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「組織の不条理を克服するために」 菊澤研宗さん

経営学をかじったことがある方ならご存じの名著に『失敗の本質』という本があります。
一橋大の野中郁次郎先生が、防衛大学に籍を置いていた当時の同僚の方々との共同研究がベースになったもので、「日本軍の組織論的研究」という副題が付いています。なぜ、旧日本軍は失敗したのか。その原因を経営学の理論フレームワークを使って分析したものです。
防衛大の後輩筋にあたる菊澤先生は、あたかも『失敗の本質』を発展的・批判的に継承するかのように、「組織の不条理」を研究しています。
『失敗の本質』を含む通説によれば、日本軍の失敗は、無知と非合理性にあるとされています。
戦略のグランドデザインもなければ、戦術として選択できるオプションも少ない。属人的な意思決定構造で批判を許さず、過度な精神主義がはびこっていた。「だから日本は負けた」というものです。

菊澤先生は、この支配的な見方とは違った視点で研究を進めてきました。
旧日本軍上層部には、当時最高の知的エリートが揃っていた。愚かであったはずがない。だとすれば、合理的だったにもかかわらず失敗する別の理由があったのではないか。
それは、現代頻発する企業不祥事のメカニズムを説明することにもつながるはずだ、という問題意識です。

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「見えざる手」の真意 堂目卓生さん

人間は利己的な存在である。自らの利益を最大化するために、資本家は富を求め、起業家は事業拡大を求め、労働者は賃金最大化を求める。それが結果として経済を活性化させ、富の再分配を促し、社会を繁栄させる。利己的な個人の利益追求行動が、意図せざる結果として、豊かな社会をもたらす。かつてアダム・スミスはその働きを「見えざる手」と呼び、規制のない自由な市場こそが繁栄への道だと説いた...

専門家からのお叱りを承知のうえで、ステレオタイプのアダム・スミス論をまとめると、上記のようになります。
それは、そのままステレオタイプの反アダム・スミス論にもつながり「市場原理主義」の原初的啓蒙者としてアダム・スミスのイメージを植え付けることになりました。

堂目先生が、この通俗的なイメージに対する反論として書いたのが『アダム・スミス』という本でした。きょうの夕学では、この本に沿って、アダム・スミスの真実をお話いただきました。


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来期の講演予定が決まってきました。

毎期恒例のことですが、年明けの1ヶ月間は、春からの夕学の講師依頼の季節です。
お陰さまで、25講演の予定がほぼ決まりました。明日会場のお越しいただいた方には速報版を配布できると思います。
「明日は行けないが早く知りたい」という方はMCCまでお問い合わせいただければと思います。

これからタイトルや肩書きなどの詳細事項の確認を経て、3月初から購入・予約開始の予定です。
来期もこれまでと同様に、素晴らしい方々にお越しいただけます。
皆さま、乞ご期待!!

「万葉の<われ>、現代の<われ>」 佐佐木幸綱さん

奈良のみやこは、平城遷都1300年を来年に控えて、「せんとくん・まんとくん」騒動を含めて何か話題の多い年を迎えました。
平城遷都が行われた710年は、万葉集が編まれた中心の時代です。編さんに関わったとされている柿本人麻呂、大伴家持らが生きた時代でもあります。
それから1300年。佐佐木先生は国文学者として、万葉集の研究に力を注いできました。
佐佐木信綱氏(祖父)、佐佐木治綱氏(父)と三代続く近現代短歌の歌人でもあります。
万葉のうたと現代のうた。その1300年の隔たりをつなぐ紐帯のような存在かもしれません。

万葉と現代をつなぐ鍵は、<われ>にある。つまり自我をどう扱うかにある。
佐佐木先生はそう言います。

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「風のように吹いてくる」 中谷健太郎さん

「リゾート運営の達人」をビジョンに掲げ、経営破綻に陥った全国の老舗旅館・リゾートの再生事業を手がけている星野佳路さんによれば、地方の観光地の人々に「この地の魅力は何ですか」と問いかけると、必ずといってよいほど同じ答えが返ってくるそうです。

「温泉が湧いている」「魚が旨い」「緑があって空気が美味しい」
激安旅行のチラシ上に踊っているキャッチコピーそのままです。

温泉も、旨い魚も、新鮮な空気も、確かに魅力であることに違いはありませんし、答える人々は故郷に誇りを持ち、なんとか活性化しようという危機感を持っているのでしょうが、魅力を問われて、誰もが思いつくステレオタイプの表現しか出てこないところに、地方観光地が衰退していくひとつの理由があるのかもしれません。

衰退著しい地方温泉街にあって、由布院は数少ない成功モデルとして語られてきました。
ドイツのバーデン・バーデンに範を取り、「滞在型リゾート」というコンセプトをいち早く打ち立てて、街ぐるみの魅力づくりを進めてきました。
のどかな田園地帯を辻馬車が走り、当代一流の演奏家やアーティストが集う音楽祭、映画祭、演劇などが盛んに開催され、地方にいながら本物のアートや文化を楽しむことが出来ます。日本中から宿泊客が訪れると言います。しかも二度三度と。
由布院活性化のキーマンが、高級旅館として名を馳せる亀の井別荘のご主人 中谷健太郎さんであると言われてきました。

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「守りながら、再創造する」 渡辺保さん

正月に国立劇場の「初春歌舞伎公演」に行ってきました。白血病治療のためしばらくお休みしていた市川團十郎丈の復活公演とあって、満員御礼の盛況でした。
今年の正月は、東京では、歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場、浅草公会堂の四劇場で同時に歌舞伎公演が行われ、いずれも多くの観客で賑わい、歌舞伎ブームの隆盛が伝えられています。
しかしながら、渡辺保さんは、現状にある種の危機感を抱いているそうです。
「観客が育っていない」という問題意識です。
「客が芸を育てる」ということは落語をはじめとして多くの芸能で言われるところです。厳しくかつ的確な評価眼を持った良質な観客の評価によって、芸は磨かれるという側面があります。

「ブームに乗った客はやがて歌舞伎を離れていく。その時の歌舞伎が心配である」
良いものは良い、悪いものは悪い。歯に衣着せぬ率直な演劇評論で知られる渡辺さんならではのご指摘かもしれません。


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「見えないものを見る 聞こえないものを聞く」 田口佳史さん

日経新聞「経済教室欄」のゼミナールのコーナーで、年初から景気循環理論についての連載が続いているのをご存じでしょうか。
好況と不況の波が周期的に訪れることを解説する景気循環理論には、3年程度の短期周期の「キチンの波」。10年で循環するという「ジュグラーの波」。20年で繰り返される「グズネッツの波」。50年という長期サイクルで訪れる「コンドラチェフの波」等などがあるとのこと。
100年に一度と言われる現在の経済危機は、差し詰め4つの波が一緒にやって来たと考えると周期の辻褄は合いますが、まあどうでしょうか。

東洋思想の啓蒙者として40年生きてきた田口さんは、「この経済危機を、江戸期の達人ならどう見るか」というまくらから、お話を始めました。

儒学や老子、荘子など東洋思想が学問の基軸にあった江戸期であれば、きっと陰陽論で理解するだろう。
「陽極まれば陰となる 陰極まれば陽となる」
陰の時期と陽の時期が交互に訪れると考える陰陽論によって立てば、陰の時期は次に向けて準備の時期と考える。けっして悲観する必要はない。
準備は人知れず陰(かげ)でやるべきもの。陰でなければできないことをやればよい。
田口さんは、そう言います。


