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「組織の不条理を克服するために」 菊澤研宗さん

経営学をかじったことがある方ならご存じの名著に『失敗の本質』という本があります。
一橋大の野中郁次郎先生が、防衛大学に籍を置いていた当時の同僚の方々との共同研究がベースになったもので、「日本軍の組織論的研究」という副題が付いています。なぜ、旧日本軍は失敗したのか。その原因を経営学の理論フレームワークを使って分析したものです。
防衛大の後輩筋にあたる菊澤先生は、あたかも『失敗の本質』を発展的・批判的に継承するかのように、「組織の不条理」を研究しています。
『失敗の本質』を含む通説によれば、日本軍の失敗は、無知と非合理性にあるとされています。
戦略のグランドデザインもなければ、戦術として選択できるオプションも少ない。属人的な意思決定構造で批判を許さず、過度な精神主義がはびこっていた。「だから日本は負けた」というものです。

菊澤先生は、この支配的な見方とは違った視点で研究を進めてきました。
旧日本軍上層部には、当時最高の知的エリートが揃っていた。愚かであったはずがない。だとすれば、合理的だったにもかかわらず失敗する別の理由があったのではないか。
それは、現代頻発する企業不祥事のメカニズムを説明することにもつながるはずだ、という問題意識です。

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「見えざる手」の真意 堂目卓生さん

人間は利己的な存在である。自らの利益を最大化するために、資本家は富を求め、起業家は事業拡大を求め、労働者は賃金最大化を求める。それが結果として経済を活性化させ、富の再分配を促し、社会を繁栄させる。利己的な個人の利益追求行動が、意図せざる結果として、豊かな社会をもたらす。かつてアダム・スミスはその働きを「見えざる手」と呼び、規制のない自由な市場こそが繁栄への道だと説いた...

専門家からのお叱りを承知のうえで、ステレオタイプのアダム・スミス論をまとめると、上記のようになります。
それは、そのままステレオタイプの反アダム・スミス論にもつながり「市場原理主義」の原初的啓蒙者としてアダム・スミスのイメージを植え付けることになりました。

堂目先生が、この通俗的なイメージに対する反論として書いたのが『アダム・スミス』という本でした。きょうの夕学では、この本に沿って、アダム・スミスの真実をお話いただきました。


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来期の講演予定が決まってきました。

毎期恒例のことですが、年明けの1ヶ月間は、春からの夕学の講師依頼の季節です。
お陰さまで、25講演の予定がほぼ決まりました。明日会場のお越しいただいた方には速報版を配布できると思います。
「明日は行けないが早く知りたい」という方はMCCまでお問い合わせいただければと思います。

これからタイトルや肩書きなどの詳細事項の確認を経て、3月初から購入・予約開始の予定です。
来期もこれまでと同様に、素晴らしい方々にお越しいただけます。
皆さま、乞ご期待!!

「万葉の<われ>、現代の<われ>」 佐佐木幸綱さん

奈良のみやこは、平城遷都1300年を来年に控えて、「せんとくん・まんとくん」騒動を含めて何か話題の多い年を迎えました。
平城遷都が行われた710年は、万葉集が編まれた中心の時代です。編さんに関わったとされている柿本人麻呂、大伴家持らが生きた時代でもあります。
それから1300年。佐佐木先生は国文学者として、万葉集の研究に力を注いできました。
佐佐木信綱氏(祖父)、佐佐木治綱氏(父)と三代続く近現代短歌の歌人でもあります。
万葉のうたと現代のうた。その1300年の隔たりをつなぐ紐帯のような存在かもしれません。

万葉と現代をつなぐ鍵は、<われ>にある。つまり自我をどう扱うかにある。
佐佐木先生はそう言います。

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「風のように吹いてくる」 中谷健太郎さん

「リゾート運営の達人」をビジョンに掲げ、経営破綻に陥った全国の老舗旅館・リゾートの再生事業を手がけている星野佳路さんによれば、地方の観光地の人々に「この地の魅力は何ですか」と問いかけると、必ずといってよいほど同じ答えが返ってくるそうです。

