「論破王」に対抗する


3分間ラーニング

以前このブログでも紹介した「知の共有サイト:QUORA」(https://jp.quora.com/)。
なかなか高レベルのQ&Aサイトです。

私は回答リクエストのメールが来たとき、時間に余裕があれば訪れる程度ですが、今回は私宛にリクエストをいただいたひとつの質問に回答した例をシェアしてみたいと思います。

その質問はこういうものでした。
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部下が、上司であるあなたに、「それ、あなたの感想ですよね」と楯突いてきたら、何と返事をしますか?
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さて、あなたならこの質問にどう答えますか?

hiroyuki.jpg





私は回答の最初でこう書きました。
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リクエストありがとうございます。

その部下の名前は「ひろゆき」ですね?(笑)

ここではマネジメント論や組織論抜きで、単に「論破王への対抗」という視点で回答します。
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2ちゃんねるの創始者であり、最近ではテレビやYoutubeでも「論破王」として名高い「ひろゆき」こと西村博之氏のことはみなさんご存じだと思います。



ここからは、私のその後の具体的回答に加筆した形で論を進めましょう。

ちなみに、私は「ひろゆきウォッチャー」ではありませんが、様々なメディアで目にする氏の発言には以前から注目しています。
特にその感情論を排除した論理的かつ合理的な思考と、いっさいの忖度の無い発言には、なかば尊敬の念すら抱いています。

ただ個人的には、彼は「論破王」というより「論破されない王」と考えます。

質問にある「それ、あなたの感想ですよね」は、その「論破されない王」の特徴がよく表れた発言です。

これは要するに「根拠をファクトで示せ」という主張です。だから(ひろゆき氏のモノマネをしている部下)からそう言われたら、データや事象、状況などいくつかの事実を挙げ、「これらのことから」と言えば良いのです。

もちろん、ファクトベースで主張したからと言って、部下からそう言われた上司の意見が「正しい」保証はありません。複数のファクトで説明しても、他のファクトの見落としや無視、ファクトだと思っていたことが事実ではなかったということも考えられます。
そもそもこうした私たちがよく使う、複数の要素から結論を導き出す「帰納法」の答えは全て「推論」であり、主張した時点では正誤は不明ですから。

しかし、仕事における何らかの結論(メッセージ)に、唯一の正解などありません。昨年うまくいった施策があったとしても今年もそれでうまくいくとは限りませんし、仮に昨年別の施策を打っていたらもっとうまくいったかもしれないからです。

だから部下にファクトベースで根拠を示した後、「もちろんこれが唯一の正解だとは思っていない。しかし自分はこれでうまくいく確率は高いと思っている」と伝えるのが妥当な返しと言えます。

しかし部下から「それ、あなたの感想ですよね」と言われても上記のように返しができず、「いいからやれ」とか「上司に向かってなんだ!」としか言えない上司が多いのも現実です。
その原因としては、
◆上から言われたことを、考えもせずに下に言っている
◆自分の経験則だけで物を言っている
◆部下は反論などできないと侮っている
などが考えられます。

だから上司の立場なら、まずは自分の頭で考え、部下にこれを言うべきか、またどのような言い方をすべきか、これを考える必要があります。

そして自分として部下にファクトベースで根拠を示した後、「もちろんこれが唯一の正解だとは思っていない。しかし自分はこれでうまくいく確率は高いと思っている」と伝えたにも関わらず、その部下が「確率って何パーですか?」とか言い出したら、その部下は単にひろゆき氏の真似をしたいだけの底の浅いコドモですから「屁理屈は良いから代案と根拠を示せ、もちろんファクトベースでな」と返してあげましょう(笑)



さて、ここからはこの質問に対してと言うより、「論破されない王」ひろゆき氏(のような)のテクニックへの対抗策について述べていきます。

氏の論法の巧みな点の例として、Abema.tvでのクロちゃん(安田大サーカス)との討論をご紹介しましょう。

このときのテーマは「バレンタイデイの是非」でしたが、クロちゃんは「無くなった方が良い」という「非」の立場でした。
それに対しひろゆき氏は「なぜ?」と問いかけ、クロちゃんが「ホワイトデイのお返しが面倒」という理由を述べると、「それってバレンタインでなく、ホワイトデイがいらないという主張ですよね?」と返し、結果的に圧勝しました。

まあこれは正直「対決」になっていないのですが、私たちの日常でも「なぜそうしたい?」と相手の主張の目的を問い、「だったら...」と代案を提示すれば、相手の主張を無意味にしてしまうことができますから、これもひとつの「論破されない」ためのテクニックです。

このテクニックに対抗するには、やはり自身の主張の目的をあらかじめ定義しておくこと、そしてそれは主張の実現意外には難しいというロジックを考えておくしかありません。

しかしこのひろゆき氏の論法は、ビジネスにおけるコミュニケーションの基本としてとても重要です。
相手が単に思いつきや感情論で述べた主張に対して、「だったら」と代案を提示するのは、相手にとっても有用な「建設的議論」となる可能性があるのです。

しかし、ひろゆき氏の「論破されない」テクニックで、あまり真似をしない方が良いものもあります。
そのひとつが「論点のすり替え」です。
相手が「日本経済として」というマクロな視点で主張しているのに、「でもこんな人もいる」とミクロな話にしてしまったり、反対に相手が具体例を挙げてミクロな話をしているのに「でも全体で見れば」とマクロな話に持って行こうとするのは、この論点のすり替えでしかありません。

これに対抗するとしたら、「いや、今はマクロな話をしているのであって」などと相手が持って行こうとしている論点から本来の論点に「戻す」ことが唯一の対抗策です。
それでも相手が論点をズラそうとしたら、しっかり「論点を戻そう」と提案すればいいのです、何度でも。

ひろゆき氏に限らず、私たちはどうしても自分が詳しくない分野の議論で、この「論点のすり替え」をやりがちです。
苦し紛れにそれをやらないこと、それを意識すべきでしょう。



ということで今回は「論破されないためのポイント」について語ってみました。
もちろんこれだけがポイントではありませんが、まずはこうしたことから意識してみてはいかがでしょうか。


プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパスで専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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