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「あえて二兎を追う」 島田亨さん

「金融危機」は世界をどう変えるかという論説のひとつに、「多極化時代」への変化が加速度を増すであろうという見解があります。
冷戦終結以降、20年近く続いてきた、米国の単独行動主義が限界に達し、米国一極集中時代から多極化へと政治経済の力学構造が変化するだろうというものです。
どうやら、それとよく似た現象が、プロ野球にも起きているようです。

「巨人戦の視聴率低迷をもって、野球人気の崩壊と言う人がいるが、それは誤りである。 野球人気が衰退したのではなく、巨人人気が衰退したに過ぎない」
「メジャー、高校野球、地方TVの野球中継等々、全てを合わせれば、視聴率はむしろ伸びている」
二宮清純さんはそう言います。
福岡に浸透したソフトバンク、札幌に根付こうとしている日本ハム、地道なファン獲得を続ける千葉ロッテ。 巨人、阪神の全国区球団だけでなく、地域密着型の球団経営、チームづくりを行う球団が力をつけてきました。
不思議なもので、次代を担う若手有望選手は、そういう球団から育っています。
本日の講師、島田亨さんが、球団社長兼オーナーとして率いる楽天野球団も、そんな多極のひとつになった球団です。

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「暗愁の意味と意義」 五木寛之さん

「ここ数年、世の中の風向きが変わってきた感じがします」
五木寛之さんは時代の変化から講演を始めました。
銀行・金融、IT・情報、病院・医療など、五木さんにとって、これまで無関係・無縁だった世界(五木さんによれば「迂遠」な世界)から講演を依頼されることが増えたそうです。
『大河の一滴』『他力』をはじめとして、人間のこころを見つめるエッセイを多く書いている五木さんに、「こころの話をして欲しい」という依頼です。

五木さんは、この現象を、「こころの病」が市民権を得たと表現されます。
「うつ状態」を「こころの風邪」という言い方をすることが増えました。風邪だから、軽い気持ちで医者(心療内科)に行き、薬で治せばいい。そんな考え方が若い人達の間に抵抗なく受け入れられるようになりました。
五木さんは、それを一概に否定するものではないとことわりながらも、「本当にそれでよいのだろうか」と疑問を投げかけます。

「こころの病」の根本には、「鬱(うつ)」な気分がある。やる気が起きない。ため息ばかりでる。未知なものへの不安などなど。
しかしながら、「鬱(うつ)」な気分とは、はたして病気なのだろうか。
「こころの病」というよりは、「こころが萎える(状態)」という言い方がふさわしいのではないか
「こころの萎え」は、人間誰しもが味わうことであって、病気ではない。
ましてや薬で治すものではないはずだ。 
五木さんはそう言います。

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「楽しむ者に如かず」 小山龍介さん

夕学開講前、控室で小山さんと「大局観」と「直観力」の話をしておりました。
先日の羽生さんの講演を話題にしたのがきっかけだったのですが、いつしか松岡正剛さんの話題へと発展し、「直観力を鍛えるにはどうしたらよいか」という話になりました。
小山さんは、松岡さんが主宰するISIS編集学校で師範代を務めていることもあり、小山さんなりの松岡論解釈を持っていいます。
「大局観を持つことが直観力を鍛えることにつながる」
それが、松岡さんの考え方ではないか。小山さんはそう話されました。
経験の蓄積が直観力を鍛えるのではなく、もっと大きな枠組み、例えば大局観とかワールドモデルと呼ばれるフレームを現象にはめ込んでみると創発的に浮かび上がってくるものが「直観」ではないかということです。

きょうの講演を聞かれた方はよくお分かりかと思いますが、小山さんにとって、ライフハックを思いつく瞬間こそ「直観力」の発揮です。そしてライフハックを産み出すエネルギーは、ライフハックがなぜ必要なのか、自分はなぜライフハックの提唱者を目指しているのかと「大局観」から注ぎ込まれています。
ライフハックは技術論ではなく、生きるうえでの哲学として考えたい。
そんな小山さんの思いをお話された2時間でした。

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「オーラルヒストリーの力」  御厨貴さん

リーダーシップ開発の研究に「Lessons of Experience」(経験からの学習・教訓)という理論があります。
「激動の中で企業をリードし、高い成果を出してきた優秀な経営者は、一夜にしてつくられたのではない。成果をあげるリーダーは、自分で実行し、他人が挑戦するのを観察し、失敗を犯すことによって学ぶ」とする考え方で、個々の経営者・幹部がどのような経験をし、そこからどんな教訓・知見を獲得してきたのかを丹念に調べ上げるという方法論です。
この理論は、経験重視社会である日本の企業経営と親和性が高いようで、神戸大学の金井壽宏先生の「ひと皮むけた経験」や小樽商科大学の松尾睦先生の「プロフェッショナルによる経験からの学習」といった日本独自の研究を生みだしています。

御厨先生が専門とするオーラルヒストリーによる政治家研究は、「Lessons of Experience」のアプローチとよく似ているという印象を持ちました。
オーラルヒストリーとは、対象者自身に対する「聞き書き」によって歴史を記述研究するものです。通常の歴史研究は、文献資料をつぶさに検証することをもって科学的な手法とされてきました。しかし文書だけでは、政治過程、政策決定場面で実際に何が起き、どのような議論を交わされたのかというプロセスが記録に残りにくいという欠点があります。オーラルヒストリーは、その欠点を埋め、いわば生々しい政治の実像が見えてくるという点に特徴があるそうです。

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「考え続けることが才能である」 羽生善治さん

昼間、立ち寄った本屋で偶然に『羽生』という本を見つけました。
作家の保坂和志氏が、1997年に書いた同名の本が昨年になって文庫化されたようです。
この本の「文庫版のためのまえがき」に、出版にあたって羽生さんから寄せられた手紙文が載っています。
その内容が、きょうの羽生さんの講演を理解するうえでも参考になると思いますので、ご紹介をしておきます。

「私が将棋の事について考えていた事、思った事を話した後に言葉で帰ってくるのはとても少ないので新鮮な驚きがありました。 読み・棋風・最善手等に対する考え方は少しずつ変化していくものなので、そういうプロセスが何らかの形で残っていれば良いなあと思っていたので、今回の出版は嬉しく、感謝をしています」

この本が書かれた1997年、羽生さんは27歳。史上初の七冠達成を成し遂げた翌年にあたります。羽生さんの将棋がある面において頂点に達していた頃でしょう。
この本を読むと、すでに10年以上も前から、羽生さんが自分の棋風について、驚くほど深く、しかも客観的に分析していたことに驚きます。
そしてもうひとつ、ご自身も予感していたように、この本で語る将棋の考え方・棋風と今日の羽生さんのそれとが、確かな変化を遂げていることを認識することが出来ます。

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「強みを磨き、弱みを改革」 坂根正弘さん

トヨタ、キャノンと並び、日本を代表する「勝ち組製造業」に数え上げられるコマツ。
2001年に社長に就任してから7年、売上高を約二倍、130億円の営業赤字を3300億円強の営業黒字へと転換させ、V字回復の原動力になったのが坂根正弘会長でした。