「温泉が湧いている」「魚が旨い」「緑があって空気が美味しい」
激安旅行のチラシ上に踊っているキャッチコピーそのままです。

温泉も、旨い魚も、新鮮な空気も、確かに魅力であることに違いはありませんし、答える人々は故郷に誇りを持ち、なんとか活性化しようという危機感を持っているのでしょうが、魅力を問われて、誰もが思いつくステレオタイプの表現しか出てこないところに、地方観光地が衰退していくひとつの理由があるのかもしれません。

衰退著しい地方温泉街にあって、由布院は数少ない成功モデルとして語られてきました。
ドイツのバーデン・バーデンに範を取り、「滞在型リゾート」というコンセプトをいち早く打ち立てて、街ぐるみの魅力づくりを進めてきました。
のどかな田園地帯を辻馬車が走り、当代一流の演奏家やアーティストが集う音楽祭、映画祭、演劇などが盛んに開催され、地方にいながら本物のアートや文化を楽しむことが出来ます。日本中から宿泊客が訪れると言います。しかも二度三度と。
由布院活性化のキーマンが、高級旅館として名を馳せる亀の井別荘のご主人 中谷健太郎さんであると言われてきました。

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「守りながら、再創造する」 渡辺保さん

正月に国立劇場の「初春歌舞伎公演」に行ってきました。白血病治療のためしばらくお休みしていた市川團十郎丈の復活公演とあって、満員御礼の盛況でした。
今年の正月は、東京では、歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場、浅草公会堂の四劇場で同時に歌舞伎公演が行われ、いずれも多くの観客で賑わい、歌舞伎ブームの隆盛が伝えられています。
しかしながら、渡辺保さんは、現状にある種の危機感を抱いているそうです。
「観客が育っていない」という問題意識です。
「客が芸を育てる」ということは落語をはじめとして多くの芸能で言われるところです。厳しくかつ的確な評価眼を持った良質な観客の評価によって、芸は磨かれるという側面があります。

「ブームに乗った客はやがて歌舞伎を離れていく。その時の歌舞伎が心配である」
良いものは良い、悪いものは悪い。歯に衣着せぬ率直な演劇評論で知られる渡辺さんならではのご指摘かもしれません。


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「見えないものを見る 聞こえないものを聞く」 田口佳史さん

日経新聞「経済教室欄」のゼミナールのコーナーで、年初から景気循環理論についての連載が続いているのをご存じでしょうか。
好況と不況の波が周期的に訪れることを解説する景気循環理論には、3年程度の短期周期の「キチンの波」。10年で循環するという「ジュグラーの波」。20年で繰り返される「グズネッツの波」。50年という長期サイクルで訪れる「コンドラチェフの波」等などがあるとのこと。
100年に一度と言われる現在の経済危機は、差し詰め4つの波が一緒にやって来たと考えると周期の辻褄は合いますが、まあどうでしょうか。

東洋思想の啓蒙者として40年生きてきた田口さんは、「この経済危機を、江戸期の達人ならどう見るか」というまくらから、お話を始めました。

儒学や老子、荘子など東洋思想が学問の基軸にあった江戸期であれば、きっと陰陽論で理解するだろう。
「陽極まれば陰となる 陰極まれば陽となる」
陰の時期と陽の時期が交互に訪れると考える陰陽論によって立てば、陰の時期は次に向けて準備の時期と考える。けっして悲観する必要はない。
準備は人知れず陰(かげ)でやるべきもの。陰でなければできないことをやればよい。
田口さんは、そう言います。


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「あえて二兎を追う」 島田亨さん

「金融危機」は世界をどう変えるかという論説のひとつに、「多極化時代」への変化が加速度を増すであろうという見解があります。
冷戦終結以降、20年近く続いてきた、米国の単独行動主義が限界に達し、米国一極集中時代から多極化へと政治経済の力学構造が変化するだろうというものです。
どうやら、それとよく似た現象が、プロ野球にも起きているようです。

「巨人戦の視聴率低迷をもって、野球人気の崩壊と言う人がいるが、それは誤りである。 野球人気が衰退したのではなく、巨人人気が衰退したに過ぎない」
「メジャー、高校野球、地方TVの野球中継等々、全てを合わせれば、視聴率はむしろ伸びている」
二宮清純さんはそう言います。
福岡に浸透したソフトバンク、札幌に根付こうとしている日本ハム、地道なファン獲得を続ける千葉ロッテ。 巨人、阪神の全国区球団だけでなく、地域密着型の球団経営、チームづくりを行う球団が力をつけてきました。
不思議なもので、次代を担う若手有望選手は、そういう球団から育っています。
本日の講師、島田亨さんが、球団社長兼オーナーとして率いる楽天野球団も、そんな多極のひとつになった球団です。

