象の紳士で、ご友人であり夕学にもご登壇いただいた姜尚中さんによく似た雰囲気のスマートな方でした。

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「自分を活かしつつ相手に合わせる」 武田美保さん

シンクロの日本代表チームの練習は1日10時間以上に及び、ほとんどの時間を水深3メールの足の着かないプールで過ごします。たとえ、コーチの指導を受けていても水の中にいる間は常に立ち泳ぎを続けているのですから息つく暇もありません。人によっては1日の練習で2キロ体重が落ち、それを補うために5,000カロリー/日の食事を採るのだそうです。時には大皿に山盛りにエビフライを13匹も食べないといけないとか。スポーツ選手は食べるのも練習のうちだといいますが、女性には想像を絶する過酷な環境です。
武田美保さんは、そんな選手生活を20年以上続け、稀代の鬼コーチ井村雅代さんの指導を受けてきました。さぞや逞しい女性かと思いきや、控室に現れた武田さんは、涼しげな麻素材のスーツを颯爽と着こなし、控えめな笑顔が印象的な方でした。口を開くと、おっとりとした品の良い京都弁が心地よく、周囲に打ち解けた雰囲気を醸し出します。素晴らしく魅力的な女性です。

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「サッカーで地域の問題を解決する」 村林裕さん

「FC東京は、東京に根ざしたうえで、世界を目指すことを目標にしています」村林さんの講演はFC東京の大きなビジョンから始まりました。あまりに有名な「Jリーグ百年構想」は、1960年代、川渕さん達当時の日本の代表選手団がドイツを訪れた際に、国内の至るところに存在する美しい芝生のグラウンドとそこに集う草の根サッカーファンが楽しそうにボールを追いかける姿に驚嘆したことに端を発すると言います。山の頂を高くするためには、底辺の裾野を出来る限り幅広くしよう。そのための長期ビジョンが「Jリーグ百年構想」です。
とはいえ、大きな夢やビジョンは、人を惹きつける魅力があることは確かですが、それを実現するための実現可能な具体的活動プランや仕組み・組織が伴わなければ、絵に描いた餅に終わります。日本のサッカー界には、構想家と同時にそれを実現するための実務部隊に希有な人材が揃っていたことは間違いないでしょう。村林さんは、紛れもなくその一人です。

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「パフォーマンス向上のためのダイバシティ」

日本において、ダイバシティという言葉は長らく「女性活用」「外国人雇用」と同義語で使われてきたように思います。企業のCSR報告書には決まって「ダイバシティへの取り組み」が謳われ、外国人社員比率や女性管理職比率の経年数字が掲載されています。しかしそれは、ダイバシティの表層部分を受け身的に認識しているに過ぎず、真のダイバシティ、は企業のパフォーマンス向上を目的にしたアグレッシブな取り組みであるべきです。日本の経営学者で、そのことを声高に主張する数少ない一人が、きょうの講師である谷口真美先生です。

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「21世紀の新しいグローバルプレミアムブランド」 西山均さん

「トヨタものは必ず売れる」という定説があります。雑誌の特集にせよ、経営セミナーにせよ、トヨタの事例、トヨタの講師が登場すると多くの人が反応します。慶應MCCが春に開催した「マーケティング進化論」でもトヨタの調査部長さんにゲスト講師をお願いした回は大人気でした。そして今回の夕学も早々に満席マークが灯りました。
特にきょうのテーマである「レクサス」は、これまで日本の自動車販売のビジネスモデルに一石を投じる新たな試みとして大きな話題になりました。日本の自動車販売のビジネスモデルは、その昔トヨタの神谷正太郎さんがその原型を作ったと言われているだけに、「トヨタがこれまでのトヨタを否定した画期的な挑戦」とも言えるでしょう。欧州輸入車勢の独壇場であったプレミアム市場への参入、企業名を冠さないブランド戦略、「サービスとおもてなし」キーコンセプトに据えた差別化戦略、海外発ブランドの逆輸入戦略、いずれもトヨタの強い決意を感じさせる取り組みだと思います。

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「我、東大阪を愛す」 青木豊彦さん

「きょうは寄せてもうて、おおきに!」 
青木さんは控室に入るなり、満面の笑顔を向けながら手を差し出してくれました。肉厚の大きな手で、それこそ万力のような力強い握手を交わします。
「儲かりまっか」と振ったわけではないのですが、大阪人らしく商売の話題から入ります。「おかげさんで大忙しですわ!」ボーイング社の仕事に触れながら、青木さんは元気一杯に話を進めます。そんなこんなで、あっという間に開始時間がやってきました。