「こういう社長の下で働いてみたい...」
坂根さんのお話を聞いて、そんな印象をもたれた方も多いのではないでしょうか。

シンプルで分かり易く、本質を突いたメッセージを力強く伝えてくれる。
陰でコソコソ動いたり、誤魔化そうとしても、たちどころに見抜かれそうな「健全な恐ろしさ」を感じさせる。
反対意見であって、下の者の声に真摯に耳を傾ける度量の大きさがある。

坂根さんには、そんなイメージがあります。大企業のトップとして数万人に社員を率いるリーダーには必須の要素と言えます。
世界中から講演のお声が掛かるのも当然なのかもしれません。

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「夢があれば道理は引っ込む」 三浦雄一郎さん

「ゴツ、ゴツ」と登山靴の音を廊下に響かせながら、会場に現れた三浦雄一郎さん。
日焼け跡が残る精悍な顔に白い眉が印象的です。広い肩幅、分厚い胸板、太い首周り、いかにも頑健そうな身体は、75歳の今もなお現役冒険スキーヤーであることを納得させるに十分なオーラに包まれていました。

三浦雄一郎さんは、今年の5月に、自身二度目のエベレスト登頂に成功しました。
北京オリンピックとチベット暴動の影響もあり、当初のチベットルートを急遽変更し、ネパールルートを取ることを余儀なくされました。
インド大陸がユーラシア大陸にぶつかることで誕生したヒマラヤ山脈は、南のネパール側の方が隆起が激しく、断崖やクレバス越えなどに時間の掛かる難ルートとされているそうです。
「結果的には、これが効を奏したかもしれない」
三浦さんはそう言います。アタックまでに時間を掛かったことが身体の高度順応にはプラスの影響を与えることになりました。
エベレスト登山は、一直線に頂上を目指すのではなく、登ったり降ったりを交互に繰り返しながら、少しずつ高度を上げていくものだそうです。

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「古典の楽しみ方」 加賀美幸子さん

今年は、「源氏物語千年紀」。京都をはじめとして、各地で「源氏物語」にちなんだイベント・催事が開催されています。
「源氏物語」は三部五十四帖に及ぶ大作で、登場人部は500人、主要人物だけでも50人に及ぶという大長編です。
物語の嚆矢とも言われるシェイクスピアよりも600年以上も前に、恋愛・出世・愛惜といった人間臭いテーマを扱いつつ、これほど豊潤で奥深い文学作品が存在したことは、世界に誇るべき日本文化のひとつといって過言はないと思います。

「古典を愛したアナウンサー」を自称する加賀美幸子さんにとって「源氏物語」の魅力は、
やさしく読んでも楽しい、深く読み込めば味わい深い、その奥深さにあるそうです。
「好きで、好きで仕方ない」
加賀美さんのお話を伺うと、「源氏物語」に対するそんな思いが伝わってきます。

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「結論から」「全体から」「単純に」 細谷功さん

昨年秋に出版されて以来、18万部を売ったという『地頭力を鍛える』。
そのインパクトがいかほどのものなのか、細谷さんはコンサルタントらしく、データで示してくれました。
Google検索で「地頭力」「フェルミ推定」という言葉をたたいてみると、本が出版される前の結果は、「地頭力」が25件、「フェルミ推定」は1180件のヒット数だったとのこと。
それが1年後には、それぞれ30万件、11万件に増大したそうです。
「地頭力」は12000倍、フェルミ推定は100倍という驚異的な増え方です。ベストセラーの影響力を改めて認識させられます。

さて、細谷さんは「地頭力」を、考える力・思考する力と定義していますが、その前に付く、修飾語が重要です。
つまり、「結論から」「全体から」「単純に」考える力・思考する力をもって、「地頭力」と呼んでいます。

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「オバマ氏は100日間が勝負!」  藤原帰一さん

「なぜ、アメリカ人は“Change”という言葉にあそこまで盛り上がるのか?」

多くの日本人が、米大統領選挙の報道を見る度に、そう感じていたのではないでしょうか。
藤原先生は、そんな疑問を見透かしたように、オバマへの熱狂=変革待望論の背景にある米国民の鬱屈を解説することから講演をはじめました。

「狂王ブッシュによる暗黒の八年を終えて、ようやく米国が変わる」

オバマに熱狂する人々が抱く思いを、藤原先生はそう表現しました。
政治家も軍幹部も、誰もやりたくはなかったイラク戦争への突入と泥沼化。日本以外とは壊滅に近いほど荒れてしまった国際関係。

「こんな米国は恥ずかしい。もう嫌だ」

ブッシュ政権末期の米国には、そんな鬱屈した感情のマグマが充満していたそうです。
そこに現れた多様性の象徴のような存在であるバラク・オバマ氏。
彼が訴える「ひとつのアメリカ」への希求は、アメリカ人の心の空白をしっかりと捉まえた。
オバマへの熱狂は、そのように解釈できるといいます。

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「土俵を守るために学ぶ」 内館牧子さん

今だから言えることですが、内館さんにお会いするまでは、少しばかり緊張をしておりました。
横綱審議委員として、朝青龍を舌鋒鋭く批判するお姿をマスコミを通じて見ておりましたので、勝手にイメージを作ってしまい、粗相でもあったらどうしようかと気を揉んでいた次第です。
実際にお会いした内館さんは、実に明るく、ざっくばらんな方です。
「ちょい悪オヤジ」達と飲み屋で毒舌を交わしながら楽しく過ごしている姿が似合いそうな魅力的な女性でした。

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「攻めと守りで脳を鍛える」 築山節さん

築山節先生の「脳の働き」の話を聞きながら、3年前の夕学に来ていただいた千住博さん(日本画家)の「スランプ脱出法」を思い出しました。

「私は、芸大に9年間在籍し、自分の身についた朝早くから夜遅くまでアトリエにいるという癖が、今となっては幸いしているような気がします。とにかく何だかわからなくてもアトリエにいようということがやはり大事だからです。今も毎朝7時にはどんなことがあってもアトリエに入っています。これが25年間続いています。
描けても描けなくてもとにかくアトリエに入って、ニカワを溶き、筆を握って絵に向かってみる。描けないときは、外で何か他のことをやっていようとすると、描けない状態から脱することは難しいと思います。」
(千住博『絵を描く悦び』光文社新書より)

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「グローバル化の本質」 黒川清さん

先週はソウルとシンガポール、今週は北京。文字通り世界を飛び回る日々を送る黒川先生。科学者同士の国際連携を推進する連合組織体の役員や委員を兼任され、“世界の知”と交流する立場にあります。
きょうの夕学では、そんな黒川先生が、強い危機感を持っている「世界における日本」のあり方について、熱く語っていただきました。