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「身を立て 名をあげる」 磯田道史さん

中世の職人や芸能民など、農民以外の非定住の人々である漂泊民の世界を明らかにし、それまで通説とされていた中世の日本像を覆した網野善彦さんは、「網野史観」と呼ばれる学説を世に問いかけました。

「百姓は農民ではない」

百姓身分に属した人々は、農民だけではなく商業や手工業などの多様な生業の従事者であったことを、網野さんは強調しました。

磯田先生は、近世の武士身分に属した人々について、網野史観とよく似た通説否定をされました。

「武士の世界は、けっして一様ではない」
「家老から足軽までの多様な人々を、武士というひとくくりの身分で理解することは間違いである」

磯田先生によれば、近世の武士には、同一身分内に多階層に及ぶ厳格な階級制度があったそうです。全人口の7%とも10%とも言われる武士層ですが、そのうちの60%は足軽・中間と言われる下士層であり、彼らは普段は農地も耕すアルバイト武士だったとのこと。農家の次男・三男で体格の良い肉体派を選び、荷物運びや槍持ちとして雇用する、今でいうところの非正規社員でした。

また、江戸時代が士農工商の身分制度によって成り立つ単一ピラミッド社会であるという常識も間違いだと磯田先生は言います。
むしろ、武士のピラミッド、町人のピラミッドというように、高さの異なる複数の三角形が並列して存在していました。武士階級の最下層に位置する足軽・中間と町人ピラミッドの頂点に立つ大庄屋とでは、経済的にはもちろん、家格でもはるかに大庄屋の方が上に位置していたとのこと。
明治維新の本質は、マルクス的な「階級闘争」ではなく、西郷、大久保、伊藤らの下層武士層による、将軍家や大名層など武家支配層に対する「階級内対立」である、と言った方がふさわしいというのが磯田先生の弁です。

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「暗愁の意味と意義」 五木寛之さん

「ここ数年、世の中の風向きが変わってきた感じがします」
五木寛之さんは時代の変化から講演を始めました。
銀行・金融、IT・情報、病院・医療など、五木さんにとって、これまで無関係・無縁だった世界(五木さんによれば「迂遠」な世界)から講演を依頼されることが増えたそうです。
『大河の一滴』『他力』をはじめとして、人間のこころを見つめるエッセイを多く書いている五木さんに、「こころの話をして欲しい」という依頼です。

五木さんは、この現象を、「こころの病」が市民権を得たと表現されます。
「うつ状態」を「こころの風邪」という言い方をすることが増えました。風邪だから、軽い気持ちで医者(心療内科)に行き、薬で治せばいい。そんな考え方が若い人達の間に抵抗なく受け入れられるようになりました。
五木さんは、それを一概に否定するものではないとことわりながらも、「本当にそれでよいのだろうか」と疑問を投げかけます。

「こころの病」の根本には、「鬱(うつ)」な気分がある。やる気が起きない。ため息ばかりでる。未知なものへの不安などなど。
しかしながら、「鬱(うつ)」な気分とは、はたして病気なのだろうか。
「こころの病」というよりは、「こころが萎える(状態)」という言い方がふさわしいのではないか
「こころの萎え」は、人間誰しもが味わうことであって、病気ではない。
ましてや薬で治すものではないはずだ。 
五木さんはそう言います。

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「ほどほどがよい」 池田清彦さん

東大の松井孝典先生は、人間の営みを宇宙からの視座で俯瞰する巨視的なアプローチ「地球学的人間論」を提唱しています。
松井先生によれば、宇宙をシステム的に捉えると、地球システムにおける「人間圏」が「生物圏」の一要素から独立し、サブシステムとして分離したのは、約一万前。「人間圏」の誕生は、農耕の開始によって特徴づけられるそうです。
それまで「生物圏」のひとつの種として、狩猟採集によって環境から受け身で生命を繋いできた人間が、農耕をすることで環境に対して相互作用的な存在に昇格し、「人間圏」を作り上げることが出来たと松井先生はいいます。
きょうの池田先生の話を「地球学的人間論」にあてはめていうと、「人間圏」の誕生とともに既に「環境問題」は発生していたということになります。

