小泉 悠「ロシアの論理、ウクライナの論理」

論理の先に


小泉悠 ウクライナへの侵攻が始まって数か月後、部屋の壁に世界地図を貼った。報道される街やロシアと国境を接する国の位置がわからなかったからだ。すると国の大きさや位置が目でわかることで意味づけが感覚として響いてくるようになった。何よりもロシアは大きい。アメリカよりもはるかに大きい。国境を接している国も多い。併合や侵攻された国も多いから、周辺国の脅威は日本人には想像が及ばぬほどのものだろう。

小泉悠氏の講演はロシアの軍事力について世界第5位といっても実は大したことがないという点から始まった。経済力では韓国と同程度、相当無理をしての世界5位で極東側に配備されているのも約8万人、大半はヨーロッパ側への配備のため日本には差し迫ったものとしての脅威はなさそうだ。

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2/1(水) 藤井 丈司さん講演ご案内

本日2/1(水)の講演は音楽プロデューサー、慶應義塾大学アートセンター フェローの藤井丈司さん。ご参加・お申込みいただきました皆さま、ありがとうございました。1980年代より音楽界に身を置き、音楽を生み出し、音楽とミュージシャンたちと共にあった藤井さんならではの講義でした。

●ご案内
本講演でご紹介した楽曲は
こちら 講師プロフィールにてリスト提供しております。
本日の講義を振り返りながら、配布資料を閲覧しながら、また、見逃し配信視聴される方は講演と合わせて、ぜひ、お聴きください。

●講師著書
講演を受講されご関心をお持ちの方は著書も合わせてご参照ください。
渋谷音楽図鑑』(共著)、太田出版、2017年
YMOのONGAKU』アルテスパブリッシング、2019年


高橋 俊介「人と組織を強くする独学力」

学びとは、自ら切り拓くもの――

高橋 俊介

足らないを知る

そもそも、学ぶとは、いかなる行為なのだろうか。
「勉強」を辞書で引くと、「力の叶わぬ所、心のかなわぬ所をつとめてするぞ。勉強と云ぞ」(『詩経』の注釈書『毛詩抄』二)という記述があり、ほおと思う。重厚なフレーズに何となくわかった気にさせられるが、ほんらい学び勉強するとは、つとめて「叶わない」「足りない」ところを補う行いなのかもしれない、という予感から出発してみる。

そこで「キャリアと独学」である。21世紀の日本では、皆だいたい10~20年の義務教育や高等教育を受けて実社会に出て、その後は企業に勤めたり、起業したり、フリーランスになったり。で引退しても、あと40年くらい生きてしまったりする。

人生100年時代のマルチステージやキャリアパスの節目で、自分の資本がいちいちゼロベースに立ち戻ってしまう心もとなさ。デジタル化に伴うビジネスモデルや社会の変化についていけない焦り。マンネリ化する業務への手詰まり感。いつまでたっても達成できない働き方改革。どこをとっても「不足」感しかない。すべて個人の感想だが、経産省はじめ国を挙げてリスキリングや人的資本経営を盛り立てようとする動きもあり、ここら辺は等しく皆の共通課題と推察できる。

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川野 泰周「本当の私で生きる~コンパッションと「1/2」の実践で自己の本分に立ち返る~」

「本当の私」

川野泰周 「ありのままで」「自分らしさを大切に」「あなた自身を表現する」といわれるけれど実際の生活では「ありのまま」でいられない。その最たるものが就職活動や交渉の場で「決められた時間内で効果的に相手の求める姿を具現化して見せる」場になっている。『プロフェッショナルを演じる仕事術』なんていう本もありますね。(別にこの本をけなしている訳ではない。)

就職活動で疲れ果てたある者はうんざりした表情で「自分を消費してるって感じ」と呟き、またある者は実力があるのに自信喪失のため混乱して泣いたりする。会って数分しか経っていない面接官から一方的に「評価」され「選別」されることに疲れ、回数を重ねて「労働力として商品化された自分」が市場に消費されているように感じてしまうのだろう。

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上野 千鶴子「アンチ・アンチエイジングの思想」

上野千鶴子 ©後藤さくら 今日の講師は東京大学名誉教授の上野千鶴子先生。2011年に東京大学を退官された後も、NPO法人ウィメンズ アクション ネットワークの理事長として精力的に活動されている。2019年には東京大学の入学式の来賓として壇上で述べた祝辞が大きな話題となったことを記憶している方も多いだろう。

近ごろ世間では、アカデミックな実績もほとんどないのにメディアやSNSでだけ意気軒昂な「自称・学者」の活躍が目立つ。もちろん上野先生はそんな手合いと較べるのも失礼なほど正真正銘の社会学の泰斗だが、であると同時に、アカデミズムの外にいる市井の人間にとっては、まず何よりフェミニズムのアイコンであり、アジテーターであり、トリックスターだ。

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