現代をひと言で言い表すとすれば「世界がフラット化した」ということである。
黒川先生は、ベストセラーになったフリードマンの著作『フラット化する世界』になぞらえて表現します。『フラット化する世界』には、その象徴として、米国の会計士に発注した書類がインドのバンガロールに住む税理士の手で作成されているという事例をもって、グローバル化の進展が紹介されています。
黒川先生は意外なことに、フラット化の本質を、グーテンベルク聖書がもたらした革命を題材に説明されました。
グーテンベルク聖書とは、15世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクが世界で初めて活版印刷技術を用いて印刷した180部の聖書を指します。ちなみに、世界に48部しか現存していないと言われるグーテンベルク聖書のひとつは、慶應義塾に所蔵され、全ページをデジタル化しアーカイブとして保存する「HUMIプロジェクト」が終了したばかりです。
さて、グーテンベルク聖書がもたらした社会的インパクトは、当時教会に独占されていた「キリストの言葉」の翻訳機能を、社会と市民に開放することにありました。いわば知の開放でありました。
このインパクトは、たんなる聖書の啓蒙を超越し、欧州社会に新たな宗教観を醸成することに繋がりました。その奔流は、100年後に、カルビンやルターによる「宗教改革」として結実することになります。

フラット化されるということは、さまざまな制約を越えて、あらゆる知が世界に開放されることを意味している。それは時に、既存秩序の転覆さえも引き起こす大きな変革をもたらす。

黒川先生の主張はそういうことでしょう。

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「中国はひとつではない」 国分良成さん

メタミドホスではじまり、メラミンで暮れようとする今年の日中関係。
両国関係を象徴するニュースは、餃子・インゲンに代表される食品汚染問題になることは間違いありません。消費者もスーパーも、「いったい次は何か」と戦々恐々の状態です。
国分先生は、この報道を冷静に観察しています。
曰く「日中関係はようやく“本来の関係”になった」とのこと。

「近くて遠い国」の代表であった中国は、いまや文字通り「近くて近い国」になりました。皮肉なことに、30年前、日中間の交流がほとんどなかった頃は、日本の対中イメージが良かったそうです。それに対して、この数年の対中国の印象は芳しくありません。
かつての好印象は、パンダとNHKのシルクロード特集が作り出した虚構のイメージ、それに対して、現在の悪印象は、日常的関係に根ざした実像です。
接触が増えれば摩擦も増えるのが国際政治の常識。その意味で “本来の関係”になったということでしょうか。

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「IT革命は道半ば」 夏野剛さん

5万年前、アフリカから世界へと旅に出た人類は、その旅程で「ことば」を生みだしました。
「ことば」は、表情や身振りに頼っていた人間の「コミュニケーション」を大きく変え、やがて農耕社会を作り出すきっかけになりました。

18世紀後半、ジェームス・ワットが改良した新方式の蒸気機関は、それまで人や牛馬に頼っていた「動力」の概念を大きく変えました。
「動力」の飛躍的進化は、興隆しつつあった帝国主義と結びつき、やがて「産業革命」へと結実してきました。

20世紀の終わりに登場したインターネットは、「情報」の概念を大きくかえつつあります。
その変化は「IT革命」と呼ばれ、農耕や工業化の開始と同様に、人と社会の有り様を変える大きなインパクトになると言われています。
上記の流れに位置づけてみると、「ケータイ」は、日本における「IT革命」の先駆として、一般コンシューマーを革命の担い手に登場させたところに、その時代的な意味があります。
「革命は大衆によって成される」ということは歴史が教えてくれる真実です。

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「自分が生きる意味は自分の力で創り出す」 姜尚中さん

「一匹の妖怪が世界を徘徊している。金融破綻という妖怪が...」

あまりに有名なマルクスの言葉をもじりながら、姜先生は、2008年秋の状況を語りました。
自分が体験するとは夢にも思っていなかった大恐慌の到来さえ現実のものになってきた。そんな恐ろしいことさえ口にされます。
こんな混迷時代を半年前に予感していたのか、この春に姜先生がだした『悩む力』は50万部を超えるベストセラーになっているといいます。
この本のおもしろさは、夏目漱石とマックス・ウェーバーという「組み合わせの妙」にあったようだと姜先生は言います。
なぜならば、漱石とウェーバーに共通するのは、「資本主義とは何か」を冷徹に見つめる洞察力にあったとのこと。

100年前、帝国主義の膨張が破裂寸前の危うさを見せていた世紀末、経済的には資本主義が世界に広がり、合わせ鏡のように社会主義が勃興を始めていました。
そんな混迷の時代にあって、漱石もウェーバーも、資本主義の行く末に何が起きるのかを見抜いていたと姜先生は言います。

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「官僚の思考特性」 高橋洋一さん

「起きて困ることは起きないことにする」
「あって困ることはないことにする」

歴史作家の半藤一利さんは、この思考特性こそが「近代以降の歴史から垣間見える日本の支配者層の通癖である」と言います。
西洋列強が力づくで開国を迫ってくることを予期しながら、何の対策もとっていなかった幕末の幕府官僚。
米英と戦えば間違いなく負けると分かっていながら、戦争への道を突き進んだ昭和の陸軍官僚。
年金問題や汚染米問題での隠蔽体質に象徴される中央省庁のキャリア官僚。
自分達のやり方、決めた方針に固執し、都合の悪いこと、起きて困ることには目をそらして、いたずらに時間を消費し、誰もが気づいた時には手遅れになってしまう。
わが国の支配者層に染み付いた、そんな思考特性を改めて認識させてくれた高橋先生の講演でした。

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音楽のようにドストエフスキーを体験する 亀山郁夫さん

一昨日、旧ソ連の反体制作家であったソルジェニーツィン氏が亡くなりました。
亀山先生には、昨夜から今朝にかけて、全ての大手新聞社からコメントを求める取材依頼があったそうです。「ロシア文学といえば亀山郁夫先生」、誰もがそんな連想を働かせているということなのでしょうか。
『カラマーゾフの兄弟』は100万部近い販売を記録する勢いだそうです。活字離れが喧伝される今日、ロシア古典文学の翻訳本としては驚異的な数字です。
以外なことに、きょうの講演によれば、亀山先生は、中学生の時に『罪と罰』を読んで以来、読者としてドストエフスキーに耽溺してきた事実はあったものの、研究者としては、長らくロシア前衛文学研究に勤しんでおり、どちらかと言えばニッチな世界の研究者で、トルストイ、ドストエフスキーといったロシア文学の王道に取り組み始めたのは、50代を過ぎてからだったそうです。

『カラマーゾフの兄弟』翻訳にあたって心がけたのは、「映画をみるように、音楽を聴くように『カラマーゾフの兄弟』を体験してもらうこと」だったそうです。
亀山先生によれば、翻訳者には二通りのタイプがあるとのこと。
ひとつは科学的、分析的に訳をすすめる方法で、「耳の良さ」=言葉の意味の差違に対する鋭い感性を必要とするそうです。こちらが常識的な翻訳アプローチになります。
亀山先生がとったのは、芸術的な感性を重視して訳に取り組むやり方で、ディテールにこだわるよりは、感覚として作品を理解することを重視します。
亀山先生曰く「私は耳がよくないので...」ということでしたが、かつて自分が味わった感動を現代の若者と共有する意味でも、現代語訳をしたかったという思いにかられてのことだそうです。
『カラマーゾフの兄弟』の原文は、破壊的な文体で書かれており、逐語訳では現代人には難解で読むことができないそうです。
それに対して亀山先生は「アルマーニを羽織ったドストエフスキー」に生まれ変わらせようと思ったとのこと。
音楽のように翻訳をするというリズム重視の訳は、誤訳を生む可能性を内包します。
亀山先生は、訳にあたって第5稿まで目を通したそうですが、5稿では原文を一切見なかったそうです。その結果、誤訳問題が週刊誌上を賑わす事態を招いたと反省をされていました。(現在は、全ての訳を再チェックし、当初の翻訳思想を活かしつつ、あきらかな誤訳部分は修正したとのこと)