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「15:45:40」  三浦展さん

「15:45:40」 三浦さんによれば、これが日本における階層意識(上・中・下)の割合だそうです。もちろん調査によって差はありますが、概ね同じ結果が出ているとのこと。若年層だけで聞けば男女とも「下」の比率が高くなります。30年前の調査結果と比較すると、「上」の比率は変わらない一方で「中」が減り「下」が増えており、これまでの「中流化社会」から、「下流が増加傾向にある二極化社会」へ移行しつつあるということでしょうか。
この格差拡大化現象が、日本人の意識、生活行動、消費スタイルにどのように影響を及ぼしているのか。それを追求しているのが消費社会研究家としての三浦さんのテーマです。

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「演劇の力」 平田オリザさん

「例えば電車や飛行機で隣に乗り合わせた人がいるとします。あなたは隣の人に自らは話しかける方ですか?」
平田オリザさんはこの質問を世界中でしますが、その返答傾向はお国柄がはっきりと反映されるそうです。日本や英国は自ら話かける人の比率が少ない一方で、米国やアイルランドは圧倒的に話しかける人が多いとのこと。日本が少ないのは容易に想像できましたが、同じアングロサクソン系の民族でも傾向が違うのはおもしろいことです。平田さんによれば、この違いは、その国が培ってきた文化・社会特性や歴史的背景に依拠しているとのこと。英国は階級社会で、社会階層が異なると表現方法が異なるため、よく分からない人には容易に話しかけにくにのだそうです。日本や韓国語など相手に応じて敬語を使い分けなければならない言語圏では同じ傾向があります。一方で米国は開拓時代の名残からか他者との敷居が低くフランクです。アイルランドもパブ文化の影響で初対面の人とすぐに打ち解ける気質があるとか。つまり我々のコミュニケーションスタイルは、自身が置かれた社会的・文化的状況に強い影響を受けるわけです。
きょうの講演は、これを踏まえたうえで、その影響をどう乗り越えてコミュニケーションをとっていけば良いのかを示唆してくれるものでした。

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長期投資で豊かな人生を! 澤上篤人さん

プロフィールをご覧になってお気づきの方も多いかと思いますが、澤上さんは30数年に及ぶファンドマネジャーのキャリアの大部分をスイス資本の銀行で過ごしています。日本代表を務めていらしたスイス・ピクテ銀行というのは、有名なプライベート・バンキングだそうで、なんでも「世界の大金持ち達」を相手に一任勘定で資産運用を請け負うのだとか。つまり、澤上さんは大金持ちの資産運用を通じて金融知力&胆力を磨き上げたわけです。そしてそのノウハウを庶民のために使うという逆バリの発想で出来たのが「さわかみ投信」のビジネスモデルなのかもしれません。一般的に、強いところに集中する磁力が働くと言われるマネーの世界で、富の分散を意図的にはかろうという点に、ソーシャルアントレプレナー的な使命感の高さを感じさせます。

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「異質性の強味」 宋文洲さん

「イノベーションは辺境から起こる」という言葉があります。どんな事であれ、流れの真ん中から少しはずれたところに位置することで可能になる異質性と客観性の確保が革新の萌芽になるという意味なのですが、宋文洲さんは、まさに異質性を武器にして日本が抱える問題に鋭いメスを入れている方なのだという印象を持ちました。中国人、ニートも経験、工学博士でありながら経営者、理系出身の経営コンサルタント、まともな人材を採用できない位の零細ベンチャーの経営者、宋さんの経歴を見てみれば、およそ日本の営業革新を語る際には、最も異質な立場にいる人に思えます。だからこそ、誰もがおかしいと思いながらもそこから抜け出せないでいる事柄に対して、「そこが変だよ」と声が上げられるのかもしれません。
例えはよくないかもしれませんが、裸の王様に対して裸であることを声高に指摘した少年のような存在といえるでしょうか。

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「勝利の方程式」 石井淳蔵さん

連休明け最初の「夕学五十講」は神戸大学の石井淳蔵先生でした。石井先生は日本を代表するマーケティング学者として革新的な研究成果を世に問うてきた方です。十年以上前に書かれた『マーケティングの神話』という本は、科学的分析アプローチが全盛であったマーケティング研究に“意味”や“想い”といった抽象概念を取り込むことの重要性を説いた画期的な文献として、いまでも多くの人に読まれています。世の中の人が「なんとなくそういうものだろう」と盲目的に追従してきた考え方に大胆に切り込んでいくのが石井先生の真骨頂で、きょうのテーマである「営業」の研究(特に日本の営業)もまったく同様で、これまで経営学者が扱おうとしなかった暗黒領域にメスを入れようというものです。当然ながら沸き起こるであろう、「そんなに上手くいくはずがない」という大多数の実務家の反応とねばり強く向き合いながら、営業革新の道筋を拓こうという意気込みを感じます。