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「楽しむ者に如かず」 小山龍介さん

夕学開講前、控室で小山さんと「大局観」と「直観力」の話をしておりました。
先日の羽生さんの講演を話題にしたのがきっかけだったのですが、いつしか松岡正剛さんの話題へと発展し、「直観力を鍛えるにはどうしたらよいか」という話になりました。
小山さんは、松岡さんが主宰するISIS編集学校で師範代を務めていることもあり、小山さんなりの松岡論解釈を持っていいます。
「大局観を持つことが直観力を鍛えることにつながる」
それが、松岡さんの考え方ではないか。小山さんはそう話されました。
経験の蓄積が直観力を鍛えるのではなく、もっと大きな枠組み、例えば大局観とかワールドモデルと呼ばれるフレームを現象にはめ込んでみると創発的に浮かび上がってくるものが「直観」ではないかということです。

きょうの講演を聞かれた方はよくお分かりかと思いますが、小山さんにとって、ライフハックを思いつく瞬間こそ「直観力」の発揮です。そしてライフハックを産み出すエネルギーは、ライフハックがなぜ必要なのか、自分はなぜライフハックの提唱者を目指しているのかと「大局観」から注ぎ込まれています。
ライフハックは技術論ではなく、生きるうえでの哲学として考えたい。
そんな小山さんの思いをお話された2時間でした。

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「オーラルヒストリーの力」  御厨貴さん

リーダーシップ開発の研究に「Lessons of Experience」(経験からの学習・教訓)という理論があります。
「激動の中で企業をリードし、高い成果を出してきた優秀な経営者は、一夜にしてつくられたのではない。成果をあげるリーダーは、自分で実行し、他人が挑戦するのを観察し、失敗を犯すことによって学ぶ」とする考え方で、個々の経営者・幹部がどのような経験をし、そこからどんな教訓・知見を獲得してきたのかを丹念に調べ上げるという方法論です。
この理論は、経験重視社会である日本の企業経営と親和性が高いようで、神戸大学の金井壽宏先生の「ひと皮むけた経験」や小樽商科大学の松尾睦先生の「プロフェッショナルによる経験からの学習」といった日本独自の研究を生みだしています。

御厨先生が専門とするオーラルヒストリーによる政治家研究は、「Lessons of Experience」のアプローチとよく似ているという印象を持ちました。
オーラルヒストリーとは、対象者自身に対する「聞き書き」によって歴史を記述研究するものです。通常の歴史研究は、文献資料をつぶさに検証することをもって科学的な手法とされてきました。しかし文書だけでは、政治過程、政策決定場面で実際に何が起き、どのような議論を交わされたのかというプロセスが記録に残りにくいという欠点があります。オーラルヒストリーは、その欠点を埋め、いわば生々しい政治の実像が見えてくるという点に特徴があるそうです。

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「考え続けることが才能である」 羽生善治さん

昼間、立ち寄った本屋で偶然に『羽生』という本を見つけました。
作家の保坂和志氏が、1997年に書いた同名の本が昨年になって文庫化されたようです。
この本の「文庫版のためのまえがき」に、出版にあたって羽生さんから寄せられた手紙文が載っています。
その内容が、きょうの羽生さんの講演を理解するうえでも参考になると思いますので、ご紹介をしておきます。

「私が将棋の事について考えていた事、思った事を話した後に言葉で帰ってくるのはとても少ないので新鮮な驚きがありました。 読み・棋風・最善手等に対する考え方は少しずつ変化していくものなので、そういうプロセスが何らかの形で残っていれば良いなあと思っていたので、今回の出版は嬉しく、感謝をしています」

この本が書かれた1997年、羽生さんは27歳。史上初の七冠達成を成し遂げた翌年にあたります。羽生さんの将棋がある面において頂点に達していた頃でしょう。
この本を読むと、すでに10年以上も前から、羽生さんが自分の棋風について、驚くほど深く、しかも客観的に分析していたことに驚きます。
そしてもうひとつ、ご自身も予感していたように、この本で語る将棋の考え方・棋風と今日の羽生さんのそれとが、確かな変化を遂げていることを認識することが出来ます。