講演の後半は、ドストエフスキー論に入っていきました。不勉強にも私はドストエフスキーの著作をほとんど読んでいない(憶えていない)ので、先生が言及された「親殺し」というテーマに関わる深い世界は十分に理解できませんでした。
ただ、ドストエフスキーが『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』を書いた19世紀後半が、帝政ロシアの終末期であり、抑圧されてきたエネルギーの充満と自由への希求に満ち、その裏返しとしての金銭への執着と人間性の喪失が同時に起きていた混乱の時代であったということはわかります。社会秩序の崩壊が人間の内面世界の崩壊にも繋がりかねない「弱さ」を、私たち人間は常に内包しているのかもしれません。

100万部近いベストセラーになった『カラマーゾフの兄弟』
亀山先生によれば、ここまで売れた要因のひとつに、地方の本屋さんの後押しがあるのだそうです。この本を単なるブームに終わらせず、古典文学コーナの常設につなげたい。という熱い要望があるとのこと。
活字離れが進むのと反比例するように本の出版数は増加し、書店の品揃えがコンビニの商品棚のように激しく入れ替わるようになって久しいと思います。最近では岩波文庫を置いていない本屋さんも増えました。
本屋の方も、そういう本の売り方をこころよしと思っていたわけではないのでしょう。時代を越えて読み継がれてきた古典を大切に売っていきたい。そんな心ある本屋さんの思いを可能にしてくれた意味でも、『カラマーゾフの兄弟』新訳は価値があったと言えるのではないでしょうか。

型の文化としての和歌  冷泉貴実子さん

京都御所は、京都のほぼ中央に位置し、今出川通りを挟んで同志社大学キャンパスと隣接しています。私は学生時代を京都で過ごしたので、かつて、よくこの道を通りました。今出川烏丸の交差点から少し東に進むと、古い土塀に囲まれた風情たっぷりのお屋敷があったことを記憶しております。当時は知りませんでしたが、これが1790年に建てられた冷泉家のお屋敷でありました。
冷泉家は、俊成・定家親子を祖に持つ「お公家さん」の家柄です。藤原定家の名は「新古今和歌集」「百人一首」の選者として、誰もが知る歌人ですね。
冷泉家は、代々「歌のいえ」として、800年以上も続くお家柄です。
明治以降、多くの公家が東京に移り住んだにもかかわらず、冷泉家は京都に留まりました。
時を経て、多くの公家屋敷が取り壊され、京都御苑として整備されていった中にあって、今出川通を隔てていたという幸運もあって、由緒あるお屋敷と数多くの典籍を守り続けてきました。
冷泉貴実子さんも、その伝統を受け継ぎ、俊成・定家の流れをくむ冷泉家の文化継承に力を注いでいます。

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「苗代」という方法 松岡正剛さん

「かつて、一日は夕暮れから始まったのはご存じですか?」
松岡正剛さんは、「夕学」というネーミングに触れていただいたうえで、ある古の風習を教えてくださいました。
古代には、「夕占(ゆうけ)」という習慣があったとのこと。改めて広辞苑で調べてみると「夕方、辻に立ち、往来の人の話し声を聞き、それによって吉凶・禍福をうらなうこと」とあります。
古代、闇夜の辻は、妖怪・物の怪が徘徊跋扈する異界と恐れられていました。異界の闇が、大きく口を開けようする宵闇の辻で、何かに託されたメッセージに耳を澄まそうとする神秘的な行いが「夕占」だったようです。
私が私淑する神戸大の金井壽宏先生は、松岡さんを評して「頭の中に巨大な図書館が入っているような人だ」とおっしゃいます。もちろん、あらゆるジャンルに精通した、その驚異的な知識は「生きる図書館」に他なりませんが、松岡さんの凄さは、膨大な知を独自に編集し、全く異なる他の世界に適用するところにあるのではないでしょうか。
松岡さん流に言えば「なぞらえ」かもしれません。
松岡さんが、「夕占(ゆうけ)」の風習を説明することでなぞらえようとしたことは何か。そんなことを考えているうちに、松岡さんの講義は本題に入っていきました。

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iPS細胞が拓く医学 山中伸弥さん

山中先生が到着される前の控室に、筑波大名誉教授の村上和雄先生がいらっしゃいました。
遺伝子研究の権威で、1月30日の夕学で、「笑いと遺伝子」をテーマに興味深いお話をしていただいた先生です。
村上先生は開口一番おっしゃいました。

「慶應MCCさんも思い切ったことをしますね。いま、この時期に山中先生を講演に呼ぶなんて...」
世界中の大学や企業の研究者と一刻を争う研究競争の最前線にいる山中先生を、講演に呼ぶという、ある意味の"暴挙"を評された言葉でした。

主催者としては、ひょっとしたら、歴史的資産になるかもしれない貴重な講演が実現できた奇跡を、多くの会場の皆さんと共有できたことは何よりも喜ばしいことでした。

さて、本題の山中先生の講演についてです。
本当に優秀な人は、難しいことを分かり易く説明できる人だと言われますが、山中先生は、まさにそういう人でした。
再生医学の意義、ES細胞研究の進展と課題、iPS細胞研究への期待と課題etc、どれも明快に解説していただいたと思います。

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「緑の東京へ一丸で」 猪瀬直樹さん

18:30東京着の新幹線を降り、駆けつけるように会場入りした猪瀬さん。
額には大粒の汗、夏カゼで鼻もぐずつかせながら、「何から話しましょうか」とつぶやいて、早速マイクに向かいました。
講演は、都庁で開催中の夕張観光物産展の話題から始まりました。市価の約半額というお買得感もあって、夕張メロンが1日に400個売れるほどの盛況イベントだそうです。切り盛りしているのは、都庁から夕張市の応援派遣されている二人の職員です。
財政破綻した夕張市の苦境は深刻だそうです。人口はピークの十分の一の12,000人、借金総額350億円、市役所職員も次々と辞め、行政も滞りがち、東京、北海道はじめ全国から10名近い応援職員を受け入れ、なんとか苦難を乗り越えようとしているとか。

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意思決定の実際と対策  長瀬勝彦先生

随分と前のことですが、とある組織で人事部に配属され、新卒採用の仕事に携わった時期があります。その時に、人事部長から、面接用の評価シートの修正を命じられました。
我が社の求める人材像をもとに、一般教養・知識、表現力、論理力、対話力等々いくつかの能力項目を設定して、それに見合う具体的な行動評価項目を洗い出しました(例えば、挨拶ができたか、笑顔の印象はどうか、時事問題に答えられたか、簡潔な自己紹介ができたか、志望理由に説得力を感じたか、厳しい質問にどう対応したかetc)
評価シートは、それらを10項目程度のチェックリストに仕立てて、5点法で点数化しました。もちろん重要な項目には加重をかけて総合点がでるようにしてあります。
ところが、人事部長は、実際の面接の際には、項目は一切チェックせずに、ただ総合点だけを付けて、横になにやら走り書きのメモを書き入れていました。
「使わないのなら作らせるなよ!」と腹を立てて、先輩に訴えたところ、「君の勉強のために作らせたのだよ」「でも、よく出来ているから僕は使うからさ」と慰めてくれたものです。
にもかかわらず、その先輩も実際は、まず総合点を書き入れて、あとで要素毎の点数を逆計算しながら記入していました....

