「市場調査」からイノベーションは起きない


3分間ラーニング

朝ドラ『半分 青い』に登場した「そよ風ファン」のモデルである「The GreenFan」。
そして「死んだパンを生き返らせる」とすら言われるトースター「The Toaster」。

市販の扇風機やトースターの倍以上の価格でありながら、大ヒットとなったこれらの商品を開発・販売しているのが「バルミューダ」です。

このバルミューダに関して、先日なかなか興味深い記事を見つけました。

『日本の10倍以上!バルミューダの空気清浄機が海外でめっちゃ売れてる』

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このバルミューダの社長である寺尾玄氏は、なかなか変わった経歴の持ち主。
以下、同社Webサイトから引用します。
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寺尾玄 プロフィール
1973年生まれ。17歳の時、高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを放浪の旅をする。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、もの作りの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。同社代表取締役。著書「行こう、どこにもなかった方法で」(新潮社)
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バルミューダ立ち上げ後も、たった1台の扇風機の試作機で通販カタログ会社と商談をまとめ、2000台の注文が入ってから資金を調達して製造したり、家電芸人に直接売り込みに行ってTVで紹介してもらったり、と、およそ普通の会社がやらない手法で売上げを伸ばしてきました。

その寺尾社長が紹介した記事の中で述べているのが、

「市場調査はしない」

ということ。

ただ、記事の中では「競合他社製品の分析」を市場調査と表現していますが、「市場調査」とはもう少し広い概念です。

辞書ではこのように定義されています。
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商品の販売促進、新製品の開発などマーケティング活動全般について、企業の意思決定に役立てるために、市場・製品・価格・広告・販売・販売経路などに関する情報を収集・分析すること。
(デジタル大辞泉より)
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さらに人によっては「市場調査」と「マーケティング・リサーチ」を分けて考えるようです。
曰く「場調査は統計学的に、マーケティングリサーチは国語的に市場を検証すること」のように。

少し前置きが長くなりましたが、バルミューダも全く市場調査をやっていないわけではないでしょう。たとえば空気清浄機を海外に売ろうと思ったら、市場規模や消費トレンドなどをある程度は調べ、「まずはこの国から」と決めているはずです。

バルミューダが「やらない」と言っているのは、記事にあるような「競合製品の調査」「顧客ニーズの調査」でしょう。



「競合製品の調査」については、寺尾社長が言っている「私たちは市場にある製品を一切見ない。どのような製品で、性能なのかは全く考えていない。自分たちができることとお客様の喜び、自分たちとお客様のことしか考えていません。他社の製品を知らないので、差別化することもできません」がすべてでしょう。

要するに「他者が出来ていることを調べて、それをもっと上手くやる」ことや「他者が出来ていないことを調べて、それを出来るようにする」ようなことは「やらない」と言っているわけです。

このあたりは、スティーブ・ジョブズが言った「恋のライバルが彼女に10本のバラの花を贈ったら君は15本のバラを贈るのか? そう思った時点で君の負けだ」にも通じますね。



そしてもうひとつの「顧客ニーズの調査」。
以前は確かに「顧客のニーズは顧客に聞け」と言われました。何に困っているのか、何がほしいのか、それはターゲットとなる顧客に聞くのは当然だ、というわけです。

だから企業は顧客を集めてインタビューしたり、サンプルを試してもらったりする。
どこの企業でもやっていることです。

しかし、それで本当に「顧客ニーズ」が把握できるのか。

それは「No!」です。

なぜなら、市場調査で把握できる顧客ニーズは、顧客が既に体験して知っている「顕在的ニーズ」だけであり、顧客がまだ体験していないから知らないだけの「潜在的ニーズ」は把握できないからです。

これもまたジョブズの「見たことも聞いたこともないものを欲しがる人なんかいない。だから作るんだ」という言葉に通じます。

言ってしまえば、「市場調査からはイノベーションは生まれない」のです。

だからバルミューダは、扇風機やトースターという「完全にコモディティ化していると誰もが思っていた」商品でイノベーションを起こせたのです。

とは言え、市場調査を辞めたらイノベーションが起こせるわけではありません。(当たり前ですが)
寺尾社長が「子供と絵を描いていて手元に影ができるのが気になった」ことから子供用ライトを生み出したように、まずは「自分の体験に注目する」ことから始めましょう。

そこで意識すべきは、「常識を疑う」こと。
私たちが日常生活をおくったり、仕事に取り組むにあたって「こういうもの」「アタリマエ」と思っていることに疑問を持つのです。

先の寺尾社長のエピソードにしても、「手元に影ができる」ことを「アタリマエ」とせずに、「なんで影ができるのを我々は我慢しているのだ?」と疑問を持ったことがアイデアの起点となっています。

そうして手元が暗くならないライトを使ったユーザーは、「そうそう、こういうのがほしかったんだ!」となる。「手元が暗くならないライトがほしい」という「潜在的ニーズ」に初めて気づくのです。

私たちの日常には、まだまだ発掘できていない「潜在的ニーズ」がある。
次にそれを見つけ、イノベーションを起こすのはどんな企業でしょうか。

プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパスで専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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