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「強みを磨き、弱みを改革」 坂根正弘さん

トヨタ、キャノンと並び、日本を代表する「勝ち組製造業」に数え上げられるコマツ。
2001年に社長に就任してから7年、売上高を約二倍、130億円の営業赤字を3300億円強の営業黒字へと転換させ、V字回復の原動力になったのが坂根正弘会長でした。

「こういう社長の下で働いてみたい...」
坂根さんのお話を聞いて、そんな印象をもたれた方も多いのではないでしょうか。

シンプルで分かり易く、本質を突いたメッセージを力強く伝えてくれる。
陰でコソコソ動いたり、誤魔化そうとしても、たちどころに見抜かれそうな「健全な恐ろしさ」を感じさせる。
反対意見であって、下の者の声に真摯に耳を傾ける度量の大きさがある。

坂根さんには、そんなイメージがあります。大企業のトップとして数万人に社員を率いるリーダーには必須の要素と言えます。
世界中から講演のお声が掛かるのも当然なのかもしれません。

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「夢があれば道理は引っ込む」 三浦雄一郎さん

「ゴツ、ゴツ」と登山靴の音を廊下に響かせながら、会場に現れた三浦雄一郎さん。
日焼け跡が残る精悍な顔に白い眉が印象的です。広い肩幅、分厚い胸板、太い首周り、いかにも頑健そうな身体は、75歳の今もなお現役冒険スキーヤーであることを納得させるに十分なオーラに包まれていました。

三浦雄一郎さんは、今年の5月に、自身二度目のエベレスト登頂に成功しました。
北京オリンピックとチベット暴動の影響もあり、当初のチベットルートを急遽変更し、ネパールルートを取ることを余儀なくされました。
インド大陸がユーラシア大陸にぶつかることで誕生したヒマラヤ山脈は、南のネパール側の方が隆起が激しく、断崖やクレバス越えなどに時間の掛かる難ルートとされているそうです。
「結果的には、これが効を奏したかもしれない」
三浦さんはそう言います。アタックまでに時間を掛かったことが身体の高度順応にはプラスの影響を与えることになりました。
エベレスト登山は、一直線に頂上を目指すのではなく、登ったり降ったりを交互に繰り返しながら、少しずつ高度を上げていくものだそうです。

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「古典の楽しみ方」 加賀美幸子さん

今年は、「源氏物語千年紀」。京都をはじめとして、各地で「源氏物語」にちなんだイベント・催事が開催されています。
「源氏物語」は三部五十四帖に及ぶ大作で、登場人部は500人、主要人物だけでも50人に及ぶという大長編です。
物語の嚆矢とも言われるシェイクスピアよりも600年以上も前に、恋愛・出世・愛惜といった人間臭いテーマを扱いつつ、これほど豊潤で奥深い文学作品が存在したことは、世界に誇るべき日本文化のひとつといって過言はないと思います。

「古典を愛したアナウンサー」を自称する加賀美幸子さんにとって「源氏物語」の魅力は、
やさしく読んでも楽しい、深く読み込めば味わい深い、その奥深さにあるそうです。
「好きで、好きで仕方ない」
加賀美さんのお話を伺うと、「源氏物語」に対するそんな思いが伝わってきます。

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「結論から」「全体から」「単純に」 細谷功さん

昨年秋に出版されて以来、18万部を売ったという『地頭力を鍛える』。
そのインパクトがいかほどのものなのか、細谷さんはコンサルタントらしく、データで示してくれました。
Google検索で「地頭力」「フェルミ推定」という言葉をたたいてみると、本が出版される前の結果は、「地頭力」が25件、「フェルミ推定」は1180件のヒット数だったとのこと。
それが1年後には、それぞれ30万件、11万件に増大したそうです。
「地頭力」は12000倍、フェルミ推定は100倍という驚異的な増え方です。ベストセラーの影響力を改めて認識させられます。

さて、細谷さんは「地頭力」を、考える力・思考する力と定義していますが、その前に付く、修飾語が重要です。
つまり、「結論から」「全体から」「単純に」考える力・思考する力をもって、「地頭力」と呼んでいます。