間違いのない判断を下すために用意された、さまざまな分析ツールが、実際に意思決定をする際には使われない。 この種の経験は多くのビジネスパースンが持っているものではないでしょうか。
頭で考えた理屈と実態の意思決定の乖離現象。それこそが、長瀬先生が専門とする行動意志決定論の研究領域です。

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バイオサイエンスの最前線 冨田勝さん

冨田先生が所長を務める、慶應の先端生命科学研究所は、IT主導のバイオサイエンスという新しい研究アプローチを取るユニークな研究所です。
WEBサイトの紹介文をみると次のように書いてあります。

当研究所では、最先端のバイオテクノロジーを用いて生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析し、コンピュータで解析・シミュレーションして医療や食品発酵などの分野に応用しています。本研究所はこのようにITを駆使した「統合システムバイオロジー」という新しい生命科学のパイオニアとして、世界中から注目されています。

山形県鶴岡市という自然環境に恵まれた土地で、世界と戦う先端生命科学研究所のコアコンピタンスは二つある、と冨田先生は言います。

ひとつは、「メタボローム解析技術」と呼ばれる分析技術です。
メタボローム解析は、“究極の成分分析技術”とのことで、対象となる物質の細胞がどのような成分で成り立っているのかを一度に分析してしまう「スグレモノ」だそうです。
先端生命研は、独自開発したCE-MS法というメタボローム測定のノウハウを有し、これによって得られたメタボロームデータの解析ソフトウェアおよび代謝物質データベースを武器に、さまざまな領域で応用研究に着手しているそうです。

もうひとつは、「E-Cell(電子化細胞)」に代表される卓越した情報技術です。
コンピューターシミュレーションによる細胞メカニズムの再現技術など、ITを駆使して生命活動のモデルを構築・解析する技術を10年以上も蓄積しており、これらによって得られた膨大なデータを用いて、生命現象の包括的な理解が可能になっているそうです。

この二つの武器を使って、どのような研究に取り組んでいるのか、そのいくつかを冨田先生は紹介してくれました。

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ロボットを通して人間を考える 瀬名秀明さん

東北大の大学院でミトコドリアの研究に勤しんでいた瀬名秀明先生が、バイオホラーの傑作と言われる『パラサイト・イヴ』でデビューしたのは、博士課程在籍中の13年前のことでした。
太古の昔に存在していた利己的遺伝子「イヴ」が、何億年に及ぶ生物寄生の眠りから覚め、ヒトに対して反乱を企てるというものです。
ミトコンドリアDNAの解明にから導かれた、人類最古の人類が、数万年前に北アフリカに生まれた女性であったという最新知見をベースにしたホラー小説でした。

この作品を期にSF作家としての活動もはじめた瀬名先生が、ロボットの世界に関心を持ったのは、文芸春愁から依頼されたサイエンスルポがきっかけだったそうです。
「ロボットは人間を越えられるか」をテーマに掲げ、ロボット研究の最前線を追った長期取材でした。

その取材をきっかけに、ロボット研究への理解を深めた瀬名先生が気づいたのは、ロボット研究が、SFやアニメ等の空想世界におけるロボット文化と相似形をなしながら進化してきたという事実だそうです。

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何が若者を苦しめるのか 本田由紀さん

「若者と仕事」に関わる問題に対する識者の見解は、大きく3つに分かれます。

ひとつは、「自己責任」を強調する論。
厳しい時代だからこそ、本人(若者)が強い意思と明確な目標をもって努力しなければいけないという論調です。ご本人がたいへんな苦労をして成功を掴んだ方に多い意見です。
いまひとつは、若者に寄り添いながら、彼らが意欲と希望をなくさないように温かいメッセージを送ろうというもの。
以前、夕学にも登壇いただいた玄田有史先生は、こちらに近いスタンスではないでしょうか。
三つめは、若者に寄り添うスタンスは同じながらも、彼らを産み出した社会そのものを厳しく糾弾する論
本田先生は、この立場ではないかと思います。実証的なデータに基づきながら、若者を疲弊させ、絶望させる何ものかを明確にしようという姿勢です。

本田先生が、各種データもとに「若者の働き方の変化」を分析した結果によれば、「全ての若者は苦境にある」そうです。
正社員は「過剰な労働」に、非正社員は「過少な賃金・安定」に、それぞれ押しつぶされていると言います。

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部分という名の幻想 福岡伸一さん

三島由紀夫はかつて、柳田国男の『遠野物語』をして「これこそが小説である」であると激賞しました。
民俗学者であった柳田が、遠野出身の青年 佐々木喜善が語った山深い故郷の昔話を、聞き書きしてまとめたというこの本に、人を慄然とさせる文学の本質を、三島は見いだしたと言います。
柳田が『遠野物語』に込めたのは、「これを語りて平地人を戦慄せしめよ...」という前文の一節に代表されるように、忘れ去られた縄文精神の代弁者としての力強い宣言でした。

科学啓蒙書としてはもちろん、文学としても高い評価を得た『生物と無生物のあいだ』という本に、福岡先生が込めたのは、生命機械観の呪縛にとらわれ、途方もない過ちを犯しているかもしれない現代科学の世界に対する、強い危機感だったようです。

福岡先生によれば、「生命とは何か」という深遠な問い掛けに、ひとつの答ええを提示したのは、デカルトの「機械的生命観」だったそうです。生命とはミクロの部品から構成されるプラモデルのようなものだという認識です。
この思想は生命科学の基底に生き続け、20世紀の中頃には、「生命とは自己複製するシステム」であるという生命観に結実しました。
ワトソン・クリックが発見したDNAの二重らせん構造は、生命が自らの中に、自己を複製する機能をもった、25,000種の遺伝子からなる高性能コピーマシンであることを証明したと言われます。

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社会のための富の創出を  スコット・キャロンさん

1960年代、IBM社員のお父上に伴って来日し、幼児期を日本で過ごしたというスコット・キャロンさん。本格的に日本語を学んだのは20年近く前、慶應大学の国際センターが主催する一年間の日本語集中コースだったそうです。
「その時の恩師が来ていたら困ります」とおっしゃっていましたが、なかなかどうして、微妙な言い回しや「どう言えばいいでしょうかね」と言い淀む感じまで、日本人そのもので、まったくストレスなく講演を聴くことが出来ました。

キャロンさんが、「なぜ、日本株に投資をするのか」という理由は、きわめて明解です。
ただひとつ「日本を愛しているから」
在日通算19年、子供4人を日本で育て、永住権も獲得して、日本に骨を埋めようと思っている。一人の人間として日本のために働きたい。その思いからだそうです。

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やみくもに守らない、やみくもに取り入れない 西尾久美子さん