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「戦略とアイデアをつなぐ」 荒木重雄さん

WBC優勝の反動を一番受けてしまったのが8選手を送り込んだ千葉ロッテで、開幕ダッシュは足踏みしてしまいました。ここに来てようやくエンジンもかかり4連勝中(4/19現在)。そんなチームの上昇軌道に合わせるよう荒木さんの講演日がやってきたから不思議なものです。講演の中でもあったように、荒木さんが、千葉ロッテに入ったきっかけは東大のスポーツマネジメント講座の受講にあったそうです。偶然同じ受講生仲間として千葉ロッテの球団社長がおり、トントン拍子で話が決まったとか。とはいえ、単なる偶然ではなく、かねてからプロ野球ビジネスに関わることを考えていた荒木さんは「いくならロッテだ」と決めていたそうです。

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「リーダーシップの旅」 野田智義さん

野田さんがISL(Institute of strategic Leadership)を立ち上げたのは2001年7月です。
実は、MCCがプレオープンし、夕学の前身である「プレ講演会シリーズ」というの開催したのが2001年の10月です。MCCのプログラムを企画する際に、慶應をはじめとするいろいろな先生に相談に伺うと「よく似たコンセプトだね」ということで教えていただいたのがISLでした。
世界を代表するMBAの教壇に立っていた方が作ったNPOと大学発の株式会社という違いはあったにせよ、そして対象者とプログラム内容は異なっていたにせよ、時代の閉塞状況に危機感をおぼえ「変革と創造」を目指して、新しい社会人教育機関を立ち上げたという点において共通するものを感じ、勝手に親近感を憶えておりました。
英語三文字の名称がそうさせたのか、企業にMCCを紹介にいくとISLと勘違いをされて話がかみ合わないなんてこともありました。そんな不思議な縁もあって、ISLのこと、そしてそのリーダーである野田さんのことを関心持ってウオッチしてきました。
ISLは5年間で、従前にないリーダー育成機関として社会に認知され、知る人ぞ知る存在になりました。その軌跡を野田さんがどうお話になるのか興味を持って講演を伺いました。

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脳と創造性 茂木健一郎さん

「現代は空前の脳ブーム。脳に関心を持つ人が増えているそうです。とはいえ自分の身体に関心を持つときは、どこか調子が悪い時ですよね。多くの人が脳に関心を持つということは、それだけ現代人の脳が病んでいる証拠かもしれません」
会場がどっと受けるマクラを振って講演ははじまりました。
茂木さんによれば、人類の進歩と脳の働きという観点からみても、現代は、人類がコトバを発見した時と同じくらいの大きな機能変化が求められているのだそうです。その代表が「創造性」と「コミュニケーション」だというのがきょうの講演の主題でした。

人間の脳には、本来的に「偶有性」を好む性質があります。これは、ある条件が整えば必ず同じ結果になるような規則性とジャンケンの勝ち負けのようなランダム性の中間にある概念で、半ば規則性、半ば偶然の世界だそうです。規則性やランダム性はコンピュータのアルゴリズムで再現することはできますが、「偶有性」はどんな高性能コンピュータも再現できない脳の優位性だそうです。もし、現代の脳が病んでいるとするならば、本来的な性質として持っている「偶有性」への志向が失われつつあることかもしれません。脳ブームも、我々自身がそのこと対して本能的な危機感を抱いている裏返しなのでしょうか。

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「経済大国ニッポンの危機」 野口悠紀雄さん

「危機感こそが改革を進める最大のモチベーションだと思います」
野口先生の講演はこの一言ではじまり、2時間を通して、日本経済の問題点を厳しく指摘されました。野口先生の危機認識は経済だけでなく、ご自身の身近な環境にもあてはまるようで、控室では、早稲田のファイナンス研究科を志望する学生の意識に対しても厳しい認識を披露してくれました。開設された3年前と比して日本の金融機関の環境は劇的に改善がすすみました。金融危機と謳われた3年前には、金融マンとしての将来に不安を抱き、知識向上をはかろうと多くの志望者が殺到したそうですが、この春はかなり落ち着いてしまったようです。不良債権処理が終了し、負の遺産が整理できて将来の展望が見えたという安心感が、金融機関で働く人々の能力開発ニーズにブレーキをかけているのではないか。そんな問題意識をもっているようです。冒頭の一言で、一見シニカルに見える野口先生の見解が、日本がもっと変わって欲しいという強い思いの裏返しであることがよく分かりました。

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「科学立国ニッポンの危機」 立花隆さん

『夕学五十講』2006年前期のトップバッターは「知の巨人」立花隆さんです。お聞きすると、忙しいこともあって、講演はよほどの義理がない限りおやりにならないそうです。我々に義理があったわけでもありませんが、慶應MCC開設間もない頃、あるプロジェクトで講義をお願いしたことがあり、そのことを憶えていらっしゃって懐かしさもあってお受けしていただいたとのことでした。昨夜というより今朝まで、東大立花ゼミの学生さんと二人で、きょうのプレゼン資料を作成していただいたとか。
講演は、「科学ニッポンの最前線」というよりは「科学ニッポンの危機」といった方が相応しい内容でしたが、最前線を追いかけている立花さんの強烈な危機感が伝わる2時間でした。

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