和食は「下から上に広まった」食文化である。壬生篤さん

photo_instructor_874.jpg江戸・明治期の「食」をテーマにした漫画の原作、シナリオ執筆を専門とする壬生篤氏の夕学。ステレオタイプの和食のイメージを少し変えてくれる講演であった。

この拙文を書くにあたって調べたところ、世界三大料理はフランス料理・中華料理・トルコ料理といわれているようだ。いずれも皇帝を饗するための宮廷料理を淵源に持つ。「上から下に広まった」食文化といえるだろう。
それに対して、われらが和食は違う。むしろ「下から上に広まった」ものだという。
鰻、寿司、天麩羅など、今日では高級な和食の代表とされる料理は、江戸中期に庶民のために生まれた料理であった。当時の支配層である武家は食べなかった。あるいはそっと隠れて嗜むものであった。

壬生氏によれば、和食の定義は「江戸時代に確立された食のスタイル」ということになる。江戸時代は260年の長きに渡った。当然、確立されるまでにはいくつかの変遷を経た。

そもそも、江戸期の支配層(武家)の食文化は、禅宗の影響をうけた精進料理と茶道から生まれた懐石料理の二つの流れがあるという。
共通するのは、質素であることと一汁三菜という基本形式である。
禅も茶道も引き算の思想である。欲を捨てる、虚飾を削ぐ、いらないものを梳くという点で同じである。
講演で紹介いただいたが、将軍の食卓というのは、随分と質素で慎ましかったようだ、

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強父(きょうふ)に向ける娘のまなざし 阿川佐和子さん

photo_instructor_873.jpg今回の講演でステージに立つのは、テレビや雑誌で大活躍の阿川佐和子さん
良席をゲットするため、いつもより余裕をもって会場に向かったのだが、ロビーにはすでにたくさんの人があふれていた。

「しまった、遅かった!」と大慌てで私も入場し、たまたま空いていた2列目のど真ん中を陣取ったところで、ようやく落ち着いてうしろの階段席を振り返る。レビュアーとして通いなれた感のある丸ビルホールではあるが、ここまでぎっしり埋まった客席を見たのは初めてだ。
それに加え、いつもと違って中高年の女性が目立つ。阿川さんと同世代だろうか。友人同士なのか職場の仲間なのか、開演を待つ間、楽しそうな会話が飛び交う客席の光景はちょっと新鮮だった。

やがて開演時間となり、ふだんより華やいだ会場にあらわれたのは、それをしのぐ華やかさをまとった阿川さんだった。
かわいらしいお顔はテレビで見るのと同じだが、とにかく小柄である。そして、ほそい。
ご本人も小柄なことをネタにして「演台のうしろに立つと見えなくなっちゃう」と会場の笑いを誘っていたが、華奢な身体からかもしだされる雰囲気は、まるで妖精のようだ。

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人間とアンドロイドのあいだ 石黒浩先生

photo_instructor_859.jpg 石黒浩先生のことを私は存じ上げなかったのだが、先生が開発された夏目漱石のアンドロイドの写真を見せられた時には「ああアレか!」とピンと来た。こぞってニュースに取り上げられた記憶は古いものではない。

 講演がはじまるまでの間、配布された分厚いレジュメをパラパラとめくっていたら「人間型ロボットは人間として受け入れられる」「人間とロボットに違いはない」「ロボットと親和的な関係をつくることができれば、人間はロボットに人権を与える」といった言葉が目に飛び込んできた。正直、これらの言葉には違和感しか覚えず、今日はきっと変わった人(というかエキセントリックな人、あるいは研究に没頭しすぎて不思議な世界観を持つ人)の話なのだろうと失礼ながら予測した。

 しかし講演を聞き終わった今、私の中にあったある種のストッパーが外れたことを実感する。人間とアンドロイドの境とは、実は極めて曖昧なものかもしれない。両者の違いを強調するよりも、同じ仲間として受け入れることのほうが自然かもしれない。人間的かもしれない。そして、そこには希望、あるいは救いがあるような、そんな気持ちになっている。

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多数決は民意を反映しているのか 坂井豊貴先生

photo_instructor_872.jpg歴史にイフ(if)をつけてみる。もし、アメリカの大統領選に決戦投票があったなら、イスラム国は誕生しなかったのではないか。

慶應義塾大学経済学部教授で、「決め方」の研究者である坂井豊貴先生は、多数決で決める危険性について説明するために、2000年のアメリカ大統領選を例に挙げた。多数決―アメリカ大統領選―イスラム国。そこにはいかなるロジックがあるのか。

2000年アメリカ大統領選。当初は民主党のゴアが、共和党のブッシュに優勢であった。しかし、そこに「第三の候補」である弁護士で活動家のネーダーが参戦してきた。相対的に政策が同じネーダーはゴアの票を食い、ブッシュが逆転勝利した。もし、アメリカに決選投票があったなら、ゴアが勝利していたであろうと坂井先生は言う。ブッシュが大統領になった翌年2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが起こり、2003年にはその報復として、イラク戦争へと突入した。その後、フセイン政権は倒れたが、その残党がイスラム国を設立するに至ったということである。

ここで多数決について考えてみる。遡れば幼少期から人が集まって、複数の意見があれば多数決を使ってきた。そして、多数決はあまりにも身近すぎて、この「決め方」が正しいとか正しくないとか疑う機会がなかった。しかし、多数決とは何であろうか。なぜ、人々は多数決が最善の決め方だと思うのか。

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人口減少と経済成長~希望~ 吉川 洋先生

photo_instructor_882.jpgレビューを書くときはいつもタイトルに悩む。私は夕学の講師の先生が一番伝えたかったことのほかに、私は何を感じ、得られたのかをタイトルに織り込むようにしている。
 今回、吉川先生が伝えたかったことは「人口減少時代における経済成長」の可能性である。そして、先生の講演で私が最も強く感じたのは「希望」だったので、それを副題にしてみた。
 
 先生のメッセージは決して、人口減少を否定したものでも、経済成長をするために簡単な解決策があると楽観視した安直なレトリックでもない。先生のメッセージは、経済成長やその減退は本来人口のみでは説明できないロジックや複数要因によって成し遂げられるものであるというもの。そして、人々は常に革新的かつ高付加価値の製品とサービスに投資し、イノベーションの創造に挑戦することで、人口減少時代においても経済成長に対して希望を抱くことはできるというものである。とにかく、お話を伺って、人口減少の時代を強く生きる希望を持つことができた。
 

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