「祇園祭のお稚児さんが決まった」というニュースが先日ありました。
京都の街、特に八坂神社から鴨川をはさんだ河原町通りまでの一帯は、7月17日の山鉾巡行に向けて、まつり準備が日々整えられていきます。一年のうちで、もっとも京都らしい季節の訪れかもしれません。
そんな京都の雰囲気を夕学の会場に持ち込んでいただいたように、西尾先生は、あでやかな着物姿で登場されました。
聞けば、学会を含めて重要な場での発表は、いつも着物と決めているとか。

柔らかな京ことばにのせて、京都花街の基礎知識をご紹介いただく姿は、西尾先生自身がお茶屋のおかみさんではないかと錯覚してしまうほど決まっています。
おそらくは意図的に披露されていると思われる、時折かいま見せる「いけず」な物言いも含めて、完璧な演出には恐れ入りました。京都を堪能した2時間でした。

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戦いを終えて見える風景 出井伸之さん

「イチローや松井に、今からゴルフに転向しろと言っても、まず変わらないでしょう」
「企業も同じです。一流になればなるほど変わりにくくなるものです」

出井さんは、『迷いと決断』という、ご自身の著書を示しながら、ソニーと格闘した10年の日々を総括することからはじめました。
たとえCOEと言えども、自分で動かせることが如何に少ないかを痛感した10年だったそうです。
そこには、どうすれば良いかは見えていても、その道に組織を引導していくことができなかった忸怩たる思いを、静かに振り返る達観した心境が見てとれたような気がします。

1995年に出井さんがソニーの社長に就任した際に、社員と危機感を共有化する目的で示した有名な図があります。
人々が天真爛漫に泳ぎ回る“自由闊達、愉快なる理想工場”という池からは、ネガティブキャッシューフローという川が流れ出ていて、その川はやがて“倒産という滝”に注いでいるというものです。
ソニーの経営陣にあっては珍しいタイプの分析的な戦略家であった出井さんには、社長就任時のソニーは、いつまでも夢だけを追い求めてはいられない危機的な状況に映ったようです。

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人の数だけ「ひとり」がある 山折哲雄さん

意外なことに、山折先生の講演はオリンピックの話題から始まりました。

「オリンピックというのは、スポーツの祭典であると同時に、世界中の人々の精神世界がぶつかり合う場でもある。そこでは、必然として「日本人とは何か」という想念が浮かび上がってくる」

山折哲雄さんは、いかにも宗教家らしく、オリンピックをエンタテイメントとして楽しむだけでなく、日本人のこころが凝縮して表出される「日本人精神発露の場」としてご覧になっているようです。

トリノ冬期五輪の期間中、過去の日本選手の活躍の軌跡を振り返る映像が放映されたことがあったそうです。そこで流れた前畑秀子さん(ロサンゼルス五輪銀メダル、ベルリン五輪金メダルの水泳選手)のインタビューに、山折先生は注目しました。
出発にあたって送り出してくれた「母の言葉」を胸に刻み、「死ぬ覚悟」を秘めてスタート台に立ち、スタートの号砲に「神様」と叫んでプールに飛び込んだと前畑さんは振り返ったそうです。
山折先生は、このインタビューで語られた「母の言葉、死、神様」の三つのキーワードに着目し、恐らくは、当時の全ての日本人の精神構造の中に共有化された意識と価値観を見いだします。だからこそ、アナウンサーの「前畑ガンバレ!」の絶叫が、いまだに心に響くのだと。

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クリエイティブマネジメントの本質 佐藤悦子さん

「なんでもデザインで解決できるはずだ!」

5年程前に、佐藤可士和さんが、とあるトークショーで熱く語っていた言葉です。

「身の回りの何気ない小さなもの全てをデザインし、それが結果として、全体を変えることができる」

ひところ流行った複雑系で言うところの「フラクタル理論」を彷彿させる言葉ですが、佐藤可士和さんは、当時から(もっと前から)、ことある毎に同様の主旨の強い意思を表明していたそうです。
「デザインで世界を変える」「デザインで新しい価値を提供する」「時代のアイコンになりたい」etc。
デザインの力を信じ切る自信に満ちたこれらの宣言は、佐藤可士和さんが、「普通の人ではない」ことを物語る逸話です。

彼のそんなビジョンを、「アートディレクター」という新しい役割を社会に認知させる活動を通して、形にしていくお手伝いをしているのが、奥様であり、マネジャーである佐藤悦子さんです。

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感情ルネサンスへの挑戦〜豊かな組織感情を求めて〜 野田 稔さん

「その時、どんなお気持ちでしたか?」

NHK 『プロジェクトX』の司会者、国井雅比古アナウンサーは、番組の主役にあたるプロジェクト当事者が登場すると、必ずこう問いかけるそうです。
野田先生は、この問い掛けに、きょうのテーマ「感情のマネジメント」における最大のキーワード“配慮”のエッセンスが込められていると言います。

この世の全ての営みが、生身の人間が行う社会的活動である以上、およそ全ての思考と行動の裏側には、感情の問題が蠢いているはずです。
プロジェクトXのような大きな成果ではないにしても、人間誰しも、一生のうちに一度や二度は、「俺はこれやった!」と自負できるような達成感を味わえる体験を積んでいるかと思います。
それは、部活動かもしれないし、文化祭発表の準備かもしれない、彼女を口説き落としたことかもしれません。
いずれにしろ、大きな何かを成し遂げるにあたっては、内側から沸き起こる感情発露のエネルギーを感じたに違いありません。
国井アナの問い掛けは、そのエネルギーこそが、大きな成果の原動力であり、また逆から言えば、成果達成を妨げる障壁にもなりうるという「感情問題」の本質に迫っているものかもしれません。

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つつしみのこころ 小笠原敬承斎さん

小笠原礼法宗家のホームページによれば、小笠原氏は、清和源氏の流れをくみ、武家が勃興した平安時代後半から、東国で源氏の有力一門をなしてきた名家のようです。
小笠原氏が築城し、一貫して居城としてきた信州松本城は、信州出身の私にとっては、最も身近な史跡でした。また先代宗家の小笠原忠統氏が館長を務めていたという松本市立図書館は、受験勉強に通った場所でもありました。
更にいえば、福沢諭吉の自伝(福翁自伝)によれば、福沢家は、もともと小笠原氏に仕えていた下級武士で、江戸の初期に小笠原氏が九州中津に移封された際に、一緒に付いてきて、そのまま中津に根を張ったとのことです。
そんな不思議な縁も感じながらお聴きしたきょうの夕学でした。

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自分たちが楽しいと思えるものを 星野佳路さん

創業から100年以上の歴史を持つ星野温泉。その発展・興隆・苦難の軌跡は、一温泉旅館の歴史ではなく、軽井沢の歴史であり、日本の観光産業の歴史でもあります。
星野温泉、軽井沢で起きたことは、日本中の老舗温泉旅館、観光地で起きた変化の縮図に他なりません。
3年ぶり、2度目の夕学登壇となる、今回の講演は、星野さんが、リゾート文化100年の歴史を踏まえながら、日本の観光産業のネクストステージを切り拓こうとする意気込みと戦略を感じさせてくれるものでした。