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「オバマ氏は100日間が勝負!」  藤原帰一さん

「なぜ、アメリカ人は“Change”という言葉にあそこまで盛り上がるのか?」

多くの日本人が、米大統領選挙の報道を見る度に、そう感じていたのではないでしょうか。
藤原先生は、そんな疑問を見透かしたように、オバマへの熱狂=変革待望論の背景にある米国民の鬱屈を解説することから講演をはじめました。

「狂王ブッシュによる暗黒の八年を終えて、ようやく米国が変わる」

オバマに熱狂する人々が抱く思いを、藤原先生はそう表現しました。
政治家も軍幹部も、誰もやりたくはなかったイラク戦争への突入と泥沼化。日本以外とは壊滅に近いほど荒れてしまった国際関係。

「こんな米国は恥ずかしい。もう嫌だ」

ブッシュ政権末期の米国には、そんな鬱屈した感情のマグマが充満していたそうです。
そこに現れた多様性の象徴のような存在であるバラク・オバマ氏。
彼が訴える「ひとつのアメリカ」への希求は、アメリカ人の心の空白をしっかりと捉まえた。
オバマへの熱狂は、そのように解釈できるといいます。

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「土俵を守るために学ぶ」 内館牧子さん

今だから言えることですが、内館さんにお会いするまでは、少しばかり緊張をしておりました。
横綱審議委員として、朝青龍を舌鋒鋭く批判するお姿をマスコミを通じて見ておりましたので、勝手にイメージを作ってしまい、粗相でもあったらどうしようかと気を揉んでいた次第です。
実際にお会いした内館さんは、実に明るく、ざっくばらんな方です。
「ちょい悪オヤジ」達と飲み屋で毒舌を交わしながら楽しく過ごしている姿が似合いそうな魅力的な女性でした。

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「攻めと守りで脳を鍛える」 築山節さん

築山節先生の「脳の働き」の話を聞きながら、3年前の夕学に来ていただいた千住博さん(日本画家)の「スランプ脱出法」を思い出しました。

「私は、芸大に9年間在籍し、自分の身についた朝早くから夜遅くまでアトリエにいるという癖が、今となっては幸いしているような気がします。とにかく何だかわからなくてもアトリエにいようということがやはり大事だからです。今も毎朝7時にはどんなことがあってもアトリエに入っています。これが25年間続いています。
描けても描けなくてもとにかくアトリエに入って、ニカワを溶き、筆を握って絵に向かってみる。描けないときは、外で何か他のことをやっていようとすると、描けない状態から脱することは難しいと思います。」
(千住博『絵を描く悦び』光文社新書より)

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「グローバル化の本質」 黒川清さん

先週はソウルとシンガポール、今週は北京。文字通り世界を飛び回る日々を送る黒川先生。科学者同士の国際連携を推進する連合組織体の役員や委員を兼任され、“世界の知”と交流する立場にあります。
きょうの夕学では、そんな黒川先生が、強い危機感を持っている「世界における日本」のあり方について、熱く語っていただきました。

現代をひと言で言い表すとすれば「世界がフラット化した」ということである。
黒川先生は、ベストセラーになったフリードマンの著作『フラット化する世界』になぞらえて表現します。『フラット化する世界』には、その象徴として、米国の会計士に発注した書類がインドのバンガロールに住む税理士の手で作成されているという事例をもって、グローバル化の進展が紹介されています。
黒川先生は意外なことに、フラット化の本質を、グーテンベルク聖書がもたらした革命を題材に説明されました。
グーテンベルク聖書とは、15世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクが世界で初めて活版印刷技術を用いて印刷した180部の聖書を指します。ちなみに、世界に48部しか現存していないと言われるグーテンベルク聖書のひとつは、慶應義塾に所蔵され、全ページをデジタル化しアーカイブとして保存する「HUMIプロジェクト」が終了したばかりです。
さて、グーテンベルク聖書がもたらした社会的インパクトは、当時教会に独占されていた「キリストの言葉」の翻訳機能を、社会と市民に開放することにありました。いわば知の開放でありました。
このインパクトは、たんなる聖書の啓蒙を超越し、欧州社会に新たな宗教観を醸成することに繋がりました。その奔流は、100年後に、カルビンやルターによる「宗教改革」として結実することになります。

フラット化されるということは、さまざまな制約を越えて、あらゆる知が世界に開放されることを意味している。それは時に、既存秩序の転覆さえも引き起こす大きな変革をもたらす。