星野さんによれば、日本から海外に出かける観光客の伸長は著しいものの、海外から日本を訪れる観光客の人数はほとんど横ばいが続いているそうです。
フランスでは、人口6000万人余でありながら、海外観光客は7600万人を超え、都会から田舎まで万遍なく人訪ねてくれるとか。観光産業は立派な基幹産業と言えるそうです。
観光大国化となるための三条件は、1)国の知名度、2)交通アクセス、3)安全、があげられるそうですが、その全ての条件を完璧に満たしながらも、低位に甘んじている。それが日本の観光産業だそうです。

その原因はなにか。
星野さんは、「資金調達」と「生産性」の二つの問題を指摘します。

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「遊びごころ」のすすめ 天外伺朗さん

宇宙の神秘、あの世の科学、超能力etc。ちょっと怪しげ?なタイトルが付いた膨大な数の著作と“天外伺朗”といういかめしい名前。
『マネジメント革命』は読んでいましたが、直接お会いするまでは、「はたしてどんな方だろうか」と身構えておりました。
会場に現れたのは、小柄の身体を真っ白な麻のスーツで包み、キャンパス地のスニーカーを粋に合わせたナイスミドルでした。
講演の冒頭は、2年前にソニーグループを退社した際に執り行った本名:土井利忠さんの葬儀の逸話です。
本人が、死体役、喪主、僧侶の三役を兼任。「あちらの世界」と「こちらの世界」を自由に行き来しながら、楽しそうに立ち居振る舞う天外さんの姿が目に浮かぶような気がします。

お洒落ないでたちや、大爆笑のうちに行われたという葬儀で、天外さんが表現したかったのが「遊びごころ」だそうです。
「遊びごころ」こそが、天外さんの考える最大の価値であり、きょうの講演で主張された「燃える集団づくり」に必要なコアコンセプトでもありました。

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金融リテラシーのすすめ 勝間和代さん

勝間さんの講演を聴かれた方、あるいは勝間さんについてもっとお知りになりたいという方は、まずは、勝間さんが主宰するワーキングマザーのコミュニティーサイト「ムギ畑」に載せられている「ムギさんの履歴」をご覧下さい。
勝間さんの思考・行動スタイルが、どのような経緯で、どんな遍歴を経て形成されてきたのかがよくわかります。

自分の努力でカバーできる部分は、あらゆる努力と工夫を惜しまないこと。
自分と環境の不適合を嘆くことなく、自らが動くこと、働きかけることで、自分にあった環境を作ること。
全力投球でがんばったうえで、失敗と挫折から謙虚に学び、意味づけをすること。

勝間さんは、それを実践してきた人だと思います。

知的生産術、勉強法、時間管理法、生き方論etc、多くの勝間さんの著作は、勝間さんのライフキャリアそのものをアウトプットとして紡ぎだしものだと改めて思いました。

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21世紀型グローバリゼーションへの対応 野口悠紀雄さん

1990年代の日本は、バブル崩壊とその後に続いた「失われた10年or15年」の苦難に喘いだ時代でした。
同じ時期、「世界ではグローバリゼーションの大転換が起きていた」と野口先生は言います。
「形のあるモノが国境を越える」20世紀型グローバリゼーションから
「形のないモノ(情報・お金)が国境を越える」21世紀型グローバリゼーションへの

パラダイムチェンジです。
日本は負の遺産を整理し、ようやく水面下に顔を出してホッとしているけれど、世界の風景が一変していることに、いまだ気づいていないのではないか。
野口先生は、その事に強い警鐘を鳴らしています。

きょうの夕学では、野口先生はまず、日本の世界でのポジションを確認することからはじめました。
20世紀型グローバリゼーションの優等生だった日本は、90年代初頭まで、一人あたりGDPでは、OECD加盟国で第2位にありました。
それが2005年時点では、第14位と低迷し、下降のトレンドは更に続きそうな気配です。

これに対して、21世紀型グローバリゼーションの優等生、イギリスとアイルランドは、いずれも10ポイント以上順位を上げ、日本のはるか上を行きます。
イギリスの活況については、夕学では、チャールズ・レイクさんが成功モデルとして寺島実朗さんが、ああなってはならないという他山の石として取り上げられたのが印象的でしたが、野口先生のスタンスは前者です。

アイルランドは、かつては産業革命を起こせずに農業国にとどまっている欧州の貧国の代表であったものが、IT大国として、世界有数の豊かな国に数えられているとのこと。

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現場で磨いた人脈力 藤巻幸夫さん

一週間ほど前、慶應MCCでも教えていただいている法政大学大学院の高田朝子先生から、ビジネスパースンの「人脈」についての実証研究成果を聞く機会がありました。

高田先生曰く、「人脈とは“いざという時に、自分のために働いてくれる人”である」

知り合いが多いこと、顔が広いことは「人脈」でなく、自分の為にひと肌脱いでくれる人が多いことを「人脈がある」というそうです。
納得感の高い定義ですが、藤巻幸夫さんは、その最も分かりやすい成功モデルと言えると思います。

控室でお聞きしたところでは、藤巻さんの携帯電話には、常時1000人程のアドレスが登録されており、頻繁にコミュニケーションを取っているとのこと。
しかもその1000人の多くが、“いざという時に、自分のために働いてくれる人”である点が、藤巻さんの特徴です。

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顧客を有機的に育てる 井上哲浩さん

消費者意識の成熟と情報化社会の進化は、企業と消費者間の「情報の非対称性」を逓減させることになりました。
未熟な消費者を前提にした伝統的なマーケティング(例えばマス広告、企業ブランド、メーカーによる流通支配等々)が限界を迎え、新しいマーケティングのあり方が求められるようになりました。
例えばそのひとつに、ピンポイントマーケティングがあります。
分かりやすく言えば、「欲しい人に、欲しいモノを、欲しい時に提供する」ことを目指そうというものです。
Amazon.comに代表されるリコメンデーション機能やそれを支えるデータマイニングなどの技術がそれにあたります。

井上先生は、その方面の先端的な研究者でもありますが、それゆえに、ピンポイントマーケティングの問題点にも気づいたと言います。

先端的なリサーチ理論や情報技術を、「顧客を刈り取ること」だけでなく、「顧客を育てること」に使うべきではないかという発想です。
井上先生は、顧客を有機的に育てていくという意味を込めて「オーガニックコミュニケーション」と呼んでいます。

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家庭と仕事を分けるのではなく、統合する 高橋俊介さん

工業化と民主主義に象徴される近代社会は、その必然として、二つの基本概念&システムを産み出したと言われています。
「分業による効率化」「官僚型の管理システム」です
複雑な仕事を分業化し、限定された役割に集中することで、生産性は向上します。
各自の役割と権限を明確にし、分業を連結するための手続きをルール化することで、適切に制御された自由が実現します。

一方で、それ以前の前近代社会は、「家内制工業」のよる家族主義的な経営が営まれ、家庭と仕事の際はありませんでした。地縁・血縁による「相互扶助システム」が家庭と仕事の両方を支えていました。
子供を背負いながら機を織り、よその子も一緒に夕飯を食べる光景が当たり前のように広がっていました。

私は、高橋先生の提唱する「これからの働き方」とは、近代以前と以降のふたつの基本思想のどちらか一方を選択するのではなく、その両方をデュアルに持ち、必要に応じて自由に乗り換えることだと理解しています。


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