黒川先生の主張はそういうことでしょう。

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「中国はひとつではない」 国分良成さん

メタミドホスではじまり、メラミンで暮れようとする今年の日中関係。
両国関係を象徴するニュースは、餃子・インゲンに代表される食品汚染問題になることは間違いありません。消費者もスーパーも、「いったい次は何か」と戦々恐々の状態です。
国分先生は、この報道を冷静に観察しています。
曰く「日中関係はようやく“本来の関係”になった」とのこと。

「近くて遠い国」の代表であった中国は、いまや文字通り「近くて近い国」になりました。皮肉なことに、30年前、日中間の交流がほとんどなかった頃は、日本の対中イメージが良かったそうです。それに対して、この数年の対中国の印象は芳しくありません。
かつての好印象は、パンダとNHKのシルクロード特集が作り出した虚構のイメージ、それに対して、現在の悪印象は、日常的関係に根ざした実像です。
接触が増えれば摩擦も増えるのが国際政治の常識。その意味で “本来の関係”になったということでしょうか。

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「IT革命は道半ば」 夏野剛さん

5万年前、アフリカから世界へと旅に出た人類は、その旅程で「ことば」を生みだしました。
「ことば」は、表情や身振りに頼っていた人間の「コミュニケーション」を大きく変え、やがて農耕社会を作り出すきっかけになりました。

18世紀後半、ジェームス・ワットが改良した新方式の蒸気機関は、それまで人や牛馬に頼っていた「動力」の概念を大きく変えました。
「動力」の飛躍的進化は、興隆しつつあった帝国主義と結びつき、やがて「産業革命」へと結実してきました。

20世紀の終わりに登場したインターネットは、「情報」の概念を大きくかえつつあります。
その変化は「IT革命」と呼ばれ、農耕や工業化の開始と同様に、人と社会の有り様を変える大きなインパクトになると言われています。
上記の流れに位置づけてみると、「ケータイ」は、日本における「IT革命」の先駆として、一般コンシューマーを革命の担い手に登場させたところに、その時代的な意味があります。
「革命は大衆によって成される」ということは歴史が教えてくれる真実です。

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「自分が生きる意味は自分の力で創り出す」 姜尚中さん

「一匹の妖怪が世界を徘徊している。金融破綻という妖怪が...」

あまりに有名なマルクスの言葉をもじりながら、姜先生は、2008年秋の状況を語りました。
自分が体験するとは夢にも思っていなかった大恐慌の到来さえ現実のものになってきた。そんな恐ろしいことさえ口にされます。
こんな混迷時代を半年前に予感していたのか、この春に姜先生がだした『悩む力』は50万部を超えるベストセラーになっているといいます。
この本のおもしろさは、夏目漱石とマックス・ウェーバーという「組み合わせの妙」にあったようだと姜先生は言います。
なぜならば、漱石とウェーバーに共通するのは、「資本主義とは何か」を冷徹に見つめる洞察力にあったとのこと。

100年前、帝国主義の膨張が破裂寸前の危うさを見せていた世紀末、経済的には資本主義が世界に広がり、合わせ鏡のように社会主義が勃興を始めていました。
そんな混迷の時代にあって、漱石もウェーバーも、資本主義の行く末に何が起きるのかを見抜いていたと姜先生は言います。

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「官僚の思考特性」 高橋洋一さん

「起きて困ることは起きないことにする」
「あって困ることはないことにする」

歴史作家の半藤一利さんは、この思考特性こそが「近代以降の歴史から垣間見える日本の支配者層の通癖である」と言います。
西洋列強が力づくで開国を迫ってくることを予期しながら、何の対策もとっていなかった幕末の幕府官僚。
米英と戦えば間違いなく負けると分かっていながら、戦争への道を突き進んだ昭和の陸軍官僚。
年金問題や汚染米問題での隠蔽体質に象徴される中央省庁のキャリア官僚。
自分達のやり方、決めた方針に固執し、都合の悪いこと、起きて困ることには目をそらして、いたずらに時間を消費し、誰もが気づいた時には手遅れになってしまう。
わが国の支配者層に染み付いた、そんな思考特性を改めて認識させてくれた高橋先生の講演でした。

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